京都橘大学 日本語日本文学会主催 武田綾乃氏講演会「創作を仕事にするということ」 メモ

※2019年12月19日に京都橘大学にて行われた武田綾乃氏講演会の内容を、メモから覚えている限り書き起こしました。
主催していただいた京都橘大学 日本語日本文学会の皆様、この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございます。

本文ですが、記憶違いや誤字脱字もあるだろうし、覚えていない部分やメモを取れていない部分もあります。自分の脳が勝手に補完してしまっている部分もあるでしょう。
まあ、同じようなものをアップされている方がきっと他にもいると思われるので、いくつか読み比べて補完するといいかもしれません。

入場
サラッと入場されていました(大仰な拍手でお出迎えとかなし)。
武田先生の紹介を大学の先生が軽く行う。

一番後ろの人聞こえますか?という配慮を欠かさない。
基本的にパワポを用いながら話すという形式。

講演開始
自己紹介 
自分で用意するのは恥ずかしいのでamazonから引用した。

地元愛がすごいある人間なので、ずっと京都で暮らすんだろうなと思っていたけど、今は東京在住。

立華は読みを変えるとタチバナになるという小ネタがある(立華高校のモデルは京都橘高校)ので、人とユーフォについて会話をする機会があるとき、ぜひ使ってみてください。

(経歴の年表を見ながら)経歴に時空の歪みが生じているが、それは浪人したため。
小説を書くことにどハマりし、成績が低下して浪人。
浪人中もずっと小説を書いていた。現役で合格した大学生の友達に毎朝メールで送りつける毎日。浪人時代の1年間で原稿用紙約14000枚くらい。
模試の前日にも送ったが、そのときはさすがに友達から窘められた。


投稿に関して
同志社大学に入学。
サークルは入ったけど「完全に」友達づくりのため。
1年で5作(?)書いて賞に送るという目標を立てたため、文芸サークルには入らなかった。
数撃ちゃ当たる戦法と呼んでいる。
小説の公募賞はジャンルごとに分かれている。ジャンルが異なる作品を賞に送ると「カテゴリーエラー」になる。
けれど、自分の書いたジャンルにマッチしすぎた賞に送ると他の作品に埋もれる可能性があるため、逆張りのようにあえて少し外したところに投稿する、という選択肢もある。
自分の送った賞は月9のような恋愛小説を求められる賞だったが、募集時期を重視(だけを見て?)して送ったため、私もそのカテゴリーエラー(送ったものは青春小説)だった。
けれど、「隠し玉」としてデビューが決まる(夏に原稿を送り、冬にデビューが決定、出版は翌年の3月)。
作家になる方法は公募賞で賞をもらうだけではなく、いわゆる「なろう系」で人気を得てからのデビューなどもある。
自分も「隠し玉」なので、受賞をしたわけではなく期待、将来性を買ってもらってのデビューだった。


デビュー
デビュー当時、週5で塾講師のアルバイトをしていた。
『今日、きみと息をする。』の印税より、アルバイトの方が全然稼げた。
そのときの印税は、ボーナスでもらえたらラッキーくらいの金額。
なので、専業作家というものに対してかなり冷静な視線で見ていた。

出版パーティーに出席(自分が最年少)
色んな編集さんがアドバイスしてくれた中で心に残ったものを2つ紹介
「絶対に就職してください」と「作家の生存率はガンが治る(?)確率より低い」

幸運なことに2作目のユーフォがアニメ化されたけど、公式の発表まで人に話すことができず、二重スパイのような感覚で学校生活を送っていた。
その頃健康診断を受け、腎臓の持病が発覚。入院しながら執筆(2、3巻あたり?)していた時期もある。

4回生~卒業くらいの時期に、病気は寛解。
就職活動をしていたが病気のことなどもあり、自分には兼業は無理かもと思う。なので腹をくくって専業作家になる決心をした。
なので、大学生は大学の健康診断を受けよう!そして健康保険に入ろう!、自分は病気しちゃって入れないから(会場は暖かな笑いに包まれていました)。


