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機材おじさんとベランダ菜園

ベランダ菜園を初めて一年が経過した。

街並みにあるアパートなどを眺めていると、ベランダに設置したプランターでいろんな植物を育てている人がいる。
だいたい観葉植物であることが多いが、中には野菜を育てている人もいる。
私もその一人で、現在はベランダでミニトマトやらネギやら、イチゴやらを育てている。

そもそもなぜ機材おじさんが野菜を育てることになったのか?

それには深い理由がある。

深い深い理由が。

すなわち、お金がないからである。

機材おじさんなどをやっていると、貯金などは購入した機材の支払いであっという間になくなっていく。
さらに、近年の私は弱小シンセサイザーメーカーとして活動しており、他の仕事はほとんどやっていない。
今では、機材を買うどころか、毎月の生活費が払えるかどうかが心配なレベルである。
毎日、公式ストアの売り上げをサイト上で何度も確認しては、いつオーダーが入らないかと祈る日々である。
売り上げが乏しい月は、心の出川哲郎がいつも「やばいよやばいよ!」と捲し立てている。

固定で持ってかれる国民年金とかマジ辛え。

そのような状況で、新しく趣味を増やすとなったら、お金や手間がたくさんかかる趣味を増やすことはできない。

そして、孤独生活おじさんにはなかなか毎日新鮮な発見とかがない。
共に暮らすパートナーとか、あるいはペットなどいれば、生活にも多少彩りはあるかもしれない。
しかしそんなパートナーはいないし、ペットを飼うのも大変そうだ。
パートナー探しに婚活サイトに登録する気力はないし(そもそも40代貯金なしおじさんに需要はなさそうである)、一匹の動物の生涯にすら、責任を持てる自信がなかった。

そんな中、植物を育てるというのは、毎日植物の成長という変化が感じられてとても良いと思ったのだ。
手間も、水と肥料をやるぐらいだからそんなにかかるまい。
野菜を育てるのであれば、多少は生活の役にも立つしね。

もう一つの理由としては、将来を見据えてというところもある。

私の実家は兼業農家である。
祖父の代では専業農家であったが、祖父が節操なく土地を買っているせいで、変なところに畑がたくさんあるらしい。
祖父が逝去した現在ではもうかなり手放しているとは思うが、それでも幾らかの畑は残っているであろう。
今は私の両親が主に畑を管理しており、たまに兄夫婦も手伝っているようだが、父はパーキンソン病で徐々に体が麻痺してきているし、母も膝を悪くして最近は歩くのも辛そうだ。
そうすると、将来的には畑を誰が管理するのかという問題がある。
兄夫婦だけで管理するのは、本業をやりながらでは無理があるだろうし、では土地を手放すかといっても、田舎の畑に使っていたような土地を買う人がいるかは怪しいところだ。

そうなると、私が畑を管理するという未来も、もしかするとあり得るかもしれないのだ。
ベランダ菜園をやっておくことはその時の予行演習としてもよかろう。
私としても勝手気ままな生活をしており、将来に渡り生活が安定するビジョンなどもないので、最悪、畑と家があれば、まあ死ぬことはないな、という打算もある。

そういうわけで2023年3月にまずミニトマトと細ネギのタネを近場のホームセンターで購入した。
しばらくプランターにタネを植えて水をやっていたのだが、ミニトマトは一向に発芽する気配もなく、細ネギは4月にようやく発芽したものの、すぐに枯れてしまった。

植物をタネから育てるのは難しい。
とりあえず初心者は苗から育てるのが無難である。

なので、次はミニトマト、枝豆、唐辛子、それに苺の苗を買って来て、ベランダで育てることにした。
しばらくはどの苗も順調に育っていたが、枝豆は一つ二つの豆の鞘を作ってからすぐに枯れてしまった。
豆はあまり初心者向きではないのかもしれない。SNS上の知り合いでも枝豆が枯れてしまった投稿を見た。

マメ科の作物というのは、土に窒素を固定してくれる根粒菌というのが根っこに住みつくらしい。
もしかするとそのせいで、土づくりがよりシビアなのかもしれなかった。
私は基本的にはプランターには培養土という元肥の入った土を使っているが、マメ科は根粒菌のおかげで痩せた土地でも育つ性質を持つ野菜である。
そのため、栄養過剰になっていたのかもしれない。ここらへんは素人考えであるので、プロの意見が欲しいところである。

ともあれ、他の苗は順調に生育していたのであるが、4月に入ると強烈な春風が吹き出し、私は苗が折れないかと心配であった。
その時はプランターの周囲をダンボールで覆って風を遮蔽するなどしていたと思う。
夏の台風など来た際にはとても耐えられぬのではないか。
そういう不安があったので、4月の終わりごろにはようやくミニトマトと唐辛子のプランターに支柱を立てて苗を固定した。
実際、ミニトマトなどはかなり大きく育つ(平均的な成人男性の身長を軽く超えるぐらいには)ので、支柱は早めに立てておいた方が良いと思う。

