旧統一教会問題 被害者が「早く解散命令請求を」と涙の訴え 沈滞ムード打破へ野党ヒアリング2023年7月12日 12時00分旧統一教会への解散命令請求の動きに停滞感 与党側に「終わらせた方がいい」の声も 質問権5回の後は?2023年5月10日 12時00分旧統一教会への調査着手から5カ月 文科相「被害者聴取に時間」2023年4月25日 18時39分PDF魚拓


 立憲民主党などの野党は11日、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題を巡るヒアリングを国会内で開いた。1年前の安倍晋三元首相銃撃事件を契機に、高額献金や宗教2世の問題、自民党との深い関係が注目された旧統一教会。多くの被害者が切望する解散命令請求はいまだに出される気配がない。沈滞ムードが漂う中、被害者や識者が現状を打破しようと熱弁を振るった。(西田直晃)

◆「人生そのものを奪ってきた」

立憲民主党などが開いたヒアリングで旧統一教会による被害や早期の解散命令請求の要望などを話す橋田達夫さん

 「旧統一教会は財産や大切なもの、人生そのものを奪ってきた。詐欺師以上の詐欺師だ。何とか解散命令請求を出してほしい」

 ヒアリングの冒頭、高知県から訪れた橋田達夫さん(65)は身ぶり手ぶりを交えながら声を張り上げた。

 離婚した元妻が信者で、つぼや印鑑などの購入や献金による被害額は1億円を超えた。この日は、約4分の発言で「解散命令請求」に5回も言及。家庭不和が遠因となり、自死した長男に話が及ぶと、言葉を詰まらせて涙を流した。

 一方、解散命令請求の可否を判断する文化庁の柳沢好治大臣官房総務調整官は「宗教法人の解散命令については、法律上の要件が厳格に定められているため、十分な実態把握と具体的な証拠が必要になる」との説明にとどまった。同庁は昨年11月以降、教団への質問権を6回にわたり行使してきたが、この日も従来のヒアリングと代わり映えしない回答に終始した。実名と顔を出す橋田さんには、これまでに殺害を示唆する匿名の脅迫電話が4回あったといい、「解散を求めるのは欲ではない。当たり前のことだ」と訴えた。

◆教団による資産隠しを警戒

 ヒアリングには、野党議員6人のほか、全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の阿部克臣弁護士、ジャーナリストの鈴木エイト氏も出席。文化庁側が一般論を繰り返す中、解散命令請求の意義を強調した。

 阿部氏は「解散命令請求が出され、裁判所が確定させれば、清算手続きに移行する。その時点で教団に財産が残っているかどうか、過去の被害救済には非常に大事だ」と指摘した。

 解散命令が確定すると、裁判所が選んだ第三者の弁護士が教団に代わり財産を管理する。「教団の被害者が裁判所に債権者として認められれば、配当金、つまり賠償金を受け取れることになる。解散命令は未来の被害をなくすだけにとどまらない」と阿部氏。請求と同時に財産保全の申し立ても必要だとし、教団が全国の不動産の名義を関連団体や個人に移したりしないように、財産保全のための特措法の制定を求めた。

 教団の資産隠しを巡っては、鈴木氏も「教団は送金中止を表明しているが、信者が渡韓し、送金記録を残さない形で秘密裏に現金を運んでいるケースもある」と警戒の必要性を語った。

◆被害相談や訴訟件数に開き

 さらに、阿部氏は教団がホームページで公表している被害相談と訴訟の件数に誤りがあるとも指摘。相談件数は全国弁連や日弁連などが把握する数字とかなりの開きがあり、2016年以降は「ゼロ」とされている高額献金を巡る裁判も実際には続いているとして、「非常に欺瞞(ぎまん)的だ」とあらためて批判した。

 一方、教団トップの韓鶴子(ハンハクチャ)総裁が6月末、教団内部の集会で「日本は戦犯国家で賠償しないといけない」「韓国のおかげで日本が生き返った」などと教団信者による韓国本部への送金を正当化し、「日本の政治は滅ぶしかない」「政治家たちと岸田(文雄首相)に教育を受けさせなさい」などと語ったとする報道について、出席議員からは「悪質性がある」と指摘した。

 だが、文化庁側は「発言1つが、教団の活動の事実関係を明らかにする上で証拠として取り上げるべきなのか、その点が問題になるでしょうか」などとあいまいな回答に終始した。

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旧統一教会問題 被害者が「早く解散命令請求を」と涙の訴え 沈滞ムード打破へ野党ヒアリング

