「300人以上の宗教2世が協力してくれて…」自身も洗脳された監督が“宗教虐待”に斬り込んだ思い2/21(水) 10:00配信PDF魚拓




友人だった「宗教2世」の遺書の一言が…

ある宗教2世が残した遺書からできた物語…映画『ゆるし』。3月22日(金)よりUPLINK吉祥寺にて公開予定(©『ゆるし』製作委員会)

安倍晋三元首相襲撃事件を機に、「宗教2世」の存在が注目されるようになった。 そんな中、ある宗教2世の遺書をもとに、その友人で自身も新興宗教で洗脳された過去を持つ監督が“宗教虐待”に斬り込んだ問題作が登場した。映画『ゆるし』だ。 【画像】こんな明るい人が…! なぜ新興宗教に入信することに… 本作の監督と主演を務めるのは、当時まだ立教大学の学生だった平田うららさん(22)。いったいなぜ本作を? そのきっかけや、本作に込めた思いを聞いた。 「きっかけは、私自身が一時入信した新興宗教で出会った友人・Aちゃんが遺書を置いて自死したこと。 Aちゃんは、集会に通っていた時もずっと仲良しで、一緒にご飯に行ったり、私が教団に違和感を覚え反論し、教団から距離を置かれていた時、『大丈夫?』とこっそりLINEをくれたりしていた教団内で唯一の友達でした」 平田さん自身は、家族の支えなどにより、11ヵ月でなんとか脱会できたが、気がかりだったのは、その宗教で唯一の友人・Aちゃんのことだった。 「Aちゃん自身が宗教2世で、信仰しているわけではなく、違和感を抱えながら生きてきたので、私の辛さをわかってくれたんですね。 でも、一度脱会したら、家族でも信者とは連絡を取りづらくなるので、そのうちにお母さんが死んじゃって、人生を奪われたと言って2世の方も自殺したようなケースが結構あって。2世の方で違和感を持つ方もいましたが、虐待や差別が怖いし、親への愛が捨てきれないから逃げられない方がかなり多いんです。 教団は、神様を信仰しないと家族を引き裂くし、家族が抜けるとその残った家族が虐められる場合もあります」 そんな折、Aさんが自死したという噂を耳にした平田さんは酷く動揺し、自分を責めた。 「Aちゃんは私の気持ちを理解してくれ、支えてくれていたのに、私が見捨てて一抜けしちゃったから、居場所が本当になくなっちゃったんだと思いました」 ◆生まれた瞬間に「教団に親を奪われる」宗教2世 平田さんは何があったのかを知るために、その教団にいた信者に電話をかけ続け、ようやく連絡がついたとき、遺書があると聞いたという。 「私が映画を撮ったきっかけの一言があって。 あの子の解釈だからねって、信者が言ったんです。 教団の教えによる虐待が人の命を奪ったのに、あの子の解釈だからと。何が神様の愛だ、何が救いだ、と」
自殺という言葉は絶対に使いたくない、自分で殺したわけじゃなく、死に追いやられたから「自死」なのだと平田さんは強調する。 「Aちゃんは生まれた瞬間に教団に親を奪われるんです。生まれてからは自由を奪われるんです。その後友達を奪われて、生活を奪われて、人生を奪われて、命まで奪われているのに、 自殺って言うなよと」 Aさんの自死を知り、しばらく寝込んだと言う平田さん。 だが、「このまま私がAちゃんの遺書にしたためられた思いを届けなかったら、その思いがなかったことにされるし、Aちゃんの人生もなかったことになる」と思ったことから、映画を作ることを決意。 ’21年10月から取材をスタートした。 最初はTwitter(現)で宗教2世の方をフォローし、DMで取材依頼するところから始め、「宗教二世の会」とつながり、そこで出会った2世の方にまた他の2世を紹介してもらうという形で、取材を進めていった。 ◆安倍元首相の襲撃事件…「それが統一教会絡みだと知った時、正直、『ついに、起きてしまったか』と思ってしまう自分がいて」 さらに、安倍晋三元首相の襲撃事件以降は、逆に取材してほしいという連絡がたくさん来るようになったという。 「もちろんどんな理由があっても人を殺しちゃいけないですから、その痛ましい事件には私も心が痛みました。 ただ、それが統一教会絡みだと知った時、正直、『ついに、起きてしまったか』と思ってしまう自分がいて。 