外観要件は合憲である―広島高裁判断の重要点など女性スペースを守る会女性スペースを守る会2024年7月16日 【トランス女性を「踏みつけ」にしてきた女性の原罪―性自認至上主義の本音】 斎藤貴男氏論稿 2023.10.25会見から―女性スペースを守る会女性スペースを守る会2024年1月29日 10:19 12:08等PDF魚拓


024.7.16 弁護士滝本太郎



1 広島高裁は2024年7月10日、男性→女性への戸籍性別変更の案件につき、特例法3条5号の外観要件規定に該当するとして、性別適合手術をしていない本件の、性別取り扱いの変更を認めた。最高裁大法廷2023.10.25決定、すなわち4号生殖能力喪失要件を違憲とし、5号の判断のために差し戻された案件の決定である。



 報道でも一般にももっとも注目されているのは、女性ホルモンの影響で外観要件はクリアしたとされたことなのだが、法曹として、また今後の法改正に関係する事柄ともっとも重要な点は、違うところにあると考える。



 すなわち、もっとも重要なことは、特例法3条5号「外観要件」につき合憲だと判断したことである。各所から違憲だと強く主張されてきたが、手術を必須とするならば「違憲の疑いがあるといわざるを得ない」と記載したのであり、外観要件は合憲として維持されたことである。手術が必要だと読む限りでの適用違憲としたともいえるが、条文には「手術」の文言はない以上、適用違憲の一例ともいえまい。



 広島高裁の決定は、次の通り示している。
特例法に基づく性別の取扱いの変更の審判が認められるための要件として5号規定が設けられた目的は、同号に該当しないものについて性別の変更を求めた場合には、外性器の形状が他者の目に触れ得る公衆浴場等において生じ得る社会生活上の混乱の回避にあるとされており、具体的には、自己の意思に反して異性の性器を見せられて羞恥心や恐怖心、嫌悪感を抱かされることのない利益を保護しようとしたものと考えられる。当該利益は保護に値する利益と言うべきであるから、5号要件の目的には正当性がある。



 5号規定は、4号規定と異なり、「近似する外観を備えている」という比較的幅のある評価的な文言を用いているところ、上記要件は必ずしも他の性別に係る外性器に近似するものそのものが備わっていない限り満たされないというものではなく、その身体につき他の性別に係る身体の外性器に係る部分に近しい外見を有していることでも足りると解される(民事月報59巻8号・172頁参照)。



 (ガイドラインや国際疾病分類などのこと、中略)これらを踏まえれば、5号規定の要件に該当するためには、現時点においても性別適合手術の実施が常に必要であると解釈するならば、上記(1)の目的の正当性を考慮しても、5号規定は、治療としては同手術を要しない性同一性障害者に対して、憲法13条が保護する自己の意に反して身体への侵襲を受けない自由を放棄して性別の取扱いの変更の審判のために身体への侵襲を伴う同手術を甘受するか、性自認に従った法令上の取扱いを受けるという重大な法的利益を放棄して性別の変更の審判を受けることを断念するかという二者択一を迫る態様により過剰な制約を課すものとして、違憲の疑いがあるといわざるを得ない。
このように、差し戻し審の広島高裁は、外観要件の具備とは手術を経たことを必須とはしないとしたうえで、それが具備されているかを判断したのである。5号外観要件を違憲だと判断したのではない。広島高裁は、先行した国で実現されてしまっており、日本学術会議が提言し性自認主義の論者らが求める内容-「性自認が女性だ」と言いその生活実態があれば何ら医療的措置をしていない生得的男性は法的女性になれるべきだーということは、明確に否定しているのである。



2 もちろん、広島高裁のこの判断は不当である。一見しては陰茎・陰嚢が見えない、乳房や体つきなどが女性化していたのであっても、陰茎などがあることは確かであり、実に適切ではない。広島高裁は下記のように示している。
性別適合手術は受けていないものの、継続的に医師の診断に基づくホルモン療法を受けており、本件審判申立てに際しての精神科医師2名による診断及びその後に行われた別の医師による観察のいずれにおいても、身体の各部の女性化が認められている。その状態及びその他本件に現れた一切の事情を勘案すれば、抗告人は5号規定に該当する。
広島高裁は、具体的には相当に例外的な形状の事案であった、その限りでの先例になるという趣旨だろうが、それでも生得的女性の陰核のごとき陰茎になることはあり得ない筈である。裁判資料は実にあからさまなものだが、判決文では「別の医師の観察」であって裁判所が写真で判断したものでもないとみられ無責任至極である。

 すなわち、女性ホルモン療法をしてきた何人もの方からの証言や文献によれば、何年たっても陰茎の縮小は知れたものであり到底、女性の陰核と同じ形状にはならない。勃起・射精も少なくとも数年間はあるともいう。

 この真実からすれば、広島高裁の判断は事実認識を誤っており厳しく処断されなければならない。

 なお、女性→男性の場合は、①陰茎用のモノを作り安定的に股間に固着させるのは相当に困難であること、②男性ホルモンの投与により陰核の肥大が相当程度にあること、そして③性犯罪をする生得的女性は生得的男性に比較して著しく少ないから、その程度で外観要件をクリアしたと認めても格別の問題はないという非対称性がある。女性→男性の場合は外観要件について緩くても実際上、格別の問題はないのである。

 したがって、広島高裁の判断は厳しく処断されなければならない。



 各国ともに、男性→女性についても手術をしていないままに法的性別を変更できるということとなった後の数年から10年で、診断書と裁判所での宣言だけで良いなどと変更され、更にはドイツなどのように診断書も不要、裁判所の関与もなしの自己申告だけで法的性別を変更できるという制度になった経緯があるのだ。



 広島高裁の判断は、日本にあっては周回遅れでこの性自認至上主義の愚を追う必要はないのに、最高裁決定に続き、更に追っているのであり、実に不当だと考える。



 それでも、私がまず申したいのは、広島高裁は、5号外観要件を違憲にしなかったということがまず重要だということである。立憲民主党は、2024年6月11日には外観要件を削除した法案を国会提出したが、それなぞは愚の骨頂であるということだ。



