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23/24 レアル・マドリー選手別講評

- GK -

#1 Thibaut Courtois

全盛期に9か月間ピッチから離れることになったのは非常に酷だ。2度の長期離脱を耐え抜くと、彼には「CLファイナル」というご褒美が待っていた。5月のカディス戦で復帰以降、試合感覚を掴んでいる段階でさえも彼らしいパラドンを魅せつけ、5試合に出場し、失点はゼロ。彼の負傷から回復までのドキュメンタリーがアマゾンプライムで公開される予定だ。

#13 Andriy Lunin

酸いも甘いも噛み分ける一年だっただろう。過去3シーズンはクルトワによってできた日陰にずっといたが、開幕直前にパッと日差しが入った。ケパとの新たなサバイバルゲームに実力で勝ち、彼の独壇場は最後まで続くと思われていた矢先、CLファイナル直前に感染症を患ってしまった。最後の最後はクルトワに譲ってしまったものの、彼が主人公のドラマが出来上がった。

#25 Kepa Arrizabalaga

突如として現れたルニンの競争相手。マドリード到着後の第3節から10試合連続でゴールマウスを守った。だが、彼の活躍の場はそれだけだった。ピッチに立てないのであれば、口でマドリー愛を伝えようとしていたこともあったが、スタメンよりベンチの機会が多いままシーズンが終わった。ルニンの覚醒はケパなくして実現しなかったと感謝の意を表するマドリディスタも多い。


- DF -

#2 Daniel Carvajal

ウェンブリーに乗り込む前から大成功と言える個人成績を残しており、欧州制覇を導く決勝弾で最後の味付けをした。リーガのみで4ゴール、CLでは15/16シーズン以来の得点。各国のフットボールを見れば見るほど、彼ほど攻守においてバランスの整ったSBはいないと気付く。パコ・ヘントが独占していた6度のCL優勝に最も若くして並んだレジェンドである。

#3 Éder Militão

26歳にしてトップフォームに戻るか分からない大怪我を負った。チームに復帰したのは負傷から8か月後のアスレティック戦。クルトワとともに今季絶望と言われていたもののスピード復帰を果たし、リーガ優勝に繋がったカディス戦ではフルタイムで戦えるほど膝は癒えた。彼にはDFラインの若きリーダーになってもらうべく、来季中には怪我前のポテンシャルに戻ることを祈るのみだ。

#4 David Alaba

クルトワとミリトンが8月に泣き、彼も12月に泣くことになった。リュディガーの加入以降、CBの序列が危ぶまれていた中だった。今季のユニフォームは彼自身がデザイナーに加わっており、気合の入る一着だったはずだが、それはトラウマに変わった。気づけばバイエルン時代から戦友のクロースが引退し、寂しさの募るシーズンだっただろう。

#6 Nacho Fernández (C)

開幕早々、十字軍を抱え込んだことでナチョのレギュラーは確約されたはずだった。しかし、ジローナ戦、アラベス戦での退場はカピタンとしての在り方を疑われ、最終ラインのどこでも守れる自慢の柔軟さは、さらっとチュアメニに奪われた。それでも終盤にはコンディションを取り戻すのはカンテーラの底力である。あのナチョが欧州王者のカピタンとなったのはとても感慨深い。

#17 Lucas Vázquez

何かとカルバハルと比較されがちな彼も、クラシコのゴラッソや、ビジャレアル戦で3得点(1G2A)に絡む暴れっぷりなどと存在感は健在。シティとのPK戦では余裕のリフティングでマドリディスタを15/16シーズンへと連れ戻した。クローザーの中でもアタッカーとして起用されることも増えつつある。

#20 Fran García

プレシーズンマッチでのプレーが評価され、シーズン序盤はメンディとのかけっこに勝っていたが、頭打ちになるのが早かった。言うなればBチーム専用機となったまま抜け出せず、地味に強烈なキャリアを持つメンディを追い抜かすことはできなかった。

#22 Antonio Rüdiger

今季の彼をさらっと交わせるアタッカーはほとんどいない。十字軍とナチョの絶不調にも関わらず、倒れることなくシーズンをフルで戦い抜いた彼はまるで一本松のよう。自身と同等な巨体を持つFWを相手にした時ほど、彼にはブーストがかかる。背後霊としての略歴に「ケイン討伐」も加わった。

#23 Ferland Mendy

近年の稼働率の低さを克服し、無敵になった。それにも関わらず、メディアがカナダ人の名を取り上げるのは到底気分は良くないだろう。加入から5シーズン経っても彼のプライベートを知る人はいないが、ヴィニとカマヴィンガをはじめとするダンス集団のノリについていくことはできる。


- MF -

#5 Jude Bellingham

昨季ブンデスリーガ最終節でリーグ優勝を逃した時の涙は、一年後にはCL初優勝の涙に変わっていた。9番不在によるシステムの変更は、彼がスターダムへ駆け上がるための道しるべとなり、今季のアイコンであったことに疑いの余地はない。ピッチ上では20歳であることを忘れさせるが、本当はカマヴィンガより年下である。

#8 Toni Kroos

10年間のジャーニーが終わった。グラナダ戦でのブラヒムのアシスト、マドリードダービーでのゴラッソ、バイエルン戦でのヴィ二への長距離スルーパスなど、彼らしいキックのすべてが見納めとなってしまった。そして、CLファイナルでのアシストがマドリーでの最後のレコードだ。自身の番号は来季からバルベルデに渡る。

