和訳(Au Palais Royal/1789 バスティーユの恋人たち)

1789, les Amants de la Bastille(1789 バスティーユの恋人たち)の全訳です。仏語話者というわけではないので、誤訳があるかも。見つけたらご指摘ください。

曲のタイトルの和訳は、日本公演時の邦題からとっています。

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(女)ダントンよ。ダントンよ。ダントンが来たわ。

淑女諸君に乾杯
不細工な俺に奢ってくれよ
笑顔で返すからさ
悪党どもに乾杯
誰か曲がり角で、
ベルサイユ宮殿の臆病者を脅してこなかったか?

パレ・ロワイヤルでは道化が王様
パレ・ロワイヤルでは悦びが法だ
勇気が、もっと勇気が必要なんだ
市民よ、ここに堕ちてこい
なんとかなるさ(Ça ira )

女の笑顔は男にゃ毒だ
詐欺師の楽園で
賭博場のホールで
ブルジョワジーは胡散臭いやつと肩を組む
一言間違えたら殺し合いだ

パレ・ロワイヤルでは道化が王様
パレ・ロワイヤルでは悦びが法だ
勇気が、もっと勇気が必要なんだ
市民よ、ここに堕ちてこい
ははは!
ダントンはここにいる
なんとかなるさ

俺たちの夢に乾杯
貧困の下に、どれだけの嘘が眠っているだろう
どれだけの怒りが湧き出てくるだろう
この日に乾杯
この国が目覚めたとき
見ろ、今度こそ俺たちの番だ

パレ・ロワイヤルでは道化が王様
パレ・ロワイヤルでは悦びが法だ
勇気が、もっと勇気が必要なんだ
市民よ、ここに堕ちてこい
勇気が、もっと、もっとだ
なんとかなるさ

ダントン「よーし、可愛いシャーロット! キスしてくれ」
シャーロット「こっち来て! ねえ、こっち!」
ダントン「シャーロット? どこ行くんだ?」
ロナン「デムーラン!」
デムーラン「ロナン! 我が友よ! それで、記事はできたかい?」
ロナン「マラーが印刷を渋ってね、55ポンドかかる」
デムーラン「55ポンド? どうしろって言うんだ? 彼が払うって約束したのに」
ロナン「でも、カミーユ、もうやめよう」
デムーラン「しかしどうする?」
ロナン「今夜、作業場でひとりで印刷してみるよ。マラーには火の調子でも見ててもらおう。俺が彼のところで働けてるのは君のおかげだ。君には借りがある、忘れてないよ」
デムーラン「ありがとう、友よ。明日、パレ・ロワイヤル中が、このカミーユ・デムーランの記事を見る。“共和国万歳! 人民は平等だ!”とね」
ダントン「デムーラン、世界を作り直す男よ!」
デムーラン「ダントン!」
ダントン「俺は、ええと、革命だ、そうだ俺はそれを望んでいる。しかしだな、楽しみも必要だ。主はワインを創り、血を創り、人間のぬくもりを創りだしたからな。それに若い女も創ってくれた。――彼は?」
デムーラン「紹介しよう、友人のロナンだ」
ロナン「ロナン・マズリエだ。六か月前にパリへ出てきた。よろしく」
ダントン「歓迎するぜ、ロナン」
デムーラン「それで、ここに誰が来るんだ?」
ダントン「流石、俺ってもんをよく分かってるな」
デムーラン「女性か」
ダントン「先約があってな。愛だよ。愛に生きてるのさ。秘めた愛、情欲の愛、それを待ってるんだ…おっと、彼女かな、俺の小さな可愛い恋人だ!」
女「ムッシュー・ダントン」
ダントン「“ムッシュー・ダントン”? サン・ドニ通りのそばで出会ったんだ。彼女は、夜の仕事をしていてな。俺は彼女に全財産叩いたぜ、そしたら手を取ってくれた。俺の夜の相棒さ。さらにだな、心して聞けよ。結婚したんだ! 日中はダントン夫人だぜ、夜はまあ…なんて呼ばれてるんだ?」
ロナン「ソレンヌ」
ダントン「知り合いか?」
デムーラン「だとしても、問題が?」
ロナン「ダントン、あんたの彼女の名前はソレンヌ、僕の妹だ」
デムーラン「よかったな、ダントン! 運命の仲人だぞ、家族の守護者だ…最高だ!」
ダントン「俺にはもう家族がいるんだ、フランスっていう名の! 彼女のためだったら山だって切り拓けるね! よし、カミーユ、行こうぜ。三部会に出なきゃあ」
デムーラン「一言だけ。マラーの件だが、君に期待してるぞ。――よくやった! よくやった! 急げ!」


※ジョルジュ・ダントン
フランス革命で活躍した革命家のひとり。ダントン派の首領となる。1789年当時は弁護士。
「勇気が、常に勇気が、さらに勇気が必要なのだ」は、革命後、諸外国との戦争に負け続けたフランス軍を激励した有名な演説。