2018.12.23#避妊#ヘルス「アフターピルが市販されると女性の性が乱れる」という大嘘クリスマスに無料配布する国もある著者及川 夕子PDF魚拓





「日本は性教育が遅れているからダメ」

現在、アフターピルのOTC化(市販薬化)をめぐって、様々な議論が起きている。

アフターピルとは、妊娠を回避するために性交後に女性が服用するピルのこと。避妊を失敗したときや男性が避妊に応じてくれない場合、性暴力被害にあった場合などに、女性が自らの体を守る手段のひとつだ。

必要としている人は確実にいて、OTC化を望む声は多い。しかし、2017年の厚生労働省の検討委員会で、アフターピルのOTC化が見送られた。日本産科婦人科学会や日本産婦人科医会から選出された委員たちから、「日本は性教育が遅れているため、安易な使用が広がる恐れがある」などの反対意見が出されたためだ。果たして、アフターピルが薬局などで入手できるようになった場合、本当に性が乱れる現象が起きるのだろうか。

クリスマスに忘年会と年末年始は、イベントも多くアフターピルの需要が高まる時期でもある。が、扱っている病院が連休や正月休みで閉まっていて、ほしいのに入手できないという声もある。

必要性をもっとも感じる今だからこそ、アフターピルのOTC化で救われる人たちのこと、逆に反対している人たちは誰なのかということを。そして、アフターピルを“安全に正しく”手に入れる方法についても、知っておくべきではないだろうか。

気をつけても“完璧な避妊”は不可能

18年11月、16歳少女が千葉県市原市の高校で出産、男児が死亡するという痛ましい事件があった。16歳の少女は親元に同居しているが、亡くなった男児を抱えて途方に暮れたように警察に出頭したという。もし「正しい避妊法」を学んでいれば、避けることができる悲劇だったのではないだろうか。

16歳の少女のケースは、決して特別な事例ではない。ツイッターでは下記のような内容のつぶやきも見られた。

・「避妊に失敗して、アフターピルをもらえる病院を調べたのも私、薬を飲んで気分が悪くなったのも、次の生理が来るのか心配したのも私。全額彼氏に負担してもらってもよかった」

・「アフターピルを受け取るため、診察を受けたいのに、仕事で3日以内に行けない。日中の病院受診は負担が大きい」

・「出会い系サイトで出会った男性と性行為をし、コンドームをつけてもらえなかった。明日アフターピルをもらいに病院行くけど、間に合うのか……」

など、女性たちのやるせない思いが綴られている(一部抜粋)。

「避妊したつもりが妊娠していた」ということは、実は日常的に起きている。安全日だからと膣外射精で済ませる、挿入間際にコンドームつけるなどは誤った避妊法だし、酔った勢いで性交渉してしまったなどの失敗は起こり得る。さらに、男性側の避妊拒否や性暴力の被害に遭い、望まない妊娠をしている女性も存在する。本来、妊娠や避妊は男女合意のもとでなされるべきで、男性の避妊拒否は、DVに当たり決して許されないことも付け加えておきたい。

ともかく、困ったときのプランBとして、知っておきたいのが、アフターピルという緊急避妊法なのだ。
欧米に大きく遅れるアフターピルの普及

アフターピルが日本で認可されたのは2011年と、まだ最近のことだ。日本では、「ノルレボ」という薬が認可されていて、性交渉後72時間に服用することで妊娠の可能性を下げることができるとされている(避妊効果は100%ではない)。ホルモン剤の一種で、卵子の排出を止める、子宮内膜に受精卵が根付く(着床)のを止めるなどの作用がある。



日本で始めて認可された緊急避妊薬の『ノルレボ錠1.5㎎』は、2016年4月にあすか製薬から発売になっている。

避妊の効果を得るには、早く服用するほどいい。例えば、金曜の夜にセックスした場合、ノルレボは月曜夜までに服用しなければならない。時間との戦いなのに、日本では医師の処方が必要であり、薬へのアクセスが非常に困難になっている。