3 様々な見解のまとめは、NHKの下記が詳しいと思われる。



https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240710/k10014507081000.html

  この判断について、女性スペースを守る会がNHKに寄せたコメントは下記のとおりだ。
女性ホルモンの影響で萎縮などしていても『男性器ある法的女性』であり、強く抗議する。ただ外観要件は維持されたので、何ら医療的な措置をしない男性が法的女性になる道はない。その点はよかった。何より重要なのは、特例法とは別に男性器がある限りは女性スペースの利用はできないとする法律を作ることだ
 また、「性同一性障害特例法を守る会」が出したコメントは下記である。
私たちは心から手術を求め、それゆえに法的な性別の変更は世論から信頼されてきた。この判決の基準のあいまいさが社会的混乱を引き起こし、今後の特例法の改正論議に悪影響を及ぼしそうだ。すでに戸籍上の性別変更をした当事者の声を聞くべきだ
4  この裁判の経緯は判例サイト等から見る限り下記である。



 2019年中 岡山家裁に申立(男性→女性)

 2020年5月22日 岡山家裁が変更を認めない審判を下す。精子数が少ないが人口授精もありえるから4号生殖能力喪失要件を満たしていない。5号は判断せず。申立人は憲法判断は求めていなかった模様

 2020年9月30日 広島高裁岡山支部が抗告申立を却下(家庭の法と裁判22号115頁)

抗告人は4号と5号外観要件につき違憲と主張したが、高裁は4号要件は合憲でありかつ家裁認定の通り満たしていないから、その余の判断を要さないとして却下

 2022年12月7日 最高裁小法廷から大法廷に回付される。

 2023年10月25日 最高裁大法廷決定(判例タイムズ1517号67頁)、4号要件は違憲と判断し(2019年1月23日の最高裁第二小法廷決定の判断を4年9か月後に変更)、5号外観要件について広島高裁に差し戻しとした。



 いわく

「身体への侵襲を受けない自由を放棄して強度な身体的侵襲である生殖腺除去手術を受けることを甘受するか、又は性自認に従った法令上の性別の取扱いを受けるという重要な法的利益を放棄して性別変更審判を受けることを断念するかという過酷な二者択一を迫るものになった(中略)本件規定による身体への侵襲を受けない自由の制約については、現時点において、その必要性が低減しており、その程度が重大なものとなっていることなどを総合的に較量すれば、必要かつ合理的なものということはできない。 よって、本件規定は憲法13条に違反する」

 なお15名中3人の裁判官は5号外観要件も違憲であるから最高裁の自判で変更を認めよ、とした。



 この4号生殖能力喪失要件を違憲とした最高裁決定により、女性→男性については、(男性ホルモン投与で陰核肥大があることをもって外観要件をクリアするとされてきたことから)、その後の家裁において次々と認められている。

 しかし、男性→女性の事案は、陰茎又は陰嚢は付いていれば見えるものであり、外観要件は重要な論点だった。

 2024.7.10、差し戻された広島高裁は、上記1及び2に記載の通りの判断をしたのである。その全文は公刊されたならば補充する。



5 この裁判は、申立てが認められたからそのまま確定した。申立人側にあって「外観要件は違憲なのだ、その判断を」として最高裁に上告する道はない。高裁だが判例となるので、その後は各家裁で同様の事案については変更を認める可能性が高いと思われる。今後、「外観要件は違憲」かどうかは、この事案のような陰茎がないことに匹敵するとされる事案では判断されず、医療的措置が不十分で陰茎が外観上認められる事案についてのみ、判断されることになろう。



 また、そもそも、申立人側の主張・立証を裁判所が判断するだけであり、反対当事者がいない裁判である。憲法問題、それも法的な性別という日々の生活と多数の法令に関係する重大な問題であるのに、反対当事者がおらず、その主張立証は裁判所に届かないのだ。事実上は、私が世話人となっている「女性スペースを守る諸団体と有志の連絡会」などから様々な要請書や資料が送られたが、裁判官らはこれを読む義務も検討する義務もないものである。とんでもない話だと考える。



 国、すなわち法務省が参加する道はあった。「国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律」の第4条に「法務大臣は、国の利害又は公共の福祉に重大な関係のある訴訟において、裁判所の許可を得て、裁判所に対し、自ら意見を述べ、又はその指定する所部の職員に意見を述べさせることができる。」とあり第9条に「調停事件その他非訟事件については、前各条の規定を準用する。」とあるからだ。だが、国は参加しないままだった。



6  最後に、本件事案を検討するにつき、注目すべきは申立代理人2名の、最高裁決定の2023.10.25の記者会見の内容であるこちらだと考える。



 外観要件について3人の裁判官が違憲としたことに関連して「5号が違憲とされるということは、すなわち不当にトランスジェンダーの人が、トランス女性の人が、生来の女性の人に踏みつけにされている・・・・と判断するから違憲なんです。」と述べるという、とんでもない発言をしたのである。
https://note.com/sws_jp/n/n805c7f3aa41e
女性の安心安全といった権利法益は度外視して、陰茎あるままの生得的男性が女性スペースに入れて当然だという考えの模様だ。

 実は、トランス女性が男子トイレに入ったときに揶揄される、暴力まで受けることをしばしば聞き、それは重大な人権侵害だと思われる。排泄は認識ではなく身体でするのだから、トランス女性で男子トイレに入る人もまた多くいる。その際にいわば「男子トイレに入るな、女子トイレに行け」として排除されることこそが差別でなくて、なんなのだろうか。

 トランス女性が女子トイレを利用した時、女性は多く気づくと聞くが、怖かった、分かったけれど誰も何も言わなかった、ということがほとんどである。女性は身体が男性であるトランス女性より弱い立場であり、女性スペースにおいてマイノリティーだ。

 いったい、どこがどう「トランス女性の人が、生来の女性の人に踏みつけにされている」のだろうか。「トランス女性の人は、生来の他の男性に踏みつけにされている。」のだろうに。よく考えれば「トランス女性は女性だ、女性スペースの利用公認を」という主張は、「男子トイレに入るな、女子トイレに行け」として排除・差別することとどう違うのか。


