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<イスラエルによるガザ攻撃を受けてイギリスでも反ユダヤ感情が蔓延している。反ユダヤ主義が表面化することなどなかった現代のイギリスで、なぜ今こんなことになっているのか>

ロンドンで最近、警察官がある男性に対して、彼が「見るからに」ユダヤ人で、「敵意を招く」可能性があるから親パレスチナデモを迂回して行くように、と注意する映像が公開され物議を醸した。法を守っている市民が首都を自由に歩くこともできないのかと世間は憤慨したが、警察官の忠告は男性の安全を考えてのことだ、という理解も一部にはあった。

5月にイギリスでは、地方自治体の選挙で、地域や国の問題ではなく国際問題を訴える候補者が相次ぐという奇妙な現象が起こった。ムスリム人口が多い地域では、パレスチナ自治区ガザでの停戦を求める議員が数人だが当選した。イスラム組織ハマスのイスラエル攻撃とイスラエル軍による反撃以来、パレスチナの旗を掲げた窓をイギリス各地で見るようになった。だがイスラエルの旗を見かけることはない。

大学のキャンパスやムスリムのコミュニティー、そして左派の間では、反ユダヤ主義とほとんど区別がつかないような反イスラエルの空気がある。反ユダヤ的な嫌がらせも急増している(ある報告によれば昨年は前年比で589%増加したという)。このせいで僕は個人的ジレンマに襲われた。ユダヤ系アメリカ人の友人が、彼の娘がもうすぐロンドンに留学するんだと話してくれたとき、単にお祝いを述べるべきか、厄介ごとに注意したほうがいいよと言うべきか悩んだからだ。

ある意味、今の反ユダヤ主義の増加は驚くべきことだ。現代のイギリスで反ユダヤ主義は、広く問題化したことなど一度もなく、あくまで一部の過激派のものだったからだ。例えば、平均的なイギリス人はユダヤ人特有の姓を見分けることができない。一時期、サッチャー政権の閣僚の約4分の1がユダヤ人だったが、ほとんど誰も気付いていなかった。

イギリスで唯一の反ユダヤ主義の政治運動は、1930年代のオズワルド・モズレーのブラックシャツ隊だった......だがあまりに不発に終わったから、彼のことなど誰も聞いたことがないのも無理はない。

裕福で恵まれたユダヤ人には人種差別は当てはまらない?

しかしいくつかの要因が合わさり、今や反ユダヤ主義が表面化している。第1の要因は、イギリスの左派にとってパレスチナが重要な「象徴」であることだ。労働党が長く下野していた1980年代、南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離政策)との闘いはイギリスの左派に活気を与えた。パレスチナ問題はそれに代わり、人々の怒りを呼び、刺激し、動かす「重要で崇高な大義」となってきた。

イスラエルの政策を批判するのは構わないが、しかしそこには驚くほどねじれた論理がある。抑圧者はイスラエルで、イスラエルはユダヤ国家、従ってユダヤ人は敵である、というものだ。時には、イスラエルに批判的な言動をするユダヤ人を例にとり、反ユダヤ主義が人種差別とは別物である証拠だ、だって「ほら、僕たちはこのユダヤ人とはちゃんと友達だもの」というわけだ。

しかし、これは人種差別の2つの大罪を犯している。仲間をその人の個性ではなくまず人種によってとらえていること。そして、ユダヤ人というマイノリティー集団の1人ではあるものの、他のユダヤ人とは違う「良いユダヤ人」だから「許してあげる」という発想だ。

皮肉なことに、人種差別を何より軽蔑すると言う人々の多くが、人種差別はユダヤ人には当てはまらないと考えているようだ。イギリスのユダヤ人は裕福な人が多く、ほとんどが白人なので、抑圧され恵まれないマイノリティーだとは見なされない。
ジェレミー・コービンが労働党党首だったとき、(ユダヤ人の労働党活動家が嫌がらせを受けるなどして)労働党が反ユダヤ主義で非難された際によく使われた、循環論法がある――私たちはあらゆる人種差別に反対している、だから、具体的な人種差別事例で私たちを非難するなど言語道断だ、というものだ。結局のところ、この手の批判は、現状を覆そうとする進歩的活動の信用失墜を狙った「既得権益層」や右派メディアの作戦だろう、と一蹴された。

2015~19年に労働党党首を務めたジェレミー・コービンが反ユダヤ主義に寛大だったことは、熱心な支持者たちに「反ユダヤ主義も許される」というお墨付きを与えた。それは、「あらゆる抑圧された人々のために立ち上がるリーダー!」とうたうコービン流急進左派ブランドの本質を成すものだった。

