研究書評

ここでは、研究書評について書かせていただきます。


2024年4月11日分

2024年4月18日分


〈内容総括・選択理由〉

 今回取り上げた文献は、立命館大学総合心理学部准教授である森知晴氏の論文である。当文献では、行動経済学が労働研究に与えうる影響について論じられている。行動経済学の対象は大きく分けると非標準的な選好、非標準的な信念、非標準的な意思決定に分類される。労働における意思決定は長期的で社会的相互作用が多く、また複雑で学習機会も限られていることから、行動経済学で得られた知見が広く応用できる。具体的なトピックとして、贈与交換と労働市場、参照点依存、将来に対する期待と情報提供という3つについて論じられている。

〈内容〉

 行動経済学と言っても、様々なトピックを含んでいる。行動経済学で扱うモデルは以下の 1. 非標準的な選好2. 非標準的な信念3. 非標準的な意思決定の3つに分類される。

 まず、1. 非標準的な選好の影響について、労働は様々な社会的相互作用のもとでおこなわれるため、社会的選好の影響は大きい。他者からよいことをしてもらうと、それに対して「お返し」をしたくなるという贈与交換が労働市場に与える影響が考えられる。社会的選好の存在は賃金体系に大きな影響を及ぼす。労働者は様々な平等性・公平性を意識して行動するため、最適な賃金体系はバランスをとって設計しなければならない。社会的選好に様々な異質性があることを考えると、最適な賃金体系は労働者の属性によって異なることにも注意が必要である。

 3. 非標準的な意思決定に関して、「ナッジ」を提唱したThaler and Sunstein

(2008)は、意思決定があてはまらないような簡単で頻度が多い意思決定(例.日用品の買い物)については,個人は良い選択をおこないやすいと述べた。労働における意思決定は良い選択ができない状況にあてはまることが多い。「コストを今支払い、便益を後で得る」という、良い選択ができない状況は多くの労働場面においてあてはまる。そして、個人が良い意思決定ができていないのであれば、意思決定に介入することで個人にとっても社会にとっても良い選択がなされる可能性がある。

 最後に、行動経済学的視点は、政策介入の手法についても大きな変革をもたらす。伝統的理論に基づく政策介入を考えると税や補助金など個人のインセンティブに直接訴えかける手段が主に使用される。また、市場の失敗が無い限り、政策介入は個人の意思決定を歪めてしまい厚生の損失となるため、政策介入は慎重にならなければならない。また、正しい情報を提供する、意思決定を軽く促すようなナッジをおこなう、など政策介入手段のバリエーションが増えるが、個人の意思決定に歪みがあると考えそこに介入しようという考え方は、過度な政策介入 を招くおそれがある。個人が伝統的仮定とは異なる行動をとる場合の社会厚生について考える「行動厚生経済学」は、行動経済学を学ぶ際に取り入れるべき視点である。

〈総評〉

次回からは、文書を通して「行動経済学とは」を学ぶ。基礎知識の収集に力を入れたい。

2024年4月25日分


〈序論〉
 今回より、行動経済学の全体像を学習すべく、書籍『大学4年間の行動経済学が10時間で学べる』より取り上げる。

〈内容〉
 これまで経済学と行動経済学の違いについて言及したが、ここでは経済学を「右下がりの需要曲線」と呼んでいる。自身の利益を最大化するような合理的な人間の経済行動を反映すれば、モノやサービスの価格を上がるとその需要が下がるというのは当然であるという過程の基に、従来の経済学では理論構築やモデル設定が進められてきた。
 しかし、心理学の研究から「価格」には➀経済的な痛み、②プレステージ、③品質のバロメーターの3つの意味をもつことが分かっている。よって、➀<②<③である場合、➀の経済的な痛みが高くても需要が高まる場合がある。

