【親も子どもも幸せに】生殖医療補助法案、子どもの出自を知る権利は置き去りのままでいいの?末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員2020/11/9(月) 6:30.私は何者か知りたい ~AID・進歩する生殖補助医療の陰で~.ドナー情報開示範囲拡大を 生殖医療法案巡り署名活動2023/11/16(木) 15:54配信等生殖補助医療と出自を知る権利に関してPDF魚拓




<生殖医療と出自を知る権利>㊤

 生殖技術が進展する中、生まれる子が遺伝上の親を知る権利は今も保障されていない。超党派の議員連盟は、子どもの「出自を知る権利」について、今年中の法整備を目指し、生殖補助医療のルールづくりとあわせ協議中だ。日本産科婦人科学会は今月、生殖補助医療を管理する公的機関の設置を政府に要望した。置き去りにされてきた子ども自身の権利について考える。(小嶋麻友美)

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◆怒りや悲しみで心が引き裂かれた

 用があれば電話をかけるし、一緒に外食に出かけることもあるが、母親との溝は埋まっていない。東京都の会社員石塚幸子さん(42)は、自分を肯定できずに20年、生きてきた。

 「後ろめたい技術で私は生まれたのか」

遺伝子上の父親がわからず、苦しみを抱えている石塚幸子さん

 提供された精子で自分が生まれたと知ったのは2002年。父親が患っている筋ジストロフィーが50%の確率で遺伝すると知り、悩んでいた大学院1年目の夏だった。ある夜、「大事な話がある」と母親に呼ばれ、普段は使わない客間で向き合い、告白された。

 「お父さんとは血がつながっていないから」

 両親は慶応大病院で、第三者の精子を使う人工授精(AID)を受けていた。父親の病気は自分と無関係と分かって一瞬、ほっとしたものの、疑問や怒り、悲しみで心が引き裂かれた。

 「自分の人生が母の嘘(うそ)の上に成り立っているように感じた。何が本当か、分からなくなってしまった」

 母親は詳しく語らない。石塚さんが周りに相談することへの否定的な態度に、さらに傷ついた。涙が止まらず、翌月、実家を出た。研究が手につかなくなって大学院を中退。幼い頃から疎遠だった父親は何も語らぬまま、翌年亡くなった。

第三者の提供精子を使った人工授精(AID) 第三者の精子を子宮に注入する方法。日本では1948年に慶応大が初めて行い、国内で累計1万~2万人が生まれたとされる。日本産科婦人科学会によると、近年は年間3000~4000件行われ、毎年80~130人ほど生まれている。

◆提供者に会ってみたい

 日本でのAIDは戦後始まり、男性不妊の夫婦に子どもを授ける手段として慶応大を中心に行われてきた。医療機関は提供者についての情報を伏せ、生まれた子にも出生の事実を隠すのが「家族の幸せ」と一般に考えられていた。

 だが、思わぬことで秘密が明らかになる例はある。1980年代以降、欧州などでは子どもが提供者の情報を求め、「出自を知る権利」の法制化が進んだ。日本でも当事者が声を上げ始め、石塚さんが真実を知った翌年の2003年、厚生労働省の専門部会は「生まれた子のアイデンティティー確立などに重要」と権利を認める報告書をまとめた。

 「提供者に会ってみたい。『精子』ではなく『人』がいて、自分が生まれたことを実感したい」

 石塚さんらは情報の全面開示を訴えているが、生殖補助医療そのものに議論が割れる中、法整備は進まないまま20年近くになる。

 医療機関は不妊治療への影響を懸念する。慶応大は今も匿名の方針だが、「出自を知る権利」の説明を始めてから提供者の確保が難しくなり、17年にAIDの新規患者受け入れを停止した。年間1500~2000件行っていた治療は、現在300件ほどに激減している。

◆ドナー確保の体制整備を

 産婦人科の田中守教授は「20年先を想像しなければならず、提供者には難しい問題。法律も時代で変わる可能性がある」と述べ、国は権利とあわせてドナー確保の体制を整えるべきだと指摘する。