2023年7月12日 12時00分


世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への解散命令請求に向けた動きに停滞感が出ている。文部科学省文化庁が半年間にわたり5回質問権を行使したが、教団側が封書1通で回答するなど、実のある調査になっているか疑問も。一方で、教団は今月、本拠地のある韓国と日本で合同結婚式を開催するなど、着々と生き残り策を展開。被害に遭った宗教2世らからは「うやむやのまま終わらせないで」と悲痛な声が上がっている。(大杉はるか、中山岳)

◆全国弁連側は理解「時間かかるもの」

 「被害の事案をよく知る全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)から資料や情報を提供いただいて分析を進めている。多数いる被害者は気持ちが整理できず、丁寧に向き合う必要がある」。5回目の質問権行使に対する回答期限となった先月25日、永岡桂子文科相は、手続きが長期化している背景を説明した。

 質問権は、著しく公共の福祉を害すると認められる場合などに、解散命令請求を視野に、文科省が宗教法人に報告を求めることができる法律上の権利。岸田文雄首相が昨年10月17日、行使方針を明らかにした。首相はさらにその2日後、解散命令請求が認められる法令違反の要件として、「行為の組織性、悪質性、継続性が明らかで、宗教法人法の要件に該当する場合、民法の不法行為は入り得る」と踏み込んだ。

5回目の質問権行使について宗教法人審議会で話す永岡文科相=3月27日、文科省で

 これを受け、文科省は同11月22日、調査文書を郵送する形で初めて質問権を行使。以降、今年3月28日までに計5回行使され、組織運営や財産のほか、韓国への送金や信者による献金、各地の教会の活動実態などについて報告を求めた。回答の中身は明らかになっていないが、分量は、当初は段ボール10箱前後だったが、直近2回は封筒1通分。十分な回答が得られているのか疑問だ。

 全国弁連の阿部克臣弁護士は、手続きの長期化に関し「もともと時間がかかるものだ。裁判所に対し統一教会による被害が組織的、継続的で悪質だと立証する必要がある。過去30〜40年にわたる被害の規模は甚大で、それだけ被害の積み上げ作業も膨大になる」と理解を示す。「統一教会が解散命令請求につながる資料を出すはずはないが、教会側の反論を先読みできるメリットはある」と阿部氏。文化庁に対しては「がんばってやっていただいている」とエールを送る。

◆下手に命令請求すれば…国家賠償請求?

 消費者庁の霊感商法対策検討会の委員で弁護士の菅野志桜里氏は、文化庁の体制について「法務省や金融庁からも人員が増強され、鋭意調査を進めていると聞いている」と語る。「今後も岸田氏の覚悟、判断がぶれないかというところは問われる。解散命令請求をする行政と、実際に命令する裁判所の役割は異なる。十全な証拠を集めた上で粛々と請求すべきだ」と話す。

 ただ、はた目には停滞ムードが漂うのは間違いない。そもそも当初から自公政権与党内には請求に慎重な意見が多く、岸田首相の「本気度」も疑われていた。

 ある与党関係者は「5回も質問権行使を繰り返しており、証拠をつかめていないのでは」と見る。「(質問権行使に踏み切った)岸田首相は世論に押されたのだろう」と推測し、「下手に命令請求すれば、教団側から国家賠償請求されかねない。多少批判があっても証拠が集まらず請求できなかった、で終わらせた方がいい」と慎重だ。自民党の閣僚経験者は「質問権行使は単なる時間稼ぎではない。命令請求する気がなければやらないだろう」と語る。「ただ、請求するにしてもしないにしても、国民に根拠を説明できないと、不信感をもたれる可能性はある」と指摘した。

◆7日、東京での合同結婚式に200人

 こうした停滞ムードを待っていたかのように最近、生き残りをかけた旧統一教会の動きが目立つ。

 教団本部のある韓国と、東京で7日、信者同士の合同結婚式が開かれた。信者が人生を教団にささげる儀式の一つとされ、献金集めの場ともされる。参加者は韓国で56カ国から約2600人、東京で約200人に上った。

 教団が昨春、東京都多摩市で約6300平方メートルの土地を購入していたことも先月に判明。隣接地にある国士舘大や、同市の阿部裕行市長は懸念する談話を相次いで発表した。市民有志は教団進出に反対する連絡会を設けるなど、波紋が広がっている。

