床絵こそ絵の始まりなのでは。
北九州の門司港にある黒田征太郎さんの
アトリエが、9年を経て引越しとなった。
数万点にも及ぶ作品が、平成生まれの若者たちの手で丁寧に整理されていく。
部屋の壁面には壁画が点在しており、
壁そのものがキャンパスとなっていた。
作品整理が数ヶ月間続く中、
黒田さんはその壁面にさらに絵を描き続けて、境界のない黒田空間へと進化させ続けていた。
「この間を写真に撮りたい!」
写真家・田頭真理子さんの思いから、
セッションが始まった。
壁面の撮影が続くうちに、なんと黒田さんは床に絵を描き出したのだ。
最近では見かけなくなった、まさに地面への
落書きだ!地から描く絵は伸び続けて、
虫になったり花になったり。壁に立ち上がり
成長していく。
置かれた机や柱にも絵は伸び続けていく。
そして、ベネゼエラの「エル・システマ(※)」の演奏が流れる中、自由奔放に育っていく。
描くという行為を超えて、生命の息吹が走る。
これまでも、ライブで生まれる黒田さんの絵を多数観てきたが、これほど身体の中から
エネルギーが解放され溢れ出す姿は、
はじめてだった。アートという生きる行為は、まさにエネルギーの交換や触発による
変化なのではないか。周囲の空間に力が
刻々と充満していくのを感じた。
振り返ると、アートがキャンバスに描かれて、額縁に収められ暮らしの中でエネルギーを
放っている時までは、まだ幸せだった。
しかし、美術館で鑑賞することが当たり前に
なっている、昨今では、アートビジネスとしての投資商品になってしまうという本末転倒な
状況も起きているのだ。
その一方で、確実にこの床絵は命の固まりだ!描くという行為を超えて、生命の息吹が
走るのだ。
一歩一歩足を踏み出すごとに、絵の中にとりこまれていく。
セッションから生まれたエネルギーが、
身体の細胞に入ってくる。
この感覚はなんだろう?軽やかに解放されていく。自然と絵に導かれて動く自分がいる。
地から天に向けて立ち上がる絵、その流れが
実に快感である。壁面の絵と床の絵が次々と
繋がる事で絵自体が3Dに見えてくる。
一歩一歩足を踏み出すごとに、絵の中に
とりこまれていく。まさに贅沢な時間だ。
引越しにより消されてしまうアトリエの、
展示するわけでもない作品に、興味と衝動に
触発され人の生命力が交わされている、アートの根源を体認した1日だった。
<後日談>
後でわかったことだが、その日に使った絵の具の色が、偶然にも「エル・システマ」が生まれた、ベネゼエラの国旗の色だった。波動の連鎖がきっとあったのだろう。
※エル・システマとは
音楽による青少年育成を目的として、
南米ベネズエラで始まった音楽教育システム。現在、世界70以上の国や地域で展開され、
子どもたちには無償で楽器と音楽指導が提供
され、高い演奏技術だけではなく、集団での
音楽体験を通じて優れた社会性(忍耐力・協調性・自己表現力)を身につけられるとして、
その効果は世界中で注目されている。
日本では、東日本大震災の被災地の子どもたちの支援のため、2012年3月23日「音楽を通して生きる力を育む事業」として導入され、
子どもたちは仲間と一緒に音楽を学びながら、他者とのコミュニケーション力を磨き、
人生を切り開く力を身につけている。
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