年次改革要望書…アーミテージレポート… 属国は何を押しつけられてきたか政治経済2018年10月15日.誰のための機密保護強化か? セキュリティ・クリアランス法めぐり山本太郎が参院内閣委で指摘 対中包囲に日本使う米国政治経済2024年4月24日長周新聞PDF魚拓



第4次アーミテージレポートを発表したことが注目を集めている。これはアーミテージ元米国務副長官、ジョセフ・ナイ元米国防次官補らが主導するシンクタンク・戦略国際問題研究所(CSIS)が発表した「21世紀における日米同盟の再構築」とする文書で、表向きは対等な「提言」という形だが、実態は宗主国アメリカが植民地日本に押しつける政策命令書に等しいものだ。ここ二十数年で進行した郵政民営化も人材派遣自由化も米軍再編も、すべてアメリカが1994年以後突きつけてきた年次改革要望書と、それを引き継ぐアーミテージレポートの具体化だった。それは日本の主権が侵された異常な現実を突きつけている。





 「年次改革要望書」は、1993年の宮沢―クリントン会談で合意し、翌年から毎年10月に提出されるようになった。表面的には日米両国が互いに要望書を交換する形態をとるが、日本側の要望はまったく実行されない。その実態はアメリカ側が日本に押しつける一方的な政策命令にほかならない。しかもアメリカの要求は通信、医療機器・医薬品、金融、エネルギー、流通など多岐にわたり、法律業務、競争政策をふくめ、国の制度自体を変える内政干渉を含んでいた。



 90年代の年次改革要望書を見てみると、「商法」関連で米国型企業統治の導入や、日本企業を買収しやすくする株式交換型M&A(三角合併)解禁を求め、「競争政策」で独占禁止法の罰則強化や公正取引委員会の権限強化を要求している。これはNTTなど日本の巨大企業を規制し、外資が日本市場に殴り込みをかけるための施策だった。さらに郵政民営化、立法・行政の施策決定過程への外国人利害関係者の介入拡大、日本を訴訟社会にして日本企業の弱体化とアメリカの弁護士業界進出をはかる司法制度改革などを盛り込んだ。



 その要求にそって日本政府は1997年に独占禁止法改定をおこない、持株会社を解禁(金融持株会社も含む)した。持ち株会社は傘下企業の株式だけ握って支配する会社で、以前は禁じていた制度だ。持ち株会社の解禁によって製造に直接携わらない持ち株会社がグループの頂点に君臨し、末端の製造部門を徹底したコスト削減に駆り立てる動きが加速した。



 98年には地元小売店や商店街を守るための大規模小売店舗法(大店法)を廃止し、大型店出店を野放しにした。海外からの参入も促進し、地元商店街が一気に疲弊していく下地となった。同年には、「約半世紀ぶり」ともいわれる建築基準法抜本改定を強行した。もともと日本の建築基準は、地震国であるため国際基準より厳しく、建築物の建て方(仕様)を細かく規制した「仕様規定」だった。それを「国民の生命、健康、財産の保護のため必要な最低限の性能があればよい」とする「性能規定」へ転換した。日本で古来から培われた建築基準を崩したことで、外国の建材や工法がどっとなだれ込んだ。その結果が現在の自然災害における家屋被害拡大にもつながっている。



 99年には労働者派遣法改悪で人材派遣を自由化した。技術者を育てていく終身雇用を崩壊させ、必要なときだけ外から連れてきて働かせる不安定雇用を拡大した結果、若い世代の貧困化、技術の断絶、少子高齢化に拍車がかかった。



 さらにアメリカは制度変更後も着実に実行しているか目を光らせ、毎年の年次改革要望書に盛り込んだ。例えば大店法を廃止した翌年の1999年には、大型店出店の動きがある地方自治体の活動を監視し、大型店出店を国を挙げて援助することを促している。このころから「市場参入と事業の運営、許可、規準、資格、検査、試験、認定制度に関する規則等の民間規制は事業活動に悪影響を及ぼす可能性がある」と明記し、それこそ「聖域のない規制緩和」を要求し始めている。



 そして2001年になると小泉―ブッシュ間で、今後「日米規制改革イニシアティブ」の名で年次改革要望書の発行を継続すると決定した。このとき小泉首相が身振り手振りを踏まえながら絶叫していた「聖域なき構造改革」はこの年次改革要望書の具体化だった。なかでも「年次改革要望書」で1995年から実行期限まで区切って要求したという郵政民営化はその典型だった。



