見出し画像

ジャン=ポール・ベルモンド傑作選フィナーレ

パリオリンピックも開幕しましたが、開会式では次々にフレンチカルチャーのレガシーのようなコンテンツが、次々に登場していました。
フランスのレガシーとして、深く国民に愛されている俳優が、ジャン=ポール・ベルモンドです。
彼が健在だったならば、セレモニーのどこかに登場したのではないかと思います。
ゲンズブールの楽曲で始まった選手入場でしたが、私の空耳かもしれないが、ベルモンド作品のメロディも一部使われていたように感じました。
2020年にスタートし、日本では風化しかけていたジャン=ポール・ベルモンドへの意識を感化させてくれたのが、特集上映ベルモンド傑作選です。
この素晴らしい企画が、いよいよ第4回でグランドフィナーレとなっています。
これまでセルクルルージュでは、第1回第2回第3回と、サイトで紹介をさせて頂きました。
またセルクルルージュ・ヴィンテージストアでは、ベルモンド作品のオリジナルポスターを販売しています。
今回もこちらのnoteで、川野正雄、川口敦子2名のレビューで、グランドフィナーレ作品の紹介をさせて頂きます。


「カトマンズの男」 © 1965 TF1 Droits Audiovisuels All rights reserved.


川野正雄

これまでの3回では、大好きな『リオの男』、『カトマンズの男』、『冬の猿』、『オー!』、『華麗なる大泥棒』などの作品との再会に、まずは感動。

「冬の猿」 © 1961 GAUMONT - Tous Droits Réservés.


さらに全く見る機会のなかった『大頭脳』、『プロフェッショナル』、『大盗賊』、『恐怖に襲われた街』などの初見作品の数々に興奮。
今回のグランドフィナーレで、一部作品は上映されている。

「大頭脳」 © 1969 Gaumont (France) / Dino de Laurentiis Cinematografica (Italy)


この企画、ここまでベルモンドにどっぷり浸れる日が来るとは思わなかった至福の特集上映であった。
セルクルルージュでも、配信番組やポスター展など連動企画もやらせて頂いた。
そして特集上映が続く中、ベルモンドは2021年この世を去った。そういったニュースも絡み、若い世代を中心に、この傑作選で、より多くの人がベルモンドの魅力に触れて頂いたのではないかと思う。
さて、このグランドフィナーレは3本の新たな作品+傑作選より抜き作品で組まれている。3本のうち、公開時見た作品は、巨匠クロード・ルルーシュと組んだ『ライオンと呼ばれた男』のみである。
その時はベルモンド作品のブランクが10年以上あり、久々スクリーンで見るベルモンドの姿に、とても感激した記憶がある。
描かれるタフネスなヒーロー像は、当時はちょっと驚いたが、未見であった70年代後半から80年代作品を傑作選で見た後であれば、この流れもすんなりと納得ができる。
ベルモンドが当時やりたかったヒーロー像であったことが、より理解しやすい。当時は随分ベルモンドが歳を重ねたように見えたが、まだ55歳であった。

「ライオンと呼ばれた男」 © 1988 / Les Films 13 - STUDIOCANAL - TF1 Films Production - Stallion Film Und Fernseh Produktiongesellschaft - Gerhard Schm Film Script. All Rights Reserved


そして変装など、これまでのベルモンド作品へのオマージュと思われる演出が細かく散りばめられているのが楽しい。
『おかしなおかしな大冒険』と、『レ・ミゼラブル』は、ベルモンドが作者と、劇中劇の両方を演じるどちらもハイブリッドな構成の作品である。
『おかしなおかしな大冒険』は、『唇からナイフ』のテレンス・スタンプ&モニカ・ビッティのように、ジャクリーン・ビセットとのカップルで暴れ回るスパイ・アクション・コメディである。フィリップ・ド・ブロカ監督とのコンビ作品の中ではやや薄口ではあるが、サラッと楽しめるベルモンドらしい作品だ。
今回の3作品の中で一番気に入ったのが、『レ・ミゼラブル』だ。

「レ・ミゼラブル」 © 1994 / LES FILMS 13 - TF1 FILMS Production. All Rights Reserved


90年代に入り、ベルモンドも60代になっているが、多重構造の見応えのある作品になっているし、ベルモンドの演技も素晴らしい。
1995年の作品であるから、ベルモンドが1992年に来日した舞台『シラノ・ド・ベルジュラック』から3年後の作品である。『シラノ』、『レ・ミゼラブル』など、スタンダードな名作に、当時のベルモンドは魅かれていたのだろうか。
ベルモンド作品の魅力の一つは、ハズレがないという点だろう。どれを見ても、サービス精神旺盛なネルモンドの魅力に触れることができる。
そして、この傑作選。フィナーレなんて、まだまだ早いのである。
初期作品の『バナナの皮』、『雨のしのびあい』、『いぬ』、『モラン神父』、大人の恋愛作品『暗くなるまでこの恋を』、「あの愛をふたたび」、ノーラン作品が吹っ飛ぶ戦争映画『ダンケルク』、見る機会のない『コニャックの男』などなど、傑作選上映候補作品、まだまだありますよ!