旧統一教会が取得した土地=東京都多摩市で

 教団は、解散命令請求に対して警戒を強め、「徹底抗戦」の構えも見せる。田中富広会長は共同通信のインタビューで、もし請求があれば裁判で争う方針を明らかにした。

 こうした教団側の姿勢を、ジャーナリストの鈴木エイト氏は「解散命令が出て宗教法人の資格を失えば、固定資産税の非課税を含めた税制上の優遇はなくなり、教団にとって経済的打撃も大きい。訴訟をちらつかせて徹底的に争う姿勢を見せるのは、生き残るためになりふりを構っていられないことの裏返しだろう」とみる。

 最近の教団を巡っては、気になる動きもあるという。「現役信者から、国会議員との関係についての情報が小出しに漏れている。国が解散命令請求をすれば関係を暴露すると示唆しているようで、国会議員たちへのけん制とも言える」

 一方、先月の統一地方選では世論の関心低下をうかがわせる結果が出た。共同通信の調べでは、教団側との接点を認めた地方議員で41道府県議選に立候補した265人のうち、無投票を含めて9割にあたる240人が当選。鈴木氏は「地方選では当落に影響するレベルまで問題視された候補が少なかったということだろう。自民党や岸田政権はほっとしているかもしれないが、教団への調査は選挙結果と一線を画して進めるべきだ」とくぎを刺す。

◆「政治家は手をつけたがらないが...」

 親が信者の宗教2世で関東に暮らす30代の元信者「もるすこちゃん」は、「9割が当選したという結果は、とても残念だ」と声を落とす。

 ユーチューブで2世のありのままを発信しつつ、統一地方選前に教団と地方議員らとの関係性をデータベース化して公開した。「一部の候補は得票数を減らすなど、風向きが変わりつつあることは感じられた。ただ政治家と教団とのつながりに関する正しい情報は、まだまだ有権者に伝わっていない」。国の調査が長引いていることも気になるとし、「お金の流れを明らかにした上で、早く(解散命令請求を)決断してほしい」と求める。

 解散命令請求が見送られれば、「宗教は何ら規制しなくていい」という前例にならないか。

 宗教学者の島薗進氏は「質問権行使はそもそも限定的な調査手法だ。万が一、解散命令請求できないということになれば、その限界とも言えるだろう」と述べる。1月に施行された不当寄付勧誘防止法(被害者救済法)も「応急処置的」と指摘。新たな被害者を生まないための制度作りは道半ばとし、こう強調する。

 「政治家は手をつけたがらないが、大きな勢力を持つ宗教団体が長期にわたって多大な人権侵害を続けたのはなぜかを調査し、宗教法人として認証できないのはどのようなケースかを明確にすることが必要だ。認証を取り消した団体に対しては、解散後の見守りなども考える必要がある」

◆デスクメモ

 昨秋の特報面では、質問権行使が決まる直前、「支持率対策」「本当に請求につながると思っている与党議員は誰もいない」という与党内の声を伝えた。世論が沸騰していたあのときでさえこの姿勢、いわんや半年後のいまは想像に難くない。だが、不問に付すことは世間が許さない。(歩)

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旧統一教会への解散命令請求の動きに停滞感 与党側に「終わらせた方がいい」の声も 質問権5回の後は?

2023年5月10日 12時00分


永岡桂子文部科学相は25日の閣議後会見で、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対する調査開始から5カ月が経過したことに「(旧統一教会の)被害者から、心情に配慮しながら情報を聞いている。こうした対応を着実に進めることで時間がかかっている」と述べ、解散命令請求の可否判断に、さらに時間を要するとの認識を示した。

 文科省は旧統一教会に宗教法人法に基づく質問権を計5回行使した。永岡氏は会見で、旧統一教会の被害者や全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)からも情報提供を受けていると説明。「被害者には長期にわたり被害を受けている場合や、気持ちが整理できずに丁寧に向き合う必要があるなど、さまざまな事情がある方が多い」と話した。

 また、文化庁は同日、旧統一教会から、5回目の質問権の回答が午前9時半ごろに届いたと発表した。封筒郵便物1通だという。

 今回は、(1)組織運営(2)教会の管理運営(3)信者の集まり「信徒会」の活動(4)予算・決算・財産(5)献金(6)高額献金を巡って被害者側と示談した案件—に関連する計203項目について回答を求めた。示談以外は、4回目の質問と同じテーマを詳細に質問した。回答の内容は明らかにしていない。

 永岡氏は、6回目の質問権を行使するかどうかについて明言しなかった。 (榎本哲也)

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2023年4月25日 18時39分