 以上が、最高裁大法廷2023.10.25決定により差し戻された広島高裁2024.7.10決定につき、報告と見解である。

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外観要件は合憲である―広島高裁判断の重要点など

女性スペースを守る会

2024年7月16日 12:08


性同一性障害と診断され、手術を受けずに戸籍上の性別を男性から女性に変更するよう申し立てた当事者に対し、広島高等裁判所は変更を認める決定を出しました。これまで戸籍上の性別を変更するには外観を似せるための手術が必要だとされていましたが、裁判所は「手術が常に必要ならば憲法違反の疑いがある」と指摘しました。

目次注目
当事者「生きにくさから解放 うれしい」
手術要件の撤廃に反対派「強く抗議」


広島高裁「手術が常に必要ならば 憲法違反の疑い」

広島高等裁判所で性別の変更が認められたのは、性同一性障害と診断され、戸籍上は男性で、女性として社会生活を送る当事者です。

性同一性障害特例法では事実上、生殖機能をなくし、変更後の性別に似た性器の外観を備えるための手術をすることが要件の一つとされていました。

このうち生殖機能の手術については、この当事者の申し立てを受けて最高裁判所が去年10月、体を傷つけられない権利を保障する憲法に違反して無効だという判断を示しました。

一方、外観の手術については最高裁が審理をやり直すよう命じ、広島高等裁判所で審理が続いていました。

10日の決定で、広島高等裁判所の倉地真寿美裁判長は外観の要件について「公衆浴場での混乱の回避などが目的だ」などとして正当性を認めましたが、「手術が常に必要ならば、当事者に対して手術を受けるか、性別変更を断念するかの二者択一を迫る過剰な制約を課すことになり、憲法違反の疑いがあると言わざるをえない」と指摘しました。

そして「他者の目に触れたときに特段の疑問を感じない状態で足りると解釈するのが相当だ」と指摘し、手術なしでも外観の要件は満たされるという考え方を示しました。

その上で、当事者がホルモン治療で女性的な体になっていることなどから性別変更を認めました。

家事審判では争う相手がいないため、高裁の決定がこのまま確定しました。

弁護士や専門家によりますと、外観の手術は主に男性から女性への変更の要件とされ、手術無しで認められるのは極めて異例です。注目


当事者「生きにくさから解放 うれしい」

性別変更が認められた当事者は、弁護士を通じコメントを出しました。

当事者は「物心ついたときからの願いがやっとかないました。社会的に生きている性別と戸籍の性別のギャップによる生きにくさから解放されることを大変うれしく思います。これまで支えて下さったたくさんの方々に感謝したいと思います」としています。

代理人を務める南和行弁護士は、決定を伝えたときの当事者の様子について「ことばを詰まらせて電話の向こうで泣いている感じでした」と話し、「申し立てから5年近くかかったので、ようやく本人が安心して生活できるようになったことが何よりもうれしいです」と話していました。



代理人を務める南和行弁護士
「性別変更に必要な外観の要件について判断の枠組みを明確に示したので、各地の家庭裁判所での審判に影響がある。個別の事情から手術を受けられず、諦めていた人が申し立てをしやすくなると思う。

最高裁判所大法廷の決定以降、与野党ともに議論が始まったと聞いている。困っている人の生きづらさや不利益をできるだけ少なくするという視点で立法の議論をしてほしい」

手術要件の撤廃に反対派「強く抗議」

性別変更における手術要件の撤廃に反対している「女性スペースを守る会」は「女性ホルモンの影響で萎縮などしていても『男性器ある法的女性』であり、強く抗議する。ただ外観要件は維持されたので、何ら医療的な措置をしない男性が法的女性になる道はない。その点はよかった。何より重要なのは、特例法とは別に男性器がある限りは女性スペースの利用はできないとする法律を作ることだ」とコメントしています。

また、性同一性障害の当事者でつくる「性同一性障害特例法を守る会」は「私たちは心から手術を求め、それゆえに法的な性別の変更は世論から信頼されてきた。この判決の基準のあいまいさが社会的混乱を引き起こし、今後の特例法の改正論議に悪影響を及ぼしそうだ。すでに戸籍上の性別変更をした当事者の声を聞くべきだ」とコメントしました。注目


決定のポイントは

広島高等裁判所が出した決定のポイントです。

【外観要件は「比較的幅がある」】
今回の審理では、性同一性障害特例法で定められている、性別変更の5つの要件のうち「変更後の性別の性器に似た外観を備えていること」といういわゆる「外観要件」が議論になりました。

この要件について高裁は「自分の意思に反して異性の性器を見せられて羞恥心や恐怖心、嫌悪感を抱かされることのない利益を保護しようとしたものと考えられる」と指摘し、目的には正当性があるとしました。

一方、「要件は比較的幅のある文言を用いている。体の外性器にかかる部分に近い外見があるということで足りるとも解釈できる」との見解を示しました。
【手術を迫ることは「違憲の疑い」】
高裁は、特例法が制定された当時と現在の治療の変化に着目しました。

法律が制定された2003年当時、学会のガイドラインでは精神科での治療やホルモン治療などの身体的治療を行った上で、性別適合手術を行うという「段階的治療」が採用されていました。

しかし、2006年以降は医学的な検討を経た上で見直され、治療として手術が必要かどうかは人によって異なるとされました。こうした変化を踏まえ高裁は「手術を常に必要とするならば、当事者に体を傷つけられない権利を放棄して手術を受けるか、性自認に従った法的な扱いを受ける利益を放棄して性別変更を断念するかの二者択一を迫る過剰な制約を課している」と指摘し、「憲法違反の疑いがあると言わざるをえない」と判断しました。
【外観要件手術必要としない解釈】
その上で外観要件について「性別適合手術が行われた場合に限らず、他者の目に触れたときに特段の疑問を感じないような状態で足りると解釈するのが相当だ」とし、手術なしでも外観の要件は満たされるという考え方を示しました。

