「日本の秘められた恥」  伊藤詩織氏のドキュメンタリーをBBCが放送等BBC記事PDF魚拓


BBCは28日夜、強姦されたと名乗りを上げて話題になった伊藤詩織氏を取材した「Japan's Secret Shame(日本の秘められた恥)」を放送した。約1時間に及ぶ番組は、伊藤氏本人のほか、支援と批判の双方の意見を取り上げながら、日本の司法や警察、政府の対応などの問題に深く切り込んだ。制作会社「True Vision」が数カ月にわたり密着取材したドキュメンタリーを、BBCの英国向けテレビチャンネルBBC Twoが放送した。

番組では複数の専門家が、日本の男性優位社会では、被害者がなかなか声を上げにくい状況があると指摘した。伊藤氏はその状況で敢えて被害届を出し、さらには顔と名前を出して記者会見した数少ない日本人女性だ。

伊藤氏は2015年4月に著名ジャーナリストの山口敬之氏に強姦されたと、警察に被害届を出した。最初の記者会見を開いたのは、2年後の2017年5月。山口氏の逮捕令状が出たにもかかわらず逮捕が見送られ、証拠不十分で不起訴処分となったことへの不服を検察審査会に申し立てたという発表だった。

番組は、伊藤氏が「すごい飲み方」で泥酔して吐いた、ホテルでのその後の性行為は同意の上でのことだった――という山口氏の主張や反論とあわせて、伊藤氏自身が語る2015年4月の経緯を、現場となった都内のすし店やホテルの映像などを差し挟みながら、詳細に紹介した。当時以来初めて現場のホテルを訪れた伊藤氏が、こわばった表情でホテルを見上げた後にしゃがみこみ、「これ以上ここにはいられない」と足早に立ち去る姿も映している。

ニューヨークでジャーナリズムを学んでいた伊藤氏は2013年秋、当時TBSワシントン支局長だった山口氏とアルバイト先のバーで知り合った。インターンの機会がないか問い合わせると、山口氏からプロデューサーの職を提供できるので就労ビザについて帰国中に相談しようと呼び出しがあったという。

日本酒を少し飲むと「気分が悪くなり、トイレで意識を失った(中略)激しい痛みで目が覚めた。最初に口にしたのは『痛い』だったかもしれない。それでも止めてくれなかった」と語る伊藤氏は、その後、ベッドの上で山口氏に覆いかぶさられ息が出来なくなった際に「これでおしまいだ、ここで死ぬんだと思った」と涙を流して語った。さらには、抵抗する自分に山口氏が「合格だよ」と告げたのだとも話した。



動画説明, 強姦被害訴えた伊藤詩織さん、家族も中傷され BBC放送番組が紹介

首相に近い人物

番組では山口氏について、事件当時は日本の有名テレビ局のワシントン支局長で、安倍晋三首相を好意的に描いた人物伝の著者だと紹介した。伊藤氏と山口氏を取材した記事を昨年12月に発表した米紙ニューヨーク・タイムズのモトコ・リッチ東京支局長は、山口氏と安倍首相の近い関係から「この事件に政治的介入があったのではと大勢が指摘している」と話した。

山口氏は疑惑を全て否定している。番組は、山口氏が出演したネット座談会を紹介。山口氏はそこで、伊藤氏が泥酔していたため仕方なく宿泊先のホテルへ招いたと話した。また番組は、性行為はあったが合意の上だったという同氏の主張も伝えている。

番組はその上で、日本の刑法では合意の有無は強姦の要件に含まれていないと説明。暴力や脅迫があったと証明しなければ日本では強姦とは認められないことにも言及し、性暴力の被害者の多くが実際には恐怖で身がすくんで抵抗できず、助けを呼ぶこともできないことにも触れた。合意のない性行為はたとえ知人相手でも強姦なのだという、欧米では徐々に常識となりつつある考え方について、日本の大学生が教わったことがないというやりとりも紹介した。

また、日本の強姦罪(現・強制性交等罪)は2017年の法改正まで100年以上変わらず、強姦は窃盗より刑罰が軽かったなど、日本社会で性暴力が軽視されてきたことも法律の専門家などのコメントを通じて語った。



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番組はさらに、日本で性暴力の被害者が事件後にいかに苦しむかも、伊藤氏や、伊藤氏が訪問した別の日本人女性を通じて紹介した。

伊藤氏は番組で、都内唯一の性暴力被害者の支援センターを訪問した。自分の被害直後に電話をしたが、直接来なければ相談を受け付けられないと言われた場所だという。番組によると、この被害者支援センターは東京都の人口1300万人に対して担当者が2人体制と人員不足が目立ち、暴行直後に法医学的証拠を残すための「レイプキット」も提供できていない。