 学問としての行動経済学は
1.現象の描写
2.メカニズムの説明と理論
3.実社会への適応
以上の3つに大きく分類される。

1.現象の描写
 人間のほどよく合理的で、ほどよく自制的で、ほどよく利己的に行動するパターンにある一貫性と心理学の理論を混ぜた「ヒューリステックとバイアス」の近似値がホモエコノミカスとどう乖離しているかを分析しているのかを分析する(バイアス)。
2.メカニズムの説明と理論
 なぜ「ヒューリステックとバイアス」が発生するのを系統立てて考察する。理論構築や、伝統的な経済理論を誇張・発展させ、予測や規範のために用いる行動モデルの構築を含む。
3.実社会への適応
 1.2で得られた知見を経済学の各分野に応用する。検証された行動経済学的な要因を既存の分析と比較して、どのような経済的メリットをもたらすか、政策や企業戦略を含めた提案を行う。
 ヒューリステックを用いてもバイアスが起きないような行動変容を促す仕組みである「ナッジ」の特徴は以下の4つである。
(a)義務・強制ではなく自身の意思で自由に行動できる
(b)本人(あるいは属する社会・集団)のためにある
(c)経済的インテンシブ(報酬や罰金)は最低限
(d)仕組みは簡単で安価

〈総評〉
 ヒューリステックとバイアスの関係性をデータ化し、その近似をとるところから研究は始まる。その後、一般化し、さらに仮説を出し、やっと実社会への適応に移る。今回は導入と全体の流れの把握を行った。今後は、様々なヒューリステックの種類とバイアスの種類を学習し、論文からの研究を挟み、次の「仮説を立てる」段階に移行したい。

2024年5月2日分


〈序論〉
引く続き、行動経済学の全体像を学習すべく、書籍『大学4年間の行動経済学が10時間で学べる』より取り上げる。

〈内容〉
 前回、伝統的な経済学の仮定は、人間は「超合理的」に、「超自制的」に、「超利己的」にふるまうとされてきたが、実際の経済事象にはこれらは適応されない場面が多々存在することを学習した。
➀「超合理的」に関しては、例えば何かモノを購入する時、ベストな選択をしたとしても全てのモノを比較検証して買うことはできないので、「限定的に合理的」である。
②「超自制的」に関しては、将来にわたって長い時間をかけて大きくなる利益と目先の小さな利益を比べた時、客観的な判断をできず、目先のことに誘惑されてしまう傾向があるので、「超自制的ではない」のである。
③「超利己的」に関しては、人間は自分のことだけを考えて、自分の利益だけが最大化するように行動するのではなく、寄付もボランティアもすることがある。自分の多少の犠牲を払ってでも他社の利益を考えることもあるので、「超利己的ではない」のである。
今回より3回にかけて➀、②、③を理論的に学習する。今回は➀「限定的に合理的」であることについてである。
『ベイズ統計』の考え方がある。以下、書籍より引用
  「あなたがこの難病にかかっている確立は1/1000なので、あまり心
  配する必要はありませんよ」と医者に言われました。心配なので、
  精密検査を受けることにしました。この検査では、難病にかかって
  いると90%の確立で陽性反応が出ます。ただ、病気にかかっていな
  くても、5%の確率で陽性反応が出ます。結果は陽性でした。
  この難病にかかっている確率を以下から選択しなさい。
 続いて、20%ごとに分かれた選択肢が用意されている。上記の問題では、多くの人が最も高い確率の選択肢である、80%から100%を選択した。しかし、実際には1/1000の確率で難病患者が出るため、1000人検査を受けると平均で999人が健常者、1人が難病患者になる。計算をすると、陽性反応が出た人に中で難病患者の割合は、たった1.8%である。これは、検査前の難病疾病率(事前確率)を検査結果(データ)で更新する『ベイズ系統』の考え方を使っている。このように、人は合理的な判断であるベイズ学習に従わず、バイアス(間違い)をすることがある。
 「超合理的にはふるまわない」理論として、ゲーム理論の『ナッシュ均衡』が起こらない可能性や『サブゲーム完全均衡』が起こらない可能性があると考えられる。また、確率に値する感じ方が主観的であるために(『主観的確率』)高い確率を過小評価し、自称が起こる尺度を客観的に表現した確率とは異なる選択をしてしまうことも、「超合理的にふるまわない」事例である。
〈総評〉
 人間は「超合理的」でも、「超自制的」でも、「超利己的」でもない理論の中から、「超合理的」でないことに焦点をあてた今回の書評である。ゲーム理論に対して、その理論が人間の超合理的でない部分による選択によって成立しないことなど、新たな学習を得た。しかし、『期待効用理論』の理解ができなかった。そのため、有識者に尋ねようと思う。次回は、人間の「超自制的」でない部分に焦点をあてる。