 2003年段階で郵政事業庁を廃止し、日本郵政公社を発足させていたが、同年の年次改革要望書が「(郵政三事業の民営化計画を)2004年秋までに作成するよう指示を出したことを特筆する」と記述すると、小泉政府はますます強引に制度構築に奔走した。2004年6月の経済財政諮問会議で「骨太の方針2004」に郵政民営化を盛り込み、十分な論議もなく、郵便局現場で今後の不安が拡大するなか3カ月後の9月に閣議決定した。そして2005年8月に郵政民営化関連法が参院本会議で否決されると「自民党をぶっ壊す」と叫び、郵政解散選挙を演出。そして郵政民営化に反対した議員の選挙区に小池百合子などの刺客を送り込み、メディアを挙げて郵政民化営反対の動きを袋だたきにしてつぶすことで、アメリカの対日要求に忠実な施策を着実に実行していく隷属構造を強化した。



 郵政民営化法成立によって当時、郵貯、簡保の国債分を除いて200兆円もあった国民財産は民営化でいつアメリカ金融資本に奪われてもおかしくないようになった。120兆円資産の簡保は、今後「透明性のある競争の確保」「民業を圧迫する政府保証を排除せよ」などといってさらに弱体化させ、最終的には分割、解体、経営破綻に追い込み、M&A(企業の合併・買収)や営業権譲渡で米国系民間保険会社が吸収する危険も指摘される事態となった。



 この郵政民営化以後、アメリカの対日要求を首相直属機関である諮問会議などがせっせと「国の方針」に作り直し、それを短時日のうちに閣議決定して法案作成、国会採決へとすすむ流れがより露骨になった。郵政民営化の次は農協・漁協などの相互扶助組織がおこなってきた金融・共済の解体、日本の医療制度や国民皆保険制度の破壊などの動きを強めている。



属国打破が全国的課題





 年次改革要望書自体は自民党大惨敗で発足した鳩山政府の時期(2009年)に廃止となり、それ以後、日米経済調和対話やアーミテージレポートへと引き継いでいる。だがアメリカがシナリオを書きそれを時の政府が忠実に実行する関係はまったく変わっていない。



 2016年3月に米日経済協議会(USJBC)が「アベノミクスの中心転換経済成長に不可欠な新しい構造・規制改革」と題する提言を発表した。事実上、年次改革要望書にかわる文書だが、そこにはTPP協定実施に向けた関税・非関税措置の撤廃、法人税率の25%への引下げなどの要求とともに、今年成立させた働き方改革関連法や統合型リゾート推進法(カジノ法)を優先課題として明記していた。そして軍事・政治問題の対日要求を系統的に突きつけてきたのがアーミテージレポートで、これまで4回発表している。



 2000年に発表した第1次レポートでは活動領域を太平洋全域に広げた「安保再定義」について「日本の役割の下限を定めたと見なすべきで上限を示すものではない」と指摘し「米日二国間の防衛計画にもっとダイナミックなとりくみを求めている」と強調した。そして集団的自衛権の行使容認、有事法制の国会通過、米軍と自衛隊の施設共用と訓練の統合、PKF本体業務への参加凍結解除、米軍再編計画の実行、ミサイル防衛に関する日米協力の拡大、軍事情報を共有するための秘密保護法制定、などの要求を突きつけていた。



 その後の日本の動きを見ると、2001年にPKO法を改定しPKF本体業務への参加凍結を解除した。2003年には弾道ミサイル防衛システムの導入を決定し、有事関連三法(武力攻撃事態法など)を成立させた。さらに2004年には有事の際米軍が民間施設を接収したり、国民の行動を制限することを定めた有事関連七法(国民保護法や米軍行動関連措置法)が成立。法整備はアーミテージレポートの要求に沿って進行した。「米陸軍第一軍団司令部の座間移転」「岩国基地への厚木艦載機移転」を盛り込んだ米軍再編のロードマップ発表も同時期だった。



