ウクライナ侵攻直後からプーチン氏を批判、小原ブラスさん「黙ってる選択肢なかった」.ロシア出身の小原ブラス『戦争使ってビジネスするな』批判に困惑「ロシアやプーチン批判をやめるべきだということ?」2022年3月14日 15時04分.ロシア生まれの小原ブラスが明かした「憎しみの連鎖が怖い」等在日ロシア人の反戦の記事PDF魚拓
ブラス「ここ2年くらいは戦争があったから、6歳から日本にいて、外国人が見る日本がわからず外国人に聞きに行かなあかんレベルやったのに、いきなりロシアのことを聞かれまくるという立場になりました。とある番組の取材を受けた時に『ザポリージャ原発は今後どうなりますか?』って聞かれて、知るわけねーだろって思いながらも、それを本音で喋っちゃうと叩かれるし、何も話したくないって言うと『じゃあプーチンを支持してるのか?』っていう話になってくるから、何も言わないという選択肢もなく、でも分からないことについて何か喋らなくてはいけない。しかも間違ったことを言ってはいけないから、みんなが望むことを何となく見つけて喋らなきゃいけないっていうのが、ここ2年でしたね。正直僕、去年くらいからだいぶ疲れて今年からはガラッと自分の中の色んなことを変えて、炎上してもいいから自分の思うことだけをいっぱい話そうって思っているんですよ」
小島慶子「日本のように外国の方が社会の大部分を占めるわけではないところでは、ロシアの人に会ったら、その人が全ロシア人代表。アメリカの人と知り合ったらアメリカ人ってああいう感じってなっちゃいがちじゃないですか。まして戦争になると、戦争を行っているのは、その国の指導者だったり、軍部だったり、一部の武装組織なのに、その国の出身者は全員その国の指導者と同じ考えみたいに思われて、個人が見えなくなっちゃうじゃない。今、日本で『ロシア人です』って言うと、“今戦争やってるあのロシアの”っていうふうに全員同じように見てしまう人もいると思うんですよね」
ブラス「でも、その意見に僕の立場で言うと、実際に命がなくなっているウクライナの人が聞いたらどう思うんだっていうことになるんで、僕がそう思っても言える立場ではないんですよ。何を言っても批判はくるっていう状態の中で人を傷つけないように頑張ってきたつもりです。でも、そろそろ自分を好きになるタイミングにしようかなと思ってます」
この他にも小原ブラスさんはロシアについてのコメントの難しさについて語ってくれました。もっと聴きたいという方はradikoのタイムフリー機能でお聴き下さい。
「大竹まこと ゴールデンラジオ」は午後1時~3時30分、文化放送(AM1134kHz、FM91.6MHz、radiko)で放送中。 radikoのタイムフリー機能では、1週間後まで聴取できます。
プーチン政権、「恥ずかしげもなく報道規制、言論弾圧」
――小原さんは侵攻当初からロシアやプーチン政権を批判してきました。この1年を振り返って、改めて何を思いますか。
本当に戦争って病(やまい)やな、と感じています。侵攻が始まる前は、そうは言っても、プーチン大統領を批判しているロシア人は結構多かったんですよ。みんな割と気軽に批判していました。
けど、侵攻が始まると、みるみるうちに批判する人が減ってきました。戦争はこうやってどんどん人を変えていくもんなんやって、思いました。
僕もロシア人としての意見や発信を求められることがすごく増えました。それも戦争が起きたからであって、僕の状況すら変わってしまって。なんか、戦争が無理やりやって来て、それにさいなまれる感じです。
僕はロシア人だけど、正直、子どもの頃、夏休みにハバロフスクにいるおじいちゃん、おばあちゃんの家に行くぐらいでした。でも、当時見てきたロシアの状況が今とはあまりに違う印象です。
――批判する人が減っていった、とのことですが、プーチン政権を気にしたからでしょうか。
なんかね、戦争が始まった当初は、ロシアにいるロシア人たちと議論する機会もあったんですよ。この侵攻についてどう思うかとか、西側の報道とロシアの報道、どっちがプロパガンダなのか、とか。
でも今はもう、そんな話はしたくないと言われて、侵攻についての話題を持ち出すと、もう最初からブロックされることが増えました。プーチン政権の言論弾圧の結果でしょう。気づいたころには発言の自由がなくなっていた、彼らもそう感じているのではないでしょうか。
実際、プーチン政権が今やっている報道規制や言論弾圧って、もはや何の恥じらいもなく、隠すこともなく、あからさまにやるようになりましたよね。
以前はそうは言っても、プーチン氏自身も公式的には「ロシアには発言の自由はあるぞ」ってアピールしてました。でも、今やもう、そんなことすら言わない。