2024年5月9日分

〈序論〉
引く続き、行動経済学の全体像を学習すべく、書籍『大学4年間の行動経済学が10時間で学べる』より取り上げる。

〈内容〉
 人間は「超合理的」でも、「超自制的」でも、「超利己的」でもない理論の中から、前回は「超合理的」でないことに焦点をあてた。そして、ゲーム理論に対して、その理論が人間の超合理的でない部分による選択によって成立しないことなど、新たな学習を得た。
 今回は「人間の行動がいかに超自制的とかけ離れているか」について取り扱う。
 今日からダイエットをしようと思っていたが、ついケーキを間食してしまった。禁煙すると決めていたのに、目の前のたばこを吸ってしまう。これらは、自分にとって長期的に大きな価値をもたらすことは分かっていながらも。短期的な誘惑に屈してしまう「先送り」行動である。
そして、当初小さな利得よりも将来の大きな利得の方が、より大きな利得をもたらすと考えて喫煙を始めたのに、小さな利得が目先に近づいてくるとそちらの効用の方が大きく感じられてしまう「選択の逆転」が起こる。また、「選択の逆転」にもいくつか分かれる。
仮に、『今1万円あげます』または、『半年後1万1000円あげます』の場合、心理的に人は『今ください!』というだろう。しかし、『5年後、万円あげます』または、『5年半後、1万1000円あげます』の場合、『5年半後で・・・』と言うだろう。

 人の心理は複雑である。行動経済学では、双曲型割引や、割引効用理論を用いて数式に当てはめある程度の「超合理的」ではない部分の度合いを予測できる。しかし、それにあてはまらないものも存在する。例えば、「マリッジブルー」である。望ましいと思って1年前に結婚を決意したが、挙式が近づくにつれて色々なことが不安となり意思が揺らいでしまうのだ。これは、本来有益と思われた「当初の目的」が、時間的距離が近づくにつれて「目的以外の要因」により強い影響を受けて選好の変化が起こる。

〈総評〉
 ここまで、人間は「超合理的」でも、「超自制的」でもない部分について焦点をあてた。次回は、「超利己的」でないことについて学習する。

2024年5月16日分

〈序論〉
引く続き、行動経済学の全体像を学習すべく、書籍『大学4年間の行動経済学が10時間で学べる』より取り上げる。

〈内容〉
 人間は「超合理的」でも、「超自制的」でも、「超利己的」でもない理論の中から、前回までに「超自制的」でないことと、「超合理的」でもないことに焦点をあててきた。そして、様々な理論より例外が存在し、理論や数式では説明しきれない人間の行動選択、感情の変化の複雑さを実感した。
 
 ホモエコノミカスの定義は、人は「超利己的」にふるまうことである。各人が自身の利益を最大化するように行動をとれば、全体として最適な結果が達成されるように、適切なインセンティブと競争に基づいた市場の仕組みをデザインすることが資本主義である。
 しかし、寄付、ボランティアなどの自分の利益だけを追求しない「社会的選好」に基づいた行動が見受けられる。ここでは、独裁者ゲームで人はホモエコノミカスのように利己的にふるまうのか、あるいはどの程度、他人の利益を考慮するのか、を見極める。独裁者ゲームには配分者と受益者の2人のプレイヤーがいる。配分者には1000円が与えられ、このうち、好きな金額を受益者にあげることができる。
 もし、配分者が超利己的であれば、自身の金額が最大化するように、自身が全額の1000円をキープする。しかし、実験結果は、配分者は平均約20%の持ち分を受益者に配分した。ここで注意すべき点として、実験であるため、受益者やゲーム主催者に自分が利己的な人間と思われないための行動をとった可能性がある点だ。だが仮にそうだとしても、他社の目線を気にし、受益者に配分したので、いずれにせよ、多かれ少なかれ多利性を持っていると言える。
 次に、上記独裁者ゲームに「信頼」要素を付け足した実験が行われた。書籍では「通牒ゲーム」といわれている。ここでは配分者と受益者の2人のプレイヤーがいる。そして、配分者に現金1000円が与えられ、このうち好きな金額を受益者に配分できる。ここまでは同様だが、このうち、配分額は3倍にされて受益者に渡される。
 実験では、配分者は最初に約50%を配分し、受益者は受け取った額の約30%を返金した。これは、配分者には「お礼として返金してくれるはず」という受益者への信頼があり、また受益者は「配分者の信頼に応えたい」という正の互恵性があったといえる。

