イラストを言語化する方法が分からない人のための基本方針3選
イラストを言語化することで上手くなるよと言う話をアドバイスとして聞いたことはないでしょうか。私も何度か聞いたことがあります。
しかしイラストはビジュアル情報です。ビジュアルを言語で表現するのは決して簡単ではありません。
また、このアドバイスをもらったとしても具体的な手法は?となっている方も多いと思います。
そこで本記事では、
そもそも言語で表現する方法はどんな手法があるのか
具体的にどうやって言語化すればよいのか
について考察していこうと思います。なお、本記事は定期的に見直しを入れようと考えています。
言語化のヒントは統計学にある
言語化することで絵が上手くなるというのはよく言われています。では具体的にどうやって言語化するのがよいのでしょうか?
この問いに答えるのは決して簡単ではないと思いますが、私は統計学の力を借りて考えてみようと思います。
なぜ統計学の力を借りるのか
結局のところイラストを言語化するというのは、イラストの特徴や手法を言語化することとなります。
このやり方は統計の目的と似ている部分があります。
統計学はデータを分析して特徴を知る、未来予測をすることを目的とした学問です。そのため、統計学の知識を使えばイラストの言語化の方法に応用できるのではないかと考えました。
データを整理するための4つの指標
統計学ではデータを整理するための指標を測定尺度と呼びます。
まず測定尺度は量的変数と質的変数の2つに分類されます。
そして、量的変数はさらに比例尺度と間隔尺度に、質的変数は順序尺度と名義尺度に分かれます。
つまり、データを整理するための指標は大きく分けて4つあるということです。では、一つずつ指標の解説をしていきましょう。
1)名義尺度
名義尺度は同じ値か否かのみを判明する(分類のみを目的とした)尺度となります。
2)順序尺度
順序尺度は名義尺度の特徴に加え、大小関係を比較できるようになったものです。
3)間隔尺度
間隔尺度は順序尺度の特徴に加え、目盛が等間隔かつ間隔に意味がある尺度です。
4)比例尺度
間隔尺度の特徴に加えて、0という値が「何もない」「存在しない」などといった意味を持つようになる尺度です。0という値に意味を持つことにより、比を扱うことができるようになります。
①分類に使用する語彙を使って言語化する[名義尺度による言語化]
イラストを言語化するとき、まず実践するのはこちらだと思います。
世の中には様々な語彙があります。これらの語彙のうち、分類に使用できるような語彙を使うことでイラストを言語化します。
メリットとデメリット
メリットは以下のようになります。
曖昧な概念を扱うことができる。
表現力が高い。
長期的にやっていくと副産物で語彙力が身につく。
半面、デメリットは以下のようになります。
曖昧な表現になることが多い。
言語からイラストに起こす際の再現性が低い。
他人に伝えてもすれ違いが起きる時がある。
では、分類に使用する語彙を使って言語化する例をいくつか紹介します。
具体例:身体の曲線を言語化する
解剖学で登場する言葉を使うことでパーツの位置や動きを表現することができます。
例として、下のイラストで肩まわりの線の言語化をしてみましょう。
線を言語化するのは決して簡単ではありません。しかしこの場合は①~④の4つの線に分け、解剖学の用語を使えば以下のように言語化できます。
①胸鎖乳突筋による曲線。
②僧帽筋による曲線。①より奥にある。
③鎖骨外側端。現実の人体では存在する曲線だがデフォルメ表現により省略している。
④三角筋の外側頭による曲線。
ここで重要なのは①~④の意味が分かることではなく、解剖学の力を借りることで曲線を言葉で説明できるようになったことです。
この例のように身体に関係するものは解剖学の用語を使うことで語彙の表現力が大幅に広がると思います。
具体例:イメージを言語化する
イメージや雰囲気を表す語彙は多くありますが、言語化するにあたっては表記ゆれが少ない方が便利だと考えます。
一例ではありますが、言語イメージスケールを使った言語化を紹介します。まず、言語イメージスケールにつきましてはこちらのサイトに記載があります。
具体例として、過去に自作でデザインした女の子のイメージを言語化を目指します。
この子の場合、紹介したサイトの言語イメージスケールにあてはまるものは、上品な、キュートな、メルヘンの、さわやかな、があると思います。
また、イメージを言語化することでどんなモチーフを使用すればそのイメージに近づけることができるかを研究することもできます。
例えば上記の女の子の場合、上品さを表現するために
スカートが膝上であること
肌が白いこと
ロングヘアであること
派手な色が少ないこと
髪を触ったポーズにしていること
を表現として使用していることがわかります。
具体例:服装を言語化する
服の名称については下記のサイトで調べるのがおすすめです。ここについては具体例は省略します。
具体例:単純な図形で言語化する
図形には、長方形、正方形、三角形、円、楕円、双曲線、多角形などがあります。これらを組み合わせることで言語化することを目指します。
