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非モテでもチョコっと特別な日。100年先も愛を誓うよ〜♪なんて酔いしれた青春時代の思ひ出

仕事を終えて帰宅するなり、
子どもたちからファブリーズをかけられ始めて、はや3年。

ファブリーズとは、知っての通り
P&Gから発売されている
スプレー式消臭・除菌剤である。

それをピストルに見立てて構え

「バキューンバキューン」

子どもたちは、来る日も来る日も
胸、腹部、背、手足、
そして股間の順で

ボクの全身を撃ち抜いた。

「うっっっ、や、やられた〜⤵」

そう言って、
バタリと倒れるまでが寸劇すんげきのワンセット。
ボクはこれを懲りることなく演じ続け、
毎度きっちり殺され除菌され続けてきた。


今週の中旬。14日、火曜日。

お馴染みの茶番劇を終え、
死んだていのボクが、そろそろいいかな、、と顔をパッとあげると、なにやら娘二人がボクの顔をのぞきこんで、
ニッタニタしている。

見ると、手を後ろにまわして、
何かを隠しもっている。

ん?なに、なに?

すると唐突に長女が
「せーの!」
と発し、

ふたりで声を合せて
『はい、どーぞ!』

そう言ってボクの目の前に手を差し出した。

ふたりの小さな手には
お世辞にもキレイとは言えないシワシワの折り紙で包んだ小さな箱がちょこんと乗っていた。

おぉ、手作りのチョコっすか。
これは“本命チョコ”っすね。

妻以外からの本命なんぞ
いつ以来であろうか。

ボクはほっこり温かくなりながら、
あの日の青春、
遠い日の記憶が脳裏のうりよみがえってきた。

奇跡が起こった非モテのバレンタインデー

中高時代、
ボクら野郎どもにとって、
バレンタインは年間最大のイベント言っても過言ではなかった。

もはや“誰に“もらうかではない。
実直じっちょくに、もらったかずこそがオトコの価値を決めるステータスそのものであった。

そこに敗れたオトコが出来るのは、偏屈な持論を展開し小さなプライドを守ることのみ。

で、あるからこそ
ボクを中核とす非モテ陣営じんえいは、
イケメンが優雅ゆうがに余裕をかますかたわらで、不毛な熾烈しれつ鍔迫つばぜり合いを始めていた。

人事を尽くして天命を待つ。

それは、
女子各位にとっては理解しがたく
バカげた話であろうが、

クリスマス界隈かいわいから、
競争倍率の低い(と、非モテのボクが勝手に思っている)女子をターゲットにして、
入念かつ執拗な優しさと、愛想笑いをイケシャアシャアとふりまき続ける。

あわよくば好きになれ。
当日は放課後に呼び出すアレをやれ。
そしてチョコをくれ。
「好きです」「付き合ってください」「触ってください」、イロイロ言われたい、いっぱい言われたい。

この抑えきれない内なる愛を求める本能が、典型的な嫌らしい活動へとボクを駆り立ててしまっていたのだ。

備え有ればうれい無し。
用意周到よういしゅうとう
石橋を叩いて渡る。

こうした涙ぐましい努力如何いかんによっては、
スクールカーストで最下層さいかそうに甘んじる“ブ男“のボクであろうとも一瞬にして群れの頂点に立つことだってできる。

そう、

”アメリカンドリーム” は、
確かにそこに存在した。

学生時代のバレンタインデーとは、
まさに男としての地位を争う、サバンナの如く過酷な戦場。

男は、常に暗黙のルールの下で、
群れの頂点を目指し、
こうした終わりなきチャレンジングな戦いを繰り広げているのだ。


中学三年のときだった。
毎年、そんな涙ぐましい努力も実らず桜が散り続けていたボクにもついに奇跡が起こった。控えめに見積もっても奇跡である。

いつものように、
幼なじみのれと学校へ行くと……

下駄箱に……

!!

そこには、
チョコレートと思われる箱と、
封筒がちょこんと行儀よく置かれてあった。

“えええ!!“
あるとしても放課後の呼び出しパターンと想定していたボクは、
余りの不意打ちに、
正しい立ち振る舞いが全く分からない。

“うおぉっしゃ!“
の本音炸裂を声にしたらいいのか

“うわっ、めんどくさ!”
的なモテふう男子のていがいいのか、

瞬時に、友人の前における自分のキャラ設定が定まらず、尋常ではないほどにソワソワ、ゾクゾクとした。

まずい。
正直、キョドりまくっている暇はない。

もしかしたら、
ドッキリかもしれない、
クソ野郎どもが遠くから離れて、ボクの反応をみているのかもしれない。

気をつけれ。
危険を察知するセンサーがビビビビっと反応した。

真 偽しんぎが不明なうちに喜怒哀楽してしまうのは、負けだという考えが脳内を支配する。

そしてまたしても
女子各位にとっては理解しがたい話になり申し訳ないが、
少しエロティカルな興奮もしていたのだろう。なにやら“チンポジ“が気になってムズムズし始めた。