地方などで、産婦人科が少ない、土日に病院が空いていないという場合、「どうすりゃいいの!」となるのは当然で、こうした不便さを解消するため「OTC化が必要」という議論が起きているのだ。

欧米では緊急避妊薬が、OTC薬として薬局で広く販売されている。英国では、クリスマスにコンドームと緊急避妊薬が無料で配られることがあるそうだし、アメリカのある大学では大学の自動販売機で購入できるそうだ。どの国もアフターピルへのアクセスを向上させ、望まない妊娠や中絶を減らすことが主な目的だ。このような状況を見ると、なぜ日本はこんなにも遅れているのかと疑問符がつく。

今回、OTC化が見送られた理由として「経口避妊薬に対する知識や性教育が不足している」「薬局で薬剤師がきちんと説明できるかどうか困難」などの意見が出されたというが、薬剤師からは「勉強会などをきちんと行い、役割を果たすことを望んでいる薬剤師もいるはずだ」という声も上がっている。

オンライン処方は女性たちの駆け込み寺

18年9月1日、久住英二医師が理事長を務めるナビタスクリニック新宿(医療法人社団・鉄医会)は、アフターピルをオンライン診療のみで処方する窓口を開設した。

「アンメット・メディカルニーズ(満たされていない医療)を提供したいと考え、日本では、入手のハードルが高いアフターピルのオンライン処方がそのひとつと考えた」と久住医師。アフターピルは初診は対面診療が原則であるため、厚生労働省は不適切との立場だが、現状、特にペナルティなどはないという。

「国内で認可されているノルレボは、売上ベースで年間11万個売られている。対して、日本国内の人工中絶は年間におよそ16万8千件平成28年度・厚生労働省)、1日にするとなんと国内の中絶数は460件にものぼります。アフターピルの処方数よりも中絶件数が多いというのは、どうみても不自然。緊急避妊薬にリーチできない人が、いかに多いかをあらわしていると思います」

ちなみに、日本人の三大死因のひとつである脳血管疾患の死亡者数は年間約11万人。それよりも、日本では中絶件数の方が圧倒的に多いのだ。

久住医師によると、アフターピルのオンライン診療を開設後、全国から1日数件の問い合わせがあり、連休明けなどは1日5、6人にアフターピルを処方することもある。「やはりニーズはあったと実感している」という。

オンライン処方では、薬を宅配便で届ける必要があるため、同クリニックでは、国内未承認だが、性交後120時間(丸5日間)以内の服用で効果がある「ella(エラ)」というアフターピルを輸入し、処方している。



日本ではまだ未承認だが、性交後120時間以内服用まで対応できる『ella』。海外では人気が高い。(Photo by Spiegl/ullstein bild via Getty Images)

「未承認薬といっても、欧米などでは、ellaは薬局で入手できる薬。世界保健機関(WHO)も、緊急避妊ピルを服用できない医学上の病態はなく、服用できない年齢もないとしています。副作用は頭痛が18%、胃の痛みが12%、吐き気が12%などと報告されていますが、いずれも一過性のもの。むしろ、望まない妊娠をする体や気持ちへのリスクの大きさと比べれば、副作用の相対的なリスクは非常に小さい。必要な情報はオンラインでのやりとりで十分説明でき、問題ないと判断した」という。
「アフターピルで性が乱れる」はありえない!