番組はこのほか、警察の問題にも触れている。日本の警察における女性警官の割合はわずか8%で、伊藤氏が事件直後に被害届を出した際も男性警官に被害の詳細を証言しなくてはならなかったこと、複数の男性警官の前で警察署内の道場のマットに横になり、等身大の人形相手に事件を再現させられたことなどが取り上げられた。

「男性警官が人形を私の上に乗せて上下に動かし、こういう様子だったのかなどと確認された」と伊藤氏は話し、番組は、警察のこの捜査手法をセカンドレイプだと非難する声もあると指摘した。



動画説明, 男性警官のみを前に人形相手に再現させられ……伊藤詩織さん

女としての落ち度

2017年5月、伊藤氏は検察審査会に不服を申し立てるとともに、記者会見でこの事実を公表した。それ以降、伊藤氏がソーシャルメディアなどで激しい中傷や非難を受け続けていることや、伊藤氏の家族も中傷にさらされていることなども、番組は紹介した。伊藤氏が簡易版の盗聴探知機を買い求め、自宅内を調べてみる様子も映し出した。

一方で番組は山口氏を擁護する人物として、自民党の杉田水脈議員を取材した。杉田議員は、ネット座談会などで伊藤氏を強く批判している。

番組の取材に対し杉田議員は、伊藤氏には「女として落ち度があった」と語った。

「男性の前でそれだけ(お酒を)飲んで、記憶をなくして」、「社会に出てきて女性として働いているのであれば、嫌な人からも声をかけられるし、それをきっちり断るのもスキルの一つ」と杉田議員は話している。議員はさらに、「男性は悪くないと司法判断が下っているのにそれを疑うのは、日本の司法への侮辱だ」と断言。伊藤氏が「嘘の主張をしたがために」、山口氏とその家族に誹謗中傷や脅迫のメールや電話が殺到したのだと強調し、「こういうのは男性のほうがひどい被害をこうむっているのではないかと思う」と述べた。

番組はその一方で、山口氏と安倍首相との関わりから、野党議員の一部が警察捜査を疑問視して超党派で「『準強姦事件逮捕状執行停止問題』を検証する会」を立ち上げたことも触れた。野党議員が国会で安倍首相に、逮捕中止について知っていたかと質問し、首相が個別案件について知る立場にないと反論する映像も紹介した。



動画説明, この痛みを我慢して沈黙しても役に立たない……伊藤詩織さん

「黙っているよりはずっといい」

個別案件ではなく、日本政府の性暴力対策全般について、番組は指摘を重ねた。

政府は昨年、初となる性犯罪・性暴力被害者支援交付金を設置し、今年度は1億8700万円を振り向けると発表した。しかし番組によると、日本の半分の人口しかない英国では、被害者基金の予算はその40倍だという。

日本政府は2020年までに各都道府県に最低1カ所の支援センターを設置する方針だが、20万人当たり1カ所という世界基準に沿うならば、日本には635カ所必要になる。

伊藤氏が内閣府男女共同参画局を訪ね、これについて質問すると、内閣府の職員は「検証が必要だろうと思う」と答えた。

2017年9月に検察審査会が山口氏を不起訴相当としたため、山口氏の刑事責任を問うことは不可能になったことも、番組ははっきりと伝えた。不起訴相当の知らせを受けた伊藤氏や家族の反応、その後さらに民事訴訟で損害賠償を求めていく様子も伝えている。

それでも、昨年秋に米映画プロデューサー、ハービー・ワインスティーン被告(強姦および性的暴行罪で逮捕・起訴)への告発から広がった「#MeToo(私も)」運動を機に、伊藤氏への支持が日本国内でも広がったことを番組は説明。伊藤氏も変化を感じていると番組で話した。

「何か動きを起こせば波が起こる(中略)良い波も悪い波も来るが、黙っているよりはずっといい」



放送後の反響

番組が放送されると、ツイッター上ではハッシュタグ「#japanssecretshame」を使った感想が次々と書き込まれた。

英ウスタシャー在住のローナ・ハントさんは、「女性として、そして引退した警官として、ショックで呆然としている。詩織、あなたは本当の英雄 #JapansSecretShame 」とツイートした。

ロンドン在住の「paulusthewoodgnome」さんは、「強姦に対する日本社会の態度は本当に気がかりだ。伊藤詩織のような人がほかにどれだけいるのか。自分と自分を襲った人間にしか知られていない状態で。ほぼ全方面から見下されながら、詩織は実に勇敢で品位にあふれている。素晴らしい」と書いた。