 石塚さんは、自分を生み出したAIDに賛同できない。ただ、レズビアンのカップルが精子提供者の存在を隠さず、子育てする姿は「いいな」とも思う。

 「多様な家族を認める社会に向かって、この技術が使われるのなら、社会の考えを一緒に変えていくべきだ」

出自を知る権利 生殖補助医療で生まれた子どもが、遺伝上の親について知る権利。「できる限りその父母を知る」権利を保障した国連の子どもの権利条約などを根拠に、19カ国・地域が法制化。厚生労働省の専門部会が2003年に報告書をまとめ、氏名、住所などを開示請求できるとしたが、法案化は見送られた。生まれた子の親子関係を定めた20年の民法特例法は、付則で「出自を知る権利」を「おおむね2年をめどに検討し、法的措置を講じる」とし、超党派の議連が協議している。

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「私は後ろめたい存在」精子提供で生まれた女性 出自を知る権利、保障されず置き去りに

2022年2月20日 06時00分



会員制交流サイト(SNS)で知り合った男性から精子提供を受け、子を出産した東京都内の30代の女性が、男性が国籍や学歴を偽ったことで精神的苦痛を受けたとして、約3億3000万円の損害賠償を求め27日、東京地裁に提訴した。SNSなどで個人間の精子取引が広がる中、代理人弁護士によると、実際のトラブルを巡る訴訟は全国初とみられる。

◆性交10回で妊娠出産も…子どもは児童福祉施設へ

 訴状によると、女性は夫と、夫との間で10年以上前に生まれた第1子と3人暮らし。夫に難病の疑いがあることなどからSNS上で精子ドナーを探し、2019年3月、20代男性と連絡を取り合い始めた。

 女性は、男性が京大卒の日本人で、妻や交際相手はいないと信じた上で、10回程度、性交による精子提供を受け同年6月に妊娠。その後、男性が本当は中国籍で別の国立大を卒業し、既婚者だったことが判明した。身ごもった子は出産したが、都内の児童福祉施設に預けているという。

◆規制なく…精子提供SNSアカウント急増中

 女性側は、男性が性的な快楽を得るなどの目的で虚偽の情報を伝えていたとし、「望んでいた条件と合致しない相手との性交渉と、これに伴う妊娠、出産を強いられた」と主張。自らの子の父親となるべき男性を選択する自己決定権が侵害されたと訴えている。

 第三者の精子や卵子で生まれた子はこれまでに推計1万人以上とされる。個人間の取引の規制がないまま、精子の提供をうたうSNSアカウントなどが急増している。(小嶋麻友美)

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精子取引トラブルで訴訟「京大卒独身日本人と信じたのに…経歴全部ウソ」精子提供者を女性が提訴 全国初か

2021年12月27日 20時26分



 第三者の精子や卵子を使う不妊治療などの生殖補助医療について、日本産科婦人科学会(日産婦)は17日、議論や実務を担う公的機関を設置するよう国に求める提案書を、野田聖子こども政策担当相に提出した。

 提案書は、提供精子・卵子などを使う生殖補助医療の管理や「出自を知る権利」の在り方、子どもの福祉・人権にまつわる議論などについて、国民全体の問題として管理運営することが必要だと指摘。今後創設されるこども家庭庁の中に公的機関を設置することを提案し、野田氏も前向きに応じたという。

 日産婦の三上幹男倫理委員長は「テクノロジーが発展し、(生殖補助医療にまつわる)倫理観も時代で変わる。1学会ではなく公的機関で対応し、きちんと管理すべきだ」と話した。

 生殖補助医療を規制する法律は日本にはなく、日産婦の会告が実質的なガイドラインとなっている。2020年12月、精子提供などで生まれた子の親子関係を定める民法の特例法が成立したが、「出自を知る権利」や精子や卵子の売買規制などについては付則で「2年をめどに検討し、法的措置を講じる」として先送りした。超党派の議連が法整備を目指して議論している。