そして、今回の当事者はホルモン治療で女性的な体になっていることなどから、要件を満たしていると判断し、性別変更を認めました。

性別変更の要件をめぐる動き

2004年に施行された性同一性障害特例法では戸籍上の性別変更を認める要件として、専門的な知識を持つ2人以上の医師から性同一性障害の診断を受けていることに加え、18歳以上であること、現在、結婚していないこと、未成年の子どもがいないこと、生殖腺や生殖機能がないこと、変更後の性別の性器に似た外観を備えていることの5つを定めていて、すべてを満たしている必要があります。

このうち、生殖腺や生殖機能がないことと変更後の性別の性器に似た外観を備えていることの2つが事実上手術が必要とされていましたが、生殖機能の手術については最高裁判所大法廷が去年10月に違憲判断を示して以降、各地の家庭裁判所で手術を必要としない判断が示されています。

岡山県や岩手県、静岡県では女性から男性への性別変更が認められるケースが相次いで明らかになりました。

一方、外観に関する要件については最高裁が高等裁判所で審理をやり直すよう命じたため、憲法に違反するかどうかなどの統一的な判断は示されていません。

こうした状況について今回性別変更が認められた当事者側は「現状で外観の手術が問題になるのは男性から女性への変更の申し立てのみだ。生物学的な男女別で異なる取り扱いをするのは憲法が保障する法の下の平等に違反する」などと主張していました。

この要件については、さまざまな意見があります。

性的マイノリティーの当事者などで作る団体は「望んでいない人にまで手術を強いる形になっている今の法律は人権侵害だ」などと手術の要件の撤廃を求めています。

一方、要件の撤廃に反対する団体は「要件がなくなると手術を受けていなくても医療機関の診断で性別変更が可能になり、女性が不安を感じるほか、法的な秩序が混乱する」などと主張しています。

性別変更の要件については、法務省が最高裁大法廷の違憲判断を受けて法改正についての検討を続けているほか、公明党が手術の要件を見直す見解をまとめ、自民党にも呼びかけて秋の臨時国会を視野に法改正を目指すことにしています。注目


変更が認められるまでの経緯

当事者は5年前、2019年に手術無しでの性別変更を家庭裁判所に申し立てました。

社会生活上と戸籍上の性別が異なることで生きづらさを感じる一方、健康な体にメスを入れることの負担や、長期の入院などを強いられることなどから悩んだ末に性別適合手術は受けられないと判断したということです。

家庭裁判所と高等裁判所は変更を認めませんでしたが、最高裁大法廷は2023年10月、生殖能力をなくす手術の要件は憲法に違反して無効だと判断しました。

一方、変更後の性別に似た外観を備える手術の要件については審理を尽くしていないとして、高等裁判所で審理をやり直すよう命じました。

この判断について当事者は当時「予想外の結果で大変驚いています。今回はわたしの困りごとからなされたことで、大法廷でも性別変更がかなわず、先延ばしになってしまったことは非常に残念です」とコメントしていました。

高裁でのやり直しの審理で当事者側は、外観の手術についても体を傷つけられない権利を保障する憲法に違反しているなどと主張しました。

また、当事者の日常生活や長年のホルモン治療の結果などを総合的に見れば、性別を変更するための要件は満たしていると主張しました。


識者「画期的な判断 ほかの裁判所の判断にも影響」

性的マイノリティーの問題に詳しい早稲田大学の棚村政行名誉教授は今回の決定について「性別変更で必要とされた外観の要件を大幅に緩和し、手術をしなくても認めるという画期的な判断をした。体を傷つけることなく性自認に従って生きるという個人の尊厳や利益を真正面に捉え、当事者の救済に努めた。拘束力は無いが、ほかの裁判所の判断にも影響が出るだろう」と評価しました。

そのうえで「特例法で性別を変更するために設けられている要件がすべて合理的なのか、見直していく必要がある。個人の生き方を尊重しつつ、社会の不安を払拭するような環境整備の議論が必要だ。国会できちんと議論して法改正してほしい」と指摘しました。

林官房長官「引き続き適切に対応」

林官房長官は午前の記者会見で「国が当事者として関与しておらず、詳細を承知していないため、政府としてコメントは差し控える」と述べました。

その上で「関係省庁では去年10月の性同一性障害特例法に関する最高裁判所の違憲決定を踏まえて、実務的な課題や対応などについて検討している。立法府とも十分に連携し、引き続き適切に対応していきたい」と述べました。

男性から女性 戸籍上の性別変更 手術なしで認める決定 高裁

2024年7月10日 17時46分


ジャーナリストの斎藤貴男氏の「リベラルによるリベラル批判」3回連続の論稿は、とても貴重だと思います。文藝春秋オンラインに登録すれば読めます。

1つ目 2023/07/09「リべラルによるリべラル批判」  文藝春秋 2023年8月号
https://bunshun.jp/bungeishunju/articles/h6647
2つ目 2023/09/26「経産省トイレ裁判」が残した課題―現実味を帯びる「セルフID」制度導入とLGBT先進国の混乱
https://bunshun.jp/bungeishunju/articles/h7035
3つ目 2023/12/17 「トランス女性は不当に踏みつけにされているから違憲」最高裁“性別変更”決定で代理人弁護士が語った本音」リベラルによるリベラル批判 第3回
https://bunshun.jp/bungeishunju/articles/h7443

 この3つ目の論稿中の、吉田昌史弁護士による2023年10月25日の記者会見での発言が注目されます。この日、性別取り扱い特例法の生殖能力喪失要件を違憲とする最高裁決定があり、その会見中の発言です。斎藤氏は、【トランス女性を「踏みつけ」にしてきた女性の原罪】として、性自認至上主義を進める論者の本音が出ていると指摘します。
           ―――――――――――――――

「現実の世の中は、みんなが法律の条文をいちいち考えながら生きているのではないわけで。単にハードルが下がったと判断する人もたくさんいるんじゃないですか?」という斎藤氏の女性スぺースについての質問に対して、吉田弁護士は次のとおり回答しています。