切羽詰まったボクは、
友達に見られないようにこっそりとカバンにプレゼントを入れると、
急いでトイレの個室に駆け込んで、
まずはチンポジのポジショニングを正しいところに戻し、
あとは封筒をむさぼるように破って手紙をとりだして読んだ。


…あ、

………こ、これは女子の字…。

え?
ひ、ひろみちゃん(好きだった本命の子)。

ナンとも表現し難いあたたかい感情がブワァっと湯水の如く溢れだした。
あのとき感じた震えるような感動を
ボクはいつになってもハッキリと思い出せる。


教室に戻ると、
ひろみちゃんと目が合った。

恥ずかしすぎて、
あれだけ毎日話していたのに、その日は一言も話すことができなかった。

翌日、ボクは朝早くに学校に行った。
彼女の下駄箱に、
一枚の折りたたんだメモをいれることにした。

「おいしかったよ、ありがとう」
というクールな一文を添えて。

そして教室で待っていると
遅れて登校してきたひろみちゃんと目が合った。
昨日とは違う。
余裕のあるニコニコした二人になっていた。周囲にバレないように。

…うわ、くっさ。

青春だったな。
バレンタイン最強やな♡

意味は無いのにそこに意味を与える

平賀源内が、ウナギ屋に夏場にウナギが売れないと相談されて「土用の丑の日」を作り、

クリスマスには七面鳥ではなく、なぜかフライドチキンを食べるための行列ができ、

おっさんが金を持っているなら
“オシャレなおっさんがモテる!“と言い、

オタクが金を持ってるなら
“オタク男子がいま注目の的!と言う。

そんな「どーでもいいこと」に意味を与え、国民的慣行にまで昇華させ、
定着までさせてしまう国、

それが、わが日本なのだ。

ご存知の通り
“バレンタイン“ってのは、
お歳暮、お中元、年賀状などと並び立つ、日本特有の巨大なる“作られた市場“

だから

ここまでおおっぴらに慣例化してしまうと
もはや、贈りたい人にだけこっそり贈れば良いというほど、
話はシンプルでもなくなり、

この時期には義理チョコの“是非“たる議論が
かならず白熱するわけだが、

議論したところでたぶん正解なんてない。

恋愛なんて蚊帳かやの外になってしまったいまのアラフォーおっさんのボクからすると、メンドクセぇ、やめちまえよ、ではあるが、

学生時代は、アメリカンドリームを掴むために情熱を捧げていたし、

社会人なりたての若かりし日だって 
義理とは重々知っておきながらも、
お祭りごととして、

どんなチョコレートをくれるのか、
それは手作りだったのか、ブランドものだったか、有名ではなくとも気の利いたセンスのあるものだったか、

そんなことでワイキャイしながらいろんな品評がリアルに楽しかった。

つまるところ“是非“なんてのは自分のおかれた
状況による、
年齢による、
金銭事情による、

そういうもので、
モロモロの要因で尺度は忙しく姿を変える。だから普遍的な回答はきっとないのだ。

さ、マスク着用、自己判断っすよ

3年も続いた我が家の茶番劇。

“これからは除菌もほどほどでいいんやて。パパもピストルで撃たれなくてよくなるわあ“

なんてニュースを見ながら
子どもたちに聞こえるようにつぶやいてみた。

すると真横にいた園児の次女が
真顔で言い放った。

“バイキンはいなくてもな、ニオイもな、消してくれるねん、あれは。くっさい、くっさいニオイを

え?

ドキッ。
ドキドキッ。

ニオイ?
どういうこと?
パパ、おっさんしゅうすんの?
加齢臭?

それとも…

え?え?
どこのニオイなん?

考えるにつれて、
もしかして、、、?

またしても、
またしても、

女子各位にとっては理解しがたい話になり申し訳ないが、

ムズムズ…

ボクは切羽詰まり、
急いでトイレの個室に駆け込んで確認した。
感動で心が震えたあの日と同じように………


…って、
いやいやキレイな終わり方ちゃうし。

ええんかな、これで。
終わっても、ええんか。

ま、ええか笑
どうせボクのnoteの読み手はひんがないやろし。

えええええ?

え?

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