速い目と遅い目。二つの目をもて

「朝起きたら目を磨け」

これはカメラマンの荒木経惟さんの言葉ですが、カメラの状態の前に、どのように自分が物事を見ているか、ちゃんと見えているかという目の状態を確認する必要があります。

速い時間感覚で見ているか、遅くみているか、ということなのですが、例えばネットのニュース記事の一覧を見ているときは、みんな1記事の見出しにかけている時間なんて0.1秒くらいじゃないでしょうか。

しかし高速で記事の見出しをみて、そのなかから気になって読み込むと、目の速度は下がってきます。記事の冒頭は、まだ目の速度が速いので、それに対応してすぐわかる構成にしないと読んでもらえません。

記事構成は最初は速く、徐々にスピードを落としていって詳細に書いていく、相手の目の速度に対応して構成します。

初心クリエイターがよくやってしまう間違いは、その記事を作るときの目の速度で、そのまま作ってしまうことです。記事を作る場合は、アウトプットなので速度は落ちます。ただその記事を見る側の速度が速いということを意識しないと、ユーザーとクリエイターのあいだに時間のギャップが出る。

だから、何かを作るときは、作ったら目を速くして検証し、ユーザー視点で問題がないかチェックする癖をつけましょう。目が速い、遅いというのは言い換えれば思考しているか、してないかです。

言葉で思考すると情報処理速度は一気に落ちるので、目も遅くなります。映像で思考するか、そもそも何も考えていない状態をキープすると、目は速くなります。

「朝起きたら目を磨け」

って言葉が違って見えてきたのではないでしょうか。センスのいい目とは、速い目のことです。車のアクセルとブレーキのように、コンテンツを届ける道路にあわせて自分の速度を調整するようにしましょう。

「考えるな、感じろ」

ってのはブルース・リーの言葉ですが、要は脳の速度をあげて、速い目になれということです。センスがいい人は、なんでもパッと見て判断します。逆にいうと、速くしないと判断できないのです。

1時間じっくり考えてくれっていったらセンスはどっかにいってしまうでしょう。センスは、時間あたりの情報処理量が多い状態なのです。多くの人が、判断を正しくするには時間をかけた方がいい、と思っていますが、それは論理的な課題の場合で、クリエイティブ関していえば、判断はできるだけ速く、1秒以内にしたほうが正しくなるのです。

麻雀で有名な桜井昌一さんは、「牌は 1秒以内に切れ」と指導されているそうです。桜井さんの講演に昔いったことがあります。そのときこんなことを話をされていました。

俺が麻雀をはじめたとき、なぜみんなが下手なのかがすぐわかった。数で考えているからだ。俺はイメージしかしていない。いまは晴れだ、ああ雲が向こうからやってきたからそろそろ傘を用意しないと、って風にしている。

速度を速めるために練習するには、たとえば戦闘機が複数のターゲットを同時にロックオンするマルチロックオンのように、複数のものを同時にみる練習も有効です。

このコツは、見るのではなく見られる、自分が鏡のようになって、そこに前景が写り込んでいるという感覚でいること。「見てやろう」と思うと視界がせばまりますから、一点を見る意識を低くすることで視野を広げるのです。

「木を見るのではなく、木に見られるだ」

という言葉をとある画家が話してましたが、オカルトの話じゃなくて技術的な話です。よくクリエイターがアイデアを出すには考えるな、と言いますが、考えない=意識を薄くして処理速度を速くしろって事です。

ぼんやりするほど脳内の情報量があがる現象は脳科学でデフォルトモードネットワークと呼ばれていますが、ぼんやりすることで視野がひろがり、関係する要素が多くなるからそうなるのでしょう。

もちろんただぼんやりしていたらだめなんですが、課題を意識しつつ意図的にぼんやりすることで、脳内の情報量があがって解決策も思いつきやすくなります。

速い目と遅い目。車のスピードメーターのように、クリエイターは常に自分の速度を計測しているのです。

読んでくれてありがとう!