さて、5月に入って気温が上がりだすと植物の生育も活発になってくる。
ミニトマト、唐辛子、苺にも次々に花が咲き出し、私は収穫の期待に胸躍らせた。

6月に入ると、ミニトマトと苺の実が熟しだし、初収穫を迎えることができた。
ミニトマトは小ぶりながらも強い旨味を感じられ、スーパーの野菜より美味い気がした。
これが気分的な問題なのか、熟したものをすぐに収穫してるからなのかは確信はできないが、どちらにせよ満足であった。
苺は市販品に比べると小粒で甘味が少ないものの、その分爽やかで強い酸味があり、ヨーグルトと蜂蜜で和えたものは絶品であった。
唐辛子はこの段階では実が青かったものの、青唐辛子として何度かそのまま使った。

鮮度100%の野菜が使えるのは、こういった家庭菜園の素晴らしいところだ。
実際、すぐに枯れてしまったものの、収穫したての枝豆の味の強さにはびっくりした。

7月に入ると、トマトや苺の実が大量に熟し出し、また唐辛子もようやく熟した実が取れるようになってきた。
唐辛子なんかは本来乾燥させて使うのだが、私の場合は熟した生の赤唐辛子をそのまま料理に使ったりした。これも家庭菜園ならではである。

苺のランナーが大量に伸び出したのもこの時期である。
苺はタネでも増えるが、ランナーを伸ばしてクローンでも増える、不思議な植物である。
ランナーの見た目はひょろっとしたツルのような感じで、これの先端を水につけておくと、そこから根っこが生え出して新しい苗ができる。
私は基本的にランナーをあまり切らずにできるだけ苗を作ってみたので、最終的には一つの苺の株から20〜30ぐらいの苗ができたと思う。
しかし、一つの株から出来るだけ実を採りたいのであれば、普通はランナーを切って栄養を実に集中させた方が良い。
実際、ランナーが大量に生え出してからは、花はつくものの栄養不足で実がならず、そのまま実が枯れてしまうことが多かった。

ミニトマトの脇芽から苗を作り出したのも7月の終わりあたりだったと思う。
トマトを放任栽培すると、一本の茎からどんどん脇芽が生えてジャングルのように鬱蒼としてくる。
普通はそういう状態にならないように脇芽をとって、主要な茎だけを残すようにするのだが、私の場合はわりと放任気味に栽培していたので、手当たり次第に伸ばされた茎と葉っぱでカオスな状態になっていた。
しかし、その状態だと一本一本の茎が細く、強風で折れやすくなってしまうという弱点もある。
そういうわけで、私は強風で折れてしまった脇芽をペットボトルの水につけて育ててみることにした。
20日ほど経つと、脇芽からは根っこが生え出したので、私はヨーグルトの容器を再利用したミニプランターに、その新しい苗を移した。

トマトも苺もいくらでもクローンが作れてしまうのだから、植物の生命力というのは物凄い。

私もできれば死ぬ前に自身のクローンを作ってみたいものである。
(まあもし技術的に可能でも倫理的に、もしくは金銭的に無理そうであるが)

また、7月はスーパーで買った野菜の再生栽培に手を出し始めた時期でもある。
スーパーの万能ネギという商品に根っこがついていたので、根っこの少し上の部分でカットして、上側を普通に料理に使い、下の根っこ側をプランターに植えて栽培をし始めた。
うまくいけば、繰り返しネギが収穫できるであろう。
他にはブロッコリースプラウトの芽の部分を一回普通に料理に使った後、残ったタネの部分をそのままプランターに入れて育て始めてみた。
こちらは収穫を期待していなかったが、単純にどう育っていくのか興味があったので実験がてらという感じである。

8月、連日の猛暑である。
虫達の勢いも活発化してくる時期である。
この時期、ミニトマトには大量のハダニが発生し始めた。
あれだけ青々と茂っていたミニトマトの葉っぱが、見る見るうちにハダニに犯されて白っぽくなり、ついには枯れて茶色くなってしまう。
ネットの情報によるとハダニは水に弱いということだったので、この時期は毎日スプレーでミニトマトの葉っぱの裏側に水をかけていた。
(ハダニはだいたい葉っぱの裏側に潜んでいる)
正直、とてもめんどくさい。
しかし、やらないとあっという間に枯れてしまうことは明らかであったので、頑張って水をかけていたのだった。
一方、唐辛子はたまに葉っぱに虫がつくものの、ほとんど食害されずに元気であった。
やはり香辛料に使われるようなクセのある野菜は強い。

再生栽培しているブロッコリーとネギは順調に生育していた。

9月、とうとうハダニの勢いにやられて、初めに植えたミニトマトが枯れ始めた。
しかし脇芽から増やした苗の方は生き残っていたので、こちらを枯らさないよう毎日ハダニ抹殺スプレー(水道水)をぶっかけていた。
苺はほとんど実がならなくなり、私は大量に生えたランナーから大量の苗を作っていた。

