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【Jude File】Episode3.『時の人』

弱冠19歳にしてマドリディスタとなったべリンガムの軌跡を定期的に振り返るためのコンテンツ ”Jude File” の第3編。

全編は下記のリンクから。



はじめに

2か月間の移籍マーケットが残り1週間となった頃、ヨーロッパのサッカークラブは、寝る暇もないほど人員整理に追われるクラブと、そうでないクラブに分かれた。

マドリーは、新たな9番獲得のチャンスで派手に動くことはなかった。その姿勢に、現地紙は9番はゴーストが着用しており、ベンゼマが恋しくなった時に姿を現すかもしれないなどと揶揄した。

そしてデッドラインのアラームが鳴った頃、レアル・マドリー(フロレンティーノ)はスヤスヤ眠っていた。それも当時より重みの増したジュード・べリンガムとの契約書を抱きながら。

そんなフロレンティーノの抱き枕となったべリンガムは、第3節セルタ戦・第4節ヘタフェ戦でゴールを決め、開幕節から4試合連続得点中である。この数字は、2009年のクリスティアーノに並ぶという事実があらゆるメディアで紹介されており、記録更新に王手をかけている。


パビリオン

世に溢れている出来すぎなストーリーでも、ヒーローはこんなに頻繁には出てこないだろう。マドリーの世界ではそれがあり得るらしい。

Episode2.で述べた第2節アルメリア戦に続き、第3節セルタ戦も、スコアボードにはべリンガムの文字があった。正確に言えば、彼の文字しかなかった。

この試合で、チームの先導者・ヴィニシウスがハムストリングを負傷した。もはや彼がいないゲームに慣れていないマドリーは困り果てた。誰もがチームの繊細さを痛感しただろう。

最終ラインから前線への配給は減り、ロドリゴの単騎突破だけが目立った。まるで先の丸い、おもちゃの剣で突いているようだった。

それでも後半35分、クロースのマイナス気味になったコーナーキックを、実質9番のホセルがフリックで方向を変え、その先にいたべリンガムが頭で押し込んだ。苦し紛れの勝利だ。

これで、べリンガムはセルタの本拠地エスタディオ・バライドスを、お馴染みのポーズを展示する国内3か所目のパビリオンとし、スカイブルーカラーの来場者たちは黙ってそれを見つめた。


時の人

ベルナベウは、来年5月にテイラー・スウィフトのコンサート会場となる。現時点では、新ベルナベウがアーティストに向けたイベント会場となるのは彼女が最初の事例だろう。

というのは過去の話であった。

9月2日の第4節ヘタフェ戦。べリンガムはこの試合でレモンターダの一撃を放った。タイスコアのまま、あと一歩がなかったマドリーのゲートを開いたのは、またしても「時の人」だった。その時、時計の針は95分を指していた。

デジャブのようなレモンターダにベルナベウは当然のごとく湧いた。そして、そこには数万人規模のビートルズのトリビュートバンドが舞い降り、彼らのかの有名なフレーズが響き渡った。
そう、テイラー・スウィフトの歌声より先に。

ゴールの瞬間は、これまでスタジアムで聞いた中で最も騒々しいものだった。信じられないよ。最後に彼らが『Hey Jude』を歌ったとき、私は足を止めて聴きたかった。足が震えていたね。僕はこういう瞬間のために契約したんだ。


べリンガムは試合後のインタビューで、マドリディスタの大合唱を絶賛し、一方でスペイン紙はその曲の主人公を表紙のモデルに抜擢した。

彼がヒーローである限り、あの名曲は英語が苦手なスペイン人の中でも歌われ続け、べリンガムはその度に2023年9月2日のことを思い出すのだろう。


追記:ファーストアワード

(2023/9/18)

当マガジンでの紹介が遅くなったが、べリンガムは8月のラ・リーガ月間MVPに輝いた。べリンガムの活躍を謳う記事のほとんどがクリスティアーノの名を出すほど、8月に残した数字には強力な説得力があり、これがマドリーでのファーストアワードとなった。