「いまの件、女性のほうが不利益を被る社会にしろということかと言うと、別に、これ、切り取られても私は構わないんですが……。いや、そうです。草野意見(最高裁裁判官のうち5号についても違憲だとした)はそうだし、そうです。それは不当に虐げられてるからですよ。

5号が違憲とされるということは、すなわち不当にトランスジェンダーの人が、トランス女性の人が、生来の女性の人に踏みつけにされている・・・・・・と判断するから違憲なんです。なので、その質問に対するお答えはもうその通りです。

人権と人権がぶつかる時に、平穏に暮らしたいという女性、脅威を感じるという女性がたくさん、仮にいたとしても、それを守るために、その脅威を除去するために、虐げ……恒常的に抑圧されている人の状態を見た時に、どちらを優先するんですか? っていうのが人権。今の質問は、もう仰るように、その通りですよ」


 なお、草野裁判官の補足意見とは、下記の通りです。
※この草野補足意見を含めた最高裁決定文の全体は、以下リンク先にあります。https://note.com/sws_jp/n/ncdb9deeac5e7
(様々な対策により)以上を要するに、5号規定が違憲とされる社会であっても、「意思に反して異性の性器を見せられない利益」が損なわれる可能性は極めて低く、一方、この社会においては5号要件非該当者に性別適合手術を受けることなく性別の取扱いの変更を受ける利益が与えられるのであるから、同人らの自由ないし利益に対する抑圧は (許容区域への入場が無制限に認められるわけではない以上「完全に」とはいえないまでも)大幅に減少する。
斎藤氏は、これを受けて以下のように記載しています。

「生来の女性にはトランス女性を「踏みつけ」にしてきた原罪があるのだから、一部の者が生贄にされるのも因果応報、自業自得ではないかと言っているように、筆者には聞こえた。トランスジェンダーが違和を感じる許容区域に入場することが、それほどまでに人格の根幹に関わるということなら、社会全体が等しく引き受けるか、難しければ別立ての枠組みを用意するのが道理ではないだろうか。生来の女性だけが一方的に犠牲を強いられなければならない理不尽を必然とするストーリーは、どこか歪んでいる。」と。



そして、吉田弁護士らの話を更に報告しています。



***********

この先は吉田、南両氏のちょっとしたやり取り。

南「いまのは草野さんの反対意見なんで。『南さん・吉田さんの意見です』っていうのは違いますからね。はい」

吉田「私の意見ですよ、私の」

南「いや……、もう、わかった……」

吉田「言われたっていいんです。そうやから。実際にそれは」

----------

当会は、吉田昌史弁護士の発言は、性自認至上主義からの率直な見解だと考えます。

「トランス女性の人が、生来の女性の人に踏みつけにされている」「脅威を感じるという女性がたくさん、仮にいたとしても、それを守るために、その脅威を除去するために、虐げ……恒常的に抑圧されている人の状態を見た時に、どちらを優先するんですか? っていうのが人権」という耳を疑うような意見です。

 女性スぺースは、身体男性から性暴力を受ける身体女性が圧倒的に多いがゆえに出来たものであることを棚に上げて、全体的な数の多寡によってのみ、女性がトランス女性を虐げており、トランス女性の方の利益が優先されるべきだ、とするのですから。また草野裁判官と同様に、「意思に反して身体男性に自らの体が見られない権利」の方はまったく考えていないのですから。女性スぺースを守るために、容易に男性が入れないようにする「制限」が、特例法解釈からすれば別の「法律」として必要なのに、それがないままに言うのですから。

 吉田弁護士の発言には、女性への強い嫌悪と侮蔑の感情さえも感じとれます。



 性自認至上主義の方から、このような率直な考えを聞けることはまずありません。

 今、疑問を示すと、論者から「差別だ」「ヘイトスピーチだ」と言われるばかりでした。疑問の声が他に拡がらないようにするためか、X(旧Twitter)にはブロックリストがあり、各界によっては疑問を出すと集中的な批判と排除があります(キャンセルカルチャー)。芸能人が素朴に女性スぺースの安心安全の確保を主張すれば、非難が集中します。批判的な書籍の翻訳本を出そうとした出版社には、非難が集中します。
今回、ようやく性自認至上主義の本質がその論者自身から明らかにされたと思います。
 この性自認至上主義の考えの本質に、どうぞ注目して下さい。



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【トランス女性を「踏みつけ」にしてきた女性の原罪―性自認至上主義の本音】 斎藤貴男氏論稿 2023.10.25会見から―