〈総評〉
「信頼」の概念が影響しているところから、行動には国民性が大きな影響を与えるのではないか。と考えた。例えば、日本人はまわりの視線や評価を気にする傾向があるため、独裁者ゲームの「信頼」関係が起こりやすいといったことである。これに裏付ける証拠となる学説は見つけられていないが、行動経済学は日本人の国民性より、日本では特に有効であるように感じた。

2024年5月23日分

〈序論〉
引く続き、行動経済学の全体像を学習すべく、書籍『大学4年間の行動経済学が10時間で学べる』より取り上げる。

〈内容〉
 人間は「超合理的」でも、「超自制的」でも、「超利己的」でもないことに焦点をあててきた。そして、様々な理論より例外が存在し、理論や数式では説明しきれない人間の行動選択、感情の変化の複雑さを実感した。
 
 人間の認知資源、情報処理能力は限られている。そのため、時間や資源の制約から、効率良く意思決定を行うために単純化された方略を使うのである。このヒューリスティックでは必ずしも最適な判断には至る保障はない。通常は満足できるレベルの判断になる。ただし、状況によっては、大きな間違いを引き起こす可能性がある。
 認知心理学や行動経済学で研究されるヒューリスティックには、「利用可能性」「代表制」「固着性」の3つがある。これを簡単に表現すると、以下になる。
・利用可能性ヒューリスティック:
頭に思い浮かびやすい事象の頻度や評価を課題に見つってしまうこと。
「頻繁に接する」「インパクトが強い」「最近知った」「個人的に経験した」「具体性がある」このような事態は、記憶に深く残って思い出しやすいため、「利用可能性」が大になる。
・代表性ヒューリスティック:
論理や確率に従わず、自称がステレオタイプ(自分の抱いているイメージ)にどのくらい似ているかで判断してしまうこと。
「もっともらしい」ストーリーが頭の中で構築され、無意識に「起こりやすさ(確率)で置き換えられたのである。この代表的ヒューリスティックから生じるバイアスは、「連言錯誤」と呼ばれる。
・固着性ヒューリスティック:
評価の際、出発点から目標点の間に十分な調整ができないこと。
 「自分がすきなもの・価値観(世界観)・信念・第一印象」のような観念も影響する。

2024年5月30日分


〈序論〉
 これまで、行動経済学について、「行動経済学とは」の観点から学んできた。ここからは、次の段階に進もうと思う。行動経済学をどのように政策に活かしていくのか。これまで「空き家活用」について学んできたことから、地域問題にどのように貢献できるのかを考察していきたい。

〈本論〉
 まず、効率的に地域行政を運営していく上で役立ちそうなものとして、EBPMとナッジがある。EBPMとは、「Evidence Based Policy Making」の略で、「証拠に基づく政策立案」と呼ばれている(下の図参照)。これは「エピソード・ベースからエビデンス・ベースへ」と考えればわかりやすい。

例えば、ある町がごみの不法投棄に悩まされていたとする。ところが隣町では不法投棄が少ない。どうやら隣町では、センサーライトが設置されている集積所は、不法投棄が少ないようだ。そこで、自分の町でもセンサーライトの設置が必要ではないか、という提案が出たとしよう。この提案は「エピソードに基づく政策立案」である。

この提案が有効かどうか調べてみると、そもそも隣町では、ごみ処理に対する啓発活動が盛んで、住民のごみ処理に対する意識が高かった。住民意識が高かったから不法投棄は少なく、センサーライトをつけるという手段が講じられたのである。故に、正しい政策はごみについての啓発活動だということになる。これが「エビデンスに基づく政策立案」である。

次に、ナッジである。バイアスにちょっとした工夫で修正するのだ。このナッジを現実の政策運営に生かす。

〈次回以降〉
 地域創生について、特に空き家活用の政策に関してEBPMとナッジを用いた事例や論文の調査をする。


行動経済学を用いて地域防災事業が体感治安に及ぼす効果の研究

2024年6月6日分


「犯罪不安」研究は、犯罪やそのシンボルに対する恐れや不安といった感情的反応を扱い、犯罪研究の一分野として確立されつつある。研究者によって、犯罪に対する認識を「認識の水準」と「参照する対象」の2つの軸で分類し、具体的には判断、価値、感情の3つに分けられる。さらに、犯罪に対する懸念や被害リスク、脅威、恐れの行動といった概念が提案されている。これらの概念は「体感治安」に関連しており、犯罪不安研究の基本的枠組みは島田(2011)によって整理されている。

