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無冠の意味

無冠だ。リーグもコパ・デル・レイもスーペルコパもCLも全部逃した。どこをどうみても無冠だ。

 悔しい。ジダンがいる限り、何かしらタイトルは取れるものだと思っていたから。

 ただ「無冠」と一括りにできるシーズンだっただろうか。私はそうは思わない。勢力が奮わず何もできないまま一年を終えたわけではなかったと。

前代未聞の過密日程に、手の回らない野戦病院。不利な判定に、不運な天候。それでも、ラリーガでは最終節まで、CLではチャンピオンまであと2試合というところまで上り詰めた。

 ラリーガ、CLの2つの主要タイトルを、最後の最後まで追い続けたのはスペインでマドリーしかいない。コパ、スーペルコパは無様な形で消えていったが、シーズン中盤で既に覇権争いが決まりかけていたラリーガに、心を焦がすような思いをもたらしたのは、最終節までアトレティコの優勝を妨げ続けたマドリーだ。CLでは、決勝トーナメントこそ、スペイン勢の期待の星として、三度イタリアとイングランドの壁を壊し続けた。

 CLアタランタ戦前、ラリーガではアトレティコに6ポイント差(未消化試合がアトレティコは1試合残っていたため最大では9ポイント差)もつけられていたことを覚えているだろうか。当時、マドリーはバルサと2位の地位を争っていた。その後、マドリーだけがCLの駒を次の舞台へと進め、アトレティコはラリーガ一本に全精神を注ぐことのできる状態となり、ラリーガのタイトル争いは実質終わったという見方も多かった。とはいうものの、当時、スケジュール的にマドリーはアトレティコ戦、バルサ戦があとに控えており、アトレティコvsバルサの絶好カードも残っていた。マドリーは鉄壁アトレティコにシーズンダブルはできなかったものの、勢いの止まらない彼らから勝ち点をしっかり奪取。バルサ相手には危なげなくシーズンダブルを遂行した。結果的にアトレティコとの勝ち点差を2ポイントまで縮めたが、彼らの逃げ足はとてつもなく速かった。

束縛

 今シーズンを語る上で、離脱者について触れないわけにはいかない。離脱者の続出が間違いなくシーズンを難しくさせた。コロナウイルスとメディカルスタッフへの不満が後を絶たなかった。長年マドリーの最終ラインを支えたカルバハルとラモスが長期間の離脱を強いられる中、バルベルデやクロース、ベンゼマまでもがいない時期もあった。

 そうした中で、精を出し続けたのがルーカス・ミリトン・ナチョの3人だ。個人的に、私の中で評価が一番高いのはルーカスだ。今季のルーカスは、カルバハル・オドリオソラ・ナチョの3人が同時に離脱した時にチームを救ってくれたヒーロー。新たなポジションであろうとも輝かしい活躍と止まることの知らないその姿を幾度も見させてくれただけに、悲惨な結末でシーズンを終えてしまったのが残念でならない。早期回復と契約の延長を祈っている。

 ミリタオは後半戦のMVPに選びたい。悔しい結果のまま終わった加入一年目。二年目の今季は、前半戦は出番が少なかった上に個の強みを発揮できず、レバンテ戦では前半9分に退場してしまい、なかなか評価の上がらない時期が長かった。それでも、ラモスの負傷やヴァランのコロナ陽性に伴い出場機会が増え始め、レバンテ戦(1月)以来のスタメンとなったエイバル戦(4月)からのミリタオは生まれ変わったかのように別人だった。試合をこなしていくにつれ、個性的なハの字の眉も含め、ラモスと肩を並べ一時代を築いたペペ大先輩を匂わせる面になっていたのが感じられた。

 ミリタオの成長にナチョは欠かせない。今季のナチョの最大の魅力はスライディングタックルだった。スピードでもって相手選手を捕らえ、正確なタイミングで滑り込みボールを蹴り出す、もはや小さなハンターとでも言おう。話すべくは最終節ビジャレアル戦。ヴァランの復帰によりナチョがベンチメンバーに戻ってしまった。まだジダンの中ではナチョよりヴァランの方が序列は上であることが伺えた人選だった。来シーズン、ヴァラン・ラモスがマドリーに残っているかどうかは定かではないが、ナチョはおそらく来季も一緒に戦ってくれるだろう。困ったときのナチョ、ではなく、絶対的スタメンのナチョが見たいと願う。

 チームが苦しい時、そのときは何かしらチームに原因がある。監督が原因になるときもある。それでもチームを救ってくれるのは自分(選手)しかいない。他クラブが救うことはそうそうない。
 今季のマドリーはシーズンを通してずっと苦しかった。カスティージャを含めての限られた選手層を半永久的に繰り返し、監督不在も経験した。だが、今季に限ってはそのすべての原因がチームにあるわけではなく、例外的にウイルスという外的要因があった。ただ、外的要因が加わっても、チームを救うのはやっぱり自分自身。そうした中で前述の3人がチームのエンジンとなり、クルトワ、モドリッチ、クロース、ベンゼマのベテラン組が、走るマドリーの尻をたたく。そこに若手とカスティージャが乗車し、壊れかけのレールを一直線に走り続けた。

 その結果の「無冠」。シーズン当初から優勝の兆しが見えず、追い上げることもないままシーズンが終わってもそれは「無冠」。残された”優勝”というかすかな光を信じて走り、やがて可能性が2つに増えたものの、最後の最後で燃え尽き死んでもそれは「無冠」。
 ただ、両者の印象は全く違う。今季のマドリーは言わずもがな後者だ。マドリーは何かしらタイトルを獲らなければならないクラブなので今季の「無冠」を擁護するつもりはないのだが、無冠の意味をシーズンを終えてからじっくり考えさせられるような8か月だった。


これからもまだ少しは考えることになりそうだ。


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