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【独占取材】世界のZ世代に支持されるSHEIN、その成功の鍵とは?


中国発アパレルECのSHEIN(シーイン)はZ世代を中心に注目を集め、世界で急成長している。米ブルームバーグの報道によると、直近の資金調達ラウンドでSHEINの価値は1,000億ドル(約12兆3000億円)とされ、ZARAとH&Mの時価総額を足しても、その価値には及ばないほど、高く評価されている。

同社の売上は、6年連続100%以上の伸び率を維持。米国、欧州、中東、東南アジアなど海外市場を中心に成長を遂げ、2020年には日本市場上陸を果たした。

SHEINはメディアの取材に対して慎重な態度を取っており、中国現地メディアの取材もほとんど拒否している。今回、筆者は長期的な交渉の結果、ようやくSHEINから質問をテキストで返答するという形で取材許可を得た。

SHEINの回答および中国での公開資料を基に、本記事の前半では、SHEINのサプライチェーン、ビジネスモデルを分析し、急成長の要因を探る。後半では、日本市場に向けた戦略を紹介し、日本市場攻略の可否を分析する。


中国発の会社なのに、中国一般人の間では知名度ゼロのワケ

世界市場でここまで知名度を高めてきたSHEINであるが、ビジネスモデルやサプライチェーン、商品・プロモーション戦略は謎に包まれている。その原因は、SHEINは設立後も積極的な情報発信をしておらず、メディアの取材もほとんど拒否してきたからである。日本メディアの報道においても、大半が中国メディアからの翻訳となっている。

このような背景から今回、SHEINが筆者の取材を受け入れたのも知名度の上昇とともに、謎に包まれた姿を世間に自ら披露する方向に転換したのだと感じさせられた。

また、アメリカやヨーロッパなどの市場では、その存在を知らない人がいないのと対照的に、中国国内では投資家やアパレル業界の人を除き、一般の消費者の間ではSHEINの知名度はほぼゼロだと言える。

一般論ではあるが、スタートアップの事業展開として、国内市場で事業を一定の規模に成長させた後、やっと海外市場へ進出するのが通常だ。世界に名を轟かすアリババや、テンセントのような中国大手ITもこの順番で国際市場に進出している。

それゆえ、言語、ローカライズなど様々な課題からSHEINのように最初から越境ECを通して海外市場を目指す企業はそう多くないのである。

あえて中国で事業を展開せずに、海外でビジネスを行う理由については、SHEINはこのように回答している。

「私たちの創業者チームは最初から国際市場向けのサービスに注力しようと考えていました。その過程の中で消費者のファッションに対する多元的、高いコストパフォーンスに対するニーズが満たされてないことに気づき、これは大きなチャンスだと感じたからです。」(SHEINの回答)


6年間連続売上の伸び率は100%超

SHEINは2008年に南京で創業。その後、生地を世界最大規模で扱う広州に本部を移した。2015年から事業が成長の軌道に乗り、売上の伸び率は6年連続100%を超えた。

2020年の売上は、前年比308%増加の653億元(約1兆3,000億円)。この売上規模はユニクロの運営会社であるファーストリテイリングの2020年通期売上の64%、ZARAの親会社Inditexの2020年通期売上の46%にのぼり、この勢いはアパレル業界に衝撃を与えた。

▲SHEINの売上推移(出典:中泰証券)

2021年時点で社員数は2万人、サイトは17ヶ言語に対応している。また、各国のカルチャーに合わせて、現地の消費者に合わせたサービスを提供しているのも特徴である。

現在SHEINは中国広州にサプライチェーン、南京にプラットフォーム運営の拠点を構え、さらにシンガポールとロサンゼルスにも運営センターを設置している。また、世界の物流企業と協力し、消費者の注文から7日以内に配達できるようにしている。(主要市場に限る)


急成長を遂げた理由は?

