西洋家庭料理の本についての話

高校生の頃、下校途中によく行く駅前の本屋をぶらぶらしていたら、ふと西洋料理の本が目に入った。

それは、西洋料理を仕事にしている人たちが、海外でその料理に出会った時の思い出と共にレシピを紹介する本で、フランス、イタリア、スペイン、ロシアなどの景色と美味しそうな料理の写真が沢山載っていた。

今から25年くらい前のその頃は、今みたいにあちこちにいろいろな国の料理を出すレストランは無く、外食を殆どしない家庭に育った私にはその本の料理はどれも初めて目にするものばかりで、味の想像もつかなかったけど、だからこそ夢の世界みたいに見えた。

すぐにその本が欲しいと思ったけど、1950円という価格が当時の自分には高すぎると感じて買うのをやめた。

それでも、本屋に寄ってはその本を手に取り、暫く眺めては買うかどうかを迷い、結局は元の棚に戻すということを繰り返した。

その本に出会って数ヶ月がたったある日、理由は忘れてしまったのだが、急に、他の誰かに買われてしまう前に買わなくては!と思い立って、あっさりとその本を買い、それはその日から私の愛読書となった。

この本の料理で初めて挑戦したのは、フランス料理のページにあった「ソーセージとハムのハンバーグ風」だった。ハンバーグがよく知っているメニューだからというだけの理由で。

ソーセージとハムをミキサーでミンチにして網脂で包んで焼くというもの。網脂は、羊や豚の胃の脂肪膜で肉屋に頼めば手に入ると本にあったが、結局手に入れづらくて省略した。出来栄えはというと、ソーセージとハムがハンバーグの形になったもので、それ以上でもそれ以下でもなかった (笑 ) 今思えば、辛口の白ワインかスパークリングと合わせて食べるのだろうけど。

日本人好みにアレンジされた西洋料理のレストランは日本のあちこちにあり、美味しいワインと共に手軽に西洋料理を楽しめる時代になった今では、この本を開くことも殆どなくなってしまった。けれども、海外に一度も行った事がなかった高校生の頃にこの本に出会って、海外の食文化の片鱗に触れたことは、私の食に対するこだわりを形成する大きな要因になったことは間違いない。