 現在、生殖補助医療によって生まれる子は、14人に1人に上る。医療の枠外でインターネットなどを介した精子の個人間取引なども広がり、トラブルに発展するなど、規制の在り方が急務となっている。

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精子・卵子提供や「出自を知る権利」議論の管理運営…日産婦が公的機関設置を国に提案

2022年2月18日 09時08分



第三者から卵子や精子の提供を受ける生殖補助医療で生まれた子に関し、親子関係を明確にする民法の特例法案が今国会で成立する見通しだ。既に参院を通過し、2日に衆院法務委員会で審議と採決が行われる予定。長年、法整備の必要性が叫ばれながら、停滞していた問題は前進する。ただ、子の「出自を知る権利」の明記などは、当事者らの要望が強いにもかかわらず、積み残しの課題として結論を2年後に持ち越した。(坂田奈央)

 ◆卵子提供で出産した女性が「母」、精子提供に同意した夫が「父」

 「(現在は)法律的には訴訟を起こさないと親子関係を確定できない。それを1日も早く解決する」。11月19日の参院法務委で行われた特例法案の審議。提出者として答弁した自民党の古川俊治氏は、成立させる意義を強調した。

 法案は自民、立憲民主、公明、国民民主、日本維新の会、社民の6党が議員立法で共同提出。▽女性が自分以外の卵子を使って出産した場合、卵子提供者でなく出産した女性を「母」▽妻が夫の同意を得て、夫以外の精子提供を受けて出産した場合、夫は生まれた子の「父」であることを否認できない―と規定する。

 現行の民法は第三者が絡む生殖補助医療による出産を想定していない。子の身分が法的に裏付けられていないため、精子提供で誕生した子の父であることを否認する訴訟も起きていた。

 解決に向けた議論は1998年に旧厚生省で議論が始まり、厚生労働省や法務省の審議会が親子関係の明確化、出自を知る権利の明記などを打ち出してきた。自公両党が法案を策定したこともあるが、提出に至らず、ようやく今国会で成立の道筋が見えた。

 ◆卵子・精子の売買や代理出産の規制などは2年後めどに検討

 「法案に出自を知る権利が入っていないことに失望している」。参院審議に参考人として出席した慶応大の長沖暁子講師は、生殖補助医療で生まれた当事者らの聞き取り調査を続けてきた立場から、出自を知らないまま成長した後で事実に直面すると、人生に喪失感を覚える場合があると指摘。「子の福祉や権利を最優先にしないといけない」と主張した。

 法案には出自を知る権利だけでなく、課題とされる卵子・精子の売買や代理出産の規制などは盛り込まれなかった。成立を目指してきた議員の中にも「出自を知ることで不幸になる場合もある。提供する側の萎縮にもつながり、確保が難しくなる」(自民党中堅)などの慎重論があるためだ。

 議論が置き去りになることを懸念する声は当事者に強く、11月24日には精子提供で生まれた成人の女性らが記者会見し「親が真実を伝え、その上で子が提供者の情報にアクセスするかどうか、選べることが重要だ」などと訴えた。日本弁護士連合会は、法案に出自を知る権利や情報管理制度を盛り込むよう求める声明を発表している。

 参院法務委は法案可決に際し、残る課題は「2年後をめどに法的な措置を検討する」ことを盛り込んだ付帯決議を議決。各党は成立後、超党派の議員連盟を立ち上げ、議論に入る。

 出自を知る権利の場合、提供者情報をどこまで開示するのか、どの組織が情報を管理するのかなどが論点となる見通し。各党内の意見集約が難航する可能性もあり、関係議員からは「法制化するなら、党議拘束を外して採決するしかない」との声も出ている。

 産婦人科医の吉村泰典・慶応大名誉教授の話 子どもの法的地位を定めたことは大きな進歩。出自を知る権利は日本の風土や家族観もあって簡単にはまとまらなかったのだろうが、認められる方向になるだろう。

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「法案に失望…」出自を知る権利は入らず 卵子・精子提供による子の親を定める民法改正案が成立へ