アイルランド・ダブリン在住のルーシー・ホワイトさんは、「私の『ぜったい行きたい』リストから、日本はいきなり外れてしまった。#JapansSecretShameを見ているけど、性的暴行を軽くあしらう態度にぞっとしている。警察に女性は8%しかいなくて、強姦被害者が訴え出ると、等身大の人形で事件を再現しなくてはならない」と書いた。

アイルランド在住のシネイド・スミスさんは、「#JapansSecretShameを見ている。ショックだし、ものすごく心が痛い。何がいやだって、女性が女性を攻撃してること。被害者を支えるんじゃなくて、女性が彼女を責めてる……。犯罪を犯した男を責めなさいよ!」と書いた。

英無料夕刊紙イブニング・スタンダードも番組を取り上げ、「自分たちの居場所から、#MeTooは世界の先進国ならどこでも同じようなインパクトがあったと思い込むのは簡単だ。とんでもない。この番組によると日本では、昨年10月に暴露されたハービー・ワインスティーンの件への反応は『ひっそりとした』ものだった」と書いた。記事はさらに、無実を主張する山口氏が「詩織さんは酔っ払っていたと言う。まるでそれで十分、正当化されるとでもいうように」と書き、「負担も大きいが、声を上げることは沈黙させられるよりも良かったと(番組で伊藤氏は)結論する。彼女に耳を傾けよう」と結んでいる。

英紙ガーディアンも番組のレビューを掲載。「Japan's Secret Shameは、見るのがとても大変なドキュメンタリーだ。痛ましく、不愉快で、動揺させられる。このドキュメンタリーはそれに加えて、勇敢で必要な、極めて重要な作品だ。プロデューサー兼監督のエリカ・ジェンキン氏が、細心の注意と静かな怒りを込めて作ったもので、女性への暴力や構造的な不平等、差別といった大きな話題を、もっと小規模で個人的な物語に焦点を当てて描いている」と紹介した。

(編集部注――日本では「ワインスタイン」と表記されることの多いワインスティーン被告の名前は、本人や複数の関係者の発音に沿って表記しています)



警察庁では性犯罪被害の相談電話窓口として、全国共通番号「#8103」を導入しています。また、内閣府男女共同参画局でも性暴力被害者に必要な情報を提供しています。現在、43都道府県に「ワンストップ支援センター」が設置されています。

「Japan's Secret Shame」は6月28日にBBCTwoで英国内で放送された番組です。6月29日現在、日本での放送は未定です。

「日本の秘められた恥」  伊藤詩織氏のドキュメンタリーをBBCが放送



2018年4月19日

日本の財務省の福田淳一事務次官(58)が18日、辞任を表明した。12日発売の週刊新潮が報じた女性記者に対するセクハラ発言疑惑を受けたものだが、福田氏は疑惑を否定している。

新潮社はさらに19日、福田氏のものだとする声が「抱きしめていい?」、「胸触っていい?」などと話している録音を一部公開した。さらに、その他の聞き取りも公開。そのなかでは「おっぱい触っていい?」という発言もあったと伝えている。

これとは別に、新潟県の米山隆一知事は18日、週刊誌取材を機に、金銭の授受を伴う女性関係があったことを認め、辞職を表明した。

日本の保守的な社会はこれまで、世界的なセクハラ被害者を支援する「Me Too(私も)」運動で後れを取ってきた。

ハリウッドの大物プロデューサーだったハービー・ワインスティーン氏(66)による性的加害行為に対する糾弾から始まった「Me Too」運動は、世界各国で大規模なセクハラ反対運動のきっかけとなった。

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福田氏は、疑惑については裁判で争っていくつもりだとコメント。辞任については、財務省が「厳しい状況」にある中、職責を果たすことが困難と判断したと説明した。

財務省は、弁護士事務所を通じて疑惑内容を調査する方針を示している。

財務省はかねてから、学校法人「森友学園」との国有地取引をめぐる決裁文書の改ざん問題で非難を浴びている。公文書改ざんは、縁故主義の批判から安倍晋三首相を擁護するのが目的だったとみられている。
Junichi Fukuda

画像提供, AFP
画像説明, 福田氏は、疑惑については裁判で争っていく姿勢を示した
「声を上げられず我慢」

女性の労働人口を押し上げようという努力の裏で、日本ではなお、公共・民間問わずに大きな男女格差がある。

福田事務次官の辞任発表に先立ち、週刊新潮報道と財務省の当初の対応を受けて日本新聞労働組合連合(新聞労連)は声明を発表し、職務環境でのより強い女性保護を訴えた。

新聞労連は、多くの女性記者が「取材先と自社との関係悪化を恐れ、セクハラ発言を受け流したり、腰や肩に回された手を黙って本人の膝に戻したりすることを余儀なくされてきた。屈辱的で悔しい思いをしながら、声を上げられず我慢を強いられてきた」と指摘。「こうした状況は、もう終わりにしなければならない」と呼びかけた。
政治的混乱