プロット
話題はプロットの話に。
作家になってプロットを作ることを求められた。周りの作家さんに聞いてみたけど、「プロットのテンプレ」みたいなものはなく、作家それぞれに自分流のプロットがあると分かった。

※私の場合
箇条書きのメモ→ブラッシュアップしたまとめ→執筆用のプロット
プロット4~5万文字くらいで、かなり多い方。
2~3日で一気に書き上げることが多い。
そのプロットの4万文字が、最終的に15万文字(約350P)の小説に仕上がる。

twitterで小説家になるためには、1日1万字書けとかそういう根拠のないツイートがあるが、そういうハウツーツイートはまったく信じなくていい。
プロットは一気に書き上げられるが、実際の執筆では、1日に1000字程度なこともザラ。すぐゲームとかしちゃう。何でかというと、執筆はすごく集中力、脳を使うから。

出版までの流れ
プロット
 ↓
企画提出(会議)
 ↓
執筆
 ↓
再校、ゲラ
 ↓
発売 (この図はメモにとっていなかったのでうろ覚え)

まず企画提出をして会議にかけられ、OKが出ると執筆が始まる
売れっ子は(通るに決まってるから)会議のことなんか考えない。
新人は売れ線をリサーチして企画を提出する。
小説家に限らず漫画家、イラストレーターなんかも似たケースが多い。

プロットをしっかり作る練習をしましょう。役に立つ技術。
プロットは一銭にもならないけれど、その時点でボツを食らっても序盤の工程。傷が浅くて済む。
プロットを立てずに書いて書いて、けれどうまくいかなくて、ボツになるのは作家も編集も辛い。


プロットで意識していること
・承結の部分に盛り上がりを作る。
・構造のバランス
・プロットだけ読んでも面白いと思えるものにする(数年後に読み返したときに飽きないように)。小説というものは、プロットを立てるまでと実際の執筆にラグがあることが多い。しっかりプロットだけで面白いものにしておかないと、いざ執筆となったときに自分がキツい。
ちなみに、そのタイムラグは本を読む上で気にしておくと面白いかも(社会情勢の反映など)。

例)『その日、朱音は空を飛んだ』
プロット完成 2013年夏
 ↓
企画始動 2016年
 ↓
原稿完成 2017年
 ↓
出版 2018年
ユーフォが人気シリーズになったので、ユーフォに全力投球しようということになり、『その日、朱音は空を飛んだ』は後回しになった。
その分、時間をかけられたので『その日、朱音は空を飛んだ』は面白いものになった自信がある。


執筆中
執筆中は、「執筆をしている私」と「読者としての私」がいる、というイメージがある
執筆していると、「こう書けば楽だな~」みたいな展開を書こうとしてしまうことがあるが、読者としての私がそれをジャッジし、防ぐ。
執筆は書き下ろしだと2、3ヶ月かかる 楽しくないと心が持たない。


構成要素
・題材
・キャラ
・構造
・文章表現
小説の構成要素はこれくらいではないかと。
その中から、キャラについての話に。

キャラ
例)久石奏
キャラコンセプト
・主人公の助手。ただし一癖ある。
・大人びていると思われたい子供。
・あざとかわいい(装画を担当しているアサダニッキさんにも、そう伝えた)。
→上から発展して今の形に。役割が先、性格や境遇が後(一度確定してからは、性格や境遇に引きずられる)。

また、助手なのでワトソンを意識。

ユーフォは、久美子の話としては1年生編の時点で綺麗にまとまっている。
2年生編を作るにあたり、久美子世代はパンチのあるキャラがいないと思ったので、奏を登場させた。2年生キャラは全体的に、読者が掘り下げたくなるようなキャラを作ることを意識した。3年生編(2年生編を書く時点で3年生編の構想もあった)を含め今後も出番が多いから、そうしないとキャラが持たない。

