[ファッション]BALENCIAGA RESORT 25 について

人間の欲望は、底が知れないものである。
この文書を読んでいる方であれば、思い当たるところも多いはずだ。欲しかった洋服を手に入れてすぐ、また別の洋服を探してしまうような経験は、ファッションヴィクティムの皆様にはお馴染みだろう。

勿論私も例外ではない。
最近、私は服を手放し、金を貯めて、決死の思いで高価なスニーカーを購入した。満身創痍の状態にも関わらず、既にそのスニーカーに合わせるパンツやトップスを海外通販サイトで探している始末だ。きっとセールを言い訳に、何かを購入するハメになる。

私の例一つとっても分かるように、欲望は単体で完結するものでは無い。一つの欲望が、また別の欲望に連鎖していく。
今より良い物を、今より良い暮らしを──
そのような欲望こそが、この資本主義社会の基盤にもなっている。

BALENCIAGA 25 RESORTのコレクションは、そのような、人間の底知れない欲望の連鎖を具現化したようなコレクションであると私は感じた。

BALENCIAGAのデザイナーであるデムナヴァザリアは、これまで、ラグジュアリーファッション業界における既存の価値観を破壊し続けてきた人物である。

今更彼の功績を詳しく述べることはしないが、彼の登場により、ラグジュアリーの定義は完全に破壊・再構築されたと言っても差し支えないだろう。これまで、ラグジュアリーブランドが、完璧なテーラリングや高級な生地によって表現してきた美しさを、彼はボロボロのデニムやサイズの合わないジャージで表現することに成功してしまった。

彼がラグジュアリーの在り方をすっかり塗り替えてしまってから、早くも10年近くの月日が経過しようとしている。
にも関わらず、我々消費者は、未だに彼に対して既存の価値観の破壊を求めてしまう。
「もっと刺激的に」「もっと強烈に」
そんな我々の欲望に、彼は応え続けてきた。そしてそれは、今回のコレクションも例外ではない。

ここ数年、BALENCIAGAはシューズの肥大化に前にも増して執心していた印象である。
直近では、3XL、cargo、10XL等の巨大スニーカーを矢継ぎ早に発表し、我々を驚かせた。

BALENCIAGAのショーを楽しみにする誰もが、提示される次の一手にワクワクしていたはずだ。
彼ならさらに上を、もしくは全く異なるアプローチでの破壊を見せてくれるはず──
そのような我々オーディエンスの期待に、彼は軽々と応えてみせた。

過去の大名作、3Sは3種類のスニーカーソールを合体させたものだったが、今回発表されたプラットフォームスニーカーはそれを嘲笑うかのように十数層のソールが積み重なり、何と16cmにも及ぶ巨大なソールを形成する。

Look 16

ここ最近続いていたシューズの外周そのものにアプローチする「面」での肥大化はキープしつつ、さらに「縦」方向の肥大化を、過去作へのオマージュまで交えながら彼は実現した。
このような人並外れた発想は、さらに上が見たいという我々の欲求を、いとも簡単に満たすものであった。

加えてブーツである。
前シーズンでは、トゥのボリューム感が強調されたレースアップブーツを発表し話題をさらっていたが、早くもそこに別のアプローチをかけた。

これもまた他に例を見ないレベルでの「縦」方向の肥大化である。加えて、緩い台形を描く極厚ソールのシルエットと、ソール中央に配置された円形の空洞で、これまでのどんなプラットフォームシューズとも差をつけている。

加えて、ソールのデザインに隠れがちではあるが、ほぼ膝丈までのレースアップという点も注目すべき点だろう。「縦」方向での肥大化は、ソールと逆方向に対しても行われている。

Look 13

これらのあまりにも特徴的なデザインのシューズ群は、まるで我々の「さらに上が見たい」という欲望が、そのまま具現化したかのようであった。
おそらく我々が望む限り、彼はあの手この手を尽くしてこちらの期待を超えるアウトプットを出してくるはずだ。
シューズの大きさは、きっと我々が彼に対して向ける期待の大きさに比例していく。

一方で、コレクション全体を見てみると、今後想定されるトレンドに向けた布石もキチンと打っていることが伺える。例えば以下のルックである。前回のコレクションから継続して、
以下のルックに代表されるような、ハイパースキニーシルエットのパンツが提案されている。

Look 30

しかもこれはよく見ると、シューズとストッキングが一体化(しかもダメージ入り)したなんとも奇妙なアイテムである。
巨大シューズの一方で、パンツレスかつシューズレスでスーパースキニーという新たな破壊の方向性を、彼は既に打ち出し始めている。
(本題と逸れるので細かな話は省略するが、そもそもこのスタイルを打ち出し始めたのは、カニエウェストである。人間性は別にして、やはり彼のファッション業界に与える影響は限りなく大きいと感じる)

これからも、彼はオーディエンスの欲望を、自らのコレクションを通して満たし続けていくはずだ。その結果として、既存の価値観や固定概念を破壊し続ける彼の覇権は、まだ続いていくだろう。

以前、wwdのインタビューにて、デムナは以下のような発言をしていた。
「私は常にストリートからのボトムアップをファッションの世界に取り込んできた──これからもスタンスは変わらない。虚構のファッションピラミッドをひっくり返したい」

いまや、もとあったファッションピラミッドは完全にひっくり返り、その頂点には彼が君臨しているように私は思う。
次にまたそのピラミッドをひっくり返すのは、彼自身なのか、はたまた別の誰かなのか、私は今から楽しみにしている。

※写真は全てVOGUE runwayから引用、
各写真にリンク貼付

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