ただし、キア・スターマーが党首を務める現在の労働党が、コービンを除名したり元ロンドン市長ケン・リビングストンを追放したりするなど、党内の反ユダヤ主義を厳しく取り締まっていることは評価すべきだ。

それでも、社会における問題を一掃するには至っていない。今年、型破りな左派政治家のジョージ・ギャロウェイ(イスラム教改宗者で、挑発的で攻撃的な反イスラエルの声明を出したことがある)が、マンチェスター郊外ロッチデール選挙区での下院補選で選出された。

彼は挑発的発言を繰り広げ、イスラエルをナチス・ドイツにたとえたり、シオニズムをナチズムに、イスラエルの行動をホロコースト(600万人のユダヤ人が犠牲になった)にたとえたりもした。ユダヤ人団体「英国ユダヤ代表委員会」は、彼の当選を受けて「ユダヤ人コミュニティーにとって失意の日」と述べ、彼を「扇動的陰謀論者」と非難した。

自分の宗教や出自に基づいて投票するように

ギャロウェイやコービン、そして彼らの同類たちは、イギリスで増長する「部族主義」をあおり、そこから恩恵を受けている。部族主義の下では、人々は「アイデンティティー」や宗教、人種、性的指向などに基づいて投票する。これは現代イギリスの大きな成功の1つ――さまざまな背景を持つ人々が共存し、「自分たちのグループは常に正しい」という考えではなく、「合理的」な理由に基づいて投票してきたこと――を覆す。

イギリスにおける反ユダヤ主義の台頭はそれだけでも十分警戒すべきだが、同時にもっと大きな問題も示唆している。つまり、人は自分たちの側の利益のために行動していると思えば、極端な立場を取ることを躊躇せず、一切の批判を拒絶してもそれを正当と感じる、ということだ。



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反ユダヤと無縁だったイギリスに広がる反ユダヤが危険な理由

2024年05月29日(水)12時24分




<英国での世論はイスラエル支持21%、パレスチナ支持17%と分裂。複雑に絡み合うパレスチナ問題をイギリスはどう見ているか>

[ロンドン発]イスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム武装組織ハマスの戦争が英国の世論を分断している。英世論調査会社ユーガブが10月16日に英国の成人2547人を対象にイスラエルとパレスチナのどちらを支持するかと尋ねたところ、イスラエル21%、パレスチナ17%、両方を平等に支持29%、分からない33%と分かれた。

女性のイスラエル支持は15%と男性の28%に比べて低い一方で、パレスチナ支持では男性17%、女性16%、両方を平等に支持は男性30%、女性28%と大差はなかった。政党別では与党・保守党支持者はイスラエル39%なのに対しパレスチナ6%と低く、両方は27%。最大野党・労働党支持者ではイスラエル支持9%、パレスチナ支持27%、両方35%だった。

年齢別では高齢者ほどイスラエルを、若者はパレスチナを支持している。欧州連合(EU)離脱派はイスラエル(35%)を、残留派はパレスチナ(21%)や両方(40%)を支持する傾向が見られる。イスラエル・パレスチナ紛争はユダヤ人国家を建設するシオニズムとナチスのユダヤ人大虐殺、アラブ民族主義が複雑に絡み合うだけに解決するのは容易ではない。

ハマスがユダヤ人1400人を殺害し、少なくとも239人を人質に取ったことでイスラエルは自衛権を発動し、ガザ空爆で8000人以上のパレスチナ人を殺害(ハマスの運営するガザ保健省発表)した。ハマスはイスラエルの過剰防衛でパレスチナ人の犠牲が拡大するのを想定して、これまでにはない規模のテロを仕掛けた。紛争を拡大させる意図が透けて見える。

BBC「われわれの仕事は視聴者に事実を提示すること」

英国政府はハマスを「武装イスラム主義運動」と位置づけ「テロを行っている」と認定する。しかし英BBC放送が頑なにハマスを「テロリスト」と呼ばないことについて保守党政治家や保守系大衆紙デーリー・メール、一部市民の攻撃にさらされている。その理由についてBBCは「われわれの仕事は視聴者に事実を提示し、彼らに判断してもらうことだ」と説明する。

