あいきゃっち

櫻歌ミコのバックボーンについて (VTuberリスナー向け)


30日まで開催されていた、秋葉原・ラジオ会館のギフトショップ「The AkiBa」での店舗内ラッピングを賭けたSHOWROOMのイベント。あまりSHOWROOMと縁のなかった自分からすれば壮絶な激戦の末に、しかし終わってみれば、櫻歌(おうか)ミコというVTuberがぶっちぎりの1位でフィニッシュしていました。
しかし、SHOWROOM内で行われてきたこれまでのイベントで特筆した実績を残してきたキャラクターではなかったということもあり、突然の躍進の理由が掴みかねる存在であったことも事実でしょう。

ということで、SHOWROOMなどのVTuber配信をメインで追っている人向けに、そもそも今回のイベントに至るまでの櫻歌ミコ界隈がどういうものだったのか、という話をしたいと思います。

ただ、あくまで私の観測範囲から見える話に限るので、抜けとか事実誤認とかあったらごめんなさい。何かあったらリプライとかそういうのでお願いします。

お前は誰だ

ニコニコ動画で「月刊UTAUオリジナル曲ランキング」という動画を作っていました(現在もブロマガでの公開継続中)。その関係でUTAUという歌声合成ジャンルを長く追っています。
Twitterのクソbotとクソ診断が好きです。最近の推しは架空のクソファンタを自動生成するFun Fearless Fake Fantaです。

UTAU

櫻歌ミコは元々はUTAU向けに制作された音源、およびその音源に紐づくキャラクターです。UTAUというのは超ざっくり言うと「ボカロっぽいことを個人の音源で実現できるツール」なのですが、櫻歌ミコはその音源の一つとして、2009年に制作・公開されたものです。VTuberとしての歴史は1年程度のキャラでありながら、それを遥かに超える「10周年」を掲げているのは、こうした理由によります。

UTAU音源を使ってミコを歌わせた例。当時からリアルなロリ音源として人気を博しています。

ちなみに、ミコの“キャラデザのほうのママ”である縣さんは、VOCALOID界隈で初期からイラストを手がけてきた人。「パラジクロロベンゼン」のイラストを手がけたと言えば、記憶にある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
UTAUとしての櫻歌ミコについては触れておきたいことが山ほどあるのですが、それは本稿の主旨ではないので、別の機会に嫌と言うほど語ります。

MMDとVRC

そんなUTAUキャラの一人であった櫻歌ミコが、UTAUジャンルに留まらない知名度を得ている大きな理由に、VRChatの存在があります。VRChatは「ソーシャルVR」と呼ばれる、VR空間のコミュニケーションプラットフォームのひとつで、現在のユーザーベースのVRコミュニティにおける大きな源流の一つとなっています。
VRChatの大きな特徴として、自分のアバターを自由に設定できる、というものがあります。自作のものはもちろん、他のユーザーが有償・無償で頒布している3Dモデルを読み込んで、VRChat内における自らの外見として用いることができます。
このVRChatの中で、櫻歌ミコの3Dモデルがアバターとして大ブレイクを果たしていたのです。

もともとは初音ミクを使った3Dアニメーションを制作するために公開されたMikuMikuDance(MMD)は、特にVOCALOID動画の主要プラットフォームであったニコニコ動画において、大きな存在感を放っていました。VOCALOIDをはじめとする様々なジャンルのキャラクターたちが、3DモデルとなってMMDの世界に取り込まれていきました。
そしてVOCALOIDに近接するジャンルであるUTAUにおいても、様々なキャラクターのMMDモデルが制作・公開されるようになっていきました。

そんな中、2013年に、のちに“3Dモデルのママ”とも呼ばれることになるキツネツキさんが、MikuMikuDanceでの利用を想定した、櫻歌ミコの3Dモデルを公開しました。

翌2014年には「第二ちゃん」こと第二形態のモデルも公開。

そしてこの3Dモデルが、数年のタイムラグを経て、どこからかVRChatに持ち込まれていきました。

少し技術的な話になりますが、VRChatではアバターに使えるポリゴン数に制限があります。つまり、あまり細密な3Dモデルはアバターに使うことができず、そのため、MMDを想定して制作されたモデルの多くは、VRChatにそのまま持ち込むことができませんでした(ほかにも権利的な問題とかもあるけどここでは触れません)。
ですが、キツネツキさんが公開していた櫻歌ミコの3Dモデルは、モデルの改変を認めていました。つまり、VRChatでアバターとして使うために、ポリゴン数を減らすことができたのです。