2020年12月2日 06時00分



◆法に規定なし

 自民、公明、国民民主などの各党は、不妊治療で夫婦以外の第三者から卵子や精子の提供を受けて出産した場合の親と子の法的関係を定める民法特例法案を、26日召集の臨時国会に提出する方針を固めた。卵子提供者ではなく出産した女性を「母」とすることなどが柱。第三者の精子提供により生まれた子どもは国内で1万人以上とされるが、生殖補助医療を前提とした親子関係に関する法規定はなく、法整備の必要性が長年指摘されていた。

◆第三者の精子提供でも、同意の夫が父に

 法案では、第三者から卵子の提供を受けて出産した場合、卵子提供者ではなく出産した女性を「母」と規定。妻が夫の同意を得て、第三者の精子の提供を受けて出産した場合、同意した夫は、生まれた子の「父」であることを否認できないと定める。離婚時などに、夫が子との血縁関係がないことを理由に、親子関係を否定できないようにした。

 現行民法では、生殖補助医療を前提とした親子関係の規定がなく、精子・卵子提供で生まれた子が法律上不安定な立場に置かれてきた。

 2000年には旧厚生省の専門委員会が、こうした子の法的地位を確定する法整備などを条件に、第三者からの精子・卵子の提供による生殖補助医療を認める報告書をまとめた。法務省の法制審議会の部会での議論を経て、16年には自民・公明両党で法案をまとめたが、国会提出には至らなかった。

◆自民・野田氏「法整備が必要」

 今回の法案のとりまとめに当たった自民党の野田聖子幹事長代行は15日、本紙の取材に「日本の不妊治療の技術は高く、想定できなかったこともできるようになっている。技術革新はいいが、精子・卵子提供で生まれた子の法的地位が定まっていないことは問題で、法整備が必要だ」と話した。 (坂田奈央)

出産女性が母に 卵子・精子提供で生まれた子の親を明確化 自公国民などが法案提出へ

2020年10月16日 06時00分


https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/15/5/15_5_5_46/_pdf/-char/ja






 第三者の提供精子、卵子を用いた生殖補助医療の法制化を巡り、男性不妊のため子どもができない夫婦を支援する一般社団法人「AID当事者支援会」が、出自を知る権利を踏まえたドナー情報の開示範囲拡大などを求め、オンライン署名を集めている。18日まで。法制化論議に関わる国会議員に近く提出する。  超党派の議員連盟は7日の会合で法案の骨子たたき台を提示。生まれてくる子どもが18歳以上になって希望すればドナーの身長、血液型、年齢を一律開示する方針を明らかにし、個人の特定につながる氏名の開示はドナーの同意が必要とした。  これに対し、同会は(1)子どもが未成年の場合、親が開示を請求できるようにする(2)ドナーの趣味や職業、提供の理由なども開示対象に含める―といったことを求めている。  提供精子で生まれた子どもを育てる同会代表の寺山竜生さん(50)は「事実を伝えると、子どもはドナーがどんな人か必ず聞いてくる。身長、血液型、年齢だけでは人となりが分からず、しかも18歳になるまで開示されないのでは、出自を知る権利の保障が全く不十分だ」と話した。

ドナー情報開示範囲拡大を 生殖医療法案巡り署名活動

2023/11/16(木) 15:54配



生殖補助医療の在り方を考える超党派の議員連盟(野田聖子会長)は7日の総会で、第三者提供の精子や卵子を扱う生殖補助医療に関する新法に関し、身長や血液型など提供者情報の一部を開示することを盛り込んだたたき台を提示した。各党の意見を取りまとめ、来年の通常国会への提出を目指す。生まれた子が遺伝上の親を知る「出自を知る権利」を重視した。  たたき台では、精子や卵子の提供時に独立行政法人が提供者の氏名や住所、マイナンバーなどの情報を収集し、100年間保管する。子が18歳になった後に要望すれば、身長、血液型、年齢を一律に開示。個人の特定につながる氏名は事前に同意を得ている場合のみ開示する。

生殖法案、提供者情報一部開示へ 「出自を知る権利」を重視

2023/11/7(火) 18:39配信