逆に3年生編時の1年生キャラは、読者はそこまで掘り下げたくならないので、そこを意識してキャラ作り。
ここまでくるとキャラ数が多いので、劇みたいに代わりばんこに出番を与えていった。

奏は後輩であることを逆手に取るキャラ。

プロットに何パターンかセリフを書いておく(キャラの言動の雰囲気を忘れないように)。

ちなみに、求は2年生編と3年生編でキャラが二転三転(これ、ギャグだったんだろうか?)している。


個性
作品を語る上でよく「キャラの個性が~」という言葉が、当たり前のように使われている。
キャラの個性の立て方として、一人称を変えるとか、語尾を変えるなどがあるけど、やり過ぎると支障が出る。こんな人現実にいないよ、的な。

SMAPの「世界にひとつだけの花」という曲があるが、世の中全てオンリーワンだったら、それは個性なのか?と思っている。

仮に地球上に人間が私一人だったら、人であるということが、私の個性になる。
もうひとつ例を挙げると、仮に人間の中で私だけが女性で他が皆男性なら、女性であることが私の個性になる。
つまり、個性というものは「差」。

例)みかんの食べ方
・皮をバラバラ
・皮で絵を描く
・先に2つに割る
・めちゃキレイに剥く。筋のところも取る
・他の人に剥いてもらう
・食べない

上記のみかんの食べ方でも、人によって差が生まれる。
その差が集積したものが「個性」なんじゃないかと思っている。

お約束は安心感
小説にはお約束というものがある。
例えばお嬢様キャラの語尾に「ですわよ」がつくとか(この時期にこの例え……、もしかして『ゲーミングお嬢様』読んでる?)。
お約束があると読者は安心できる。すると、それ以外の他の箇所に集中して、小説を読むことができる。
だから、全てが新しくて斬新な小説は、読んでいて苦痛になる。
たまに、お約束をひっくり返すような小説が生まれるが、それも他の作家が真似し時が経つにつれ、どんどんお約束になってしまう。だから古い作品を若者が読むと、読んだときの感覚が違う。


傘木希美と鎧塚みぞれ
(余談ですが最初、「傘木みぞれ」って言い間違えてました。)
ユーフォの中でも人気のある二人だが、お互いが対になるようにキャラ作りをした。
名前も、気象現象の「みぞれ」と、それを防ぐ「傘」になっている。
共通項目が少ないこの二人は「二人きりになるとズレが最大になる」
その方が人間関係として面白い。


書くときに気をつけていること
・視点主の頭の良さ(こんな言葉知ってる? 比喩とか使う? そもそも気付く?)
例えば視点主が子供なのに、地の文で達者な表現を使っていたら、おかしいだろ!という話になる
・目線の位置(ポジティブorネガティブ、身長の高さ、癖)
・言動が性格とマッチしているか(この子はこんなこと言わないと思ったら、その子を尊重する)
・文章の硬さ・間の取り方
地の文の背景描写は、読み飛ばすように読む人もいるかもしれない。
けれど、地の文で背景描写を入れると物理的に(行が生まれ)間が取れる。すると、仮に背景描写を読んでいなくても、間があったということを読者が理解できる。ここは作家さんの個性がすごい出る部分。


新潮の校正さんがすごいという話
背景描写といえば、新潮さんの校正さんはすごい細かい。
電車に乗っていてトンネルを抜けると山が見えた、的な描写を書いたら、そのルートでは山は見えませんと地図付きで、帰ってきた。
そういう細かいところを詰めるのが好きな方は、校正さんという仕事もありかも。


作品を評価する
パワポには、パラメータのような正五角形の図。
各頂点は、構成、キャラクター、文章、売れ筋、ジャンル

読む側の心理状態や好みが大きく評価に影響する。
受け取り側の変化によっても変わる。だから、昔読んでつまらないと思った作品を読み直すと面白いと思ったり、その逆も起きる。

五角形のパラメータのようなものを作ったけど、そんなことはあんまり気にしなくていい。
文章や構成はダメダメだけど、キャラが100点だから作品も100点!というのも全然あり。

