和訳(Hey ha/1789 バスティーユの恋人たち)

1789, les Amants de la Bastille(1789 バスティーユの恋人たち)の全訳です。仏語話者というわけではないので、誤訳があるかも。見つけたらご指摘ください。

曲のタイトルの和訳は、日本公演時の邦題からとっています。

***

アルトワ伯「ラマール!」
ラマール「はい、ご主人様」
アルトワ伯「他にすることはないのか?」
ラマール「貴方様をお助けしているのです、勿論、手助けを!」
アルトワ伯「最悪だ! 寧ろ邪魔している! ロナンは消えた。奴はバスティーユから脱獄したんだ。素晴らしい、なんて素晴らしい! お前の手柄だ!」
ラマール「しかし、殿下、私のせいではありません! あれは…」
アルトワ伯「私の話を聞け! 奴を見つけ出せ、早急にだ! さもないと…さもないとお前は尊い責務を手放すことになるだろう。意味は分かるな?」
ラマール「いいえ、殿下。つまり、どういう意味です?」
アルトワ伯「つまり、セーヌ川の底に沈むということだ。奴と一緒にな」
ラマール「わあ、なんてことだ!」
アルトワ伯「魚と一緒だぞ」
ラマール「私は立ち泳ぎができないのです!」
アルトワ伯「知っている」
ラマール「ご主人様はお優しいお方」
アルトワ伯「それも知っている。さっさといけ、早急にな!」
ラマール「はい、早急に、殿下!」
アルトワ伯「ああ、待て待て待て」
ラマール「はい、今戻ります。――戻りました! ごきげんよう、殿下!」
アルトワ伯「お前は今どこに行こうとした?」
ラマール「ええ、暗めの酒屋か、悪臭のする路地の曲がり角…害虫の隠れ家、もしくは、狩人の通り道などでしょうか。ああ、殿下、貴方はお分かりになっていない、どれだけの勇気が――」
アルトワ伯「黙れ! 能無しめ! 八番通りのサン・アンドレ・デザール教会 だ」
ラマール「本当ですか?」
アルトワ伯「そうだ。奴は、マラーのもとで働いている」
ラマール「マリン(海)?」
アルトワ伯「マリンではない、マラーだ、知らないのか? キチガイ医者だ、王家への誹謗中傷を書き殴っている」
ラマール「同じ穴の貉ってやつか」
アルトワ伯「ラマール」
ラマール「何でしょう、殿下」
アルトワ伯「なんて言えばいいんだ? 突然ふいに賢くなったりする気はないか?」
ラマール「ああ、殿下! 素晴らしいアイデアだ、本当に素晴らしい――」
アルトワ伯「ラマール?」
ラマール「はい?」
アルトワ伯「出ていけ!」
ラマール「素早く、迅速に、殿下!」
アルトワ伯「奴と喋ると本当に疲れる!」
ラマール「なんてこった、私が疲れさせている?」

ロベスピエール「やあ、マラー」
マラー「ロベスピエール」
ロベスピエール「友よ、三部会に行ってきたんだ。パリ市民へ重大ニュースを伝えるために、俺が送りこまれた。デムーラン…このニュースを君のところの雑誌に載せてくれ。どんな演説より効果的だ」
デムーラン「光栄だ、ロベスピエール」
マラー「それで、ニュースって?」
ロベスピエール「“私たち、第三身分の議員、フランス国民の代表者は、改革が実行に移されない限り、三部会への出席を拒否する。私たちは、第一身分、第二身分と同じ条件での、全体投票を要求する。自由かつ自立した国家組織を作り上げるため、私たちの参加を認めてほしい。”」
デムーラン「いいぞ、ロベスピエール」
ロナン「最高だ、ロベスピエール。良い言葉だ、良い文章だ…。それまで国民は飢え続けろっていうのか? 結局、あんたたちは改革を望んじゃいない。あんたは、第三身分の代表者は金持ちで、堕落しているからだ。あんたらが嫌っているフリをしている奴らと同じようにな」
ロベスピエール「落ち付けよ。俺たちは平等と公正を望んでいる、君と同じだ」
デムーラン「それで、君は何を望んでいるんだ? 反乱か?」
ロナン「権利を奪われた人民がいる。俺たちは、その気になれば、国王を倒すために宮殿に押し入ることもできるんだ!」
デムーラン「農民の妄想だな」
ロナン「そうだ、僕は農民だ! 農民の息子だ! 有名な学校を出たあんたにとっちゃ、自由を謳うなんて簡単なことだろうさ、あんたは弁護士だからな! 父親もいて、ベッドで眠れる」
デムーラン「今すぐ帰れ!」
ロナン「父さんが抵抗し、身を挺してくれたおかげで俺は生きている! 奴らは父さんを撃ち殺したんだ!」
デムーラン「だからなんだ? 殉職しないと革命ができないのか?」
ロナン「口先ばっかり、見てろ!」
ダントン「おい、止めろ! なんで喧嘩を始めるんだ! 俺たちがやろうとしている革命は、尊重が――互いに尊重し合うってものだろ。来いよ。口論のあとでハイ仲直りとは行かないだろうが、だからこそ育まないと。――命令だぞ」
マラー「ロナン、行け。――よし、仕事に戻るぞ!」

