売りたいものと、売れるもの。
飯田店が新規開業して3ヶ月が経ったころ。。いろんなことがわかってきました。そして、事前の計画などまったく役に立たず、願った形とは真逆に進む現実を突きつけられました。既存の伊那店は、コーヒー専門店の看板を掲げ、コーヒー豆の販売が主たる業務です。当然、一番売れる商品はコーヒー豆。次いでカフェ飲食、関連機器・・という比率。ご家庭で手軽に美味しいコーヒーをどうぞ、というところが弊社の根幹になっています。飯田店では、そのイメージをより強く打ち出すため、店名をコーヒービーンズとしました。こういった業態がまだ少ない地域であれば、その需要をしっかりと拾えるはずだ、と考えていたわけです。しかし、いざ開けてみると、まったくの逆。広告効果もあり、増えてきたお客様のほとんどが、コーヒー豆の売り場ではなく、カフェスペースへと流れていました。これはこれで、想定していた流れではあるのです。ひとつひとつの席の間隔を広めに取り、ゆったりと落ち着いた雰囲気のカフェ。コーヒーしかないメニューを開き、15種以上のラインナップから選んで飲む。気に入っていただければ、お帰りの際にご購入いただけます。味を確認してから買って頂くのが一番安心ですし、僕らも嬉しい。それに、開店してから初めての賑わいは、不安だらけだった時間を吹き飛ばしてくれるような気さえしていました。しかし、そこからが想定とは違った。コーヒーを召し上がり、美味しかったと褒めてくださるお客様が多いことは本当にありがたかったのですが、、コーヒー豆を買われる方はほとんどいらっしゃいません。来店される方のほとんどが、カフェでの飲食が目的。ずらっと並べたコーヒー豆が目に入っても、スルーです。しかし今になって思うと、とても良い流れだったのです。でも、その時はそう思えませんでした。なぜだなぜだと頭を巡らし、価格設定が高い?魅力的な商品ではない?キャッチコピーが弱い?と、いけないところ探しを続けていました。「カフェで召し上がったお客様は褒めてくださっている」。知らない土地で開業したばかりで、この評価はとてもありがたいこと。望んでも得られないようなことだったかもしれないのに、更に欲を出してしまいました。コーヒー豆も売れればもっといい、と。今までの伊那での仕事と同じ流れを想像し、目指しているのに、その流れと違うから不安になる。よく考えればおかしな話です。違う土地に来たのだから、お客様の考えも生活習慣も文化も、当然違う。それなのに、自分の想定した流れに沿うようにしようなんて。。週末になれば、満席の時間も続くようになったカフェで、一日中コーヒーをいれながら、それでも閑散として見えるコーヒー豆のスペースを見て、落ち込んでいました。失礼な話です。目の前の1杯のコーヒーに向き合い、それを飲む方に精一杯のサービスをする。その重要さを忘れていたのでした。そんな状態が1ヶ月は続いていたでしょうか。オープン時からは4ヶ月ほど経った頃、変化が訪れるのです。最初、カフェにだけいらっしゃっていた方が、2回目3回目の来店となってきて、少しずつお話もするようになりました。そんな会話の中で、「昔はコーヒーを家でいれてたんだよ。道具もしまいこんじゃってね」。あ、それならもう一度出してきましょうよ。道具はずっと使えるはずですし、ペーパーだけ買いますか。「コーヒー、うちで飲みたいんだけどね。朝はそんな時間ないし。でも機械でいれると美味しくないでしょ?」。いえいえ、コーヒーメーカーでも十分美味しく飲めますよ。忙しいときは便利ですし、もっとこだわりたくなったら、ハンドドリップのセットとかどうでしょう。そんな会話がいろんな方と続くうちに、コーヒー豆を買ってみようかな、という流れができてきました。一度買っていただいた方をリピーターにもできるチャンスです。気に入ったから量を増やして買いたいとか、他の銘柄を試してみたいとか、次回の来店きっかけを作ることができるようになりました。一番売りたかったものが、売れるようになった。広告を出して、カフェへの集客ができていたから、一番売りたかったコーヒー豆を売ることに繋がりました。コーヒー豆が売れないと悩んで、疑問さえ感じていたカフェ業務中心の時期に、実は新たな顧客を生み出していたことに気付きます。あの時にもっと前向きに頑張れていたのなら、更に大きく伸ばせたのかなぁ、というのが悔やむところです。まあ、すべては結果論ではありますが。。
教訓:売りたいものと、売れるものは違う
自分が売りたいものが、願ったとおりに売れるわけではないのですね。ついでに置いたようなものに人気がでることもよくあります。弊社のこの流れのように、一番売りたかったものに、結果的にお客様が目を向けてくだされば良いわけで、それには時間がかかることも想定しておかなければなりません。仮に、あのままカフェだけが集客できて、コーヒー豆がまったく売れなかったとしたら、会社としての判断は「飲食店として力を入れる」との方針転換になっていたはずです。いかに僕が、コーヒー豆を売りたい、と強く願ったとしても、実際に売れていないのであれば仕方がありません。しかし、職人として、一番売りたいものが売れるまで頑張る、売れるように更に工夫と努力をする、という選択肢もあります。その判断は、自身だけで行う個人店なのか、スタッフを雇用しながら利益を重視する企業なのか、でも違ってくるでしょう。僕はどちらかというと職人ぽくやっていきたい派ではありますが、大きな借金を抱え、スタッフの生活を預かる身としては、自身の思いや希望を押し通すことよりも、優先すべきことがでてきます。うーん、悩ましい。。売りたいものだけを売っていられれば幸せですが、現実はそうはいきません。利益を上げ、収入を得なければ生きていけないのですから。お客さんが望むものを作りだしていくのか。自分が売りたいものを、お客さんに納得してもらえるようにするのか。商売を続けていくには、その「自分がどこに目を向けて、何を売っていくのか」が重要になってくるのだと思います。で、その方針はコロコロ変わっていい。一度決めたことをやり通すなんて、そんなことできません。でも、絶対に変えてはいけないところもある。それは、自分がなぜ商売を始めて、なぜこの道を選んだのか、その信念ですね。それを変えて誤魔化して、金になればなんでもいい、にはならないようにしたいものです。うん、気をつけよう(自戒)。
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