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MGRSグリッドの命名則について

こんにちは。
すべて記事はマニアックなのですが、いつも以上にこのタイトルでこのページに来る人は、ほぼいないと思います。ということで、ようこそお越しくださいました。

MGRS(Military Grid Reference System)について、特に格子の命名則が理解しづらいので、今回はほぼメモとして書いています。

MGRSはあくまで座標のシステムのことなので、日頃から見慣れていないとなかなか使えないものです。
MGRSを表示できる地図アプリもあるので、答えはそれで確認すればいいのですが、表示範囲が狭く、そこだけ見ても意味はわからない可能性もあります。
システムを理解するにはざっくりでも意味がわかっていた方がいいので、なるべく図を多用して書いてみました。


MGRSとは

こちらに図入りで説明されてます(英語のみ)。
https://earth-info.nga.mil/index.php?dir=coordsys&action=coordsys

Wikipediaはこちら。
https://en.wikipedia.org/wiki/Military_Grid_Reference_System

概要についてまず箇条書きで。

  1. MRGSはNATOで用いられている、地球上の位置を表示するためのグリッド(格子)システム

  2. 北緯84から南緯80度までがUTM座標系、極地方はUPS座標系で定義されている(「UTMグリッド」と同意で使われていることも多いが、厳密には違う)

  3. 1番目のGridが、Grid Zone Designator (GZD)。北緯84から南緯80度までについては、経度方向にはUTMのZONEと同じで6度ごと、緯度方向には8度ごと(北緯84度以北は12度)で区切った20個のBANDで構成されるGridとなっている。ZONEには1から60の数字が、BANDはCからXのアルファベットが使われる。Xは12度の幅がある。ただしIとOは除く。NやSなどもつかわれるが、北半球や南半球ということではない。例:12S、18T。

  4. 2番目のGridは100,000-meter grid square identification。UTMの座標定義で使われる中心子午線及び赤道を中心とした100kmのGrid。アルファベット2桁のペアが用いられる。ここでもIとOは使われないので24文字。

  5. 100,000-meter grid square identificationの1桁目は各ZONEごと8つの文字が使われる。Zone1:A→H、Zone2:J→R、Zone3:S→Z。Zone4ではAからに戻る。UTMの各ZONEの中心子午線から両側に100km基準でGridが作られるので緯度が上がるほど、両端のGridは狭くなっていく。

  6. 100,000-meter grid square identificationの2桁目は赤道から北へはアルファベット昇順、南へは降順。ZONEが奇数ならA→V、偶数ならF→V、またA→Vとなる。ここでもIとOは使われないので24文字。南へは降順となる。つまりZONEが奇数ならV→Aで、偶数ならE→A、V→Aとなる。(例:AA、AF、SF)

どうでしょうか。おそらく5と6がややこしいのではないでしょうか?
Gridシステムがイメージしづらい理由として、アルファベットが使われているため、大小の値(例えばPCから数えて何番目?など)が曖昧なこと(数字なら間違えない)、記号が重複して使われている場合があること、北半球&南半球で記号が対称になっていないことなどがあると思います。

ただ北半球だけで考えれば、組み合わせは6種類なので、定義が6ZONEごとに変わると考えればいいとも言えます。

Zone1:1桁目A→H、2桁目赤道から北へA→V、A→V・・・
Zone2:1桁目J→R、2桁目赤道から北へF→V、A→V・・・
Zone3:1桁目S→Z、2桁目赤道から北へA→V、A→V・・・
Zone4:1桁目A→H、2桁目赤道から北へF→V、A→V・・・
Zone5:1桁目J→R、2桁目赤道から北へA→V、A→V・・・
Zone6:1桁目S→Z、2桁目赤道から北へF→V、A→V・・・
Zone7以降:Zone1,2,3,4,5,6に戻る(以下同様)

文字が多くなりましたので、以下、図で示します。

Grid Zone Designationの命名則

ZoneはUTMのZONE(6度帯)と同じです。例えば東京駅なら54になります。これに南北の緯度方向のバンドと呼ばれる識別子のアルファベットが付きます。CからXまでが使われます。基本8度間隔ですが、一番北のXの部分だけが12度になります。これも例えば東京駅ならSです。つまり54Sという表記になります。アメリカのニューヨークなら18Tです。