 そして東日本大震災を経て2012年に発表した第3次レポートの対日要求は、原発再稼働、TPP推進、日韓「軍事情報包括保護協定」(GSOMIA)締結、新たな安保法制の制定、武器輸出三原則の撤廃、などを要求した。安保関連では「平時から緊張、危機、戦争状態まで安全保障のあらゆる事態において、米軍と自衛隊が日本国内で全面協力できるための法制化を、日本側の権限において責任もっておこなうべき」「米陸軍と海兵隊は陸上自衛隊との相互運用性を高め、水陸両用作戦などで機敏であり展開しやすい軍体制の方向へ発展していくべきだ」とより突っ込んだ内容に言及した。さらに「国家の防衛には攻撃責務の備えが必要だという事実をはぐらかしている」と記述し、集団的自衛権に関連して「平和憲法の改正を求めるべきだ」と明記した。それはまぎれもなく日本を再び戦争に引きずり込む危険な内容をはらんでいた。



 ところが安倍政府が「国防」を叫びながら実行したのは、特定秘密保護法の成立、武器輸出三原則の撤廃、原発再稼働、安保関連法成立、TPP関連法成立、日韓GSOMIA締結(2016年)などアメリカによる対日要求の丸呑みだった。攻撃専門部隊である水陸機動団(日本版海兵隊)を発足させ、改憲を声高に叫んでいる。



 そして今月発表した第4次アーミテージレポートは、日米統合部隊の創設、自衛隊基地と在日米軍基地を日米が共同使用可能にする基準緩和などを要求した。それは事実上、自衛隊を丸ごと米軍傘下に組み込み、日本全土を米軍基地化していく方向性を示している。



 こうした「年次改革要望書」と「アーミテージレポート」が示しているのは、日本国内の政治に主権がない現実である。さらにあらゆる施策が海の向こうで作られ、その顔色ばかりうかがう売国的な政治家によって、国民無視の施策が次から次にまかり通る異常さである。日米安保体制に基づくアメリカによる日本支配は、基地のある町や沖縄だけにとどまらず日本全土に及んでいる。この属国状態を打破する全国民的な運動が切実に求められている。

年次改革要望書…アーミテージレポート… 属国は何を押しつけられてきたか

政治経済2018年10月15日


 れいわ新選組の山本太郎参議院議員は18日、参院内閣委員会でおこなわれた「セキュリティ・クリアランス法案」(漏洩すれば処罰される機密情報の範囲を経済分野に広げ、機密情報にアクセスする人の身辺調査を民間人に拡大する)の審議で質問に立った。この法案の立案動機として、アメリカが日本に押しつける政策命令書である年次改革要望書や「アーミテージ・ナイレポート」、それらとリンクする経団連の提言を時系列で整理し、これが日本の貧困化やアジアでの孤立を加速させる戦時体制づくりの一環であることを指摘した。以下、質疑要旨を紹介する。(図表は山本議員の質問資料から作成)



適正評価が必要な政治家は野放し? 粒揃いの政務三役





質問する山本太郎議員(18日、参院内閣委員会)

 山本太郎 セキュリティ・クリアランス法の質疑に入る前に、本法案は非常に専門的でとっつきにくい。中学生が聞いてもわかるような答弁をどうか心がけていただきたい。私の理解が間違っていないかを確認したい。まず適性評価について。


 大臣、重要な秘密を扱える人物か否かを判断するためにも適性評価が必要である。イエスかノーでお答えを。



 高市経済安全保障担当大臣 調査の目的は、重要な情報を漏らす恐れがあるかないかということだ。



 山本 すなわち重要な秘密を扱える人物か否か、漏らす人ではないことを確認していくためにも、この適性評価は非常に重要である、ということだと思う。


 内閣府(に聞く)。大臣、副大臣、政務官、いわゆる政務三役は適性評価を受けなくて良い、除外の対象である。イエスかノーで。



 彦谷内閣官房経済安全保障法制準備室次長 国務大臣、副大臣、政務官などについては、本法案11条1項において適性評価を受けることを要しないものとして規定されている。



 山本 もう一つ。重要経済安保情報をとり扱うことがないと確定している省庁はあるか?