だからロシア人たちは、気づいたころにはもう後戻りできない状況なってしまった、と思っているのではないでしょうか。
侵攻について、ロシア人も何とか止めたいと思ってるでしょうけど、止めるためには自分や家族が犠牲になるかもしれないわけです。政権に反対の声を上げるというのは今のロシアではすごく危険なので。
――ロシアの世論調査の発表結果を見ると、プーチン大統領の支持率は80%台と高いです。小原さんから見て、本当に多くのロシア人が政権を支持していると思いますか。
ウクライナ侵攻に関して言えば、言葉には出さないだけで、支持してない人が多いと思います。
一方で、もしプーチン氏が大統領を辞めたら国は大混乱すると考えていると思う。プーチン氏よりももっと強硬な人が出てくるかもしれないし、逆にアメリカなど西側の傀儡(かいらい)政権みたいなものができるかもしれないとか。
傀儡政権ができたら自分たちは搾取され、ソ連崩壊直後のような苦しい思いを味わうんじゃないかと思っているんです。
ロシア人の多くは反アメリカです。多くの人がアメリカは信用ならないと思っています。というのも、ソ連の末期、当時の最高指導者であるゴルバチョフ氏はアメリカに迎合する形で国を開いたら、ソ連が崩壊して国中が貧困に苦しんだけど、西側諸国は助けてくれなかった、という恨みを持っているからです。
それが実際、どうだったのかということは別にして、少なくともロシア人たちはそう認識しているし、そういう形で歴史を学んでいます。
ソ連崩壊を経験している人たちにとっては、あのとき起きた無秩序をすごく恐れています。犯罪率は上がり、路上生活をする子どもたちが増えて…。あれだけ寒い国で貧困になるということは、命を落とすこととイコールです。
プーチン氏が辞めたら当時のような混乱が起きるのではないかと思っています。彼のような強権指導者だから、あれだけ広い国家をまとめられているということもあるのかなと思いますし。
プーチン氏が権力の座にいる限りは今のような状況が続きますし、辞めたら内部で紛争が起きるかもしれません。資源のある地域とない地域、人的資源がある地域とない地域…。
ロシアの人たちにとっては逃げ場がない。だから結局、プーチン氏を支持するほかないし、不用意に発言しない、ということになると思うんです。
――小原さん自身はプーチン政権をどう評価しますか。
この戦争が始まる前というか、もっと昔、それこそ彼が最初に大統領になったころ、乱暴なことをして政権を取ったといううわさも流れました。ただ、当時ロシアは無秩序な状態でもあったから、秩序を守らせるような、力の強い人が出てくるというのは、ある意味でちょっとした安心材料になっていたかなと思います。
でもその後、長いこと権力の座に居座って、いったん大統領をメドベージェフ氏に譲った後、再び大統領に戻って、憲法も改正して、もっと長く大統領でいられるようにしたとき、ちょっとこの人、権力への執着心が強いなと。
メドベージェフ氏が大統領になった段階で身を退くことはできたと思うんですよ。でもそうしなかったというのは、やっぱり権力のうまみを感じてるんやろなと。プーチン氏が危険な人物だと改めて思いました。
それでも僕は正直、ロシアの将来がどうなろうと、どうでもよかったんです。6歳から日本にいて、ロシアに住むつもりはないから。今は永住許可をもらってるけど、いつか日本国籍を取って、日本人になろうと思ってたので。
ロシアに行ったとき、プーチン氏はああだ、こうだと言ったら、「あんた外の人間なんだから、口を出すんじゃない」とロシア人から言われたこともあったから、まあ、確かに口を出すべきではないなとも思っていました。
なので、特にどう評価するかという意識すらないんですね。多くの日本人と同じ。まあ、なんかやばいやつがおる、ぐらい。彼のカレンダーとか出ていて、それをおもしろがったり。
ただ、今回のように他国に侵攻するのは、そりゃあかんわな、と思っています。たぶん、プーチン氏はあまりに権力に執着しすぎて、権力の座から降りることは命の危険があることだと思います。これだけ恨みを買ってしまっているんで。いまも命を狙われているとは思うけど、もう普通には生きていけへんやろうから、権力にしがみついて最後の最後までやるしかないっていう状況になっていると想像しますね。
――個人レベルではロシア人とウクライナ人、いい関係を築いた人たちはたくさんいると思います。そんなウクライナに対し、ロシアが侵攻したことについてどう思いましたか。
僕が接してきたウクライナの人たちは、普通にロシア語で会話を楽しんだってことがほとんどだったので、まさか「敵国」になるなんて想像もしなかったです。
