透析における適したシャント穿刺部位とは?
※この記事は過去のブログの記事を再編したものです。
今まで穿刺技術の手順や注意点・コツなどをまとめてきましたが、その次に重要なのが「穿刺部位」と僕は考えます。
これまでシャント穿刺350通り以上、シャントエコー200件以上・VA管理を行っていたCEの経験からまとめていきます。
穿刺を避ける部位
穿刺に適した部位を学ぶまえに、穿刺を避けた方がよい部位を理由を含めながらまとめます。ですので、いつも穿刺している部位がこのような状態になったときは穿刺部を変更する必要があります。
発赤・滲出液がある部位
この場合「感染徴候」である可能性があります。
この部位に穿刺をしてしまうと感染が悪化する恐れがあるため、穿刺部をおおきくずらす必要があります。
シャントに発赤・滲出液がみられた場合は、すぐにDr・Nsに報告しましょう。
抗生剤投与で回復する場合もありますが、人工血管の場合、部分抜去or全抜去になるおそれもあります。
かぶれなどの皮膚トラブルがある部位
透析患者さんは痒みを訴える方も多く、毎回のシャント穿刺でテープかぶれ・絆創膏かぶれを起こす方が多いです。
また、穿刺の痛みを軽減するためのリドカインテープやペンレステープ、エムラクリーム・エムラパッチを塗布・貼付する方は夏場だと、よくかぶれを起こす方もいます。
※塗布・貼付時間は製品・用途によって違いがあるので、確認してください。
かぶれがある場合も、穿刺をすると、固定用テープや止血時の絆創膏などでかぶれが悪化する恐れがあるため、穿刺は避けた方が無難です。
動静脈瘤のある部位
一言で「瘤」と呼ぶこともあります。
瘤の原因は、瘤出口側(中枢側)の狭窄ともに、同一部位の頻回穿刺があります。
どうしても「失敗したくない」気持ちが勝ると、刺しやすい部位に穿刺が集中してしまいがちです。
瘤が急速に拡大する場合や破裂の危険性がある場合は穿刺禁です。
定期的なシャントエコーと瘤の計測をしましょう。
石灰化や頻回穿刺などで皮膚が硬い部位
石灰化はシャントエコーでも確認できますが、触診して「コリコリ」している場合、石灰化である場合が多いです。
皮膚の硬くないというのも重要で、刺入部位が固いといくら駆血を適度な強さでおこなっても、穿刺針で皮膚を凹ませてしまい、勢い余って後壁を貫いてしまう恐れがあります。
内出血・血腫がある部位
シャント血管は通常の静脈とは違い血流が多いのに加え、穿刺針が17~15Gなどと太い針を刺すので、穿刺ミスや止血が十分にされないと、血液が血管内に漏れ血腫ができる場合があります。
あとはPTA後にもたまにあります。
このような部位では血管が血腫や腫れによって触知できなかったり、する場合が多いので穿刺は避けるべきです。
止血不良がある部位
A(脱血部)・V(返血部)ともに中枢に狭窄や閉塞があると、分岐にもよりますが、止血不良が起こります。
止血不良は止血時間の延長に繋がるので避けたいところです。
再循環しやすい部位
再循環はリサキュレーションといい、「リサキュ」なんて呼んだりします。
再循環とは簡単にいうと、脱血してきれいにした血液を返血するときに再び脱血してしまう状態で、透析効率の低下や血液の濃縮を引き起こします。
再循環はA穿刺部とV穿刺部の距離や分岐の有無、血流量によって変わってくるので、シャントエコーで穿刺部を検討することをオススメします。
穿刺を避ける部位は他にはシャントトラブルがある部位などが考えられますが、これらは是非おさえておいて欲しいです。
適した穿刺部位
ようやく本題に入ります。
適した穿刺部位をAV共通のもの、A、Vと3つに分けてまとめます。
※脱血部(A側)、返血部(V側)です。
A・V共通
・穿刺を避ける部位以外の場所
これは前述の通り。
穿刺を避ける部位はしっかり覚えましょう。
・針先までまっすぐな部位
よく触診をするときに針の刺入部位だけを触る人がいますが、大事なのは刺入部位ではなくて、刺入部位よりも少し先~針の先端です。
針先までまっすぐな血管は刺しやすく、失敗しにくいので適した部位といえます。
・触知可能で深過ぎない部位
シャント血管は十人十色でまったく同じ血管はありません。
ブラインド穿刺の場合は触れることができ、立体的にイメージできるかが重要です。
いくらエコー状で血管径がありまっすぐでも、血管が深く、潜っている場合だと、穿刺ミスに繋がりかねません。
ですので触知可能かどうかは重要となります。
・血管径が十分にある
ここでいう「十分」とは、自分のスキルに見合った血管の細さです。
穿刺の経験を積むと「この細さくらいなら刺せる」と分かってきます。
A穿刺部(脱血部)
AとVでは適した部位が違います。
A穿刺部で大事となるのが「血流量が十分にあるか」という視点です。
・穿刺部末梢に狭窄or閉塞がない部位
分岐にもよりますが、末梢に狭窄があると穿刺部位に流れる血流量が減少するので、設定したQB(血流量)の脱血ができない恐れがあります。
これはシャントエコーでFV(血流量)測定や形態評価をすることで把握できます。
・脱血不良の徴候がみられない部位
設定QBよりにたいして実際の脱血する量(実血流量)が少ない場合、脱血不良の徴候がみられます。
脱血不良の程度にもよりますが、回路内微小気泡、ピローのへこみ、残血、A圧・V圧低下、バックフローなどで確認できます。
やはりシャントエコーによるFV測定や血管の分岐によって穿刺部位を決めるのが望ましいです。
V穿刺部(返血部)
V穿刺部で大事な視点となるのが、「V圧が上昇しないか」です。
A穿刺部のように血流量の多さはV穿刺部ではさぼど気にしなくてもいいです。
・穿刺部中枢に狭窄or閉塞がない部位
V圧が上昇するということは、穿刺部中枢に狭窄または閉塞があり、再循環の恐れがあります。
※A穿刺部は末梢に狭窄or閉塞がない部位、V穿刺部は中枢に狭窄or閉塞がない部位です。間違って覚えないようにしましょう。
V圧のモニタリングは簡便で、透析監視装置のモニターでシャントの状態を把握することができます。
・A穿刺部からなるべく離れているまたは分岐が違う部位
これも再循環を防ぐために必要なことです。
前述した通り、再循環率は、AとVの位置関係、分岐、FVにもよるので、再循環率測定が望ましいです。
まとめ
穿刺を避ける部位
①発赤・滲出液がある部位
②かぶれなどの皮膚トラブルがある部位
③動静脈瘤のある部位
④石灰化や頻回穿刺などで皮膚が硬い部位
⑤内出血や血腫がある部位
⑥止血不良がある部位
⑦再循環しやすい部位
適した穿刺部位
[AV共通]
・穿刺を避ける部位以外の場所
・針先までまっすぐな部位
・触知可能で深過ぎない部位
・血管径が十分にある
[A穿刺部]
・穿刺部末梢に狭窄or閉塞がない部位
・脱血不良の徴候がみられない部位
[V穿刺部]
・穿刺部中枢に狭窄or閉塞がない部位
・A穿刺部からなるべく離れているまたは分岐が違う部位
[参考文献]
1) 宮下美子 他.書き込み式で鍛え穿刺のキホンワークシート.透析ケア第22巻7号.2016.32
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