 彦谷次長 「とり扱うことがない」と確定している行政機関はない。



 山本 すべての省庁が秘密を扱う恐れがあり、それに関係するものには民間も含め身体検査(スクリーニング)、いわゆる適性検査が必要になるが、ただし政治家は除外。これは大丈夫なのか? 漏らす、おしゃべり、その頂(いただき)に君臨するのは、役人や民間人ではなく、政治家ではないか。ここ数年間を遡って見ても、政務三役で問題があったケースを探すと、あまりにもありすぎて、調べているこちらが音(ね)を上げた。やべぇ奴らが粒ぞろいだ。



 たとえば経産省。小渕優子大臣。関連政治団体の不明朗な収支で辞任。ドリル、ハンマーで証拠を破壊、隠滅を図ろうとした本格的ハードコアな反社だ。適性検査ではなく逮捕が必要な案件だ。



 他にも、東京電力株を600株保有して利益相反と批判された宮澤洋一大臣。SMバーの料金を政治活動費で支出。人の趣味にとやかくいうつもりはまったくないが、これはまずいのではないか。内閣府、このようなケースで女王様相手に秘密保持を貫き通せると考えるか?



 飯田内閣府政策統括官 どのような形で定義されているかわからないのでお答えしかねる。



 山本 どういう定義もこういう定義もない。政治家、政務三役は適性評価なしというが、過去の政務三役を見たら、とてつもない粒ぞろいの方々が大勢いらっしゃる。その中には、政治活動費でSMバーに遊びに行っていた人もいる。SMバーと考えた場合には、女王様がいらっしゃって、女王様のいうことは絶対。女王様に馬乗りになられて秘密を漏らせといわれたら、秘密漏らしてしまうでしょ? ということだ。こういうケースでは秘密を貫き通せると考えるかと伺ったが、おそらくなかなか答えづらいということだと思う。女王様から厳しく要求されれば、情報を大量にお漏らし。その可能性は十分にある。だって女王様には逆らえないのだから。



 他にも、宮澤大臣が代表を務めていた政党支部が寄付を受けていた企業。その株式の過半数を所有するのが外国人であった問題も浮上。全額返金。女王様への忠誠は絶対、でも支払いは政治活動としてちゃっかり支出。それ以外も含めてカネに対する執着は最高レベルだ。これは適性検査必要なのではないか?



 他にも、中川俊直政務官。女性問題で辞任。基本的に不倫とか恋愛関係というのは直接国民には被害はない。究極的には個人的な問題であって、お互いの家庭を巻き込んでおおいに揉めていただければ結構なのだが、一つ問題がある。これはピロートークで情報漏洩というリスクがある。



 他にも、初入閣から40日余りで菅原一秀大臣が辞任。カニやメロンなどを有権者に配ったお中元・お歳暮おじさんだ。普通に有権者買収だ。



 山際大志郎大臣は、統一教会トップの韓鶴子さんと接触したことを「記憶がおぼつかない」と逃げまくったけれども事実上の更迭。



 裏金問題では、西村康稔大臣、そして副大臣が辞任。



 経産省のほんの一角を紹介しただけだが、これほどの豪華ラインナップだ。経産省の政務三役は本法案の適性評価の除外対象であるか?



 彦谷次長 対象外だ。



 山本 日本国を弱体化する目的で家族を破壊、カネと人生を奪い、自民党議員を中心に教団の駒にして永田町に入り込んだカルト統一教会。関連があった政務三役は、少なくとも第2次岸田改造内閣以降、1府13省庁に79人。



 還付金といい換えても無理。ただのネコババ、普通に泥棒だから。裏金に絡む政務三役は1府9省庁で12人。全省庁の政務三役は本法案の適性評価の除外対象か?



 彦谷次長 対象外だ。



 山本 一番やばい政治家という生き物を野放しにして、スクリーニングもなし。一体どんなレベルの秘密法を作ろうとしているのか。穴だらけではなく、穴そのもの。それが本法案だと、この一点だけ見てもわかる。そういう話だと思う。



 この件に関してはここまでだが、この先、本法案の審議は複数回に及ぶので、初回の今回は少し大きな視点からお話しさせていただきたい。



米国に忠実国内は衰退 日米資本家の合わせ技





年次改革要望書(2001年版)

 山本 大臣、政治とは、国民の利益を第一に考え、おこなわれるべきものと考えるか?