ロシアとウクライナの敵対状態というのは、2014年のマイダン革命から続いてきたことだとは思いますが、そうは言っても、一般のロシア人とウクライナ人の間にはそれほど恨み合うこともなかったですし、ずっとやり取りもしてきたから…。
今回の戦争って、戦っている両国の人たち同士、言葉が分かるでしょう。ウクライナとロシアは「兄弟」じゃないって言う人もいますし、僕も兄弟とは思わへんけども、でも言葉が分かって、しかも笑いの感情も一緒で。ウクライナの番組を見るけど、ロシアの番組とすごく似ているものが多い。これって全く別の人たちではないよねって思うから、そんな人たちに侵攻していくのは納得いかない。
ただ一方で、ウクライナの東部出身で日本に暮らす人の中には、ロシアの言っていることを支持する人も僕の周りにはいるんですよね。
「ロシアがやっと助けに来てくれた」みたいなことを言う人、実際に知り合いにいます。そういう人を目の当たりにすると、どんな感情を抱けばいいのかわからなくなる。
例えば、僕のお母さんはロシア人で兵庫県姫路市に住んでいて、市内にはウクライナの西部出身の人と東部出身の友人がいます。
以前は3人とも仲良くやっていたのですが、特に侵攻が始まって以降、ウクライナの2人が政治思想をめぐってけんかをするんですよ。それを仲裁するのがお母さんで。
いままではみんな仲良くやっていたのに、やっぱり戦争って伝染病のように人の心をむしばんでいって。戦地から遠く離れた3人にも、どんどん関係してくるような感じで、恐ろしいもんやなと思います。
――戦争によって個人の関係すら分断されていくということなんですね。ただ、いまこの段階になってもなお、ロシアを支持しているということであれば、ある種のロシア側のプロパガンダの影響があるのかなと思いましたが、いかがでしょう?
ウクライナ東部の人たちもロシアのテレビを見たりしてますからね。ちなみにもちろん、東部でもロシアを支持している人、していない人いて、そこまでまた意見が対立して分断が起きていると思います。
ただ、たとえプロパガンダの影響を受けて、正しくない考えの人がいるとしても、いまはそれを無理やり説得するのは難しいんじゃないかと思います。
東部は激しい戦場になっていて、そんな状況の人たちの感情をむやみに傷つけたくないし。いっぱい負った傷が癒やされないと、まともに状況を見て、正常な考えにつながるようにはならないと思うんです。
「反対してもいいと、示したかった」
――小原さんは侵攻当日、いち早くロシアに対する批判の声を上げました。しかもYouTubeという手段を使って世の中に広く訴えました。どんな心境だったのでしょう。
あのとき、声を上げた理由は二つあります。一つは、本当に純粋に、自分がまず言わないといけないよねという思いです。
というのも、日本にも多くのロシア人が住んでいますが、彼らは侵攻が始まったとき、何を言ったらいいか、どうしたらいいかわからなかったと思うんです。もちろん、日本人もそうだったと思うんですけど。テレビのニュースを見ても、「何か難しいこと言いよるわ」みたいに思った人が結構いたと思いますし。日本在住のロシア人も同じなんですよ。別に、プーチン大統領を支持するとかしないとか、この戦争を支持するとかしないとか、そういうことをじっくり考える間もなく侵攻が始まったから、どうしようってなったと思います。
だけど、ロシア人が黙っていたら、きっと世間は「プーチンを支持しているんだろう」とみなしたでしょう。だから、「反対してもいいんだよ」っていう事例のようなものを、僕は示したかったんです。
なにせテレビやネットから流れてくる現地の情報を知れば、どんな理由があっても、あってはならないこと。反対するしかなかった。
それともう一つは、あの場で僕自身、黙っている選択肢はなかったです。黙っていれば、ロシアを支持しているとみなされて攻撃を必ず受けたでしょうから。そういう意味でも、じっと黙っているという選択肢はなかったです。
――小原さんがロシア批判の声を上げたことに対し、どんな反応がありましたか。
日本に暮らすロシア人たちからは「言ってくれてありがとう」「おかげで世間からの見られ方も変わった気がする」というポジティブな反応がありました。
でも一方で、「自分たちも同じように何か言わないといけないという空気を作ってる」という批判もありました。
例えば、日本人とロシア人の「ハーフ」の高校生から、「僕は普段、ブラスさんのYouTubeを見て楽しんでいたけど、政治的な話をしそうにないブラスさんが話したことで、自分までも言わないといけないように思わされるから、発信の仕方を少し気をつけて欲しい。ブラスさんは影響力があるから」という意見をもらったこともあります。
あとは単純にロシアを支持している人からは「裏切り者」って言われたこともあります。