女性スペースを守る会

2024年1月29日 10:19



1
2023年(令和5年)10月30日
声 明
女性スペースを守る諸団体と有志の連絡会
女 性 ス ペ ー ス を 守 る 会
性 同 一 性 障 害 特 例 法 を 守 る 会
平 等 社 会 実 現 の 会
白 百 合 の 会
No!セル フ ID 女性 の人 権 と安 全を 求め る 会
性 暴 力 被 害 者 の 会
女 性 の 権 利 を 守 る ト ラ ン ス の 会
(旧性別不合当事者の会)
及 び 有 志 (順不同)
当連絡会は、10月25日、最高裁大法廷(裁判長・戸倉三郎長官)がした、性同一性障害者の性別の
取扱いの特例に関する法律に関する決定につき、次のとおりの声明を発する。
最高裁判所大法廷は、上記特例法3条4号の「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態
にあること。」につき違憲とし、5号の「その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似
する外観を備えていること。」については高裁段階で主張も憲法問題も検討されていないとして、自ら判
断はせずに審理を広島高裁に差し戻した。憲法判断としては、15人全員の一致で4号生殖機能喪失の要
件は違憲とし、三浦、草野、宇賀の3人の裁判官は5号の外観要件も違憲だから差し戻しせずに変更を認
めよとして反対意見を示した。
1 最高裁のとんでもない暴走である。それも制度上、相手方がいない法廷、申立人側の主張や立証だけ
の裁判にて、国会が定めた特例法の生殖腺機能喪失要件を違憲としてしまった。うち3人は外観要件に
ついてもわざわざ違憲と判断した。
それは、女性の権利を劣後・矮小化した暴走である。女性が差別され、不利益を被るのは、性別(SEX)
を根拠としているという歴史的事実を無視して、つまりは男性の身勝手・女性の侮蔑・差別主義である
「性自認至上主義」に侵された最高裁になってしまっていた。
決定文は、いかに相手方が存在しない裁判であって申立人側とは見解を異にする主張に触れられな
かっただろうとはいえ、この数年間ますます明らかになってきた様々な実態になんら言及していない。
すなわち先行した国々で女性の安心安全が害されている状況、イギリスが正常化に舵を切り苦労して
いる実態、国際水泳連盟や世界陸連では男性としての思春期を幾分でも経験した者は女子スポーツ選
手権への参加資格がないとしたこと等の言及さえない。15人の裁判官はなんら知らないままなのだ
ろうか、不勉強が極まるという外はない。
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決定文から読みとれることは、既に問題を露呈し続けているという外はない「「性自認は他者の権利法
益より優先すべきである」とする「性自認至上主義」に基づく論理展開ばかりである。
まさに最高裁の暴走である。
2 今回の最高裁決定には、下記のごとき文脈までもあり、批判を免れない。
① 「「生殖能 の喪失を要件とすることについて、2014 年(平成 16 年)に世界保健機構等が反対す
る共同声明を発し、また 2017 年(平成 29 年)に欧州人権裁判所が欧州人権条約に違反する旨の判
決をしたことなどから(6ページ)」
② 「性同一性障害者がその性自認にしたがった法令上の性別の取り扱いを受けることは、(中略)
個人の人格的存在と結びついた重要な法的利益である(7ページ)」
③ 「「件件定定がなかったとしても、生殖腺除去手術を受けずに性別変更審判を受けたものが子を設
けることにより親子関係等に関わる問題が生ずることは、極めてまれでことであると考えられる
(8ページ)」
④ 「そもそも平成 20 年改正により成年の子がいる性同一性障害者が性別変更審判を受けた場合に
は、「女である父」や「男である母」の存在が肯定されることとなった(8ページ)」
⑤ 「「強度な身体的侵襲である生殖腺除去手術を受けることを甘受するか、又は性自認に従った法令
上の取り扱いを受けるという重要な法的利益を放棄して性別変更審判を受けることを断念するか
という過酷な二者択一(8ページ)」等々である。
3 右の①の、世界保健機構、欧州人権裁判所の判決などを無批判に記載したままであることは、信じが
たい。申立人側の主張そのままであろう。
国連の人権機関は、日件に対し死刑制度を廃止すべきと数十年も前から何度も勧告している。それで
も、日件は死刑を廃止していない(なお、当連絡会は死刑制度の存否についての意見はない)。違憲だ
という下級審判決が出たこともない。死刑制度の違憲性の判断は具体的には刑事裁判の中で争われる。
検察官は弁護側に対抗し国民の関心がある中で死刑制度の合憲性を説明し、裁判所が判断する。一方
で、手術要件については家裁、高裁そして最高裁でも、検察官も国の訴訟を担当する訟務検事などその
他の相手方が居ない。ために、死刑制度の論議と比較して、最高裁は課題に対する真摯な姿勢を失って
いるのではなかろうか。
最高裁はまた、③の生殖腺機能喪失要件がない場合は「「女である父」「男である母」が生じる可能性
が相応にあることを知るべきである。従前から女性という性自認を持ちながら父となった方も相応に
居るのだから、生殖腺を失わずに性別変更ができるのであれば「「父である女」が続々と出現すると予想
される。女性から男性へという静岡家裁浜松支部のこの 10 月 11 日付審判事例の類型に相当する方の
場合でさえ、メディアで報道されている通り乳房切除までもしたがパートナーとの間で子を設けた例
もある。性別変更が認められていれば「母である男」となる。決して稀なことではなくなる。
https://www.hbc.co.jp/news/904c73d0a07a95672d701742821dfdd9.html
④の特例法の平成 20 年改正は、子の福祉のために、未成年の子がいる場合には「女である父」や「男
である母」とはしないままとしている。まして子の出生時点にあっての「出産した母だが男」「生物学
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的な父だが女」という事態は、まったく段階が違う課題である。
4 そもそも、「性自認は女だが書類上の性別は男という食い違いには耐えられないが、トイレや風呂で
いつも見る精巣のある自分の体と性自認の食い違いには耐えられる」という事態は、どういうことだろ
うか。日々見る自らに精巣「・嚢 がある、これからも父となる可能性もあるにかかわらず、書類上の肩
書の違和には耐えられないからとして法的女性になることを認めて良いのだろうか。
特例法は、身体違和がきつく固着し、自ら希望して性別適合手術をした人の生活の不便さを考慮して
法的性別の変更を制度化したものではなかったか。すでに法的性別を変更している方々が社会で一定