「体感治安」と「犯罪不安」は、これまでは言い回しの違いとして扱われてきた。しかし、実際には異なる概念であり、体感治安は日本全体または居住地域の治安を評価する一方、犯罪不安は個人や家族が犯罪被害に不安を感じるかどうかを測定するものである。最近の研究では、これらの差異に注目し、具体的な地域防犯事業を通じて両者が異なるメカニズムを持つことが示されている。例えば、千葉県ではコンビニエンスストアの駐車場に防犯ボックスを設置し、警察官OBを配置して防犯活動を行っている事業が行われており、これは犯罪不安や治安向上に貢献している。

千葉県コンビニ防犯ボックスモデル事業において、事前調査と事後調査を行い、体感治安とリスク知覚・犯罪不安について分析した結果、地域防犯事業が体感治安には改善効果をもたらす一方で、リスク知覚と犯罪不安を高める効果も見られた。従来、体感治安と犯罪不安は同義とされていたが、この研究から両者は異なることが示され、体感治安を犯罪不安の一要素と位置づけることは適切ではないとされた。

以上の考察からは、今後の地域防犯事業の政策評価にあたっては、犯罪不安のみならず、体感治安をも同時に測定して評価すべきことが示唆される。政策目標として「安全・安心」を掲げるのであれば、「安心」を測定する指標としては、本人と重要な他者の犯罪不安とリスク知覚のみならず、地域の治安状況の評定である体感治安をもたずねた設問の方が、地域防犯事業の評価として妥当性が高そうである。

2024年6月13日分

はじめに
日本の一般刑法犯認知件数は1973年以降増加し続け、特に1990年代後半に急増した。この増加は、バブル崩壊後の長期不況やオウム真理教事件、神戸児童連続殺傷事件などの重大事件とそれに関連する報道の増加によって、犯罪不安感を増大させた 。この状況により、日本の「水と安全はタダ」という安全神話が崩壊し、犯罪対策は政府の重要な政策課題となった 。

犯罪不安感と体感治安
犯罪不安感とは、個人が感じる犯罪に対する恐怖や不安のこと。これは、実際の犯罪発生率とは必ずしも一致しない。1990年代以降、犯罪認知件数が減少しても、犯罪不安感は依然として高いままだった。この現象は「主観的不安感と客観的被害リスクの乖離」として知られている 。

犯罪不安感のコミュニティに対する影響:理論的説明
犯罪不安感はコミュニティに様々な影響を及ぼす。例えば、犯罪不安感が高まると、住民同士の信頼感が低下し、社会的連帯感が弱まる。また、犯罪不安感が高まると、住民は外出を控えたり、防犯対策を強化するなどの行動を取るようになる。これにより、地域の活力が低下し、コミュニティの質が低下する可能性がある 。

犯罪不安感に関する実態調査
調査によれば、日本では犯罪不安感が1990年代以降急激に増加した。特に、子供や高齢者を持つ家庭では、犯罪不安感が強く表れている。このような状況に対応するため、警察や自治体は地域密着型の犯罪対策を進めている。例えば、防犯パトロールや地域防犯カメラの設置などが効果的な対策とされている 。

犯罪対策とコミュニティ再生
効果的な犯罪対策は、単に犯罪を防ぐだけでなく、コミュニティの再生にも寄与する。地域住民の協力を得て行う防犯活動は、住民同士の交流を促進し、信頼関係を強化する。これにより、地域の連帯感が高まり、犯罪抑止力が強化される。さらに、犯罪対策を通じて得られる安心感は、住民の生活満足度を向上させる効果もある 。

おわりに
総じて、犯罪不安感は社会の様々な側面に影響を与える重要な要素だ。犯罪不安感を軽減するためには、単なる犯罪抑止だけでなく、コミュニティ全体の活性化を図る包括的なアプローチが必要。地域住民の協力を得て、防犯活動を推進し、コミュニティの質を向上させることが、長期的な犯罪対策の成功につながる 。