言ったら言ったで、「金を稼ぐのが目的だろう」とか、メディアに出ても「またお金を稼いでいるんだろう。戦争特需だ」とか批判されて…。なんか本当にこの1年、特に前半は何をしても、どんな方法であったとしても絶対に批判されるという状況だったので、これは無理やなと思いました。
だからもう、こう考えることにしたんです。批判されるかされないかで、行動を決める必要はなくて、自分の気持ちに沿って行動するのが一番だなと。誰かにどう言われるかを気にするんじゃなくて、自分が正しいと思うことを発信しようと決めました。
自分の動画を見て傷つく人もいるかもしれません。でも、もう何をしても誰かは傷つく可能性があるわけで。
一ついま思っているのは、単なるたとえで宗教的な意味はないんですが、神社で神様に手を合わせて言えるような意見を言おうと思いましたね。神様の前で言えへんようなこと、格好つけたきれいごととかは言うのはよそうって。
――「お天道様が見ている」みたいな話でしょうか。
はい。本当に神様がいるとかいないとかは別にして、自分の意見、どう考えていくのかとか、自分自身に正直になるために重要なことかなと。そんな心境の変化がありました。
――お母さんは侵攻に関して何を言っていますか。
「もう、わからん」というのがすべてですね。お母さん、別に普段からニュースを見ているわけではないんです。だから正直分からないと思います。それにお母さん、実際に自分が直接見聞きしていないことについて、とやかく偉そうなことを言うつもりはないと考えています。
それでも、「早く終わって欲しい。いつ終わるんやろ」とは思っていると思います。というのも、ロシアにいるお母さんの両親が2021年の末にコロナウイルスに感染して亡くなったんですが、まだ行けてないんです。
向こうは土葬なんですが、亡くなったのが冬だったんで、土が硬くて掘れず、春を待つんですね。そしたら侵攻が始まってしまって。おじいちゃん、おばあちゃんをお墓に入れることができなくて。仕方がないので別の人に埋葬は依頼しましたけど、まだ亡くなってから会いに行けてないのが気がかりなようです。
侵攻の影響で飛行機のルートが変わったり、航空券がものすごく高くなったりして。あと、行ったはいいけど、戻ってこれるのかという心配もありますし。ちょっと怖いんで。
――ロシア人の犠牲者も多いと言われてますね。プーチン氏の暴挙によって普通の人たちが戦場に向かわされて死ぬ人もたくさんいます。そんな人たちについてどう思いますか。
うーん、思うことはあるけど、口に出してはなかなか言えないですよね。言えば「そんなことよりもウクライナの人の方が…」ってことになるので。
ただ、亡くなったロシア兵たちがそれぞれどんな思想信条を持っていたかはわかりませんが、色んな情報によると、そもそも自分たちがいる場所がウクライナだったということすら気づかなかったとかいう人もいて、訓練と言われてきたら実際に攻撃されて訳も分からない人もいただろうなとも思うし。
彼らも侵略した側の人間なんだから地獄に落ちろ、みたいなことを言う人もたぶんいると思うんですけど、僕はそう単純には思わないですね。一人ひとり、色んな経験と思いがあるでしょうし、同じ命、同じ人間でもあるので…。時代が違ったら、全然違う人生を歩んでたんやろうなと思うと、本当にかわいそうやなと思います。
――専門家ではないので困るでしょうが、あえてうかがいます。今後、どんな展開をたどっていくと思いますか。
最初はね、ウクライナが数日で陥落するんじゃないかって予想する専門家が話すのをメディアも報じていましたけど、その後ウクライナ側が巻き返して。
一方で、ロシアは経済制裁によって、秋口にはにっちもさっちもいかなくなるとか、夏にはもうもたないとかいう情報もありましたけど、ロシアの人たちはどうも生活できていると。物価も確かに上がっているものもありますが、逆に下がっているものもあったり。
なんか、西側のメディアの予測が当たってないなと思うんですよね。もちろん、ロシアのメディアは、もうプロパガンダがたくさんあるから信用してないんですけど、要は西側のメディア、専門家も予測はできていない。なので正直、どうなっていくのか本当に分からない。まして僕は実際に戦場を見たわけでもなく、細かい情報を知っているわけでもないので。
でも、わからないけど、間違いなく状況はすでにかなり悪化していると思います。以前のような平和な時代に戻るってことは、そう簡単にはあり得ないだろうな。仮に停戦したとしても、以前のように戻ることはないと思います。