取材でも、国が味方してくれないと嘆いていた統一協会2世の方もいましたし、それがどういうことか当時はわかっていなかったんですが、あの事件が起きて、鈴木エイトさんの本を読ませていただいた時に全部がつながった気がしました」 多数の新興宗教団体延べ300人ほどの宗教2世に取材してきた平田さんは、それら全てに共通していることとしてこう述べる。 「宗教虐待って、他に性的被害や虐待、教祖の世話など、複合的に犯罪に近いことが必ず行われているんですよ。 それと、カルト宗教に共通しているのは、“カリスマがいること”、“何らかの方法でお金を搾り取ること”、“自分たちで聖歌や聖書を作っていること”。 私は宗教を否定したいわけじゃない。でも、取材していくうちにわかったのは、どの宗教であっても、傷つく人がいる以上、その声に耳を傾けるべきだと思いました」 さらに、取材を進める中で「Aちゃんも、私だけの責任じゃない。悲惨なこの宗教虐待に殺されたんだ」ということがわかり、心が軽くなる一方、そんな自分を責める思いもあったという。
さらに、いざ撮影が始まると、今度はトラブルが続いた。 「センシティブな内容ですから、主演が2回降板したんですよ。それでも人間としてこの映画は届けなければいけないと思った。だからスポンサーに土下座する勢いで『主演は代わりに私がやりますから、この覚悟でお金をいただけませんか』とお願いしたんです」 ちなみに、映画で非常に強い印象を残しているのが、主人公・すずの母親で宗教1世の恵を演じる安藤奈々子さん。 実は実年齢では平田さんの2歳上なのに、母親を演じたのだ。 「安藤さんはもともとすず役のオーディションで来ていたんですが、『絶対恵だろ!』と。普段はすごく明るくて綺麗な方なんですが、オーディションで演技を見せてもらったところ、すごく目が怖かったんですよ。 すずは可哀想じゃなきゃいけないのに、むしろすごい恐怖を感じて。その前の作品は高校生の役をやったそうで、『いきなり高校生のお母さんですか』と戸惑っていましたが、『満場一致だったのでお願いできませんか』と言うと、受けてくれました。 それで、老けメイクができるメイクさんだけは雇ったんですが、それでも完全には老けないんですよ。逆にそれが年齢の分からない不気味さ・怖さがあって良かったと思います」 ◆300人以上の宗教2世が取材協力してくれ、人を紹介してくれ、寄付で応援もしてくれた… 映画ではすずが小さな頃に恵の布教活動に連れて行かれる様や、マラソン大会、誕生日のこと、学校でのイジメなどが描かれるが、これらは全て2世への取材で聞いた実際のエピソードだとか。 「他に、親にナイフを向けられるシーンや、レイプのシーンなども、取材で聞いた話で、全部嘘がないんですよ。個々のエピソードや実際に聞いたセリフなどは、許可をとりながら使っています」 亡きAさんに捧ぐ映画として作った本作には、300人以上の宗教2世が取材協力してくれ、人を紹介してくれ、寄付で応援もしてくれた。 「主演が2回交代したけど、私が主演をやると言ったら、逆にすごくお金が集まったんです。こんなに覚悟を持った監督って見たことないと言ってくれて、応援してくれる人がたくさんいて。 それで、長編映画にできました。私が入信したのは、同じ宗教の信者以外全員サタンとみなす宗教だったので、当時は周りからいろいろ言われても、頑なになっていて『サタンが言っているな』くらいに思っていたんですよ。でも、人間捨てたもんじゃないな、全然サタンじゃないなと思いました(笑)」 公開はアップリンク吉祥寺で3月22日から。平田さんはここに至るまでにたくさんの嫌がらせや誹謗中傷があったことを明かし、笑顔でこう言った。 「公開までまだ日にちがありますし、毎日舞台挨拶で登壇するので、怖いですよ。催涙スプレーを持ち歩けとも言われます。 でも、私は絶対に自分が間違ったことをしていないと信じているから、戦えるんです」 ■『「神様のおかげでこの会社に」OB訪問で出会った新興宗教の信者…』後編では、平田さん自身の入信と脱会の話を聞いた。 取材・文:田幸和歌子

FRIDAYデジタル

「300人以上の宗教2世が協力してくれて…」自身も洗脳された監督が“宗教虐待”に斬り込んだ思い

2/21(水) 10:00配信