ミコ族

当時、VRChatでの自由に使えるアバターの選択肢がそれほど多くなく、有償のモデルを販売・購入するスキームも、現在ほどには定着していませんでした。そんな中でどこからか持ち込まれ、しかも無償で使うことのできたこのモデルのインパクトは、非常に大きなものであったようです。
そして気が付けば、けもみみフードの女の子のアバターが、国内外のユーザーを問わず、VRChat内で大繁殖していました。モデルの改変にはパーツの色変えや描き足しなども含まれていたため、多種多様な「ミコ族」がVR空間に現れました。

中でも象徴的であったのが、VRChatでの“Kawaii”を追求するユーザーが集う“KawaiiForce”というユーザーグループ。このグループにおいては、一時期ほとんどのメンバーが櫻歌ミコ、およびその改変アバターを使用していたほどでした。

2018年6月に発刊された、KawaiiForceを題材にした同人誌。表紙に描かれている6人のうち、実に5人が櫻歌ミコ、およびその改変アバターであったことからも、この頃のミコモデルの存在感の大きさが伺えます。ちなみに、残る1人はキツネツキさんのアバター。つまり、この表紙の6人すべてが、キツネツキさんのモデルに端を発していることになります。やはりキツネママはKawaiiの祖。

現在は、非公認の状態での商用利用に関するミコの規約が更新されたこと、アバターとして使えるモデル販売の枠組みが定着したことなどから、一時期の狂騒にも似た増殖はすっかり収まったように思われます。それでも、櫻歌ミコはVRChatにおける“Kawaii”を体現するアイコンとして、現在も根強い人気を誇っています。
VTuberの櫻歌ミコも時折VRChatを訪れ、ミコアバターを利用するユーザーとの交流の機会を持っています。昨年冬には、VRChatでの音楽ライブも実施されました。

そしてガチイベへ

そういうわけで、櫻歌ミコというのは、UTAUやVRChatといった、VTuber外のジャンルで「使われる」ことによって存在感を放ってきた、VTuberの出自としては非常に特異な存在だったのです。
ある人はミコを歌わせた動画をきっかけに交流が広がったり、またある人はミコを初期アバターにして、VR空間への第一歩を踏み出したり。

そうして、様々なユーザーの活動の一里塚に置かれてきたミコが、自らVTuberとなり、そして今、本気でイベントを勝ち抜こうとしている。以前からのSHOWROOMリスナーに加えて、そのミコの熱意に共感した、かつてミコと縁のあった他ジャンルからの人が多く呼び込まれた結果が、今回の数字だったんじゃないかと思っています。
もちろんそれは、イベント自体の宣伝に加えて、SHOWROOM慣れしていない他ジャンルリスナー向けの細かな解説があってこそであったとも思います。

VRChat内でも宣伝。

イベント中の最後の配信となった 29日23:30の枠には、VRChatユーザー、3Dモデラー、UTAUユーザー、ひょっとしたらけもみみおーこく民など、ともすれば普段はSHOWROOMとは縁遠い人たちが数多く配信に訪れ、大量の星をばら撒いていきました。それは言うなれば、偶然にも様々なジャンルを渡り歩きながら進んできた、櫻歌ミコの10年間の集大成でもあったのでしょう。たぶん、きっと、おそらく。

ともかくも、櫻歌ミコはこのイベントを1位で終了。これによって、ラジオ会館内ギフトショップでの店舗内ラッピングが正式に決定したのでした。
改めて、イベントに参加された皆さん、お疲れさまでした。

そういう私は前日に徹夜した関係で体が持たず寝てたのですが。本当に申し訳ない。

そういうわけで

櫻歌ミコの場合、VTuberとしての活動以外に、UTAUやVRChatといったほかのジャンルにも接点を持つことができます(オフィシャルにはすべて群れの中の別の個体という位置づけ)。配信を見て興味を持った人は、他の世界で活躍するミコを探してみてはいかがでしょうか。

そして、もう終わったような空気が流れていますが、櫻歌ミコの10周年は12月24日です。今回のイベント中に、10周年の記念衣装の3Dモデル化が進んでいるという発表もありました。こちらもどんな展開を見せるのか楽しみです。

余談

櫻歌ミコのファンを公言しているねこますさんが、このイベントをきっかけに順調にSHOWROOM沼にハマりつつあるようです。


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