例えば、お尻は2つの球体から成り立つというのはイラストからの言語化と言えるでしょう。
②大小関係で言語化する[順序尺度による言語化]
大小関係を表現する語彙(大きい/小さい、短い/長い、丸い/角ばっている、など)を使用し、物事を比較することで類義点や相違点を言語化します。
メリットとデメリット
この方法のメリットは以下となります。
すでに持っている知識を活用することができるため1から覚えるより楽なことが多い。また、比較対象との関係性を掴むことができる。
名義尺度よりも具体的な説明になりやすい。
大小関係が分かるようになるので描き分けの際に意識的に取り入れることができる。
半面、デメリットは以下となります。
基準になるものを用意する必要がある。
基準になるものを言語化するのが簡単とは限らない。
具体例:男女の身体の違いを言語化する
成人男性と成人女性を比較したとき、より曲線的なのは女性の身体です。
具体例:大人と子どもの違いを言語化する
同じ身長であっても大人の身体と子どもの身体は異なります。これを言語化してみましょう。例えば、小学生高学年と成人女性の比較として、以下のようなことを一般論として言語化できます。
乳房の大きさは小学生高学年より成人女性の方が大きい。
骨盤の横幅は小学生高学年より成人女性の方が大きい。
皮下脂肪の量は小学生高学年より成人女性の方が多い。(=身体の曲線度に影響する)
こういった知見は観察、学術書の調査、実際に描いてみることなどで少しずつ得ることができます。
具体例:性格を言語化する
性格の言語化は名義尺度による言語化と順序尺度による言語化の2通りがあります。
名義尺度による言語化では、前向き、楽観的、行動力がある、積極的など性格を表す語彙を使用するだけです。
順序尺度による言語化の例として、ビックファイブ理論を使った方法があります。ビックファイブ理論とは以下のことです。
例えば、明るくて元気な子の性格の場合「外向性」が高いですが、おとなしい子では「外向性」が低くなります。これによって、性格を因子の大小関係によって比較できるようになります。
なお、実際に性格の言語化をするときは名義尺度と順序尺度を併用するのが良いと思います。
③数値を使って言語化する[間隔尺度・比例尺度による言語化]
数値(比率など)や数式を使って言語化する方法です。
統計学では間隔尺度と比例尺度は明確に区別して使う尺度ですが、イラストからの言語化の上ではそれほど重要ではありません。よって、ここではまとめて扱います。
メリットとデメリット
この方法のメリットは以下のようになります。
言語からイラストに書き起こすときの再現性が高い。
経験則でしか得られない知見を減らせる。
他の人に情報を発信しやすく、誤解も少ない。
半面、デメリットは以下のようになります。
理解のために高等教育レベルの知識を要求してくるときがある。
厳密すぎてイラストへ応用するのが困難な場合がある。
曖昧な情報を扱えない。
具体例:人体の位置関係を言語化する(人体比率)
人体の位置関係を言語化するうえで有名なのは人体比率です。
例えば、以下のサイトで紹介されているものがこれに該当します。
この例にかかわらず、比率というものは言語化において重要な要素になります。
具体例:シェードができる場所を言語化する
シェードになる場所はランベルトの余弦則という物理法則をベースにすることで言語化できます。なお、ランベルトの余弦則の詳細は以下に記載しているためこちらを参照してください。
この例のように物理法則は言語化に使えるときがあります。イラストに関連する物理法則として他には屈折やフレネル効果などがあります。
ただし、物理法則を理解するためには高度な数学の知識を問われるときもあるため万人受けな手法とは言い難いです。
具体例:色を言語化する
色は名義尺度による表現と間隔尺度による表現の2つがあります。必要に応じて使い分けるのがおすすめです。
名義尺度による色の言語化では、色彩検定の出題範囲でもあるJIS慣用色名が良いと考えています。JIS慣用色名については以下のサイトを参照してください。
間隔尺度による色の表現では、PCCSがおすすめです。PCCSの解説については以下を参照してください。
PCCSを使った色の表現の例は以下です。
まとめ
本記事では、イラストを言語化する方法を考察しました。
言語化する手法は大きく分けると3つです。
分類に使用する語彙を使って言語化する
大小関係で言語化する
数値を使って言語化する
私としては、間隔尺度・比例尺度→順序尺度→名義尺度の順に言語化ができないか考えるのがお勧めです。理由は厳密であるほど再現性が高いためです。
なお、この手法が分かったとしてもイラストを言語化するというのは決して簡単な作業ではありません。言語化に当たっては語彙を増やすことも重要ですが、時には別の学問の力(心理学、物理学など)を借りることも必要に応じてやる方が良いと考えております。
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