SHEINは豊富な商品数、超低価格という2大特徴がある。従来のファストファッションよりも早いサイクルで新商品を出すことから「リアルタイムファッション」と呼ばれている。

成功理由に関して市場では様々な分析や憶測が行われているが、SHEINからの回答、そしてSHEINの中国語資料を分析した結果、筆者は以下6点だと考える。

・中国のアパレルサプライチェーンを巧みに統合
・業務の隅々までIT技術の活用によるDX推進
・超低価格という武器
・タイミングを計ったKOLプロモーション
・自社サイトを持つ越境B2Cモデルの優位性
・コロナを追い風さらに成長

以下はそれぞれの詳細である。

・中国のアパレルサプライチェーンを巧みに統合

SHEINのサイトでは、販売中の商品は60万SKUを超え、毎日6,000 SKUをリリースするなど、驚くほどスピーディーに新商品を公開している。

▲ユニクロ、ZARA、SHEIN 3社の比較(メディア報道、公開資料をもとに筆者作成)

ファッショントレンドをコピーして素早く商品化するという強みを持つZARAは、年間約1.2万点の商品を発売。一方でSHEINはそのZARAを超過する圧倒的なスピードで年間約15万点の商品を販売しているのである。

それを可能にする理由として、ZARAやユニクロなどのブランドは近隣国に生産拠点を持っているのに対し、SHEINは商品のデザインから縫製までのプロセスを世界最大規模で生地を扱う中国広州の一箇所で行っていることが挙げられる。

広州はアパレル製造分野における産業支援、人材、倉庫や物流など、インフラの面で明らかに優位性があるため、当社のサプライチェーンにおける重要な役割を担っている」(SHEIN の回答)

またSHEINは、ZARAが強みとする小ロット生産をさらに進化させ、1ロット100枚という超少量生産モデルを採用。小ロットで生産された多種類のSKUを販売テストし、売れ行きの良い商品を追加生産する。この手法により、従来の大量生産がもたらす在庫の増大リスクを回避できるというわけだ。

▲SHEINのサプライチェーン(筆者より作成)

「当社の最大のイノベーションは、テクノロジー主導で回転の早いサプライチェーンを徐々に構築できたことです。実際の市場の需要から売れ行きを予測し、過剰生産を抑えるために生産数をコントロールする。ファッショントレンドのリアルタイム分析と追跡を前提として、すべてのSKUについて非常に少ない生産オーダーを出す。通常、1SKUあたり100~200個を発注し、販売動向が良ければすぐに追加オーダーする。
売上が予想に達しない場合は生産中止です。このように市場や消費者のニーズに対応・調整することで、無駄な在庫の削減を行いました。」(SHEIN の回答)

縫製工場にとって、工場稼働コストを満たさない小ロット生産の依頼は受けたくないが、SHEINは約束の日程通りに売掛金を支払い、世界各国の市場から数多い追加注文をクレジットとして協力工場と良好な関係を構築。これにより、1ロット100枚という小ロット生産を実現した。SHEINの最新FOBサプライヤー募集要項は、納期は7~18日、100~500枚の小ロット生産が必須条件となっている。

▲FOBサプライヤーの募集要項(SHEINの公式アカウントより)

事業の拡大に伴い、SHEINは業界での影響力や価格交渉力が高まった結果、数多くのサプライヤーに対し、納品率、納品の即効性、不良率など指標で点数をつける。点数によってA、B、C、Dのランクに分けられ、劣っているサプライヤーは淘汰される仕組みだ。この厳しい制度により、常に効率の高い生産稼働の維持を可能にした。

また、珠江デルタ地帯(広東省)では14個の物流施設を擁し、サプライヤーに対しても珠江デルタ地帯で工場を構えることを条件とする。これにより、縫製した服を素早くSHEINの倉庫へ納品できるようにしている。

このように巨大なサプライヤーや工場群を巧みに統合することで広州の本拠点から世界各国の消費者に素早く商品を発送しているのである。


・業務の隅々にIT技術活用によるDX推進

SHEINは中国アパレルDX企業の成功例だと言える。創業者である許仰天氏は1984年生まれの38歳で、大学卒業後SEO関連の仕事に従事。この経験もSHEINにおける、後のDX推進に大きく影響したと言えるだろう。