これとは別に、新潟県の米山隆一知事(50)が18日、複数の女性と関係を持つために金銭や贈り物を渡したという報道をめぐり、辞職を表明した。

独身の米山氏は記者会見で、「なかなかお付き合いする人にも恵まれない中で(中略)歓心を買おうとした」と説明した。

同氏はまた、こうした関係が「売買春と言われる可能性はあると思う」と述べた。

その上で、これ以上県政の「混乱」を招かないよう、辞任を決めたとしている。

(英語記事 #MeToo hits Japan as top official resigns )

日本に#MeToo上陸 セクハラ疑惑で財務次官が辞任












2017年12月31日

暴行や虐待、そして強姦について被害者が話をするのは、どのような状況だろうと辛く、困難なことだ。警察や司法の手続きを通じて正義を獲得しようとしても、被害者がほとんど乗り越えがたい障害に直面する国もある。

日本もそうした国の一つだ。

「強姦」という言葉そのものを公の場で使うことさえ憚(はばか)られる日本社会は、根強い慣習や社会の規範によって、被害に遭った女性をほとんど、ことごとく沈黙させてきた。

しかし、1人の女性が今年5月、知り合いのジャーナリストに強姦されたと名乗りを上げて発言した。ジャーナリストの伊藤詩織さんだ。相手の男性は、一切の違法行為を否定している。

BBCラジオ番組「Business Matters」が、伊藤詩織さんに話を聞いた

以下は、Business Matterの英語インタビューをもとに、日本語表現をBBC日本語版が伊藤さんに補足取材で確認した。



伊藤: 私は2年前の2015年にレイプされました。私をレイプした男性は、日本の大手テレビ局のワシントン支局長だったので、私にワシントンでの仕事のオファーをしてくれました。

就労ビザの話をする必要があったので、その男性と会いました。信頼し、尊敬する人があんなことをするなんて思いもよらず、とても辛く、混乱しました。

有力な政治家たちと深い親交のある人なので、とても怖かった。なので、名乗りを上げることが正しいのか、自分を信じてくれる人がいるのか、かなり悩みました。

それでも結局、「警察に行こう」と決心しました。有名なジャーナリストを告訴すれば、日本でジャーナリストとして働くのが難しくなるのは分かっていました。

何度も違う警察官に話し、ようやく担当してくれるという捜査員にたどり着くと、その人は「こういうのはよくあることで、捜査できない。まず起訴されないし、有罪にならない。ただの時間の無駄だ」と言いました。

でも私が、「どのホテルから出てきたか分かっているんです。ホテルには防犯カメラがあるはず。少なくとも、それを確認してもらえませんか」と言うと、その人は数日後に確認してくれました。

映像で、相手の男性が私をタクシーから引きずり出す様子が見えました。なので捜査員は「なるほど。これは使える」と言いました。なので、事件を受理してもらって、立件してもらえると思いました。

すると捜査員は、「いいですか、大手テレビ局の支局長を告訴するんだ。あなたはもう絶対、日本では記者になれない」と言いました。

BBC: 捜査員、あるいは刑事がそう言ったんですね?

伊藤: 捜査員です。

BBC: どう感じましたか?

伊藤: 決断するのはかなり大変でした。でも、やるしかありませんでした。自分自身の真実に自分でふたをしてしまったら、私はジャーナリストにふさわしくありません。それに、いろいろな疑問が湧いてきたので。「なぜ、捜査できないのか」と。

やがてついに、捜査員から立件すると連絡がありました。事件から2カ月後に、裁判所から逮捕状が出ました。

取り調べは、大変でした。捜査員が変わるたびに、私は処女かと質問されました。どうして何回もそんな質問をするんでしょうか。

仕事にも行かなくなりました。街中で同じような背格好の男の人を見るたびに、パニックしました。そのせいで、「日本から出た方が良いかもしれない」と考えるようになったんです。

BBC: 話を戻すと、その加害者がまだ米国にいる時に、逮捕状が出たんですね。

伊藤: そうです。

BBC: それからどうなったんですか。

伊藤: 成田空港で待機して、着陸したらすぐに逮捕するというのが捜査方針でした。しかし逮捕の予定日に捜査員から電話があり、「上からの命令があった」と言われました。逮捕は中止されました。

とてもショックでした。裁判所の逮捕令状が一旦出たら、捜査員がそれを取り消すなんてありえないので。だからどうして中止なのか、どういう経緯なのか尋ねましたが、捜査員は教えてくれませんでした。「ともかく異常で珍しい事態だ」と言われました。

BBC: あなたは日本で初めて本名を名乗って、「強姦されました。日本で私にあったことです」と公言した人だと、その理解で合っていますか?