プランターから謎の草が生えたのでしばらく育てていたが、どうやらそれは7月か8月にプランターに捨てたタネから発芽したスイカであったらしい。
3月にタネから野菜を育てるのを失敗していただけに、こんなに簡単に野菜が生えてくるのかとびっくりした。
さすがに時期的に収穫はできないだろうが、綺麗な黄色い花が咲くのでまたしばらく育て続けることにした。

10月、脇芽から増やしたミニトマト(2代目)は育ってはいるもののハダニの勢いに押されたのもあってなかなか収穫ができない。
一方で、相変わらず唐辛子はバンバン新しい花がつき、実が成っている。
再生栽培したネギもだいぶ大きく育ったので、納豆などの薬味に使うために収穫していたが、ネギの成長速度の方が早すぎて全然使いきれない。

11月、2代目ミニトマトの実がようやく赤く色づき、数は少ないものの収穫ができるようになってきた。
唐辛子はまだまだ元気だが、もうあまり実が付かなくなってきた。
再生栽培しているブロッコリーからは、ブロッコリーらしい蕾ができ始めた。
これを収穫すれば一応食べられるが、あんまり大きくなかったのでしばらく経過を見守ることにした。

スイカは虫にやられて枯れてしまった。諸行無常。

12月、2代目ミニトマトからさらに増やした3代目のミニトマトたちも実が色づき出し、収穫ができるようになった。
暖冬のせいか、2代目もまだ弱々しいものの完全には枯れていないといった感じだった。
唐辛子の実は樹上完熟した状態で勝手に乾燥し始めていたので、便利に使わせてもらった。

1月、実家に一週間程度帰省していて、その間何も世話をできなかったのもあって、2代目ミニトマトも完全に枯れてしまった。
冬越しのため、3代目、4代目のミニトマトの苗を室内で育て始める。
唐辛子もさすがにこの頃は枯れ始めたが、まだまだ大量に実がついた状態で残っていたので、日々の料理に使っていた。
なんだかんだで唐辛子の実は200本以上は収穫できたのではないだろうか?
一本の苗としてはなかなかの活躍っぷりである。

一方、再生栽培したブロッコリーはどんどん蕾が成長してきたが、あまりスーパーで買うようなブロッコリーの蕾の形とは似ていない。
どちらかというと、西洋アブラナに近い感じだ。
これはそういう種類のブロッコリーなのか、それとも栽培環境のせいなのかは謎だ。

この時期、ヨトウムシがブロッコリーに大量発生し始め、葉っぱがボロボロにされてしまった。
一匹ずつピンセットで補殺する日々である。
おまけにランナーから増やした苺の葉っぱも、同じくヨトウムシに結構やられてしまった。

2月、ブロッコリーから花が咲き始めた。
唐辛子は完全に枯れてしまった。

3月、ベランダにヒヨドリがたびたび来襲するようになった。
どうもやつらはアブラナ科の野菜が好物らしく、ブロッコリーの葉っぱを食べ尽くしてしまった。
まあ別にいいんだが、ベランダを糞だらけにするのはやめていただきたい。
ヒヨドリの糞は、それはそれで栄養になるかと思いプランターの土に撒いておいた。
葉っぱを食べ尽くされたブロッコリーだが、実の方は食害されておらず、丸々とした豆の鞘をつけるようになった。

ちなみに、ヒヨドリは日本とその周辺の国にしか生息していないらしく、海外の人にとっては結構レアな野鳥なんだそうだ。
ヒヨドリの来襲をきっかけに、野鳥についてYouTubeでちょっと調べたりしたので、今ではその辺の小鳥の名前が大体わかるようになった。
まあ、これも趣味の一つであろう。

そして、この時期は次の夏に向けた苗づくりの時期だ。
今年は、スナップえんどうとパクチーの苗を新しく買ってきた。
収穫できるのが楽しみだ。

4月、スナップえんどうは一度収穫できたがまたすぐに枯れ始めた。やはり豆科の植物は難しい・・・。
ベランダの来訪者たち、ヒヨドリは桜の花の蜜を吸うのに忙しいのか、めっきりベランダには飛来してこなくなった。
パクチーは順調。
葉っぱも一株から使い切れないほど生えてくるので、麻婆豆腐の彩りに使ったりしている。
そのうち実がなってタネが取れればコリアンダーシードとしてカレーの香辛料としても使えるだろう。
楽しみである。

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まあ、そういうわけで、ベランダ菜園はそれなりにいろいろありつつ、日々の楽しみの一つになっている。

あなたがベランダのある物件か、あるいは庭付きの戸建てにお住みであれば、家庭菜園は新たな趣味として非常におすすめである。

しかし、土と水と生物の死骸と糞で育ったものを食って生きてるわけだから、人間というのは土とうんこ食って生きているようなもんと言えなくもないなあ。

もっと土とうんこが欲しい・・・。

本日の怪文書はこれにて。

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