以上のように、犯罪不安感と体感治安の関係性、そしてそれがコミュニティに与える影響について理解を深めることは、より安全で安心な社会を築くために不可欠である。


体感治安が及ぼす経済効果の低下
海外はどうなのかな


2024年6月20日分

治安が悪くなっている(体感治安の悪化の)原因に対する知見を得、それに対して行動経済学のアプローチをしたいと考えている。

本論文は、グローバル化と少子・高齢化社会の進展が日本の治安に与える影響と、その対策について議論している。

少子・高齢化社会の進展

日本の人口は減少傾向にあり、2015年の1億2,709万人から2040年には1億1,092万人、2065年には8,808万人に減少すると予測されている。少子化が進む中、高齢者の割合が増加し、社会全体に様々な影響を与えている​​。高齢者の増加は、高齢者による万引きや特殊詐欺の増加、家族関係の崩壊による虐待や孤独死などの新たな課題を生み出している​​。

グローバル化の影響

グローバル化は、外国人労働者の増加や国際犯罪の増加をもたらし、治安対策の必要性を高めている。外国人労働者の増加に伴い、異文化間の摩擦や外国人犯罪の増加が懸念されます。また、国際犯罪の増加により、国内の治安維持が難しくなっている​​。

治安対策の変遷

平成期の犯罪情勢の悪化を受けて、犯罪対策の理論は「犯罪原因論」から「犯罪予防論」へと変化した。防犯環境設計理論に基づく対策が重視されるようになり、安全なまちづくりが全国的に展開されている。警備業務も増大し、警備員の役割が重要となる一方で、労働集約型であるため採用が難しく、今後の維持が課題とされている​​。

基礎自治体と警察の役割

地域社会における犯罪予防対策は、基礎自治体が中心となって行うべきとされ、警察との連携が強化されている。基礎自治体は、安全なまちづくりの推進において警察の支援を受けながら、地域社会の犯罪対策を進める必要がある。警察は、犯罪の検挙活動を中心としつつ、地域社会の安全なまちづくりに貢献する役割を担っている​​。

結論

少子・高齢化やグローバル化の進展に伴う治安課題に対処するためには、基礎自治体と警察の連携が不可欠です。地域社会全体での防犯意識の向上と実効的な治安対策の実施が求められている。

これらの内容は、現代日本の社会問題とその治安対策のあり方を理解する上で重要な視点を提供している。

治安が悪いの定義

2024年6月27日分

本研究は、大阪市の住宅地区におけるひったくり発生と道路空間特性との関係を探ることを目的としている。大阪府は過去32年間、日本で最も多くのひったくり事件が発生しており、公共の安全に対する不安が高まっている。道路の空間特性を定量化し、ひったくり発生との関連性を明らかにすることを目指している。
・研究対象地域と方法
調査は、大阪市の阿倍野区、住吉区、東住吉区の住宅地域で実施された。これらの地域は、ひったくり事件が多発する場所として知られている。調査の主な方法は以下の通りである。
視距離の測定: 道路の視距離を25mから50mに設定し、ひったくり発生率との関連を分析した。
逃走経路の分析: 自転車を使用したひったくり事件において、狭い道路での逃走経路の数が強調されることを確認した。
GISの活用: 地理情報システム(GIS)を使用して、道路ネットワークと犯罪発生地点をマッピングし、空間分析を行った。
・主な発見と結論
調査の結果、以下のことが明らかになった。
視距離とひったくり発生率: 視距離が25mから50mの範囲にある道路では、ひったくり発生率が比較的低いことがわかった。これは、この視距離範囲が犯人にとって目立ちにくく、逃走が困難であるためと考えられる。
狭い道路での逃走経路: 自転車を使用したひったくり事件では、狭い道路での逃走経路の数が重要な要素となっていることが確認された。逃走経路が多いほど、犯人が逃げやすくなるためである。
犯罪予防の視点: 本研究の結果は、犯罪予防において道路設計の重要性を示している。視距離を考慮した道路設計や、逃走経路を制限するための都市計画が、ひったくり事件の抑制に寄与する可能性がある。
本研究は、大阪市におけるひったくり事件の減少に向けた具体的な施策の検討に役立つと考えられる。犯罪発生のメカニズムを理解し、適切な都市計画を行うことで、市民の安全性を高めることができる。