#10 Luka Modrić

若き中盤を最後方から支える仙人。サブ的な立ち回りが増えたことは否めないが、彼の投入後にチームの顔色が急に良くなるなんてこともあった。古の戦友ラモスが凱旋したセビージャ戦では彼のゴラッソひとつが勝利へ直結。昨季の契約延長の際に「競争力のある選手として扱われる」ことが残留の条件だったと語っていた通り、あの時の彼の雄たけびは永久に尽きぬ気概そのものであった。

#12 Eduardo Camavinga

ラテラルとしての任期を終え、中盤に戻ってきたが、菱形の枠のひとつを自分のものにしたとは言い難い。無論、カルロの中で序列が下がった印象はなく、クロースやフェデのコンディションの良さの余り、相対的に彼の色が薄まっていたというくらいだ。シティ戦で魅惑のミドルが幸運を呼び、21歳にして2度目の欧州制覇を達成。

#15 Federico Valverde

今やマドリーの心臓は彼である。彼が90分を通してベンチに座っていたのは、第34節グラナダ戦のみ。2023年8月13日の開幕戦から50試合連続出場を果たした。数年ぶりにポジションが本職の中盤に戻ったことでパフォーマンスも安定。得点力も健在で、シティ戦でのボレーはCLベストゴールに選ばれた。クロースの引退表明を受け、シャイな性格ながらも「私があなたを愛していることをあなたに知ってほしい」と愛を綴った。

#18 Aurélien Tchouaméni

2年目にしてカゼミロを欲しがる声を完全に黙らせた。彼をアンカーに置いたダイヤモンドが定石となり、彼がスタメンのゲームでは不敗。第8節のジローナとの首位攻防戦でマドリー初ゴールを記録。パフォーマンスレベルはマドリー相応だが、強いて言えば稼働率が気になるところだろうか。初のCLファイナルを負傷でベンチから眺めることになったのは気の毒だ。

#19 Dani Ceballos

ベンチを温め続けた今季の数少ないメンバーである。リーガ優勝が決まるまでは、出場してもほとんどが70分以降であり、ほとんどインパクトを残せなかった。昨年2027年までの大型契約延長を掴み取ったが、当時のことを振り返る人はいないほどに。


- FW -

#7 Vinicius Junior

常勝軍団のエースにして、チーム最強の矛。「7番」の頼もしさが、5季ぶりにマドリーに返ってきた。加入した18/19季より常に得点数を伸ばしており、今季もまたまたキャリアハイ。元祖の幅を取るプレーから中に絞って味方のために犠牲になるプレーもできるようになった。中東でのクラシコ、無慈悲なメスタージャ、CLファイナルと、どこへ行っても7番がチームを先導していた。

#11 Rodrygo Goes

リーガの舞台で初の2桁ゴールを達成。今季からヴィニとの2トップを構成し、開幕節でチーム第1号を決めるも、そこから2か月間ゴールがない時期もあった。本職でのプレーは毎季数試合のみと限定的なことには同情するが、スランプからの脱却後もかつての決定力の高さは厚い雲に隠れたまま、消化不良なシーズンだった。前線の大型補強が実り、勝負の時がついに来る。

#14 Joselu Mato

入団会見で「僕は誰かの代わりをするためにここにいるのではない」と語ったように、高身長の9番が久しくいなかったマドリーにとって、新種のターゲットマンになった。ハイライトは間違いなくバイエルンとのリターンレグだ。ローンプレイヤーの助っ人から優勝請負人に肩書のアップグレードに成功し、彼の口からはマドリー愛溢れる言葉が出る。彼のプロサッカー人生は下手な映画よりも断然美しい。

#21 Brahim Díaz

イタリアでの成長そのままに、スペイン復帰後も異色を放ち続けた。前線の誰ともタイプの異なるスキルを持ち、今季の攻撃の深みは彼が生み出していたと言っても過言ではない。時には独特のテンポで敵を翻弄するも、時にはいとも簡単に絡み取られることもあった。両足が利き足な稀有なアタッカーの命がマドリーで続くことを願う。

#24 Arda Güler

ベリンガムの加入より彼の発表の方が盛り上がった。入団会見時には呼ばれてないのに登壇してしまい、意せずして話題を生んだが、マドリーの選手としての彼を見たことがある人は1月末までいなかった。リーガ優勝決定後は一気にBチームのエースまで上り詰め、怪我によって出遅れたことが惜しまれた。今季、欧州の舞台に立つことはなく、来季爆発的に名を広められるかが鍵となる。


Carlo Ancelotti

プレシーズンマッチの時点で、「スカッドは最高で、スカッドは完成した」と自信を口にしたカルロの頭には、CL優勝までの道筋が見えていたのだろうか。
マドリーの監督としてのあり様を最もよく知っている男は、この発言の直後にクルトワとミリトンを失ってもチームバランスを平衡に保ち続けた。それは全55試合中2敗というデータが示している。そのデータの裏には、4312へのシステム変更、ヴィニのCF化、ヴィニとロドリゴの同サイドシステム、べリンガムとブラヒムの両立、ホセルの成就、ルニンの台頭など充実したカルロの戦略的な功績が隠されている。もちろん、チームの雰囲気も彼のみが成し得る技だ。
来季からは、ようやく報われたフロレンティーノのメロドラマの現場監督をも務めることになる。マドリーを最後に監督業から退くことを公言しているカルロが、次世代の銀河系軍団の礎を築くことになるだろう。

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