ロシアの将来も、おそらく貧困になっていくだろうから、そのときにまた、プーチン氏のような人が出てくるだろうなと思っているので、その繰り返される歴史をどう食い止めるのか、戦争をどう終わらせるのか、そのためにどこまでの犠牲を出すのか、本当に世界が考えていく必要があると思います。
仮にいまの状態で停戦したとしても、こういう侵略行為をした者勝ちの世界なんだとなって、ほかの国もまねて戦争が絶えない世の中になりかねないだろうし、かと言って、徹底的にロシアが負けるまで戦い続けるとなったときに、まさか使わへんのちゃうかと思っても、ロシアが核兵器を使ってとんでもないことになって、結果的にすごい犠牲者が出てしまう可能性だってあるし。どうなるかなんてすごく難しいですよね。
こんなこと言ったら、絶対に嫌だっていう人はたくさんいると思うけど、プーチン氏に戦争をやめさせるためには、彼の今後の安全を保障するとか考えないと難しいのかなと。「いや、裁きを受けさせよ」ってみんなすごく言うと思うけど、ただ、それでは戦争をやめようとしないのかなと思う。それだって果たして正解なのかどうか、わかりません。
ロシア国民自身が、プーチン氏を権力の座から引きずり下ろすためにも、お金がないとそういった活動や革命って起きないと思うんですよね。反体制派への支援みたいなものも必要になってくるでしょう。制裁によって反体制派自体も弱体化してしまうことだってあるだろうし。
――ソ連が崩壊したあと、生活はどうなったのでしょうか。
本当につらかったのはソ連が終わったあとです。崩壊直後は一番貧しかった。ソ連時代よりももっと食べ物がなくて、お父さんの給料も払われなかった。
でも周りの人たちも同じように大変だった。貧しいのも平等。だから、お互い助け合って乗り越えたと思う。物々交換して。みんな親切だった。あと中国から安い商品が入ってきたので、どうにかそれを買ってしのいだ。よくなるのに数年かかった。
お父さんはさらに大変だった。ロシアのチェチェンで内戦が起きて、それに行ってる。私たちが想像できないようなものを見てきたんだと思う。
悪夢にうなされただろうし。すごくつらかったと思う。内戦も崩壊の結果。国が崩れて、人のつながりも崩れて。みんなの生活がいったんすべて崩れた。
でも崩壊によって海外の映画や音楽も入ってくるようになって、「ターミネーター」とか「エイリアン」とか、アメリカの映画も見られるようになった。
私の人生を変えた日本のアニメ「美少女戦士セーラームーン」も見られるようになった。1997年、16歳のころです。ちょうどそのタイミングで録画機能付きのビデオも買ってもらって、セーラームーンをよく録画してみていました。でも家電を買うのにも結構お金をためないといけなくて。ローンなんてないから、知り合い同士でお金を貸し借りしていました。
セーラームーンの前にも日本のアニメはあったの。「キャンディ・キャンディ」。でも設定が日本ではないでしょ。あと、ディズニーとかもあったんだけど、そのどれよりもセーラームーンは心動かされた。
アニメなんだけど漫画っぽい表現が多くて。例えば泣いたり、笑ったりする表情が漫画っぽく描かれている。痛いときの表情とかもね。テーマも色々。ステレオタイプじゃないのもあって、日本のアニメのよさがすごく凝縮されていたと思う。いい意味でわがままに作られている、制作陣が作りたいものを作っているという感じ。セーラームーンは世界中でヒットしてるんだけど、それが理由だと思う。
1998年にノボシビリスク国立経済経営大学に入り、ITを専攻しました。チェコにいた記憶がずっとあって、あの世界を知ってしまった以上、絶対に海外に出たいと思うようになった。だからとにかく英語は頑張った。
大学に入った後、地元にあったシベリア北海道文化センターに出入りするようになりました。そこでアニメクラブを作って部長になり、アニメ好きの仲間を増やしました。日本語もここで勉強しました。
インターネットもできるようになり、個人でサイトを作った。「kawaii.otaku.ru」という名前。英語版も作ったら、サイトを見つけた日本人たちと交流が始まったの。
2002年、初めて日本に行くことができた。交流していた日本人のみんなが支援金を集めてくれて、それで飛行機のチケットやホテル代を出してくれました。
初めて来た日本は最高で、感動しすぎて泣いていた。その後、大学を卒業して一度はロシアで就職してみたんだけど、私背が低いし、声が高いので子ども扱いしかされなくて(笑)。
だったらもう、だめもとで日本に行って声優になってみようと思った。今考えると色々と条件がそろってないよね。年は取ってるし、日本語も完璧じゃない。
振り返ってみると、チェコで外の世界を知ったことが大きかった。繰り返しになるけど、あのとき、絶対にソ連から出てやるって決めて、英語をたくさん勉強した。まあ、来たのは日本だったんだけど(笑)。