・今後の研究課題
本研究では、大阪市の特定の地域を対象としたが、他の都市や地域でも同様の調査を行うことで、より広範な犯罪予防策の提案が可能となるだろう。また、他の種類の犯罪についても同様の分析を行い、包括的な犯罪予防策を構築することが重要である。

現状を改善するには

2024年7月4日分


本研究は、ベルリン市のゲルリッツ公園における治安改善を目的としたパークマネージャー制度の試験的導入とその全市的展開について、その成果と課題を明らかにすることを目的としている。調査は2019年9月に現地調査とインタビュー、文献レビューを通じて行われた。

ゲルリッツ公園は、違法薬物の売買や迷惑行為が頻発する問題を抱えていた。2016年から、対話型アプローチを取る現地滞在型パークマネージャーが導入され、治安改善を図った。パークマネージャーは、行政、警察、公園利用者、関連機関との協力を通じて、問題解決を目指すボトムアップ型組織を形成した。

調査の結果、パークマネージャー制度は一定の成果を挙げたものの、全ての問題を解決するには至らなかった。具体的には、活動予算の不足や違法行為者の構造的問題への対処が難しかったことが指摘された。また、公園周辺の歴史的背景や社会的問題が影響し、一度取り締まりを行っても新たな問題行動者が流入するという課題もあった。

それにも関わらず、パークマネージャーの導入は治安改善への多主体協働の仕組みを構築するきっかけとなり、公園に対する偏見の緩和にも寄与した。この経験をもとに、ベルリン市は2019年から2021年までのパイロット事業として、他の公園にもパークマネージャーを導入し、その成果を評価する予定である。

パークマネージャーは、行政職員や警察の代替者ではなく、これらを補完する役割を担っている。ベルリン市では、パークマネージャーが公園利用者と緑地の仲介者として機能し、住民や利用者の幸福感や生活の質の向上に貢献することを期待している。

本研究から得られた知見は、日本におけるパークマネジメントの改善にも示唆を与えるものである。治安改善を含む総合的な公園管理には、現地での人的資源の効果的な投入が有効であることが示された。また、パークマネージャーの育成や実践形態の検討、公園管理運営士の資格試験における防犯や対話型対処方法の強化が有意義であると考えられる。


このように、ベルリン市のパークマネージャー制度は治安改善への多主体協働の仕組みを提供し、日本における都市公園管理の一助となる可能性を示している。

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2024年7月11日分

ナッジ理論等の行動科学を活用した健康づくりの手法

 はじめに
本資料は、厚生労働省健康局健康課の溝田友里氏が、市町村職員を対象に行った講義「ナッジ理論等の行動科学を活用した健康づくりの手法について」の内容をまとめたものである。講義の目的は、行動科学的アプローチを活用して健康づくりを促進する手法を紹介し、実際の事例を通じてその効果を検証することである。

### ナッジ理論と行動科学的アプローチ
ナッジ理論は、人々が行動を選択する際に働くバイアスや癖を理解し、強制せずに望ましい行動を促す手法である。リバタリアン・パターナリズムに基づき、個人の自由意思を尊重しつつ、社会的に合意された「正しい」行動へと導く。具体的なアプローチには、選択肢の数の調整や利益と損益の提示方法、デフォルト設定などが含まれる。

### がん検診受診率向上の事例
本講義では、乳がん、子宮頸がん、肺がん、大腸がん検診の受診率向上を目指した取り組みが紹介された。特に、提供資材の有無による受診率の比較を行い、資材を提供することで受診率が顕著に向上することが示された。例えば、乳がん検診では提供資材ありの場合、受診率が18.0%から21.1%に上昇した。

### 行動科学的アプローチの活用
行動科学的アプローチには、ナッジやソーシャルマーケティングが含まれる。これらの手法を組み合わせることで、個人の努力に依存せず、行動を選択しやすい環境を作ることが可能となる。具体的な手法としては、以下が挙げられる。

- **インセンティブと損失回避**: 「0円で受けられます」ではなく、「自治体からの助成がある」と強調することで、お得感を訴求する。
- **簡単で楽な行動とタイムリーな働きかけ**: 具体的な動作指示を目立つ場所に記載し、「今すぐこちらでお申込みを!」といった即時的な行動を促す。
- **社会規範の利用**: 「みんなも受けている」と強調することで、他者の行動が自分の行動に影響を与える。
- **メッセンジャーのオフィシャルさ**: 行政からの案内であることを強調し、信頼性を高める。