 高市大臣 国家国民の利益の最大化が使命だと思う。



 山本 私も同じ考えだ。日本政府には国民よりも優先しなければならない特別大きな三つのしがらみがある。経団連、米国などのグローバル企業、そして米軍だ。



 これら圧力団体は、年次改革要望書、アーミテージ・ナイレポート、経団連による提言などの形で日本政府にたびたび政策変更を迫る。



 日本政府は、見事忠実にその要望を実現。要望・提言といっても、断ることのできない事実上の命令だ。時間がかかったとしても必ず実現しているのだから。



 年次改革要望書とは、過去毎年アメリカが日本に突きつけた要望。1993年、クリントン―宮澤会談で決定。94年から自民党が下野する前年の2008年まで続いた。この要望が出されると、日本がアメリカに対して中間報告を提出。どの程度目標が達成されたかについて報告する。非常に厳しく植民地の仕事を進捗管理するシステムだ。



 たとえば1997年要望書では、日本の大規模店舗出店規制を批判。大店法の改正を求めた。それに対し、日本政府は2000年、大規模小売店舗立地法により、大型スーパーマーケットの出店規制を緩和。郊外型の巨大ショッピングセンターが急増。その後、全国の多くの商店街がシャッター通りに。皆さんのご地元もそうなっていないだろうか?



 2004年要望書では、商法の改定を要求。日本政府は2007年、会社法改正により、三角合併、外国企業が日本に子会社を作り、その子会社を媒介して日本企業を買収する方法が解禁。これによりシティグループが日興コーディアルグループを完全子会社化。



 年次改革要望書、経団連提言、アーミテージ・ナイレポートなど一見別々の主体に見えるこれら圧力団体たちは、共通する利害には力を合わせて目標を達成するために力を尽くす。



 たとえば当初13業務に限定されていた労働者派遣法。経団連の前身である日経連が1995年、「新時代の『日本的経営』」で非正規労働拡大への方針を示した後、1996年、アメリカの年次改革要望書では労働者派遣規制の緩和を求めた。その本文では、外国企業に労働力を提供できるよう派遣規制を緩和せよ、派遣業者への制限を撤廃せよと要求。



 1999年には派遣法改正で、対象業務を原則自由化。2003年改正では、製造業まで派遣解禁。その結果、雇用は流動化し、2008年には派遣労働者が200万人を突破した。
 その後、日本国内は非正規が増加し、格差も拡大。不安定労働が増えれば、賃金自体が上がらない【図①】。その構造を日米資本家の合わせ技で前に進めてきたともいえる。いまや国民の6・5人に1人が貧困。そんな日本に成り下がった。



 2004年の年次改革要望書では、郵政民営化を要求。日本政府は2005年に郵政民営化。一時、日本の国債発行額505兆円のうち33%にあたる日本郵政公社保有額166兆円が外資に握られる危機に。



 この米国資本のための年次改革要望書は、2008年に自民党が下野すると、形の上では終了。それにより資本家たちは日本政府への強烈な圧力ルートを一つ失ったのか? 否、別の形で日本政府に対する経済面、軍事面での要望は出され続け、確実に実行される。それがアーミテージ・ナイレポートだ。



憲法改正や武器輸出も 要求実現に動く政府



 山本 郵政民営化の実現が2005年。その5年前から年次改革要望書よりも先に、外国企業に市場を開放しろ、公共事業を減らせと圧力をかけてきたのが、アーミテージ・ナイレポートだ。



 ちなみにその後、公共事業が激減。この時期の前後10年を見れば、公共事業を含む公的固定資本形成(政府がおこなう社会資本整備などへの公共投資)が10年でほぼ半減している。21兆円の減少だ。



 建築・土木の分野は、皆さんご存じの通り、乗数効果がもっとも高い分野だ。つまり政府が支出したさい、社会にお金が回る効果がもっとも高い。この予算を10年で半減させれば、当然景気も悪くなり、不況になる。建設事業者は1999年には60万社あったが、2012年に約47万社に減少。13年間で13万社が潰れた。今や日本各地で地震や豪雨が起きても、対応できる地方の建設関係業者は激減している。生活復旧できずに被災者が苦しむ原因の一つを作り出したともいえる案件だ。



 公共事業を減らせといった内政干渉、ゴミのような提言で、日本の衰退のために積極的に提言するのもアーミテージ・ナイレポートの特徴だ。



 大臣、この方【図②】をご存じか?
 高市大臣 アーミテージ(元米国務副長官)さんだ。



 山本 彼がテレビ出演したさいの画面を資料にしたのだが、「憲法9条が非常に邪魔である」という趣旨の発言をされている。ここからもわかるように、超タカ派のグローバリスト的観点から日本に提言をされ続けている方だ。首相官邸にご挨拶に来られるほど日本の政治家たちとも近い。この方々が書いたアーミテージ・ナイレポートは、民間シンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)が発行主体だ。