MGRS Grid Zones

100,000-meter grid square identificationの命名則

まず、100kmの格子についてイメージを持ってみましょう。
日本では総務省で1次メッシュ、2次メッシュ、3次メッシュというメッシュの仕組みが標準地域メッシュとして定義されており、3次メッシュは1kmメッシュの代用として使われるのもご存知かと思います。私は環境調査機関に属していますので、説明は環境省のものを引用してみます。
なおメッシュシステムは環境調査の生息生育箇所表現において、統計的な処理が容易になることは勿論のこと、位置をぼやかすことにも使われることがあります。その場合、そのメッシュの何処かで見つかったというだけであって、満遍なくいるという意味ではないので注意しましょう。

2次メッシュは3次メッシュを10✕10個並べたものです。つまり10km格子となります。kmでわからない人は、2万5千分の1地形図とほぼ同じ範囲を想像してください。最近はそのほうがわからないかもしれませんが。
更にその10倍の100kmの範囲を、地形図の範囲で見るとこんな感じです。

2万5千分の1地形図10✕10枚の範囲(赤枠)
国土地理院 地図・空中写真閲覧サービスより
100,000-meter grid square identificationとは関係ありません

東西南北の4隅に御殿場、久留里、秩父、谷田部を含む範囲です。山手線の内側は6メッシュ分くらいしかありませんし、結構広い事がわかると思いますです。
なお、1次メッシュの範囲は20万分の1地勢図の範囲ですが、これは2万5千分の1地形図8✕8の大きさなので100km格子はそれよりも広いことになります。

話を100,000-meter grid square identificationに戻します。
ArcGISにはArcGISOnlineというWebMapサービスがあり、そこからMGRS_Gridsを引いてくるとこのGridを見ることができます。便利です。
さっそく一部を見てみましょう。

赤道付近の100,000-meter grid square identification 赤は赤道

赤道直下で西にある国は地理好きには人気のエクアドルです。赤は赤道ですが、これが緯度方向の原点です。
UTMのZONEは17,18,19が含まれています。
ZONE18は6の倍数なので上の定義でいうと、GZDの18Nでは1桁目S→Z、2桁目赤道から北へF→となっていることになりますが、そうなっていますね。東西の端のSとZは定義されているものの、幅が細いことも分かります。
ZONE19の19Nでは、1桁目A→H、2桁目赤道から北へA→であることもわかります。一方、南半球へは、18MではZONE18はEからの降順、ZONE19の19MではVからの降順であることも分かります。

極域についてもみています。

極域の100,000-meter grid square identification

カナダの北極圏の場所です。図の中心の緯度が北緯70度です。
GZDの18Wでは1桁目がU,V,W,Xの4つですが、殆どの場所が中心子午線に近いVとWであると分かります。

中緯度帯についても見てみます。

Grid Zone Designationの命名則の例
地図はUTMのZONE12で表示しています。

例として、ZONEが6の倍数である、12Sと18Tを赤と緑で示しています。
少し小さくで見えづらいですが、細い線が100,000-meter grid square identificationになっています。

この100,000-meter grid square identificationまでは、なんとかこのように参照できるのですが、この下位の定義はどうでしょうか。
定義の通り、ここから下位の数値については、UTMの座標を格子毎に整理していけばすむようになっています。ただこれもUTM座標に慣れていないと少し混乱するところではあります。

実際のデータをみてみる

ここから先は実際のデータを見たほうが早いので、MGRSデータの一例を紹介します。

トップページからData Downloads →Via HTTP→ディレクトリ一覧→northを選びます。そうすると多くのGZDをファイル名の一部に持つファイルがあります。今回は12S(mgrs_12s_100m.zip)を含むデータを選んでみます。
このzipファイルに格納されているのはArcGISのfilegeodatabase形式のデータです。ただしバージョンが初期の頃の9.3になっているため、一度ArcGIS等で変換する必要があるかもしれません。QGIS3.x系では開きませんでした。

この中にはいくつかfeatureclassがあるのですが、MGRS_100kmSQ_IDとMGRS_12S_10kmを表示させてみました。

100km格子(黒)と10km格子の表示(色付き)

MGRS_100kmSQ_IDでは100kmの格子です(図では黒で表示)。TA、UAなどの100,000-meter grid square identificationが入っています。
それぞれの100km格子の中にある色分けポリゴンはMGRS_12S_10kmです。
周囲に白黒で表示しているのは先に説明したMGRS_Gridsです。隣接する100,000-meter grid square identificationと見比べるとわかりやすいと思います。ここまでは上記の定義のおさらいです。