伊藤: 家族や恋人でも見知らぬ相手でもない、仕事上の知人から強姦されたと、顔を出し、名乗りを上げて話をしたのは私が最初だと、人から聞きました。

BBC: これまでの経験から、自分の国について何を学びましたか? 発言して以来、周りから何を言われましたか。

伊藤: とてもがっかりしました。その後の反応で外出できなくなりました。どうしても外出する必要がある時は、変装しなくてはなりませんでした。私の個人的な生活や家族について色々書いてあるウェブサイトも、目にするようになりました。家族の写真が載っていたので、家族や友達と出かけたら、その人たちに何があるか分からないと怖くなり、家から出られなくなりました。

勤務先のメディアを辞め、フリーランスで活動することを決め、英国のメディアで働くようになりました。この夏に英国に引っ越す機会があり、外出できる人間に戻ることができたと感じました。

BBC: 私たちは今、ここ東京で話をしているわけですが、今では日本や東京についてどう感じますか。少しでも変わったと思いますか。

伊藤: やっとですが、小さな小さな変化を感じます。今では、政治家の人たちも制度を変えよう、真実を追求しようと動いています。そして110年ぶりに強姦に関する法律が改正されました。

ジャーナリストとして、メディアを通して色々な形で自分の経験について語ろうとしたんですが、どれもうまくいかなかった。だから最終的には個人として声を上げるしかありませんでした。

性暴力は突然、いつ誰に起きるか分からない。世界のどこでも。でも私には、その後の展開の方がショックでした。本当に絶望的になりました。自分はこんな社会で暮らしているんだと、それまで気づいていなかったので。

法制度の変革には時間がかかります。けれども、社会の仕組みも変わることができます。被害者を支援して、手を差し伸べるようにすれば、被害者が次の一歩を踏み出せるようになる。それは暴力を生き延びたサバイバーにとって、とても大きな変化となります。いい変化がいくらか起きているので、私はとても前向きです。

(英語記事 Japan's #MeToo Moment)

日本でも「#MeToo(私も)」の声 伊藤詩織さんの話


2017年12月7日

米タイム誌は6日、毎年恒例の「パーソン・オブ・ザ・イヤー(今年の人)」に「沈黙を破った人たち」を選んだと発表した。性的嫌がらせや加害行動の被害経験について沈黙を破り、発言した人たちの勇気を称えている。

タイム誌のエドワード・フェルゼンタール編集局長は、「これほどあっという間に社会が変わるのは、数十年ぶりだ」と選考理由を話した。フェルゼンタール氏は米NBC番組「トゥデイ」で、性的加害行動を糾弾する動きは、「何百人もの女性と、一部の男性が、個人的に勇気ある行動をとって前に出て、自分たちの物語を語り始めることで始まった」と称えた。

性的加害行動を糾弾し、告訴、告発した人たちの運動は、今年10月にハリウッドの大物映画プロデューサー、ハービー・ワインスティーン氏の長年の行動に対する疑惑が表面化したのを機に、「#MeToo(私も)」ハッシュタグがソーシャルメディアで拡散し、抗議行動のうねりにつながった。

これについてタイム誌は、ハッシュタグは「運動全体の一部だが、その全てではない」と位置付けている。

タイム誌は「今年の人」を発表する最新号の表紙に、様々な立場の女性を登場させ、性的加害行動がいかに社会全般に蔓延(まんえん)しているかを表現した。著名人は、最初にワインスティーン氏を公に糾弾した女優アシュリー・ジャッド氏と、自分の尻をつかんだ元DJに対する民事訴訟に勝訴した人気歌手テイラー・スウィフト氏の2人。

ほかには、メキシコ出身で米国の果樹園でイチゴを摘む仕事に就いていたイサベル・パスカルさん(42、仮名)、カリフォルニア州サクラメントの企業ロビイスト、アダマ・イウさん(40)、配車アプリ「ウーバー」の最高経営責任者を退任に追い込んだ元エンジニアのスーザン・ファウラーさん(26)が表紙に並んでいる。

記事中ではさらに大勢が、「沈黙を破った人」として紹介されている。

同誌は、今の「この瞬間」には「リーダーもいないし、全体をまとめる共通の主義主張もない。『#MeToo』ハッシュタグは(たちまち、#BalanceTonPorc、 #YoTambien、 #Ana_kamanなど様々な言葉に形を変えて)、何百万人もの人が立ち上がり自分の物語を語るための連帯のよりどころとなった。これは運動全体の一部だが、その全てではない」と書いている。