診療の際は「アフターピル服用後に月経がなかったらどうするかということはもちろんですが、コンドームが外れたケースでは性感染症をもらっている可能性があることも伝え、検査を受けることを勧めます。

また、アフターピルを毎回使うよりも、避妊のため低用量ピルを飲んでおいたら? と今後につなげることも大事。さらに、子宮頚がんの検査を受けているか、HPVワクチンは打っているかなども同時に伝えるようにしています」と久住医師。こうした取り組みは、ほかの医師も行ってほしいと思うし、できるのではないか。

アフターピルが入手しやすくなると性が乱れるのでは? と懸念する声もある。が、「同じ患者が何度もアフターピルを求めるケースは、まずない」とのこと。

「もしあるとすれば、性交渉目的よりも、家庭での避妊拒否のDVを誰にも相談できないでいるケースや転売目的などが考えられると思います。その場合は、見過ごさずに、何らかの対応が必要だと考えています」(久住氏)

実際、どんな女性がアフターピルの処方を求めて受診に来ているのだろうか。久住医師が教えてくれた事例は下記のようなものだ。

・避妊に失敗した高校生が、友人に付き添われ受診

・夫が避妊に応じない。経済的にこれ以上の出産は難しく、受診

・会社員の女性。休日に避妊を失敗したが、仕事が忙しく平日に受診できないため、オンライン処方を利用

・地方の女性。産婦人科を受診するだけで「妊娠した」と噂が立つので困ると、オンライ処方を利用。薬は自宅には送らず、郵便局留めで送ってほしいと依頼

通常は産婦人科を受診し、アフターピルを処方してもらうことが多いが、「薬局に行ったら薬がなく取り寄せと言われた(アフターピルの効果を発揮する期間が過ぎてしまい、意味がない)」、「結婚して、子供を産みなさいと、医師に説教された」など、不快な思いをするケースも少なくないそうだ。オンライン処方やOTC化が進めば、忙しさや恥ずかしさ、気まずさなどから受診のタイミングを逃してしまうなんてことはなくなる。救われる人は増えるはずだ。

SNSで取引される怪しいアフターピル

現状、アフターピルを休日でも処方してくれる病院はいくつかあるが、都心に集中している。困ったときは、オンライン処方をしてくれる病院をインターネットで探すという手がある。ただ、医療機関が見つからない場合、SNSなどで「アフターピル譲ります」と呼びかけるアカウントに手を出してしまう人も……。

しかし、これは非常に危険だ。久住医師は「医療機関でないものの中には、違法に輸入された薬も数多くあり効果は不明であり、体に有害な成分が入っている可能性も。薬は味や匂いで真贋の見分けがつかず、サプライチェーンを信頼するしかない。身元の分からない人から薬を買うなど、危険としか言いようがない。アフターピルはちゃんとした薬を飲んでも効果が100%でないから、効かず妊娠してしまっても、ニセ薬だったのか分からない。決して手を出さないように」と呼びかけている。
泣き寝入りする社会を終わらせる

こうした残念な状況でも、性暴力の被害者を支援する団体や生の教育を推進する団体などは、国や社会に対してアフターピルOTC化の働きかけを諦めていない。

参議院厚生労働委員会で、厚生労働大臣がアフターピルのOTC化を再度議論する見方を示す答弁をしたとのニュースもあり(RISFAX2018年11月26日)、今後議論が再燃する可能性もある。

今、私たちにできることは、まず避妊の正しい知識を得ることだ。避妊の責任は男女両方にあり、正しい避妊法で行わないと妊娠の可能性がある。年末年始や長期連休などは、避妊の失敗からアフターピルの需要が増えると聞く。

現状日本では、望まない妊娠を避ける方法は限られているため、今できる最良の方法を選ぶしかない。久住医師からは次のようなアドバイスを受けた。

・感染症予防と避妊対策として男性はコンドームをつけること

コンドーム使用の失敗は意外に多い。付け方については、メーカーのHPやピルコンなどのNPO団体が情報提供をしているので参考にしてほしい。

・女性の避妊法としては、アフターピルよりもまずは低用量ピルを

定期的にセックスするパートナーがいる場合には、低用量ピルを使うといい。ただし、ピルでは性感染症は防げない。性感染症はコンドームで予防すべき。

・ネットで不法に売買されている低用量ピル、アフターピルは買わない

https://gendai.media/articles/-/59092?media=frau
2018.12.23

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「アフターピルが市販されると女性の性が乱れる」という大嘘

クリスマスに無料配布する国もある