### ソーシャルマーケティングの手法
ソーシャルマーケティングは、商業マーケティングの手法を公衆衛生に取り入れ、特定のターゲット層に対して効果的なメッセージを送る手法である。未受診者を関心者、意図者、無関心者に分類し、それぞれに適したメッセージを送ることで受診率を向上させる。

### 効果検証と今後の展望
効果検証結果から、ナッジや行動科学的アプローチを活用することで、受診率の向上が実現可能であることが示された。提供資材の仕様を変えずにそのまま使用することや、検診の受け皿を十分に確保することが成功の鍵となる。また、予算が限られる場合は、関心者や意図者を優先することが効果的である。今後は、これらの手法をさらに普及させ、広く社会に実装することが求められる。

ナッジ理論や行動科学的アプローチを活用することで、健康づくりの効果を最大化し、受診率向上を実現するための具体的な手法とその効果について理解を深めることができた。


2024年7月18日分

要約:多田洋介の「行動経済『政策』学のすすめ」は、行動経済学を政策に応用する際の課題と慎重かつ漸次的なアプローチの重要性を論じている。行動経済学の診断と制度設計の2つのアプローチを紹介し、特に「穏健なパターナリズム」の有効性を強調している。政策現場での適用を阻む要因として、非規範性、政府の失敗、倫理性、行動パターンの多様性を挙げ、慎重な実証と漸次的な制度設計を提案している。

導入

  • 行動経済学は国内外で注目され、実証経済学の柱の一つとなっている。

  • 公共政策への応用は進行中だが、実際の政策現場での適用は限られている。

  1. 政策応用のアプローチ

    • 診断: 現行の制度や政策の効果を、消費者の反応から検証する。

    • 制度設計: 行動経済学の知見を基に、新たな制度を設計・既存制度を改革する。

  2. 穏健なパターナリズム

    • 政府が消費者の行動を望ましい方向に導くための柔軟な介入。

    • 社会における非合理的な消費者の割合や合理的消費者の自由選択の阻害度合いを考慮。

  3. 政策応用の現状

    • 学界では多くの政策提言がなされているが、政府や国際機関での実際の適用は限られている。

  4. 政策現場での行動経済学の課題

    • 非規範性: 行動経済学は、伝統的な経済学のように「合理的な選択」を前提とせず、実際の人間の行動を観察し、その行動に基づく分析を行う。このため、行動経済学は必ずしも「こうあるべきだ」という規範的な視点を提供するものではなく、むしろ現実の行動をそのまま受け入れる傾向がある。この非規範性が政策提言において一貫した指針を提供することを難しくし、政策立案者が具体的な行動を取る上での困難を生じさせる。

    • 政府の失敗: 行動経済学が指摘するバイアスや非合理的な行動は、消費者だけでなく、政策立案者や官僚にも当てはまる可能性がある。政策を設計する者自身がバイアスを持っている場合、彼らの判断や意思決定が影響を受け、結果として非効率的な政策が生まれるリスクがある。これを防ぐためには、行動経済学者による助言や独立した評価が必要となる。

    • 倫理性: 行動経済学に基づく政策介入は、消費者のバイアスを利用して行動を誘導することが多く、この点が倫理的に問題視されることがある。例えば、政府が消費者の非合理的な行動を是正するための介入を行う際、その意図が明らかになった場合、消費者からの信頼を失う可能性がある。また、消費者の選択の自由を制限するような介入は、倫理的に許容されるかどうかが問われる。

    • 行動パターンの多様性: 消費者の行動パターンは多様であり、文脈依存的である。ある消費者が特定のバイアスを持っていても、別の消費者は異なるバイアスを持つことがある。この多様性が、行動経済学に基づく政策設計を難しくする。さらに、行動経済学は異なる文脈に応じて異なるモデルを使用するため、一貫した政策設計のための枠組みを提供するのが難しい場合がある。

  5. 結論

    • 行動経済学を政策に応用するには、慎重かつ漸次的なアプローチが必要。

    • 統計データやアンケート、経済実験を通じた政策効果の検証が重要。

参考文献

多田 洋介. (2009). 行動経済「政策」学のすすめ. 行動経済学, 2, 118-122.



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