の社会的信頼を得て生活しているのは、自ら望んだ手術を終えているからこそであるのに、その前提を
欠けば皆の信頼が失われてしまう。最高裁はそれをどう捉えているのか。
まして精巣の除去は卵巣や子宮の除去に比較して実に容易である。精巣を持ったままに、書類上であ
る法的性別を女性に変更することが、どうして上記の②の「人格的存在と結びついた重要な法的利益」
と言えるのだろうか。どうして⑤の生殖腺機能喪失要件が「過酷な二者択一」だといえるのだろうか。
身体違和がさほどきつくなく精巣の除去を含めて性別適合手術を必要としない方は、法的性別を変
更しようとしなければよいのである。変更せずとも生活に差し支えない社会を作ることこそが重要で
はないのか。女性だと認識しいわゆる女性装を日々する人も、排泄は認識からではなく身体からするの
だから男子トイレに入ることも相応にある。その際に時に男性から揶揄され、時に暴 を受けることが
ある。それこそが排除であり差別であろう。法的性別を変更して女子トイレを利用する権限があるなど
とする前に、男子トイレで男性からの揶揄・暴 のない状態にすることが重要な人権ではないのか。
はたして、憲法 13 条幸福追求権として、精巣があるままに②の法的女性になることが「「人格的存在
と結びついた重要な法的利益」として保障されるべきなのだろうか。日件にあって国民的に議論され、
社会的に承認された考えだとは到底言えないのではないのか。
5 最高裁は、女性スペースにおける女性らの安心安全という生存権を、いったいどう考えているのであ
ろうか。女子トイレなどができた背景を考えたのであろうか。
性犯罪は、圧倒的に生得的な男性からの女性や子どもに対するものである。また、性同一性障害であ
ろうとなかろうと、生得的な男性は、体格、身長、筋肉ともに一般に女性より優位にある。強姦事件で
妊娠の可能性があるのももちろん女性である。すなわち、女性スぺースにあっては、性同一性障害者を
含む生得的男性すべてに比較し、女性こそが弱者の立場でありマイノリティである。性犯罪目的の男の
一定数は、生殖腺除去を要せず、更に5号要件である嚢茎の除去もなくなることとなれば、何としても
法的性別を女に変更するよう努 するだろう。最高裁は、女性の安心安全という生存権を劣後・矮小化
してしまったのである。
あるいは、5号の外観要件までも違憲とわざわざ記載した3人の裁判官のように、共同浴場では身体
的特徴によると法律で定めればよいと言うのであろうか。それでは、女子トイレはどうするのか、更衣
室はどうするのか、シェルター、病室はどうするのか、刑務所はどうするのか、統計はどうするのか。
「法的性別」が曖昧なものとなり概念として混乱するばかりとなる。
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6 最高裁は、「性別」を蔑ろにしている。性別は、動物である以上は現生人類が成立する前からある男
女の区別である。血液型や年齢などと同様に生得的なものであり「所与の前提」である。
最高裁は、「性別」を時代と地域で異なる「らしさ・社会的役割」である「ジェンダー」とを混同し
ているのではないか。どのような「「ジェンダー」をまとうかは、それぞれの幸福追求権の一環として自
由であり、これに縛られてはならない。生得的男性がいわゆる女性装や仕草をすることも、その逆もま
ったく自由である。各個人がいかなる性自認を持とうとまたいかなる性表現をしようと、他者の権利法
益を侵害しない限りは自由である。それが、憲法の拠って立つ自由主義であったはずである。
他方、法的性別は、制度の一部であるから、他者に「そのとおりに対応せよ」という強制の要素を持
つものである。既に約 13,000 人が生得的性別は変わらないことを前提としつつも法的性別を変更して
いる。特例法はこの 19 年間、特に社会的不安を起こさずに機能してきた。
理由は単純である。法的女性とは精巣の除去、嚢茎を切除した人であることが前提となっており、そ
れが性犯罪目的などにより、男性から女性に法的性別を変更する人はまずないというハードルになっ
ていたからである。特例法は、あくまできつく固着した身体違和を解消するために、自らの意思で性別
適合手術までした人に対する個別救済法である。制度だから他者に「そのとおりに対応せよ」という強
制の要素を持つが、いわゆる手術要件を中核とするからこそ、全会一致で成立した。決して、性別適合
手術をするか法的性別の変更をあきらめるかを迫るといった「「過酷な二者択一を迫る法律」ではない。
また、この6月成立の理解増進法は、いわば「「性の多様性」を承認し理解増進をとしているのであっ
て決して「「性別の多様性」を認めているものではない。ジェンダーアイデンティティがいかなる者であ
っても尊重されるが、「それにしたがった法令上の性別の取り扱いを受ける権利」を予定したものでは
毛頭ない。その第 12 条に「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう」とするなど
した立法過程を見れば明らかである。
最高裁は、「性別」というものを蔑ろにして法的性別の概念をもてあそび、性自認至上主義により、
安易に「女性」「男性」の定義を変更しようとしているという外はない。
7 このような性別を安易に扱う考え方をとれば、性自認至上主義が先行した国々と同様の混乱を導く
ばかりである。多く誤解されているが、「「ジェンダーアイデンティティ」が食い違うとするトランスジ
ェンダーのうち、性同一性障害の診断がある人は 15.8%にとどまり(令和元年度厚生労働省委託事業
職場におけるダイバーシティ推進事業報告書 105 ページ)、84.2%はこれに入らない。
そしてその診断も 15 分で済ませてしまうクリニックが存在する実態がある。日件精神神経学会性同
一性障害に関する委員会のガイドラインに基づいた診断を厳格に実施することこそが重要であるのに
厚生労働省の努 は見られず、GID「(性同一性障害)学会は 2021 年 5 月、特例法の手術要件の撤廃を
求めるあり様であって、概念の変更問題もあり特例法が性別取り扱いの変更に直結するにもかかわら
ずその責任を全うしようとしない。
4号の生殖腺機能喪失要件そして5号の外観要件が外れれば、文字どおり「男性器ある女性」が続々
と登場する、その先には「性同一性障害」ではなく、ジェンダーアイデンティティ(性同一性・性自認)
に基づく法的性別の変更が認められる制度があり、やがては決定文中一人の裁判官が何度も言及した
ドイツにおける性自認至上主義のごとく、裁判所の関与さえないままに法的性別が変更できるとする
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方向性となる。先に述べた通り性犯罪目的の男や、女性を侮蔑・差別したくその専用スペースを侵害す
ることによって喜びを得ようとする一部の男は、法的性別を女性に変更するよう努 するだろう。それ
