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初めて音楽でお金をもらったときのこと

多くのプロミュージシャンと違って、僕が音楽を始めたのは大人になってからです。

地方から大学に進学したのですが、入学したての4月に同じ学部で出会った友人が民族音楽と楽器が好きで、彼にCDや楽器をたくさん借りて、楽器で遊んでいるうちに音楽にのめりこんでしまいました。僕は言語学コースに在籍していたので、彼に出会わなければ今ごろ英語か何かの語学教師になっていたと思います。出会いとは怖いものです。彼も今はプロ・ミュージシャンとして活躍しています。

学生時代は授業をサボって毎日楽器やバンドの練習をしていたし、ライブやセッションにも良く通ったし、アルバイトで稼いだお金でCDを買いまくり、CDを借りるだけのために遠くの図書館に通ったり、生活が音楽を中心に回っていました。あの頃の情熱と楽器の上達具合はすさまじかったです。

在学中は音楽を職業にしようと真剣に考えていたわけではありません。周りが就職活動をするのを横目に見ながら、消極的思考で音楽以外は何もやりたくないという気持ちのまま、就職もせずに卒業してしまいました。卒業後の話はまた改めて書きます。

最初のライブは1年生のとき、夏休み前の部内発表会か何かだったと思います。1年生の冬には学校内の喫茶店を借りてバンドで自主ライブをしました。チケットを売ったのかどうかは憶えていませんが、きっと数百円のチケットを売ったような気がします。楽器を始めてたった半年なのに怖いもの知らずです。「学芸会のバンド」という、ありがたくない評価をいただきました。

学生時代の音楽活動は、今よりもずっと忙しかったです。大学3年頃から学生バンドと社会人バンドをいくつもかけ持ちしていたので毎週練習がありましたし、自主ライブや友人のバンドへのゲスト参加もしていました。人前で演奏するのが楽しくて、機会があればどこへでもでかけて演奏しました。

音楽で初めてお金をもらったときのことは、はっきりとは憶えていません。たぶんチケットを売って自主ライブをして、その上がりが1人1,000円くらい余ったのではないかと思います。それを何に使ったのかも忘れました。どうせ大したことではないのでしょうが……。音楽家はこういうことをちゃんと憶えているものでしょうか? これからプロを目指す方は、こういうことはしっかり記録しておいたほうが、きっとそのうちいい思い出になりますよ。

最初の頃は素人の演奏でお金を貰えるというのにすごく申し訳ない気持ちがあって、社会人のメンバーにすべて取ってもらったり、妙に潔癖だったことを憶えています。

音楽でお金を稼げると思ったのは、大学2年生の19歳で初めてアイルランドに行ったときです。路上で数時間ティン・ホイッスルを演奏をしたら、あっというまに何日分かの小銭が稼げたんです(1999年当時の通貨はユーロではなくポンドでした)。音楽って、こんなに簡単にお金が稼げるんだ!?と思いました。

その頃、企業からパフォーマンスの仕事を請け負っているおっちゃんから仕事をもらって路上で客寄せの演奏とかイベントでの演奏とか、アルバイト的にギャラをもらって演奏をするようになりました。それは1日演奏して5,000円と食事が付くくらいでしたが、充分楽しかったです。

大学3年生になると京都にアイリッシュ・パブができて、毎週土曜日にギグ(プログラムなしのインフォーマルなライブ)の仕事があり、僕にも時々演奏の仕事が回ってくるようになりました。誰にも指図されず好きな曲を演奏して5,000円もらえて、ギネスビールが飲み放題だったので、こんないい仕事が世の中にあるだろうか?と思いました。

当時アルバイトをすると時給750円くらいでしたが、社員や同僚学生との人間関係のストレスもありましたし、肉体的にもキツかったので、音楽で稼げることを知ると、アルバイトがバカらしくなり、2年生で辞めました(最初にイタリアン・レストラン、次に酒屋でした)。

その頃は自分のやりたい音楽がなかったので、楽しそうであれば何でも首をつっこんでいました。指先が器用だったのもあって、友達の友達だとか社会人からも面白がって声をかけてもらっていました。レッスンや学校の音楽教育は受けていなかったけれど、音楽を聴きまくったことと、現場で鍛えられたことがトレーニングになりました。

大学4年になると真剣に打ち込んで自分の可能性を試したいバンドができて、また5,000円のパブの演奏が毎週回ってくるようになり、これでなんとか生活できるんじゃないか? と甘く考えたこともあったのでしょう、僕は音楽家になることを真剣に考えるようになります。

あの頃、中途半端に演奏の仕事がなければ、こんなことを考えずに素直に就職したのだろうかと考えたりします。


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