「沈黙を破った多くの女性や男性は、あらゆる人種、あらゆる所得層、あらゆる職業にわたり、ほとんど全世界の隅々にまでいる」と同誌は書き、その大勢が全体として、恥辱を憤りに、恐怖を激怒に変えさせたと指摘。何千、何万もの人が世界各地で抗議行動に参加し、権力を握る多数の男性にそれまでのふるまいの責任をとらせたという。

記事ではほかに、「#MeToo」ハッシュタグを10年以上前に作った活動家、タラナ・バーク氏や、今年10月にソーシャルメディアで大拡散するきっかけを作った女優アリッサ・ミラノ氏を取り上げている。ハリウッドの大物エージェントに性器をつかまれたと告訴した俳優テリー・クルーズ氏、雇用主に集団訴訟を起こしたホテル従業員たち、オレゴン州上院議員が自分の体を長年にわたり触り続けたと名指しで糾弾したサラ・ゲルサー同州上院議員、名乗りを上げれば解雇されると恐れる病院職員も登場する。さらに、ドナルド・トランプ米大統領に大統領選中のテレビ討論会で「いろんなところから血が出ている」と嘲笑された、元フォックス・ニュースのメガン・ケリー氏も取り上げられた。

ケリー氏はトランプ氏について、「#MeToo」運動がこれほど高まった一因で、その当選は「女性にとって後退だ」と述べた。

皮肉なことに、そのトランプ氏は昨年の同誌「今年の人」で、今年も次点だった。トランプ氏は先月末に、今回の「今年の人」を辞退したとツイートしたが、同誌は「大統領は正しくありません」と否定していた。



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画像説明, 2006年のタイム誌「今年の人」は「あなた」だった。インターネットで一般ユーザーが作り出すコンテンツの重要性を反映した選考だった

タイム誌の「今年の男性」選考は1927年に始まった。「良くも悪くも(中略)今年1年の出来事に最も影響を与えた人物」が選考基準だという。

選ばれた大多数は個人だったが、そうとは限らない。2014年の「今年の人」は「エボラ熱と戦う人たち」だったし、2011年にはいわゆる「アラブの春」を念頭に「抗議する人たち」を選んだ。

1950年には「枠が破られた」と説明し、「米国の戦士たち」を選んだ。ハンガリー動乱の起きた1956年には「ハンガリーの人たち」を選び、1966年には「25歳未満の米国人」、1969年には「中流米国人夫妻」を選んでいる。

2006年の「今年の人」は単に、「あなた」だった。インターネットで一般ユーザーが作り出すコンテンツの重要性を反映した選考だった。

(英語記事 Person of the Year: Time honours abuse 'silence breakers'

米タイム誌、今年の人は「沈黙を破った人たち」 性的加害行動を糾弾


2018年4月25日

日本ではこの2週で、モデルが著名写真家を搾取で批判し、2人の政府高官がセクハラ疑惑で辞任した。セクハラ被害者を支援する「Me Too」運動に長らく乗り気でなかったこの国で、一連の事件は議論を再燃させると共に、女性にとっての厳しい現実を明らかにした。

世間からの非難が幅をきかせる日本で、声を上げた女性が妨害されるのはそう驚く事ではない。米国務省は昨年、日本に関する人権報告書で、職場でのセクハラが「幅広く」残っていると指摘した。短期間にこれだけの事件が発覚した今回も、加害者とされる著名人が批判され公人が辞職しただけでなく、声を上げた女性たちも反感の対象となっている。



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画像説明, 福田氏は疑惑を全て否定している

最大の事件は、財務省の福田淳一事務次官が女性記者に性的な言葉をかけたことで辞任に追い込まれたことだ。福田氏は先週、辞意を表明したが、疑惑を報道した週刊新潮を名誉毀損(きそん)で訴えるとしている。

辞任劇の後、テレビ朝日が自社の社員が被害者だったと明かし、財務省に抗議するとの声明を発表した。

被害者に厳しい社会

この事件で最も興味深いのは、関係各所の対応だろう。財務省は事実解明のために被害者に名乗り出るよう求め、各方面から非難を浴びた。野田聖子総務相兼女性活躍担当相も、この要求は被害者に対し、加害者とされる人々に会うことを強いていると反対した。



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画像説明, 野田総務相

被害者の雇用主の対応も日本の現状を如実に示している。テレビ朝日の篠塚宏取締役報道局長は、女性記者は上司から自身の体験を記事にすることを反対され、事件を週刊新潮に持ち込んだと説明した。

