長期入院

 彼女は誰にでも平等に優しい。なんでもないような顔をして誰かに迷いなく手を差し伸べる姿はかっこいい。そんな、みんなにとってヒーローのような存在の彼女の特別に自分がいることは、未だに信じられないほどで。それなのに欲ばかりが膨らんでいくからいやになる。
 その口から発せられる「好き」はアタシだけのもの。そのことは十分にわかっていて、それで満足できたらどれだけよかったのだろう。

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 長期入院をしていて、みんなに迷惑ばかりかけていたからそれ以上の迷惑をかけたくない。だから弱音も我儘も飲み込んで笑うことが勝手に得意になっていたはずだった。それなのに彼女の前ではうまくできない。細い指先に捕まれて、名前を呼ばれて、柔らかい唇が触れるだけで何もかもが瓦解する。
 ずるいな、と思いつつそれすらも好きなのだと実感させられるから敵わない。
 よく、咲希には敵わないと言われるけれどこちらからしてみればその逆で。急に心臓を鷲掴みにされる身にもなってほしいと言ったところで彼女は首を傾げるのだろう。
 それすらも愛おしいと思う時点で既に取り返しがつかないところまで来ているような気がした。

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 今もセカイの教室でふたりきり。彼女の時間を独占しているというのに、青灰色の瞳がこちらではなくノートに向けられていることに小さな嫉妬心が芽生えている。
 こんなことばかり考えていて可愛くないな、とか。真面目に新曲を考えないと、とか。あれこれ考えてみるけれど、結局視線は元に戻ってしまって釘付けだ。
 挟んでいる机が邪魔で、これさえなければもっと近くにいられるのに。でも、これのおかげでギリギリ新曲作りから脱線しないでいられるとも取れた。

「咲希?」
「へ?」
「どうしたの?」

 ずっと伏せられていた瞳がこちらに向けられた。まさか本当に見てくれるとは思ってもいなくて、不意を突かれたことで不自然な間が生まれる。

「こっ、ここ、どうしよっかなぁって考えてて……」
「あぁ、昨日もそこ悩んでるって言ってたもんね」

 嘘じゃないけれど胸がチクリと痛んだ。真剣に譜面を見つめるその姿を前に、アタシは自分のことばかりだと自己嫌悪する。

「じゃあ、ここの歌詞少し変えてみる?」
「それだといっちゃんが大変じゃない?」
「大丈夫。ほんの少し変えるだけだから」

 そう言ってまた視線が外れていく。些細な動作に毎回踊らされているなんて思いもしないのだろう。
 さらさらと流れていくペン先を見つめているだけの時間。何か特別な意味があるわけでもなければ、もう何度も見て来た動作のはずなのに、つい見入ってしまうから。2周年 Journey 花里みのり コスプレ衣装

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