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Sicillia

Tシャツが好きだ、と断言するほどの思い入れはないつもりだが、毎日違うTシャツを着ても、2ヶ月は過ごせるくらいは持っているので、冷静に考えるとかなり好きな方なのだと思う。お店で気に入ったプリント柄を見つけると買わずにはいられない。まだ着ていないTシャツが、箪笥の中に沢山あるではないかという心の声は右から左へ聞き流す。

上等なボディーのTシャツは、着込むほどに生地に味わいがでて力の抜けた風格がただよう。高かったけど、やっぱり買ってよかったと着るたびに思う。先日買った上等Tシャツは着た初日に焚き火が爆ぜて穴が空いてしまいそれはそれでショックだったが、補修した穴が今では愛おしいチャームポイントだ。

気楽な値段で買えるTシャツもやはりくたくたになればなるほど、愛着がわく。運動をするときに使ったり寝巻きにしたり、やっぱり好きなTシャツを着ていると気分も半音あがる。どこの誰だかわからないプロレスラーのTシャツが好きすぎて、美術系の友人に模写してもらい、自分用の予備としてプリントしたこともあるほどだ。

この前の土曜日のこと、草刈り作業を終え、チャハットへの坂を登っていると、前から中学生くらいの女の子がやってきた。そのTシャツに釘付けになる。大きくSicilliaと書かれた下には枝についたレモンが大きく描かれている。なんて簡潔にして素晴らしいデザインだろう。凝視する。かわいい。ハートのど真ん中を撃ち抜かれた僕がいる。近づいてくる女の子に声をかけたい。かわいいですね という言葉が喉のところまで出かかっている。しかしこちらは、見も知らぬ汗と草にまみれた男だ。それにさっきから僕は彼女の胸のあたりを見つめっぱなしだ。あやしすぎるだろう普通。でもこの気持ちを伝えたい。かわいいTシャツですねと言えばいいのか。
すんでのところで思いとどまり女の子とすれ違う。

また会うことはあるだろうか、その時はきっと素直に気持ちを伝えようと思う。

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