篠塚氏は「社員からセクハラの情報があったにも関わらず、適切な対応ができなかったことに関しては深く反省しております」と述べ、被害者の感情が第一の懸念だと話した。

福田氏の辞任発表に先立ち、日本新聞労働組合連合(新聞労連)は声明を発表した。

声明では、多くの女性記者が「屈辱的で悔しい思いをしながら、声を上げられず我慢を強いられてきた」と強調し、「記者が取材先からセクハラ被害を受けたと訴え出た場合、会社は記者の人権や働く環境を守るため、速やかに毅然とした態度をとるべきだ」としている。

一方で、被害者の女性記者はソーシャルメディアや政治家、著名人から大きな反感を買った。多くは、彼女が取材の録音を週刊新潮に渡したことについてだ。

自民党の下村博文・元文部科学相は23日、都内で行った講演で記者のこの行動について「ある意味で犯罪だと思う」と発言した。同氏はその後、謝罪して発言を撤回している。

著名なコメディアンの松本人志氏は22日、テレビ朝日が女性記者に対する福田元次官のセクハラを知っていたなら、なぜこの記者に取材を続けさせたのかと疑問を投げかけた。

松本氏は、もしテレビ朝日が女性記者の意思に反して「そこ(福田氏の取材)に行かせたんだったら、これはパワハラじゃないのか」と指摘した一方、テレビ朝日がパワハラと認めないなら、女性記者が1年半もの間、自らの意志で取材してきたことになり、「そうなったらなったで、これはハニトラじゃないのか」とも語った。

写真家と「ミューズ」

テレビ朝日の女性記者が声を上げる少し前、ダンサーのKaoRiさんが、日本の写真界を震撼させた。

KaoRiさんはブログで、日本で最も著名な写真家の一人、荒木経惟氏のモデルをしていた時期の体験をつづり、荒木氏から経済的・芸術的に搾取されていたと告白した。

荒木氏はポルノとアートの狭間を突く作風で知られる。裸はもちろん、女性が緊縛され、空中に吊り上げられている写真が有名だ。女性蔑視や性差別といった批判も浴びてきた一方、本人はそれを単なる解釈だと切り捨ててきた。KaoRiさんは荒木氏の「ミューズ」として、こうした作品の被写体となってきた。

KaoRiさんは2016年に荒木氏との仕事を辞めているが、昨今の「Me Too」運動がミューズ時代の経験を話す勇気をくれたという。

ブログによると、荒木氏はKaoRiさんと契約書を交わさず、撮影報酬がないこともあった。部外者の前で過激な写真を撮られた一方、ヌード写真は彼女の許可なく使用された。



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画像説明, KaoRiさんの写真を使ったTシャツを着てイベントに出席する荒木経惟氏(左)

そして写真の商用利用を止めてほしいと訴えたところ、KaoRiさんは一方的に切り捨てられたという。ミューズとしての経験は、彼女の心身に多大な傷を残した。

BBCの取材でKaoRiさんは、ブログの発表後に荒木氏と話をしたものの、彼女の訴えは全て退けられたと語った。

KaoRiさんは荒木氏に性的な不正行為を受けたとは言っていない。しかし一連の疑惑は、アーティストと「ミューズ」という関係、そしてアートであれば同意の有無を左右できるという考えに対する疑問を投げ掛けてくる。

荒木氏に対しては、別のモデルもフェイスブックで被害を訴えている。彼女はBBCの取材に対し、撮影後に突然、荒木氏に体を触られたと説明。この一件を経てパニック障害に陥り、療養のために日本を離れていたと語った。

撮影現場には雑誌編集者も含め多くの目撃者がいたが、荒木氏を止めに入ってくれた人はいなかったという。

彼女は日本のアート業界や出版業界に対する強い不信感を語った一方、フェイスブックに投稿したことで応援の声ももらったと話した。

「同じ状況にある女性たちから沢山、メッセージが来ました」

荒木氏はこれらの疑惑について、公の場でコメントしていない。BBCの取材にも返答はなかった。

「NO」と言わない社会

KaoRiさんもこのモデルも、メディアで大きく取り上げられたり、訴えに対する世間からの支持を得ていない。

人権団体「ヒューマンライツ・ナウ」事務局長の伊藤和子弁護士は、日本の性的搾取に関する法律は他の先進国に比べ極めて遅れていると指摘する。2017年6月、110年ぶりに強制性交等罪が改定されたものの、問題はもっと深いところにあるという。

「性犯罪や人権に関する法律の整備がされていない現状と、我慢を強いる文化が、若い女性の立場を危うくしています」

伊藤弁護士はBBCに対し、「日本人が『NO』と言わない教育を受けてきた」ことも、自分が危機的な状況になっても拒否できない背景にあると説明した。

「必要なのは女性たちが横のつながりを持つこと。一人ではなくみんなで声を上げることが大事です」



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画像説明, 隣国の韓国とは対照的に、日本での「Me Too」運動はまだ広がりを見せていない。写真は国際女性デーに韓国で行われた集会の様子