数々の歴史的スクープをものにしてきたBBCのジョン・シンプソン国際問題編集長は「テロという言葉は道徳的に好ましくない組織に対して使われる。誰を支持し、誰を非難すべきか、つまり誰が善人で誰が悪人なのかを人々に伝えるのはBBCの仕事ではない」という。第二次大戦中、BBCはナチスを「敵」と呼んでも「悪」「邪悪」とは呼ばなかった。
「中東を報道してきた50年間、私はレバノンやガザでの民間人を標的にしたイスラエルの爆弾や大砲による攻撃の影響も見てきた。その恐怖は今も心に残る。しかし、それを実行した組織の支持者をテロ組織だと言い始めるのは客観的な立場を保つ(報道の)義務を放棄することになる」

「私たちはどちらの側にも立たない。私たちは『邪悪な』とか『卑怯な』というような表現は使わない。私たちは『テロリスト』についても語らない。だからこそ英国だけでなく世界中の人々が毎日、私たちの発言を見たり、読んだり、聞いたりしている」とシンプソン氏はBBCニュースのウェブサイトに記している。

大英帝国主義の残滓

英ニューカッスル大学のマーティン・ファー上級講師(現代英国史)はNPO(非営利組織)のオンラインメディア「カンバセーション」への寄稿「中東紛争で露呈した分断」の中で「『ポグロム』は教室の外ではあまり耳にすることのない言葉だが、リシ・スナク英首相が下院で中東情勢に関する声明を発表した際、最初に語られた言葉の一つだ」と指摘する。

「ユダヤ人の組織的虐殺を意味するこの言葉は10月7日のハマスの行動を正当防衛とみなす人々でさえ同意するものだ。この言葉は地球上で最も難解な紛争におけるこの瞬間を特徴づけている」(ファー氏)。英国政府はイスラエルとパレスチナの2国家解決を支持する一方で、イスラエルによるパレスチナ占領地での入植地建設などの問題に懸念を表明してきた。

「保守党も労働党もイスラエルを支持しているが、パレスチナ人はハマスの行動のために苦しめられているというコンセンサスは崩壊し始めている。労働党左派や一部の学者はイスラエルの対応を『集団的懲罰』と表現している。これは論争を呼ぶ主張だが、イスラエルの同盟国間の分裂がハマスの意図したものであったのは間違いない」とファー氏は指摘する。

大規模テロやロシアの侵攻のあとフランスやウクライナへの支援を表明したイングランド・サッカー協会(FA)も10月13日のイングランド代表の親善試合でウェンブリー・スタジアムのアーチを青と白で照らしてイスラエルを支援することを拒否したとして非難された。FAは代わりにイスラエルとパレスチナの紛争の犠牲者を追悼した。

10月28日、約10万人の親パレスチナ市民がイスラエル・ハマス戦争の即時停戦を求め、ロンドン中心部でデモ行進した。ロンドンで親パレスチナの大規模デモが行われるのはこれで3週連続。ドイツ、インドネシア、パキスタン、フランス、イタリア、ノルウェー、スイスでも同様のパレスチナ支援集会が開催された。
「川から海へ、パレスチナは自由になる」

多くの参加者がパレスチナの旗を振り「川から海へ、パレスチナは自由になる」とスローガンを唱えた。「パレスチナに自由を」「ガザの虐殺を止めろ」と書かれたプロカードを掲げ、花火や発炎筒を打ち上げる人もいた。「川から海へ」のスローガンについてスエラ・ブラバーマン英内相は「イスラエルの破壊を求める反ユダヤ主義。デモは嫌悪だ」と批判した。

ドイツの政治学者で元北大西洋条約機構(NATO)戦略予見チーム長、ステファニー・バブスト氏はシンクタンク、カーネギー・ヨーロッパへのコメントで「シリアとイラクにおける過激派組織『イスラム国』の敗北にもかかわらず、急進的なイスラム主義者やサラフィスト・グループは多くの欧州諸国で依然として活動している」と指摘する。

「ハマスに対するイスラエルの軍事作戦は、彼らが西側社会を不安定化させ、イスラエルを攻撃するための歓迎すべき機会だ。近年、欧州の海岸に到着したアラブ系の大規模なコミュニティーを動員することはそれほど難しくない。急進的なイスラム主義者は反イスラエル、反欧米プロパガンダを可能な限り広く広めるため専用のSNSを利用するだろう」

過激な反移民路線を追求する右派ポピュリスト政党の多くがアラブ系団体に味方し、反ユダヤ感情を煽っている。「ドイツではイスラエルの安全保障が『ドイツ国家の存在意義』であるという定義も説明もない政府姿勢が何百万人ものイスラム系移民を疎外する危険性を孕んでいる」(バブスト氏)。欧州では社会・宗教・政治的二極化が深まる懸念が強まっている。


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2023年10月31日(火)20時35分