 2000年の第1次レポートから、2007年に第2次、2012年に第3次、2018年に第4次、2020年に第5次、そして今年2024年の第6次レポートに至るまで、コンスタントに日本政府へ要求を突きつけている。もちろんこれらは時間をかけても確実に日本政府によって実行される。



 とくに第2次安倍政権以降のアーミテージ・ナイレポートに対する忠実な実行ぶりは目を見張るものがある。しかも経団連の提言と重なる、リンクさせているともいえる点に注目いただきたい【表参照=質問資料から本紙作成】。

2000年の第1次レポートでは、自衛隊の海外派遣拡大を強く求めている。その後、日本政府は2001年、米英のアフガニスタン攻撃でインド洋に初の戦時派遣。いわゆる「ショー・ザ・フラッグ」。2004年、人道支援・復興という体でイラクに初の戦地派遣。いわゆる「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」。着実にレポートの要求に応え続けている。



 当時、取材を受けた自民党政調幹部も「ここ数年の動きはアーミテージ・レポート通りになっている」と認めるほど。その後もPKO法改正で自衛隊の海外活動は着実に拡大している。



 第1次レポートから彼らがくり返し要求している項目は「武器輸出規制の緩和」だ。時期を同じくして日本の経団連もくり返し、しつこく武器輸出解禁を要求。日米安保フォーラム2002年の共同宣言で、「日本の武器輸出管理が厳しすぎる」と指摘。



 経団連提言(2004年)では、武器輸出3原則見直しを要望。2010年の提言でも再要望。「武器で商売させろ、輸出させろ」と。これらの日米資本家による提携により、武器輸出3原則の撤廃などがより着実に履行されてきた。しかも、この命令を受けて動くのは自民党だけではない。



 2011年12月、民主党政権での官房長官談話見直しから始まり、政権交代で(自民党に)バトンが渡り、安倍政権で徐々に解禁を実行。岸田政権で本格化する。



 民主や立憲を名乗る政党が、ここ数年のきな臭い法案に反対しない理由は、古巣からの流れに忠実なだけだ。まさに超党派による見事な連携プレーが武器輸出緩和だ。



 2000年から2012年まで3度のアーミテージ・ナイレポートでくり返しのべているのが、「集団的自衛権が行使できないのが日米同盟にとって障害だ」「安保理常任理事国入りをしたければ、フルスペックの自衛権を行使できるようになれ」という要求だ。



 一方、経団連も2005年以降、くり返し憲法改正と集団的自衛権を要求。たとえば中国がアメリカを攻撃した場合、日本は直接攻撃されていなくても中国を攻撃することが可能。ただし日本から直接攻撃を受けた国は日本から先制攻撃を受けたことになり、当然戦争に発展するリスクは増大する。これを可能にするためには憲法改正がもちろん必要になる。



 だからこそ経団連は順序を追って要求していたが、自民党は解釈改憲という詐欺的手法での集団的自衛権の容認を数の力で勝ちとった。



 なぜ経済団体が憲法改正や集団的自衛権を求めるのか? 軍事がビジネスで、それを拡大するためだ。武器を作る、売る、使う。このサイクルを完成させるためだ。



 これは軍事が基幹産業で戦争をくり返すアメリカやグローバル企業とも利害が一致している。他国と共同で武器を開発し、それを日本政府にも買わせ、外国にも売る。俺たちにも軍事でもうけさせろという経団連の要求。そして、共同開発での日本側の出資も増やして米国の多方面における戦争展開、戦争ビジネスに必須な武器製造・供給の強化を、ライセンスを売りつけ、日本国内を工場化する。米中の直接対峙を避けるためにも最前線の防波堤、捨て石として日本を機能させようと考え、軍事ビジネスの欲望をたぎらせる、経団連と軍産複合体の要望や提言での見事な連係プレーには本当に脱帽する。



 緊張が高まれば株価が上がり、戦争が始まればさらに株価が上がる。そして武器も売れる。



 そして日本の軍事費を増やさせるという目標。



 2007年の第2次レポートでは、「防衛費が少なすぎる」と注文をつけ、18年の第4次レポートでは「GDP比1%をこえろ」と具体的に指示。安倍首相は2017年に「GDP1%以内に(防衛費を)抑える考えはない」と宣言。岸田首相は2022年、GDP2%にする方針を明言した。