で良いのであろうか。
8 法律を違憲とすることは法の形成過程の一つであって、今回の最高裁決定は、まさに性自認至上主義
を大きく伸展させる法律の登場である。先行する国々では混乱が多々あるのに、日件に周回遅れでこれ
に従えとするものであって、まったく異常である。
ただし、最高裁の多数意見は今回、4号生殖腺喪失要件を違憲だとして原決定を破棄し、5号要件に
ついて事実関係の確認と憲法判断をさせるべく広島高裁に差し戻した。それは、3人の裁判官が5号外
観要件をも違憲として自判により性別変更を認めるという姿勢と異なり、高裁に預ける手法による先
延ばしであり責任の回避でもある。
最高裁の多数意見が最終判断をしないという逃げの姿勢に至ったのは、私ども連絡会をはじめとす
る多くの国民が、最高裁に向けた様々な運動を繰り広げてきた成果ではあろう。私どもが、性自認至上
主義の問題点につき報道が少なく、これに疑義を述べると「差別扇動だ」などと様々な方法で言論を抑
圧されながらも、これに耐えて運動してきた意義があったのではないか。
今、国民こそがもの言う機会を得た。政府やメディアが十分な調査と正確な報告を国民に提供し、国
民的な議論のうえで国会がよりよい法律を作る、また最高裁を変える機会を得た。
9 女性が、未だ経済的、社会的に様々な不利益を被るのは、性別「(SEX)に拠るものであり、決して外
見や行動の側面に基づくものではない。体格、身長、筋肉で男性より劣り、月経「・妊娠・出産があるこ
とから社会構造的に様々な不利な状況にある。だからこそ、女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に
関する条約(CEDAW)第1条は「on「the「basis「of「sex」と明記し、女性の権利の保障を要請している。
その趣旨から、同条約の第5条aは「「両性いずれかの劣等性若しくは優越性の観念又は男女の定型化さ
れた役割に基づく偏見及び慣習その他あらゆる慣行の撤廃を実現するため,男女の社会的及び文化的
な行動様式を修正すること。」を、締約国がすべき措置としている。今年の G7サミットのコミュニケ
にいう「有害なジェンダー定範」の打破もこれに類似する。
しかるに、性自認至上主義は「トランス女性は女性だ」という思想であり、性別(SEX)を基件とし
た男女の定義を意図的に軽視している。これは明らかな誤りであるが、仮に性自認至上主義を採るので
あれば、歴史的に獲得されてきた生得的な女性の安心安全という権利法益などが後退しないように、し
っかりとした社会的合意を得るべきであるのに、それを議論しようともせず不公正きわまりない。
10 以上のことから今、私たちは次のとおり提案する。
第1に、政府各省庁は、以下のような調査を行うべきである。
・先行した国々のここ数年間の状況と動向
・不特定多数が使用するトイレ、共同浴場などにおけるトラブルの有無、対応状況とその変化
・いわゆる女性スぺースにおける国内の刑事事件や女性装がからむ刑事事件の調査
・性同一性障害の診断の実態と信頼性に関する調査
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・法的性別を変更した人のその後の調査
・性別適合手術をしたが法的性別を変更していない人の調査
・性別適合手術はしたくないが法的性別を変更したいとする人がどの程度いるかの調査
・性別移行を断念または中止した人の調査
・その他、シェルター、代用監獄、刑務所、病院、自衛隊などでのトラブルや運用実態の調査
第2に、メディアは、性同一性障害とトランスジェンダーを混同して議論することは厳に慎み、上記
の情報や、当連絡会を含め多くの国民のさまざまな見解、情報を報道し、また国民が自由に判断できる
ように意見の異なる者の間での公開討論の機会など用意すべきである。
第3に、国民はそれらに基づいて、すべての人に人権があることを念頭に置いて、先入観にとらわれ
ることなく自らの意見形成に努めるべきである。そのためには、差別者とは話さないなどと言って論者
が議論を拒否する姿勢のまやかしを知り、言論の自由な市場が確保されなければならない。
第4に、各政党は、当連絡会を含め多くの国民のさまざまな意見を聴取し、党内でも自由に議論して
方針を定めるべきである。
第5に、それら議論にあっては、女性は、性別(SEX)に拠ってこそ未だ経済的「・社会的に様々な不
利益を被っていることを前提として認識すべきである。それにもかかわらず、法的性別が生得的性別と
よりかけ離れたものとしてよいものか、そうなれば、また女性スぺースや、男女の実質的平等をめざす
様々な措置、統計、スポーツなどの場面で混乱していくことを認識すべきである。
第6に、国会は、4号生殖腺機能喪失要件はもちろん、5号外観要件(特に男性の嚢茎につき)は尚
更に決して急ぎ削除などを検討すべきではなく、上記に基づいて慎重に対処すべきである。5号要件は
決して違憲判断が示されたものではない。
国会はまた、生得的な性別に基づく区別が差別にあたらないことを明確にする法律を成立させるべ
きである。特に、性犯罪は圧倒的に生得的男性の女性、子どもに対するものなのであるから、避難場所
である「女性スぺースを守るための法律」を早急に成立させるべきである。
第7に、この裁判を差し戻された広島高裁は、早期に件件の判断をすべきではなく、様々な調査結果
と国民的な議論の行方をよく見極めるべきである。国から参加申出があったときは直ちに認めるべき
である。
第8に、そのためにも国は、これからでも法務大臣権限法と家事事件手続法に基づきこの裁判に利害
関係人として参加すべきであり、仮に法律上どうにも参加できないとするならば法の欠陥であるから
直ちに改正をして参加すべきである。
第9に、国民は、次の衆議院議員選挙における国民審査において、この 15 人の裁判官につき4号生
殖腺機能喪失要件につき違憲とする大きく間違った判断をした以上は、罷免させるべきである。
第 10 に、内閣は、最高裁裁判官に定年等で欠員が出たならば、このような「性自認至上主義」に嵌
っていない方をこそ指名すべきである。
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日件の主権者は我々国民である。それにもかかわらず国民的な議論がなされないままに、申立人側の主
張立証のみでこのような違憲判断が下されたことは、極めて異常である。いかなる法律も、すべての国民
の権利法益を守るために作られ運用されなければならない。国民間の権利法益が衝突するときは十分な
調査と議論のうえで調整が図られなければならない。最高裁の暴走は許されない。
以上をもって、声明とする。

https://note.com/sws_jp/n/ncdb9deeac5e7
最高裁決定の内容と女性スペースを守る連絡会の声明
女性スペースを守る会

2023年10月30日 14:34
守る連絡会の声明 確定 2023.10.30.pdf