日本のメディアでは表記ルールから「ナワリヌイ」としているが、私にとってなじみが深く、原音に近い「ナヴァーリヌイ」を使いたい。
私が初めて取材現場でナヴァーリヌイ氏と接触したのは2012年1月末のことだ。ロシアでは当時、かつてないほど反政権運動が盛り上がっていた。
発端はこの2カ月前に実施された下院選だった。政権与党「統一ロシア」がらみの大規模な不正疑惑が浮上し、党の官僚的な体質や腐敗ぶりに対する長年の不満も相まって国民の怒りが爆発した。
さらに国民を落胆させたのは、プーチン氏の後を継いだ大統領メドベージェフ氏だった。
彼はプーチン氏より一世代若く、リベラル的な考えを標榜していた。ロシアを欧米のような民主主義国家にしてくれるだろう、と国民は期待していた。だが、実際にはそうはならなかった。
それどころかこの年の3月に迫っていた次の大統領選でプーチン氏を後継者に指名し、「強権政治」に逆戻りする道筋を開いた。メドベージェフ氏は結局、プーチン氏の忠実なる側近でしかなかったことが明らかになると、国民の失望は大きかった。
反政権運動に参加したのは、モスクワなど都市部の中間層だったが、主導したのは複数の野党勢力だった。欧米流のリベラル派や過激な民族主義グループなど、言ってみれば「左」から「右」までが「反プーチン」の一点で大同団結した。
運動で中心的な役割を果たしたのは、エリツィン政権下で第一副首相を務めたボリス・ネムツォフ氏や元チェス世界チャンピオンのガルリ・カスパロフ氏、ロックミュージシャンのユーリ・シェフチェク氏、小説家のボリス・アクーニン氏といった著名人だった。だが、彼ら以上に注目されていたのがナヴァーリヌイ氏だった。
ナヴァーリヌイ氏は、ほかの野党指導者のように路上で人々を大量動員するわけではなかったが、大学で身につけた法律や金融、財務の知識と、起業や少数株主、弁護士活動といった実務経験の双方を生かし、国営大企業の不正を調べてはブログで「告発」していた。
そんな活動はやがて、「政治とカネ」をめぐる汚職問題の追及へと発展した。2010年に市民団体「ロスピル」を設立し、ネットを駆使して情報を収集して国家予算の横領などを調査した。
ロシア語で金を切り取るニュアンスがある「ラスピル」と、「ロシア」を表す「ロス」を組み合わせたネーミングで、ロゴもロシアの国章「双頭の鷲」にのこぎりをあしらった。皮肉とユーモアに満ちていた。
汚職そのものに焦点を当て、データとファクトで不正を暴くナヴァーリヌイ氏のやり方は実にうまかった。
そもそも汚職はロシア社会ではびこっており、人々にとってとても身近な問題だった。
もちろん、汚職は政治家や権力者の腐敗とつながっているのだが、ほかの野党指導者のように教条的な権力批判をしなかったのも支持を集めることにつながった。
ソ連崩壊後の混乱期、ロシアでは一部政治家やオリガルヒ(新興財閥)らによる権力の「私物化」が繰り返された。そうした中、権力側だろうが野党だろうが、政治を語る人たちへの「うさんくささ」が社会で募った。
こうしてネットで知名度を上げてきたナヴァーリヌイ氏がリアルでも幅広く知られるようになったのが、冒頭で紹介した下院選後の反政権運動だった。
統一ロシアを揶揄した彼の言葉「詐欺師と泥棒の政党」は、たちまち運動のスローガンの一つとなった。
野党勢力の各指導者が集まる会合でも、彼は異彩を放っていた。考え方の違う指導者たちが時に利害をぶつけ合う中、「我関せず」といった感じでスマホをいじる姿が目立った。
野党指導者たちの会合に出席するナヴァーリヌイ氏(手前左)。しきりにスマートフォンをチェックしていた=2012年1月、モスクワ、関根和弘撮影
報道陣にも素っ気なかった。私自身、事前に取材を申し込んでも反応がなかったり、現場で声をかけても軽くあしらわれたりした。
「政治闘争」やメディア対応よりも、ソーシャルメディアを通じてユーザーたちとコミュニケーションすることの方を重視しているようだった。
数万人規模で連日集会が繰り広げられたこの運動は結局、プーチン氏が大統領に復帰したことで尻すぼみになっていった。路線の違う複数のグループが反プーチンというスローガンだけで集ったにすぎず、必然の成り行きだった。
野党勢力に対する失望が広がるのとは逆に、ナヴァーリヌイ氏の存在感は高まり、2013年にはモスクワ市長選に出馬した。だが投開票日の2カ月前、不可解な出来事が起きる。
反政権集会に参加するナヴァーリヌイ氏=2012年5月、モスクワ、関根和弘撮影
ナヴァーリヌイ氏が、ロシアの地方都市にある国営企業に不利な契約を結ばせて損害を与えたとして、巨額財産横領罪で実刑判決を言い渡されたのだ。