売れてる作品が面白くないと感じた時は、何がウケているのかを分析した方がいい。
↑自分に何が足りないのか(自分はなぜその作品を面白いと思えないのか)。

私もよくあるが、ゲームを遊んで自分は面白いと思ったのにAmazonレビューで星が低いレビューを見ると、そういえばたしかにあの部分は気になったかも、みたいにそのレビューに引っ張られ、悪いところばかり見えてくるようになってしまう。

売れているミュージシャンを貶す人なんかがいるけど、売れているものを嫌いになるのはヤメた方がいい。皆が好きなものを自分も好きになれるのは大事。←小説に限らず人に対してもそう。
ベテランの作家さんも、人と感覚がズレないように売れている作品を読んでいたりする。


オススメ本
『凍りのくじら』辻村深月
『勝手にふるえてろ』綿矢りさ
『愛という名の支配』田嶋陽子
『服従の心理』スタンレー・ミルグラム(著) 山形造生(翻訳)
『進化しすぎた脳』池谷裕二

上の2冊は、私の趣味全開。それ以外は学生さんにオススメの本を意識して選んだ。
田嶋陽子さんは関西ではテレビに出演しているときのイメージが強いけれど、シャープな文章を書く。
講演終わり。


質問コーナー
・焦る瞬間はあるか?
やっぱり締め切り。学生さんにとってのレポートみたいなものなので。
あと、目が肥えてきてしまい、昔の書き方(?)に満足できなくなる。


初期の頃は好きなものを書けない、と書かれているが質問の内容を書いていない。おそらく「新人の頃の企画提出の苦悩」なんかについて質問していたのではないかと。

・原作では関西弁が使われている。なぜ関西弁で書こうと思ったのか。
宇治を書きたかったから。
アニメでは、声優さんが関西弁を操るハードルが高い。声はハマっているのに、関西弁の素養がないとキャスティングできない、となるのはどうなのか? なのでアニメは、標準語になりました、みたいな説明だったはず。


チャンスに飛びつく、と書かれているが質問の内容を書いていない。あと、人を信頼することも大事、みたいなことも言ってたような気がします。

・Twitterでも少し触れられていたが、小説に限らず今ハマっているコンテンツは?
Twitterでも触れているが『SHIORI EXPERIENCE』。『ヒカルの碁』(今の子、分かるのかな?っておっしゃられてた)の佐為みたいなキャラが出てくるバンドもの。
漫画という音がない形式で、ここまで音を表現できるのはすごい。それを確認するため、何回も読み返した。

・今後挑戦したいジャンルや新作の構想は?
(新作について少し話されていましたが、書いていいか分からないのでパス)

・難産だったキャラは?
田中あすか。ずっと難産。書くことは苦痛じゃなかったけど、当時の自分の筆力が足りるか足りないか、勝つか負けるか、みたいな感覚だった。

・行き詰まったときは? 
サイコロを振る。TRPGみたいに。
自分だけで考えるとどうしてもパターン化してしまうので、そういう偶然性には結構頼っている。

・キャラの活き活きとした様子が先生の作品の魅力だと思うが、先生自身の生活の中でそのあたりはどうなのか?
人間関係とか全部小説にできるからいいや、と思っている。
感情は文字に起こすといい。
あと、悪い意味ではなく、他人に期待しない。人にこうしてほしいと思ってしまうと、そうでなかったときにしんどいので。


先生の出身高校の話(なぜ、その高校を選んだのか、大学の先生が質問していらっしゃいました)
図書室がキレイなこと
マラソン大会がないこと(力説しておられました)
文芸部もあった

生徒さんがお花を渡し、拍手につつまれながら退場。


大学の先生からのお話
例年今くらいの時期に現役のクリエイターさんを呼んで講演を行っているので、来年の今頃になったら京都橘大学のサイトをチェックしていただけると嬉しい。
来年お声がけしている(まだ確定はしてない。断られる可能性も十二分にある)先生のリストアップの中には、谷川流先生もいる。

終わり

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?