[Hey ha(デムーランの演説)/ロベスピエール]
※邦訳ではデムーランといっているけれど、殆どロベピが歌ってる。

(ロベスピエール)
注意しろ、警戒しろ、執念深い兵士に気を配れ
絆のもとに跪いて、一歩ずつ進もう
服従して生きてきた 声を上げるまでが長すぎた

(全員)
物語は進む、でも出る杭は打たれる
街は涙と不満で満ちていても、杭は静かなまま

(ロベスピエール)
昔は彼らにお辞儀をした
覚悟を決めて抵抗しよう

Hey ha 進歩を夢見て
Hey ha 革命を夢見て

(ダントン)集まれ、友よ

(ロベスピエール・ダントン)栄光の日がやってくる

(ロベスピエール)
Hey ha 進歩を夢見て
Hey ha 革命を夢見て
集まれ子供たち

(全員)
栄光が、栄光の日が、
栄光の日がやってくる

(ロベスピエール・ダントン)
あの男は統治を望んでいる
全てを指図するために支配を広げている

(ロベスピエール)
法が僕らの希望を奪うなら
権利によって法を放棄しよう

Hey ha 進歩を夢見て
Hey ha 革命を夢見て

(ダントン)集まれ、友よ

(ロベスピエール・ダントン) 栄光の日がやってくる

(ロベスピエール)
Hey ha 進歩を夢見て
Hey ha 革命を夢見て
集まれ子供たち

栄光が、栄光の日が、
栄光の日がやってくる

昔は彼らを敬愛していた
覚悟を決めて抵抗しよう

Hey ha 進歩を夢見て
Hey ha 革命を夢見て

(ダントン)集まれ、友よ

(ロベスピエール・ダントン)栄光の日がやってくる

(ロベスピエール)
Hey ha 進歩を夢見て
Hey ha 革命を夢見て
集まれ子供たち

栄光が、栄光の日が、
夢見た日がやってくる

シャルロット「警察だ! 警察だよ! 早く、警察だ!」
ラマール「マリンを――ちがった、マラーを探せ! マリン、マラー、どっちだっけ。よしよし、顔を見せてごらん…なんてこった、ブサイクだ! セーヌ川へ投げ捨ててしまえ! マリン! マラー!」

シャルロット「こっち、あたしはこっちだ! ねえ! カワイイ王子さま!」
ロナン「シャルロット? 今気づいた、君はシャルロットか! 堀で会ったね」
シャルロット「まあね。時間通りに来たけど、言うことある?」
ロナン「でもどうやって、どうやって俺を見つけたんだ?」
シャルロット「簡単さ! 知りたい?」
ロナン「勿論!」
シャルロット「ついてきて」
ロナン「でも――」
シャルロット「ここで待ってて、動かないで!」
ロナン「シャルロット、待って!」
オランプ「ロナン…」
ロナン「オランプ?」
オランプ「こっちを見ないで! 声だけ聴いて。早くパリから逃げて。アルトワ伯爵があなたを殺そうとしている」
ロナン「アルトワ伯爵だって? なぜ俺が?」
オランプ「これ以上は言えないの! パレ・ロワイヤルで見たことは全部忘れて」
ロナン「俺は逃げない! 伯爵を恐れもしない、例え奴が国王の弟だとしてもな」
オランプ「信じてよ! 警察が戻ってくる。私はもうあなたのことを守れないわ」
ロナン「守る? どうして俺のことを気にかける?」
オランプ「だって私の事情に巻き込んでしまったわ。あなたは勇敢で誇り高いと思うし…。私のやったことを許してというのは、烏滸がましいと思うけど…」
ロナン「もう一度、君の顔を見ていいか?」
シャルロット「ちょっと、あたし何て言った?」
オランプ「私の顔は忘れてね」
ロナン「忘れないさ。絶対に」
オランプ「お別れよ」
ロナン「待て、行くな! 一瞬でいいから、手に触れさせてくれ! オランプ、オランプ?」
シャルロット「探しちゃだめだよ、カワイイ王子さま。行っちゃったんだから。悲しそうだね? プリンセスを失っちゃって…彼女、美人だもんねえ」
ロナン「シャルロット、協力してくれ。彼女のことを何も知らない。どこへ行けば会える? ――おい、聞けよ!」
シャルロット「わかった、わかったよ。でも、あたしが言ったって、絶対バラさないでね」
ロナン「約束する」
シャルロット「彼女は王宮で王子のお世話係をしてるの。王子は、ルイ16世とマリー・アントワネットの息子なんだけど、この前死んだんだ。葬式が明日、サン=ドニ教会で行われる。オランプは王妃に付き添って行くよ」