事件をめぐっては地元の捜査当局が立件を断念していたが、国の捜査機関が再捜査を宣言し、急展開した。
選挙直前になっての動きだっただけに、捜査の動機は出馬妨害だったとの臆測を呼んだ。だが、ナヴァーリヌイ氏は上訴によって裁判を継続させ、立候補も実現した。
結果は、プーチン政権の支持候補に敗れはしたが、次点に食い込む健闘ぶりだった。手応えを感じた彼は2016年、次期大統領選(2018年)に立候補することを正式に発表。選挙戦用の公式サイトをオープンした。
「本業」の活動も切れ味は鋭かった。2017年、政権中枢のメドベージェフ氏の大々的な調査結果を発表した。
汚職調査基金「汚職との戦い」(2011年に設立)のメンバーたちと暴いたのは、メドベージェフ氏が他人名義の豪華な別荘やヨット、ブドウ園などを国内外に多数保有している疑惑だった。
ロシア出身のコラムニスト、タレントの小原ブラス(29)が14日、自身のツイッターを更新。ロシア側を非難する発信に批判が届き戸惑っていることを明かした。
小原はロシア軍のウクライナ侵攻以降、テレビ出演で「プーチンは越えてはいけない一線を僕は越えたと思う」と話すなど、忌憚(きたん)なく自身の意見をSNSを含めて多方面で発信してきた。
投稿では「ロシア人がプーチンを批判すると注目が集まり、いくら収益を寄付したとしてもその注目はいずれビジネスに繋がる。戦争を使ってビシネスするな!という批判をいただくようになった」とつづり、ロシア側を非難した発信をすることが「商業目的」だといった批判が届くようになったと明かした。
続いて「けど、それってロシアやプーチンを批判するのをやめるべきだということなのかな?どんな発信をすればいいのだろう」と困惑し、疑問を投げ掛けた。
フォロワーからは「雑音に負けないでがんばって」「その批判は気にしないで」「むしろ活動継続の為には収益があった方が良いと思う」「批判するのは簡単」「ビジネスって世の中の問題を解決する対価なので悪くない」など多くのエールが届けられた。
2022年3月14日 15時04分
僕自身、何を言っても自分が言い訳をしているように聞こえてしまうんじゃないかと思うこともあります。でも、今は戦争自体を早くやめてほしいと訴えることが大切で、ロシア人として反対の声をどんどん上げていかなければと考えています。声を上げている人まで攻撃してしまうと、みんな声を上げられなくなってしまい逆効果です。
先日、テレビでウクライナ侵攻について話したときに泣きそうになってしまったことがありました。それを見て、「泣いている暇があったらお前が土下座する映像を流せ」「こんなことが起きているぞ」といったコメントと一緒に現地の動画を送ってくる人もいて。日本ではきっと、実際にロシア人を見て石を投げるといったことは起きないと思うし、ウクライナの人たちの苦しみとは比べ物にもなりません。でも、憎しみの感情が連鎖していくのはとても怖い。
■ロシア人に何のメリットもない
――ロシアでは2024年に大統領選が予定されている。プーチン大統領は「強いロシア」を維持するために侵攻が必要だったと訴え、国民のなかにはそれを信じている人もいるという。だが、「騙された」と感じているロシア国民もいる。
そもそもプーチンは侵攻しないと言い続けていて、軍事演習をしていたのもウクライナがNATO(北大西洋条約機構)に加盟したときに核を向けられるリスクに備えてという名目でした。なのに、ロシア系住民の保護だと言って軍事侵攻をはじめた。しかもドネツクやルガンスクを越えて、キエフまで攻撃しています。「プーチンの言っていることが違うな」と感じた層も反対に回っています。
――世界はロシアに対しての制裁を強化している。アメリカと同盟諸国は、ロシアの一部銀行を国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除。日本もロシア中央銀行との取引を制限することを決定した。
今回の侵攻はロシア人にとっても何のメリットもないんです。世界中からロシアが排除されることはもちろん、ウクライナ人やウクライナに住む友人がいるロシア人もたくさんいます。自分の友人が傷ついている状況を許せないし、特に若い世代はプーチンを支持していない人も多いんです。その人の決定で、ウクライナで命が奪われていることへの怒りも強い。
僕は、「選挙ってどれだけ大事かわかるやろ」ということを伝えたい。ロシアも日本と同じ少子高齢化なので、若い世代の票がどれだけ集まっても高齢世代を下回ってしまう側面もあります。でも、どこの党が正しいとか、どこが良くないとかではなく、声が届かないことがどれだけ怖いことにつながるか。ロシアの今の状況を見てほしい。