 武器の共同開発も、2018年第4次、2020年第5次レポートでくり返し要求され、売国優等生・岸田総理は満額回答。先日の日米首脳会談で、防衛装備品の共同開発・生産・維持整備に関する「日米防衛産業協力・取得・維持整備定期協議」(DICAS)を創設。ミサイル開発などに向けて議論する方針を示した。



 これまでのアーミテージ・ナイレポートの実現状況を見ると、アメリカや米軍需産業にとって重要な政策はくり返し要求され、必ず実現していることがわかる。



外交強化こそ安全保障 アジアと敵対ではなく



 山本 本法案の話に戻る。大臣、これはアメリカからの指示ではないか? という意見が聞かれることもあるが、そうなのか? 一言で。



 高市大臣 そうではない。日本国のための日本国による情報保全制度だ。



 山本 くり返し求められてきた重要項目がもう一つある。2018年の第4次レポートでは「日本は早急にファイブアイズへの参加が実現するために必要なセキュリティ保護策を採用しなければならない」。2020年、第5次レポートでは「合衆国と日本はシックスアイズ・ネットワークの形成に向けて真剣に努力しなければならない」。



 アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド5カ国による機密情報共有の枠組み「ファイブアイズ」に日本も参加させてやるから重要情報保護の制度をしっかり作れと、当然アメリカ様からの命令だ。日本政府岸田も応じないわけにはいかないと、自民党は昨年3月、ファイブアイズの情報保全制度を意識したセキュリティ・クリアランス法案を提言。そして本国会で法案提出し、今審議をしているところだ。



 「日本のために必要だ」ということなのだが、その必要な理由が何なのかということによって見解が変わってくるのではないかと思う。これまで散々日本を草刈り場として差し出してきた。国民を貧困化させたうえに最後の草刈り場としてまた差し出そうとしている姿に多くの国会議員の方々はもちろん気づいていらっしゃるだろう。
この風刺画【図③】は、日露戦争時の日英同盟を皮肉ったものだ。イギリス紳士が子どもの日本に対して「ロシアのコサックに独り占めされる前に火中の栗を取れ」とけしかけている。イギリスはアジアで勢力を伸ばすロシアと正面対決せずに日本とロシアを戦わせて、後はいいとこ取りをするという算段なのだ。



 けしかける紳士をアメリカに、火鉢の前にいる者を中国に置き換えれば、現在の東アジアに重なる。もちろん中国だけでなくロシアも入っているのかもしれない。



 衆議院の議論などを見ていても、ファイブアイズだの、シックスアイズだのに期待している人たちが結構いらっしゃったので私は恐怖したのだが、ある意味での名誉白人になりたい、肩を並べたい願望からウクライナまで爪を伸ばして、西側諸国という高級クラブの会員になりたい願望から事実上オワコンの国々のパシリとして、どう日本を輝かせるつもりなのか? と思う。どこまで行っても植民地は植民地だ。アメリカが求めているのはそういう日本だ。もちろん甘い言葉でさまざまなことはいわれるだろう。「国連常任理事国入りしたければあれをやれ」とか。アーミテージ・ナイレポートにもあるように、ファイブアイズ、シックスアイズだといわれるが、本気で向こうはそんなことを考えているのか? ということだ。



 ここ最近悪化したアジア情勢を力を合わせて乗り切るという“おとぎ話”が通用するのは、ほとんどの人たちが日本語しかできないという、ある意味で情報から遮断された日本国民だけではないか。アメリカという名の帝国、グローバリストの親玉国家は、なんとなくや思いつきで国は動かさない。



 戦後アメリカは一貫して日本の軍事力を指揮下に置いてアメリカの世界戦略に利用することを考えてきた。過去の公文書には「世界戦争では日本の軍事力がアメリカの勝利には必要」とある。アメリカは自国の覇権、帝国の拡大のために手段を選ばない。ずっと戦争をし続けているのだから。



 過去の密約で有事に自衛隊が米軍の指揮下に入ることは決まっている。「そうじゃない」と国会でも何度も言い訳をしているが、もう決まっている。ごまかすのはやめにしてほしい。



