「海賊王に、おれはなるっ!」主人公には自信を、ライバルにはプライドを与えよ。

物語の主人公には、目先の勝利にとらわれずに遠くをめざす美学を持たせる。ただその美学をもつまえに、自信をもたせないといけない。なんとかなるって自信を持ってはじめて目先にこだわらないでいられる。

自信とは、途方もない目標に対して、なんとかなると思うことだ。孫さんが創業時にミカン箱の上に乗って、「自分はこの会社を豆腐屋みたいに1兆、2兆と数えられるくらいにもうかる会社にする」と言ったことと、ワンピースのルフィが「海賊王に、おれはなるっ!」っと言うことに違いはない。

自信は内面的な心の強さで、その主人公が好きなことから発生している。

一方でプライドは外面的なもの、お金、社歴、学歴、資格、なんでもいいけど、なんらかの第三者がお墨付きを与えたものだ。プライドがずたずたになりやすいのは、評価しているのが他人や物だから、評価を自分でコントロールできないからだ。

プライドは、子供が得意なこと、役に立つことをやって親や周囲がそれを褒めることで育つ。皮肉なことに、その人が得意なことが本当に好きなこととは限らない。絵が下手でも、絵を書くのが好きかもしれない。

本当はやれることよりも好きなことをした方がいい。やれることはHowで、好きはWhy、好奇心や優しさから生まれているのでより根源的だからだ。

好きかどうかを放置して、得意なことで褒められて育つと、褒められることが好きになってしまう。そうなると、他人からコントロールされやすくなり、物語の悪役のキャラクターにどんどん近づいてくる。スターウォーズのストームトルーパーがオーダーに従って淡々と村を焼き払うのは、帝国軍の兵士であることにプライドを持ち、焼き払ったほうが評価されるからだ。

プライドで動く人たちはコントロールしやすく団体行動も得意なので、どんどんと集合して帝国になっていく。しかし反対に中身は空虚を感じるようになる。プライドは外部要因によって作られているので中がスカスカになる。

※参考:プライドによって育てられるとどうなるかは、次の日記が典型的

一方で自信は、勝ち負け損得善悪に関係なく、好きなことをすること自体を楽しむことで育つ。「金もいらぬ、名誉もいらぬ、命もいらぬ人は始末に困るが、そのような人でなければ天下の偉業は成し遂げられない」と西郷隆盛に評された剣豪・山岡鉄舟は、ただただ好きな剣の道を求めた人だった。

修行時代には稽古をしすぎて防具と着物がボロボロになりボロ鉄と呼ばれていた。もらった金も人にあげてしまうので家は常に貧乏だけど、西郷隆盛に推薦されて新政府の明治天皇の教育係になった。元々は幕府側の侍なので裏切り者と呼ばれることも多かったが、鉄舟はこういう歌を詠んだ。

「晴れてよし 曇りてもよし 富士の山 もとの姿は変らざりけり」

どんな状況、どんな毀誉褒貶だろうと、元の自分は何もかわってませんよ。これが典型的な自信で、プライドとは根本的に異なる。

面白いのは鉄舟もこの自信を自覚して訓練していて、禅の師匠から「両刃が交わる時に避けてはいけない。そこにこそ豊かなものがある」というような公案(修行のための謎かけ)を与えられて答えがわからなかった。ある日たまたま商人の話を聞いて解けたというのだけど、それは次のような話だ。

「私がまだ青二才だった頃、商売がうまくいって四、五百円ばかりのお金ができました。それを元手にもっと儲けようと商品を仕入れましたが、今度は相場が下がり気味になってしまい、何とか早く売り抜けようと気ばかり焦りました。

すると取引先は私の焦りにつけ込み、買いたたきます。その時、心臓がドキドキして落ち着かず、非常に迷いました。

しかし、どうでもなれと思って放り投げておくと、再び、相場が上がり始め、先の取引先が原価の一割増しで買いたいといってきました。

ところが、私は逆に強気になっていましたから、突っぱねると、さらにもう五分高く買うといいます。その辺りで妥協すればよかったのに、欲を出し、もう少し、もう少しと売り惜しんでいると、相場が下落してしまい、結局二割以上の損失を被りました

損しましたが、そのおかげで商売のコツをつかみました。つまり、大事業をしようと思ったら、損得にビクビクしていてはダメなのです。儲けようと思ったら胸がドキドキするし、損してはならないと思ったら萎縮してしまい、とても大事業はできません。

そこで、それからというもの、私はまず、心の明らかな時、気持が整理できている時、そのようなタイミングに前後のことをよく考えておき、いったん仕事に入ったら最後、決してその是非に執着せず、やるべきことをやることにしたのです。損得にこだわったら、返ってうまくいかないという心の機微を実践の中から学びました。これを実践していると、どの事業も成功し、おかげさまで人から本当の商人といわれるようになりました」


「両刃が交わる時に避けてはいけない。そこにこそ豊かなものがある」
勝つか負けるかにこだわった時点でプライドモードになり、もう負ける状態になっている。プライドを捨て、自信を育てないといけない。

もちろん理屈ではわかっても、できるものではない。これを身につけるにはものすごい修行が必要だろう。ただ主人公の成長を描く時に、だんだんと物事に動揺しないように成長させていくのが王道で参考になる。

主人公には自信を、ライバルにはプライドを与えよ。もしくは、プライドをもっていた主人公が自らの誤りに気づき、自信に目覚めるっていう物語も多いので、クリエイターは混同しやすい自信とプライドの違いを知ることが大切だ。

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