(構成/編集部・福井しほ)
ウクライナ
5歳の時に来日したロシア人タレントの小原ブラスさん(31)は昨年2月にロシアがウクライナに侵攻した直後から、テレビの情報番組やユーチューブで発信を続けてきた。 【写真】戦火を逃れたウクライナ19歳女性 日本でモデル、ファッション誌の表紙に
8月2日、ウクライナ南部イズマイルで、ロシア軍の無人機攻撃で破壊された建物(ロイター=共同)
ロシアのプーチン大統領が今やっていることには全て反対、ウクライナ侵攻はすぐにやめるべきだ。この世界から争いをなくすために重要なのは、きれいごとではなく、微妙なバランスや理性を保つことだと訴える。(共同通信=益子真之介) ▽毎日死者が出ているのに、風化しようとしている 平和って何だろうかと考えると、いつもどこかで紛争や食料危機があり、世界中が平和だったことは一度もなかった。その中で、これまでにないほど近くに戦争を感じられたというのが今回のウクライナ侵攻だと思う。 自分たちにとっての平和を振りかざすと、戦争に行き着く気がする。平和を追い求めるのではなく、バランスや理性を保ち、争いを起こさないことが何より大切だと思う。 日本でも、ウクライナ情勢が当初は大きく報じられたが、長期化すると当たり前になっていく。毎日死者が出ているのに、みんなが実感を持っていないように感じることがある。終わってもいないことが風化しようとしている状況が悲しいから、僕は発信している。
小原ブラスさん(株式会社Almost Japanese提供)
発信する目的は、どちらかの方向に何かを引っ張りたいとか、自分の意見に共感してほしいという気持ちではない。自分の力で何かを調べて考えたり、どういう意見があるのかを見たりするきっかけにしてもらいたい。 日本でも何か起きれば最初は少ない被害でみんな騒ぐけれど、だんだん騒がなくなり当たり前のように人が死ぬ、地獄のような社会が来るかもしれない。平和ではない社会がある日、突然来るように言う人もいるが、徐々に徐々にむしばまれていくと感じる。 ▽近づくリアルな危機感、日本は非常に危険な状態 ウクライナで起きていることを、第2次世界大戦を経験した世代はどう考えているのだろう。過去を知る人が減り、忘れられていくとこんなことが起きるのだと思う。自分も含め人間は愚かだ。 僕が日本に来た頃や20年前、10年前…。その頃と比べるとリアルな戦争、リアルな危機感が近づいている。日本には戦争はしないという憲法がある一方で、防衛を米国に依存する矛盾がある。これまではそれでやってこられたが、平和でない時代に差しかかっている今、どうするのかをみんなで考えていかんとあかんと思います。きれいごとが通用しない世の中で、日本をどう守るか、日本はどうありたいのか。政治にまとまりがなく、防衛費増額を決めながら、具体的な方針を示していない。日本は非常に危険な状態にあると思います。
あってはならないことだが、ウクライナの戦場を見て各国は使える武器、いらない武器を選別している。日本ではそういう報道もほとんどない。このままでは各国がいらないとした武器を日本は買わされるのではないか。増やしている防衛費が本当に日本の防衛のためになるのか、不安だ。政治に対する国民の「監視の目」がゆるい。 ▽核兵器は絶対に使わず、均衡を保ちながら減らすのが理想 5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)で各国が足並みをそろえたのはすごく良かった。ただ、核兵器を容認したし、今後の戦争についてどうするのかを話し合った。原爆で亡くなった方たちがもしもそれを見ていたらどんな気持ちだったのか。広島ですべきではなかった。 子どもの頃、広島や長崎に何度も行った。核兵器は絶対に使ったらあかん、絶対的な悪だという考えをずっと持っている。全部なくなったらいい。 ただ、実際は核兵器が抑止力とされていて、日本も米国の「核の傘」に守られている。核兵器がなかったらなかったで、隣国からの侵攻におびえ、先制攻撃に踏み切る形で、もっと世界の至る所で戦争が起きているとも思う。それでも核兵器は絶対に使わず、均衡を保ちながら減らすのが理想だ。
メディアを通じてウクライナ侵攻を見ることで、双方の立場の人が、怒りや憎しみを抱く。僕もそうだった。でもそれは自分で体験したものではない。プロパガンダが含まれているかもしれない。恨みが利用されて戦争が起きることもあるだろう。交流サイト(SNS)が全盛の時代だからこそ、理性を保っておきたい。それが平和のためになるのかなと思います。 × × こばら・ぶらす 1992年ロシア・ハバロフスク生まれ。5歳の時に母親と来日し、兵庫県姫路市で育つ
2023/8/8(火) 11:02配信