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果報は寝て待て

 話題の尽きない日々が続くサッカー界。コロナ禍で選手の移動や試合規則には数多くの制限がかかるも、情報や噂は呑気に国を四方八方に往来し、自粛の2文字を知らないようだ。

 レアルマドリーは良くも悪くも話題をつくるクラブ。主力の契約延長決裂に、病床が不足するまでに深刻化する野戦病院、ベイルやウーデゴーアのトランスファー問題。お題を上げようと思えば次々と出てくる。しかも、そこに果報が加わることが少ないのも現状だ。苦味8割、甘味2割のジュースのよう。苦味にあふれる口の中で、甘味を探そうとするも苦味に掻き消されていくあの感じだ。

 一月から二月にかけてマドリーは苦い時期を過ごしている。一月にマドリーの周りで起こったことをざっと取り上げる。

2日 セルタ戦(2‐0で勝利)
7日 ジダン、コロナ濃厚接触者に(翌日のPCR検査で陰性と判明)
8日 久保がヘタフェへローン移籍
9日 欠航が相次ぐ中、マドリーは雪が降りしきる大寒波の中を飛ぶ
10日 オサスナ戦(スコアレスドロー)
15日 ・アスレティックに負け、スーペルコパ敗退
   ・ヨビッチがフランクフルトへローン移籍
18日 ヨビッチがフランクフルトでドッペルパック
20日 コパ招集メンバーにウーデゴーアが外れる
21日 ・アルコヤーノに負け、コパ敗退
   ・ウーデゴーアが移籍を申し出る
22日 ジダンがコロナ陽性
24日 アラベス戦(4-1で快勝)
27日 ウーデゴーアがアーセナルへローン移籍
31日 レバンテ戦(1-2で負け)

 単発な出来事のみリストアップした。一か八かのギャンブル・フライトが「凶」と出たのか、盛り上がりに欠けた試合(オサスナ戦)から雪崩を起こす。スーペルコパ、コパ・デル・レイの早期敗退は、過密日程を考慮すると、必ずしもデメリットばかりではないにしろ、コパに関して言えば3部に負けた事は紛れもない事実だ。「敗退」をどう捉えるかの議論は虫がよすぎるのではないか。「3部に負けた」ことは単刀直入に言えば恥だ。それだけではない。これらの裏側では、カピタンやルーカスの契約延長や、カルバハル・バルベルデ・ロドリゴ・アザール等の負傷による選手層の過疎化など、解決に時間を要するタスクが積み重なっているばかりだ。

救世主ではなく主軸へ

 こんな負の連鎖の中にも何か希望を見出したい。そうなれば語るべきはアセンシオだろう。シーズン序盤こそ絶不調であらゆる方面から批判の声も上がっていたアセンシオは、ここに来てチームの生命力の源になっていることに反論の余地がない。第23節バレンシア戦終了時点で18試合連続出場中という繁忙期を過ごしている最中だ。(もちろん、アセンシオ、ヴィニを除くウィンガーが相次いで負傷していることも関係しているのだが。)各種統計サイトでアセンシオをリサーチすると、第15節グラナダ戦(相手DFに体をぶつけられながらもクロスを上げカゼミロのヘディングをアシスト)以来多少の波はありながらもコンスタントに好成績を残していることが伺える。ただ、まだまだOKサインを出すレベルには達していない。積極的に裏を狙う走りや、一列下りてモドリッチやルーカスを走らせる動きなど、熟す仕事量は多大なるものだが、目に見える結果がまだ残せていないことから目を背けるわけにはいかない。災難に見舞われた昨季でもたったの4試合で3ゴールを残した男だ。昨季の「余熱」では意味がない。エンジンの「予熱」ならもう十分だ。そろそろ爆発してもらいたい。

 語るべき論点はアセンシオ個人のコンディションだけではない。前でも少し触れたがルーカスの存在も忘れてはならない。如何せん、今季はルーカスありきのシーズンなのだ。第4節バジャドリード戦後にカルバハルの負傷が発覚して以来、ルーカスとアセンシオが縦の関係を組むことが多くなった。実に2人の関係性でもって戦った試合数は”10”を悠々と超える。当初は慣れないルーカスとの前後関係にアセンシオがやり切れないこともあったものの、2人の連携は試合をこなすにつれて改善されていき、今では何も問題がない平穏なコンビまでになった。カルバハルが戻ってくるまでの間、このスペイン人コンビはジダンから重宝されるだろう。おそらく、CLアタランタ戦もこの2人で戦うことになる。強烈な牙を持って襲いにかかってくるアタランタをどれだけ弱体化できるかが見ものだ。