SHEINは商品企画から、工場への発注、売上データの分析による追加生産数の算出など、業務の隅々でデジタル化を進めている。

「市場の需要に迅速に対応するために、情報の流れやマッチング、連携をより効率的、且つ正確に行い、全体の効率化を実現しました。例えば、受注の時点で工場は私たちのオーダーに関するSKU数、SKUごとの生産個数、各サイズの生産比率など、詳細な情報をリアルタイムでチェックすることができます。同時に、裁断機の稼働進捗などもリアルタイムで更新しています。

このような情報の可視化により、各工場の稼働率に応じた正確なマッチングが可能です。オンライン、且つ透明性の高い生産プロセスにより、すべての段階の生産要素を最も効率的に利用できます
また、市場の反応が良くても、大量に追加生産はせず、厳密に市場需要に応じて追加生産のオーダー数を決めるのもポイントです。」(SHEIN の回答)

1ロット100枚という小ロット生産には、効率の高い管理が必要だ。そこでSHEINはこの巨大な工場群を管理するための統一したGMP(给我货)システムを開発。全ての工場にこのシステムを導入するよう統一し、受注、納品、在庫管理などすべてをデジタルで処理するようにしている。

以下はGMPシステムの一部の機能:

・国民的チャットアプリwechatの公式アカウントから利用可能で、アプリのDLが不要。デジタル化が進んでない小規模の工場にとって導入のハードルが低い

・緊急生産依頼、検収結果などはwechatで即時通知

・wechatで商品コードをスキャンして直接入庫管理が可能

・SHEINはシステムで発注し、工場が競争する形で受注が行われる。従来の人による指定工場への発注より効率が高い。

・ブラックフライデーなどのシーズンでは、人気商品がスピーディーに生産・納品できるよう、システムは直近7日間の売上データを基に、在庫商品の販売可能な日数を自動的に算出。工場に品切れになりそうな商品の生産・納品を優先に行うよう指導

・摸倣問題で販売サイトから削除された商品の情報を迅速に工場に提供し、これ以上が増大しないようリスクヘッジを実施

▲SHEINから発注がwechatで自動的に通知される様子(SHEIN公式アカウントより)
▲wechatで商品コードをスキャンすることで入庫管理が可能(SHEIN公式アカウントより)

SHEINは古い工場のデジタル化支援により全体の生産プロセスの効率向上に成功。工場もSHEINが開発したシステムを利用する時点で、SHEINと緊密な関係を持つことになる。

SHEINがIT技術への注力している度合いは募集しているポジションの割合からも把握できる。公式サイトで募集中の941個ポジションのうち、418個は研究開発、アルゴリズム、UED関連のデータ分析や技術職であり、これが全体の42%となっている。

▲SHEINが募集しているポジション割合(筆者より作成)

さらにSHEINは「AIDCセンター」と「研究センター」2つのIT部門を持つ。

「AIDCセンターは、データ分析とユーザー分析を基に、自動化、スマート化のメカニズムとツールを関連業務とリンクさせ、業績を向上させる部門です。研究センターは、プラットフォームシステム、サプライチェーンシステム、データセンター、ソフトウェアを基に、会社全体の効率を引き上げる部門となっています。」(SHEIN 公式アカウントより)


・超低価格という武器

Tシャツは450円、ワンピースは1,600円と、常識を覆す安さとなっている。これは、まだ経済力のないZ世代にとって、大変魅力的な価格だ。

では、なぜSHEINは価格をここまで抑えることができたのだろうか?


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・Q.なぜSHEINは価格をここまで抑えることができたのだろうか?の答え
・タイミングを計ったKOLプロモーション
・自社サイトを持つ越境B2Cモデルの優位性
・コロナを追い風にさらに成長

■日本市場を攻略できるか?
・日本アパレル市場のポジショニング
・日本市場向けた戦略
・日本の消費者はSHEINをどう思っているのか

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