 米国務省が公開している公文書。1954年2月8日、アリソン大使と吉田茂首相の会談報告では、「有事のさいに日本における軍事力を使用し、最高司令官は米国の大将(ジェネラル)となることについて日本政府の意図を再確認した。吉田は、現時点ではこのことは機密扱いとするが、この点について確約することに躊躇はないと説明した」とある。この会談後、半年もたたずに自衛隊を創設。協議するという建前だけで、自衛隊を米国の支配下に置くこの仕組みは、岸信介首相が「新安保」へ引き継いだ。中曽根いわく「不沈空母」。時は流れて、岸田いわく「米国は一人じゃない」「米国とともに」。恥ずかしげもなく宗主国に宣言しているのだ。



 ウクライナでの戦争も、パレスチナでの虐殺も、本気になればいつでも休戦にできる、戦争を止めることができる力をアメリカは持っているはずだ。でも本気を出さない。自国民だけは死なせずに武器だけを提供し続ける。これは「オフショア・バランシング」ではないか。戦争特需は維持できるという話だ。だから終わらせない。当然、アメリカの23年度武器輸出額は過去最高だ。



 長い歴史のなかでやりとりされてきた大きな流れのなかで、このような法案が出されていることも知ってか知らずか、賛成してしまっている、事実上国内の武器製造施設の国有化を目指し、「支援名目」とうそぶき、他国にも武器を供給する――そんな法案にも野党第一党は賛成しているが、本法案に関しては参議院野党第一党の先生方は「違う」と見せていただきたい。この流れに乗らないでいただきたい。止めていただきたい。一旦立ち止まろう。話はそこからだ。



 この国の自主独立ということは、非常に重要であると私は思っている。残念ながら今の日本は植民地。私はそう考えている。大臣はこの国が植民地だと思われるか?



 高市大臣 主権国家だ。



 山本 もちろん主権国家という体をしている。では、どうして北方領土が返ってこない? 北方領土を返した後、そこに米軍が置かれることを懸念したロシア側が返さない。それに対して、米軍に基地を置かせない、訓練区域を広げさせないという約束を米軍にさせろというが、日本側はそれはできないといった。だから返ってこない。自分の国の国土に対して、そんなことさえもアメリカにいえないような国が主権国家であるわけがない。植民地だ。



 なぜ米国内で許されていないような訓練が日本国内で可能になるのか? 超低空飛行などさまざまなことがだ。それは植民地だからだ。この状況において、オワコンの西側諸国と一緒にこの先心中するみたいな考え方はやめていただきたい。



 もちろん外交だからバランスをとる必要があることはわかる。西側諸国とも仲良くすればいいし、それ以外の国々、なによりもアジアと力を合わせていかなければ話にならない。どっちかに賭ける話ではない。それを今、西側諸国、NATO諸国、G7に集中的に力を入れていくというのは、この国の安全保障を脅かすものになると思う。



 この経済安全保障という部分において、このような制度を作っていくことは、何かしら脅威となる国々があらわれたときのために、日本が調達しているさまざまな重要物資について、日本の基盤を守ることも大事だし、対立する国からの供給が途絶えたら危険だから調達先を複数に広げていくという考え方は当然だとは思う。でも、やはり一番は今までやっていない外交を厚くしていくしかない。アジア外交を。



 今現在、ファイブアイズ、G7というところとより強く寄り添っていくという形になっているが、踏み込んだ話ではあるが、そこに仮想敵国みたいなものがあるのか?何かしら私たちの経済基盤を揺るがす者、侵害する者があるという前提でこういう法案が作られているのだと思うが。



 高市大臣 日本の安全保障は、特定の国を念頭に置いたものではないということになっている。



 山本 建前上はそうだと思う。だが、間違いなくアメリカによる中国に対する締め付けの一環でさまざまなことが展開されている。対中国ということに関して新たな法律、仕組みが敷かれていっている状況だろうと思う。



 でも一つ皆さんに考えていただきたいのは、敵国条項(第二次世界大戦中に連合国の敵国であった国に対する措置を規定した国連憲章の文言)だ。敵国条項は死文化などしていない。だから削除しなければいけないということになっている。



 最後に大臣、所管とは違うと思うが、敵国条項が削除されない限りは、私はアジアでの平和、経済は守れないと思う。これを削除させることは必要だと思うか?



 高市大臣 所管外で、お答えするわけにはいかない。



 山本 経済は外交とも繋がっている問題だ。それを考えるならば、今の問題に関してもお答えいただきたい。これは次回に繋ぎたい。

誰のための機密保護強化か? セキュリティ・クリアランス法めぐり山本太郎が参院内閣委で指摘 対中包囲に日本使う米国

政治経済2024年4月24日