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未来で成りたい職業No.1「夢チューバー」

夢の中で、友人が順番に股間を切り取られていた。マサカリを持った公務員が、まるで江戸時代の首切り役人のように、スパスパと事務的に切り取っていく。「次はあなたの番です」と呼ばれた恐怖で吐夢は目を覚ました。

ベッドから出ると吐夢はさっそく夢レコーダーで夢の映像をチェックし、Youtubeにアップすると満足げな顔をして二度寝をしにベッドに戻った。

「あいつの夢はやばい」

そうみんなから言われることが吐夢の生きがいだった。

2014年の時点で、脳をスキャンすればその人が何をイメージしているかボンヤリと分かるようになっていたのだから、2050年の今となっては、人間の思い描く映像は鮮明に夢レコーダーに記録できるようになっていた。

そうしてみんなが夢をネットに投稿し、その人気を争うようになっていた。なにしろ膨大な費用をかえずに映像を撮れるのだから、映画監督はとっくに割の合わない商売になっており、夢チューバーと呼ばれるクリエイターが、小学生が成りたい職業で一番となっていた。

なにしろ夢は誰でも見れるうえに、寝てるだけでいいのだ。3歳と90歳の夢チューバーがランキングを競っていることもあった。もっとも3歳の方は親が投稿し、90歳の方は寝たきり老人を介護している職員が勝手に投稿していたのだが。

しかしそんな夢チャーバー達にも課題がある。それは、見る夢を本人がコントロールできないという問題だ。だからいくら注目を浴びようとしても、当人にはどうにもならない面があったのだ。

「どうしたらやばい夢を見れるか?」

という話は、夢チューバー達が集まると必ず話題になった。ある時吐夢は、関西弁の男から気になる話を聞いた。その男はこう話した。

「夢は現実でできなかった事の反動や。だから、できなかった事を作ればええんや。もし自分の左ほほを殴られたら、ニコニコと笑って右のほほを差し出して我慢する。そうすればそいつを絞め殺す夢のできあがりや」

そう言われてみると思い当たることが吐夢にはいくつかあった。

もともと高校では不良として知られていた吐夢だったが、現実でやりたい放題するほど夢をみないのである。逆に、気まぐれで校則を守ったときほど、校舎を破壊している夢をみるのであった。

人気の夢チューバーになることを目指していた吐夢は、やばい夢をみるために、どんどんと日常では真面目になり、3年生の頃には生徒会長に推薦されるまでにはなっていた。

しかし、その反動で吐夢の夢は、高校の全生徒を丹念になぶり殺す猟奇モノとなっており、ランキング上位に入っていた。ペンネームで投稿している吐夢が、その夢チューバーだとは学校に知られることはなかった。

吐夢には校内にライバルがいた。吐夢の持ち味は自由奔放な野性味だったが、そのライバルは王道なドラマ展開を繰り広げていた。「俺は夢をコントロールできる。」そう公言するライバルは、実名で投稿していたので校内でも人気者だった。

吐夢は「夢をコントロールする方法」を聞き出すため、ライバルにひっそりと近づいていった…(続くかも)

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実際、「夢チューバー」という職業は登場しておかしくない。人間が頭の中で何を考えているかを、脳波などを測定して映像として取り出そうとしている研究は今も進んでいるし、おぼろげな映像はもう分かるそうだ。

さらにAIを使うと、ぼやけた写真でも明晰な写真に変換できるようになるのだから、脳内映像は50年もしないうちに分かるようになるだろう。

であれば、夢の録画も可能になり、夢レコーダーも現実味を帯びてくる。そうなればネットにアップする人も増え、結果として「夢をどう上手くみるのか?」と練習を重ねる人があらわれても不思議ではない。

夢を都合よく見る方法にはネットでもよく知られる明晰夢があるが、その話は余談なのでよっぽど興味がある方だけで。

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