おかしなおかしな大冒険」 © 1973 / STUDIOCANAL - Nicolas Lebovici - Oceania Produzioni Internazionali Cinematografiche S.R.L. All Rights Reserved

川口敦子

シェリー・デュバルが逝ってしまった。つい先日、ドナルド・サザーランドの訃報を聞いたばかりだけにああ、アルトマン映画を支えた個性派がどんどんいなくなるとしんみりせずにはいられなくなる。『ナッシュビル』よりも『三人の女』よりも、いたいけとさえいいたいようなやせっぽちの彼女の磁力、ヘンな女の子とか、エキセントリック全開の70年代娘を体現とかとかとの部分でばかり記憶されてきたデュバルの深奥にふるえるそんなはかなさ、せつなさを垣間見せたという点でファンとしては彼女のベストと呼びたい『ボウイ&キーチ』――思えばあの快作と同じ74年に公開された『おかしなおかしな大冒険』、そこで名コンビ、フィリップ・ド・ブロカ監督とますますワルノリの息もピタリでベルモンドが繰り出すボンド映画を吹っ飛ばせな大冒険活劇に〝花を添える″(とあえてフェミニストに挑むみたいな言い方をしてしまうのだが)ジャクリーン・ビセットのことを今回の〝傑作選・グランドフィナーレ″での51年ぶりの劇場公開(それも4Kリマスター&完全新訳で)を寿ぎつつ書きたいなと思っていた所だけに、同じ時代を分かち合ったデュバルとビセット、その対照的な在り方を改めて噛みしめてみたくもなってくる。

 デュバル追悼の気持ちでつい脱線気味な書き出しになってしまったが、彼女に代表される新型の女優たち、ルックスも存在感も型破りな面々が注目の的となった時代に、フツーに美人でグラマーだったりもして(ホルターネックのドレスや水着の素敵をおしえてくれた)、往時、『クリスチーヌの性愛記』なんてキワドイ邦題がついた主演作の紹介記事をファン雑誌でみつけた中学生はえ、ビセットが⁈(井川遥に抱く〝勝手なきれいなお姉さん″イメージと重なるかもと今、唐突に思ったのだが)と、映画そのものの中身を見もしないで勝手に膨らんだ妄想で意味もなく裏切られたような気になったりもしたのだが、ともかくはじらいがちな微笑みと濡れたような瞳で〝女らしさ″を馥郁と香らせるポートレートにまず魅入られて、自己主張しなさでしっとりと自己主張してみせるような、いっそ70年代離れしたビセットという女優に出演作未見のままに大好き状態に陥ったのを懐かしく思い出す。

実際、『刑事』ではフランク・シナトラ、『ブリット』ではスティーブ・マックィーンの傍らでさらりと光ってみせたビセットの出しゃばり過ぎない存在の仕方が個性派全盛の70年代、逆に新鮮に映って人気の素にもなっていたのではなかったか。トリュフォーの『アメリカの夜』ではそんな美質を、ふらっと罪作りなやさしさを主演男優に注いでしまう存在、そのあやふやさの、危なさの、魅力に結晶させてついに本領発揮、女優としての確かな評価も獲得した。が、単なる〝きれいどころ″を脱皮して、このまま作家の映画のヒロインに収まってしまうのかしらと思いきや、その後も硬軟自在のフィルモグラフィーを選び取って半世紀を超える今もなお現役という息の長い女優となっている。改めて振り返ればそうしたキャリアの歩み方にしてもやはり主張しすぎない主張となっていて、そこにまたしても控えめな知の光の光らせ方が感知される。

「おかしなおかしな大冒険」 © 1973 / STUDIOCANAL - Nicolas Lebovici - Oceania Produzioni Internazionali Cinematografiche S.R.L. All Rights Reserved

ジャクリーン・ビセットという女優の素敵を吟味してみれば、作家の妄想世界に他ならない大活劇のヒロインと、作家の暮らすアパートの上階に住む社会心理学専攻の美人女子大生を演じ分ける『おかしなおかしな大冒険』の彼女はまさにそのこれみよがしを退けた知性でベルモンドのそれと拮抗してみせるといってもいいだろう。はじけるときにははじけますとグラマラスな衣装で暴れるかと思えばパルプ小説における男らしさを研究するフェミニストのぎこちなさゆえのセクシーさをはらりとものにして、映画の構造と照応する二重性をまんまと請け負ってみせる。リアルと夢、ふたつの世界の交錯をノンシャランと力こぶのかけらもみせずに往還するベルモンドの傍らで出しゃばりすぎずに存在の二重性を形にするビセット。そんな女優の輝きもまたベルモンド傑作選(フィナーレにしてほしくはない)の大いなるお愉しみに他ならないだろう。

おかしなおかしな大冒険」 © 1973 / STUDIOCANAL - Nicolas Lebovici - Oceania Produzioni Internazionali Cinematografiche S.R.L. All Rights Reserved

追記:「1977年の米英合作『ザ・ディープ』で見せた濡れたTシャツのポスターは、70年代の最も象徴的な画像の1つともいわれ、今なお語り継がれている」なんてウィキにも記載されているけれど、『おかしなおかしな大冒険』終幕近くでみせるだぼだぼT姿のかわいいセクシーもお見逃しなく!

現在全国順次公開中


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?