10km格子が見えるように拡大

中央部の100,000-meter grid square identificationのVE、VF、WE、WFを拡大してみます。

10km格子が見えるように拡大したもの

GZDと100,000-meter grid square identificationを赤字で示しています。黒字は、細分10km格子を示す、2桁の数字です。
100km格子の中が縦横に10分割された10km格子になっていて、格子ラベルが南→北+西→東の方向で0から順番に付与されていることが分かります。
各格子の識別子はこの赤字+黒字になります。例えば、12SWE09です。
ここまでも特に問題ないと思います。

さらに1km格子が見えるように拡大

さらに12SVEと12SWEの真ん中あたり12SVE94、12SVE95、12SWE94、12SVE95を拡大してみます。表示に使用するfeatureclassはMGRS_12S_10kmとMGRS_12S_1kmです。

1km格子が見えるように拡大したもの

10km格子(格子の識別子を赤字で表示)ごとに色を分け、1km格子を黒枠のポリゴンで表示しています。
ここで1km格子の識別子は赤字+黒字で示される9桁の文字ですが、数字が多くなるので赤字の部分は除いて表示しています。例えば青色の左上は、12SWE0049になります。

さて、ここで注意しないといけないのは0049のところで、0409ではないというところです。日本のメッシュ体系に慣れていると、1次メッシュの中の細分を末尾に2文字付与して2次メッシュにする(04の中の09なので0409)と考えてしまいますが、そうではないのです。

定義に戻ってみましょう。
12SWE0049の中心の座標をUTMで示すと、X: 500500 Y: 3949500です。
GZDと100,000-meter grid square identificationは別にして、シンプルに10km四方で区切られた相対座標(10km単位の切りの良い数宇で定義された格子があってその中の座標の意味)のことだけを考えます。

そうすると10km未満の桁の部分00500、49500だけを見れば良く、しかも1km未満は略しますので、1000で割って整数部分を見ると0と49となります。1文字というわけには行かないので、0埋めして、00にします。結果この格子の識別子は0049となり、全体で12SWE0049となるわけです。識別子は0始まりであることに注意です。

1つ西隣りの12SVE9949ですが、ポリゴン中心座標はX: 499500 Y: 3949500で、基準が西隣りの別の10km格子の中にあるため、99500、49500を見れば良くて、識別子が9949となっています。


このようにXY座標を別々に計算してみれば当たり前ですが、GZD、100,000-meter grid square identificationが別扱い、文字混じりで順番がわかりにくい、1次メッシュなどの座標システムを知っていたりする(入れ子になっていて、細分でも表記は緯度経度順)ので、余計混乱します。まあ慣れればいいのですが。

さらにさらに100m格子が見えるように拡大

この部分をさらに拡大して、100m格子のレベルまで見えるようにしてみます。表示に使用するfeatureclassはMGRS_12S_10kmとMGRS_12SVE_100m、MGRS_12SWE_100mです。

100m格子が見えるように拡大したもの

似たような絵ですが、10km格子(格子の識別子を赤字で表示)ごとに色を分け、100m格子を黒枠のポリゴンで表示しています。
ここで100m格子の識別子は赤字+黒字で示される11桁の文字です。例えば青色の左上は、12SWE000499になります。
命名則はもう大丈夫だと思いますが、あえて同じ計算をあえてしてみます。

ポリゴンの中心座標はX: 500050 Y: 3949950。
10km格子の中の座標である00050と49950を100mで割って整数部分を見ると000と499。
結果識別子は12SWE000499。

概略的な理解で言えば、1つ格子が細かくなったら(1kmから100mなど)、その中での格子を南西のそれを0として、XY別に格子を数え、その上位の格子のXとYの間に1文字ずつ入れていく(2文字を後ろにつけるわけではない)ということになります。

まとめ

MGRSの命名則、特に、100,000-meter grid square identificationのところについて、細かく説明しました。1次メッシュなどのように緯度経度で区切られた格子ではないので、距離換算の必要もなく、慣れれば間違いはないと思います。
仮に、メッシュで集計という用途があったとしたら、メッシュの数=面積比なので緯度経度て定義されたメッシュよりは便利かなと思いました。
今のところ全くその機会がないですが。
逆に1次メッシュシステムとは命名則が異なるので、頭をリセットする必要はあります。そこをクリアにするためにこの記事を書きました。

今回、UTMのZONE12帯を主に説明していますが、これは6の倍数なので、日本に重なるUTMのZONE54とはZONEを除けば基本同じ定義になります。
定義を理解して、意味を知っておきたいものです。

最後に

ここまでご覧いただき、ありがとうございました。

普段は北海道に本拠地を置くNPOに所属し、環境保全を主な題材としてGISやリモセンに関する仕事をしています。

コンサベーションGISコンソーシアムジャパン の活動もその1つです。
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