伊藤弁護士は、自らへの性暴力被害を訴えたジャーナリスト、伊藤詩織さんの国連本部での記者会見にも同行している。

詩織さんは仕事上の知人から強姦されたと顔と名前を出して話した最初の日本人だ。しかし彼女の場合もやはり、男性だけでなく女性からもその声は無視された。

BBCの取材に対し詩織さんは、メディアを通して自分の体験を語ろうとしたが上手くいかず、個人として声を上げるしかなかったと話した。

「私には、(性暴力よりも)その後の展開の方がショックでした。本当に絶望的になりました。自分はこんな社会で暮らしているんだと、それまで気づいていなかったので」

詩織さんはそれでも、社会は少しずつ変化していると前向きさを崩さない。被害者を支援して、手を差し伸べるようにすれば、被害者が次の一歩を踏み出せるようになると語った。

KaoRiさんの告白にいち早く賛同した女優の水原希子さんにも、その勇気に称賛の声が上がった。

水原さんはインスタグラム上に「(KaoRiさんが)長い間どれ程苦しかったか、想像するだけでも心が痛みます。勇気をもってこの話をシェアして下さった事に感謝します」と投稿した。

「モデルは物じゃない。性の道具じゃない。みんな同じ人間。心を交わし合う事を忘れてはいけない」

(取材: 白石早樹子、加藤祐子 BBC)

(英語記事 #MeToo Japan: What happened when women broke their silence

日本の #MeToo :沈黙を破り始めた女性たち



2018年4月17日

ハリウッドのセクハラ問題を報じた米紙ニューヨーク・タイムズと米誌ニューヨーカーが17日、優れた報道などに与えられるピュリツァー賞の公益部門を受賞した。

両媒体は昨年10月、多数のアカデミー賞受賞作を世に送り出した大物プロデューサー、ハービー・ワインスティーン氏(66)が、性行為の強要を含む多数の性的加害行為を繰り返していたと報道。ワインスティーン氏は性交渉は合意の上だったと主張しているが、英米で警察が捜査に着手したほか、セクハラ被害者を支援する「Me Too」運動に発展した。この報道を機に、さまざまな業界でセクハラ問題が取り上げられている。

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ピュリツァー賞のダナ・キャニディー理事は、ニューヨーク・タイムズのジョディ・カンター氏とメガン・トゥヘイ氏が主導するチーム、およびニューヨーカーに寄稿したロナン・ファロー氏は「爆発的で強力な影響力のジャーナリズムによって、裕福で権力のある性搾取者を暴き立てた」と評価した。

ニューヨーク・タイムズとニューヨーカーが別々に取り上げたワインスティーン氏の性的加害疑惑を受け、100人以上の女性が同氏による被害体験を明らかにした。

ワインスティーン氏は疑惑を受けて謝罪したが、性行為を強制したことはないと主張している。同氏は自ら立ち上げた映画会社ワインスティーン・カンパニーから解雇されたほか、多くの民事提訴を受けている。また、これまでにロンドンとロサンゼルス、ニューヨークの警察がそれぞれ、捜査に着手している。

ヒップホップ歌手が初の受賞

ピュリツァー賞は文学やその他の芸術にも与えられる。今年はラッパーのケンドリック・ラマー氏(30)が、ジャズやクラシック以外のアーティストとして初めて、音楽部門を受賞した。

報道ではこのほか、米紙ワシントン・ポストが、米アラバマ州のロイ・ムーア元判事(71)による複数女性への性的暴行疑惑を報じ、調査報道部門を受賞した。昨年12月の上院補選に共和党から立候補していたムーア元判事は容疑を否定しているが、この選挙では民主党のダグ・ジョーンズ候補に敗北した

ニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストは、2016年米大統領選にロシアが干渉していた疑惑をめぐる報道でも、共同で国内報道部門にも選ばれた。

国際報道部門は、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領の麻薬戦争を報じたロイター通信が受賞した。同社は、ミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャの人々が暴力を逃れて隣国バングラデシュに避難している問題についての報道で、特集写真部門も獲得した。



画像提供, Reuters

画像説明, ロイター通信はロヒンギャ難民の報道写真で特集写真部門を獲得した

ピュリツァー賞は1917年の創設。公益部門や速報部門、アニメ部門、写真部門など21部門があり、毎年2400件以上の応募がある。

(英語記事 Joint Pulitzer prize for Weinstein exposé

今年のピュリツァー賞 ハリウッドのセクハラ追及報道が受賞