選ばれしステファノーズ

 カンテラーノにも目を向けたい。度重なる主力の負傷で、アリーバス、マルヴィンといった19/20ユースリーグ優勝メンバーがジダンの目によって発掘され、トップチームのスタメンに選ばれることも珍しいことではなくなってきた。相当たるメンツに囲まれながらも、彼らの本来のホームグラウンドに戻ってきたことになる。彼らのモチベーションは計り知れないほど高いだろう。だからといって、彼らに今のマドリーの「苦」を「楽」に変える希望の星として圧を押しつけるのは正しくない。彼らは便利屋ではない。彼らにもリーグ戦がある。しかもトップチーム同様に過密日程だ。セグンダ・ディビジョンBを戦いながらトップチームの長いフライトにも付き添ってくれている。今のマドリーからしたら貴重すぎる駒だ。このめったにない機会を成長の糧に、ナチョ・カルバハル・ルーカス(・マリアーノ)先輩がつくりあげた「トップチーム昇格の道」を堂々と歩んでほしい。

達観

 苦い現実をまじまじと見せつけられ、まだ残されている希望に縋りたい一心でここまで書いてきたが、そろそろ現実を見なければならない。リーガはアトレティコが1試合未消化試合を残しながらもマドリーとは6ポイントも差をつけ首位を独走している(マドリーは2/18日現在2位)。仮にアトレティコが未消化のビルバオ戦で勝つとすると、ポイント差はさらに拡大する。そしてバルサは21日のカディス戦で勝ち点をしっかり取り切ればマドリーとは勝ち点が49で並び、得失点差で2位になる。残す15試合でアトレティコに追いつき、追い越すことがあればそれはそれでリーガの世紀末だ。マドリーはここまで極端な状況にいるのだから、リーガ仕様ではなく、CL仕様にモデルチェンジをするのが賢明だ。と言いたいところだが残念なことに、今のマドリーにリーガ仕様とCL仕様を隔てる壁はない。それは選手層の薄さだけでなくフットボールの内部を見ればわかる。マドリーは、ドン引きしてくる相手に滅法弱い。リーガでも散々苦しめられ、CLも同じくそうだった。今のマドリーにリーガとCLとで戦い方を変えるという器用なことはできないし、案の定してこなかった。その結果、リーガでもCLでもDF,MF,FWの3つの歯車が噛み合えば強いが、噛み合わないとやられっぱなしになるチームになってしまった。(選手層の薄さはもう語るに及ばない。)

 ただ、話をCLに絞れば、ラウンド16の相手はアタランタだ。イタリアクラブらしくない攻撃的なサッカーを展開するのは周知の事実で、マドリーを相手にドン引きしてくるとは考えにくい。むしろそれとは逆ベクトルなサッカーをしてくるだろう。突進してくる兵士を個々の能力と経験値でもって打ち返し、隙のできた守備組織をスルスルと搔い潜るのはマドリーのお手の物だ。我々マドリーはスペインを代表するクラブではあるが、一直線に走ってくる牛をマントを駆使して華麗に交わすのは闘牛場だけにしてほしい。ステファノ、ゲヴィス(アタランタのホームスタジアム)では牛を交わすことがあってはならない。

おわりに

 もともとCLに向けて書いたコラムではないのだが、大会も約1週間後に迫っているので士気を高めておくことも必要だろう。

 9月末に幕を開けた20/21シーズンも既に折り返し地点を過ぎている。これまでクラブ史上初のCLグループステージ敗退の瀬戸際に幾度も追い込まれ、ジダンも崖にただ一人残された状態になった。その度ごとに「ジダンのジダンによるジダンのためのフットボール」で窮地をくぐり抜けてきた。少なくとも4勝しないと首位通過は危ぶまれるグループステージで、3勝しただけでもトップに躍り出ることができるほどグループBの時空は歪んでいた。カオスなマドリーは同じくカオスなグループだったから生き残れた。ここからは勝ち越されたら終わりの戦いだ。「CL3連覇」という事実は変わらないが、その単語が持っていた効力は風化する。そのことは2季連続で辛いほど知らされた。次なる連覇の土台になりたい。

 話題を広げよう。マドリーは明らかに変革期だ。スタジアムの壮大なリニューアルと同時に、人員もフットボールもリニューアルする必要があるらしい。どちらも莫大な費用と時間のかかるプロジェクトだ。来季ラモスがいるのかどうか分からない。紺色、黄色にそれぞれ染まった若武者が来るのかも分からない。ジダンが残るのかも分からない。分からないことだらけだ。
 コロナ禍で経営が困難で混乱しているときに、主力の契約が今季限りで切れるのはなんともタイミングが悪い。だれが悪いのかはVARが介入しても折り合いがつかない。兎にも角にも、我慢と忍耐がモノをいうシーズンだ。決してそれだけで片付けられるほど単純ではないのだが、マドリーが掲げる数々のプロジェクトを成し遂げるためには避けては通れないのだろう。

果報は寝て待つのが流儀。さて、いつまで寝てれば良いのか。

数年後のマドリーは強暴だ。

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