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大切な、愛おしい≪小さな宝石≫ セテラ作品の思い出⑲ 『パパは奮闘中!』

2018年のカンヌ映画祭、批評家週間部門に出品されていたベルギー・フランス合作映画、”Nos Batailles" (「我々の闘い」の意)が、プレスの評判がとても良いらしい、と聞いて、一応見ようと思ったのは、主演がお気に入りの俳優ロマン・デュリスだったからです。

監督は2015年の長編第1作目が注目された新人ギヨーム・セネズ、ベルギー人ですが、全く知りませんでした。最初の導入からして、絵もしっかりしていて才能を感じました。

子供二人を持つ共働きの夫婦、夫のオリヴィエは通販の会社の倉庫業務で責任ある地位を任されていて、家庭や子供たちのことは妻のローラに任せて仕事に忙しくしています。そして突然の妻の家出。行方も理由もわからないオリヴィエにいきなり子供たちの着替え、学校への送迎、食事、と一度に問題が降りかかり、仕事をしながらパパの悪戦苦闘、大奮闘の毎日が始まります・・・。地味な作品ですが、テーマは普遍的でまたロマン・デュリスが素晴らしくこの映画がとてもとても気に入りました。今までにもこのように小さな宝石、きらりと輝く作品を見つけた時は、本当に嬉しくて作品に入れ込みますが、以前にも同じような思いを持った作品がありました。ステファン・ブリゼ監督のやはり初期の作品で『愛されるためにここにいる』です。地味ですが、きらりと光ってまさに“小さな宝石“のような映画でした。フランス人の映画関係者はよくこの表現を使います。”この映画はまさに≪小さな宝石≫だよ“と。私にとってセテラで多くの映画を配給してきましたが、≪小さな宝石≫と呼びたい映画は二つ目でした。その後この映画は、ベルギーのアカデミー賞で作品賞など主要5部門を受賞しました。

2019年のGWに公開も新宿武蔵野館で決まり、2019年の3月初旬にプロモーションのために監督を招聘することになり要請したところ、ロマン・デュリスも一緒に来てはどうか、と言ってきて実際二人の来日が実現しました。一つの作品のために監督と主演俳優を来日させることは滅多にないのですが、ロマン・デュリスは『モリエール 恋こそ喜劇』からの大セテラ俳優でしたし、彼が来ると言うのを誰が拒否できましょうか!?

ということで、とても良い来日キャンペーンができました。4泊5日ゆっくりと都内で遊ぶ日もあり、オフの日に二人で中目黒の川沿いを散歩したそうです。(セテラの事務所は至近距離でした)

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まさか1年後にこんなコロナ禍になると、誰も想像できなかったわけですが、今回の”Help the 映画配給会社“プロジェクトのための応援動画を要請するメールを出したら、何のコメントもなくいきなり20秒のコメント動画を送ってきてくれました。

その後この映画のスタッフから、今回セネズ監督がお父さんとおばあさんをコロナで失くしたという衝撃の事実を聞いて、言葉を失いました。

そんな状況の中で、応援コメント動画を送ってくれたことに、あらためて深謝ですが、彼になんといってお悔やみを言えばいいか・・・世の中でいろいろな別れがありますが、コロナで亡くなるのは本当に辛いです。彼がこの悲しみを乗り越えて、また新しい映画を作ってくれることを願うばかりです。

そして我々が日本でできること、それは彼の作った映画を多くの人に見てもらうことです。偶然ですが、『パパは奮闘中!』は、今月6月17日よりWOWOWでTV初放送になります。本当にこの素敵な映画をぜひご覧になってほしいなと思います。またDVDも出ていますし、6月12日から25日に開催されるEUフィルムデイズ2020にて配信でもこの映画はご覧になれますので、一人でも多くの方が、この映画と出会っていただければ本望です。

山中陽子

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