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60点日記「父の日」

話の筋を気にしない、誤字脱字も気にしない、不定期更新の「60点日記シリーズ」。何てことのない記録を綴っています。


父の日、生まれてはじめて、花を贈ってみた。
それから、花と一緒に、カメラをプレゼントしてみた。

けれど、どっちも受け取ってもらえなかった。まさかの展開で、びっくりした。今日はそういう日記です。あ、暗い話じゃないです。

・・・

私は父の日に、何かを贈ったことがない。花はもちろん、プレゼントもちゃんとあげたことがない。でも今年は、はじめて、花を贈ろうと思った。

というのも、嬉しいことに、「花キューピット」さんから今年の春、執筆のご依頼があって。それで、こういうエッセイを書いた。せっかくなので、当日に贈る花は、そこで買おうと思って、ひまわりのブーケを注文した。


すぐに、すっごく可愛いアレンジブーケが届いた。父には可愛すぎるくらい。なので、生けなおす用に、前にフリマで買ったビールジョッキも一緒に持っていこう、と思った。


しかし、6月20日の父の日当日。仕事の都合で「今日は会えない」と連絡が来た。「明日やったら、ちょっとだけいけるよ」ということで、翌日に会うことになった。



6月21日。

一部のひまわりから、花びらがぽろぽろ落ちてしまった。移動中に、さらにどんどん、落ちていった。どうしよう。私の保管方法があかんかったんかなあ。配達日、早くに指定しすぎたかなあ。というか、届いてすぐに、生けなおしたらよかったなあ……

ただ、花びらが落ちたひまわりは、それはそれで、父っぽい佇まいと色合いだった。そういえば、父が昔、花を撮っていたときも、いきいきと咲き誇る様子よりも、朽ちていく様子を好んでたなあ、と思い出した。

↓父が撮った、ひまわりたち。

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花びらが落ちたものと、落ちていないものを分けて、クラフト紙で包みなおすことにした。2個、ブーケができた。

「もうすぐ着くー、どこにいる?」と連絡。「近所のデイリーヤマザキ。外に席があって、そこにおるから」と父。到着すると、父、何かをもぐもぐしている。

「何食べてるん?」
「サラダチキンスティック。バジル味がめっちゃうまいねん。彩ちゃんも食べる?」

私も飲み物を買って、父の隣の席へ。サラダチキンスティックをもらう。ふたりでもぐもぐしながら、再会の乾杯をする。

「元気にしてた?」
「うん、元気。それ、父の日の花?」
「あ、そうそう。父の日、ありがとう。プレゼントです。」
「いらん」
「え!!!!!!!」

めちゃめちゃ大きな声が出た。そして父は、空いてる椅子の上に置いていた、もうひとつのブーケを指差して言った。

「そっちは?」
「花びら落ちちゃってん。すぐ枯れちゃうかも」
「俺、そっちがいいわ! だって俺に花が育てられると思う? それに俺の家、どんなんか知ってる?」
「知ってるよ。笑 だって、私が借りてた家やん」

父は今、私が社会人なりたての頃に、しばらく住んでいた部屋で暮らしている。

「あの部屋、日当たりよくないもんなあ」
「隣のビルで、窓が昼間も真っ暗やからなあ。だから花、長生きせんで。彩ちゃんが育ててくれ、花がかわいそうや。俺はこっちの花びらがない方、もらうわ」
「うーん……わかった。じゃあ、生けなおすね」

持ってきたビールジョッキに水を注いで、ブーケを生けなおす。

「お、良い感じやな」父はそう言って、スマホで写真を撮り、アプリで黙々と色味を調整しはじめた。とても真剣な顔。やっぱり写真が好きなんだなあ。このあとプレゼントするカメラ、喜んでくれるかなあ。

「できた!見て」と父。
「おお、父さんっぽい」
「せやろ」

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そっからいろいろ、雑談をする。何かの流れで、花が元気な方のブーケに、サインを書きはじめる父。さらに、私のサインも考えてくれることになった。

「サイン書くことなんてないわー」と言うと、「あるよきっと」と父。
「できた。こんなんどう?」
「かっこいい! これ真似して練習する」

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「そういえば、そんな帽子持ってたっけ?」
見慣れない、黒いキャップ帽をかぶる父に聞いた。

「買うてん」
「いいやん、似合ってる。どこの?」
「ダイソー」
「え、ダイソーなん! 100円ってこと?」
「100円や」
「見えへん見えへん。眼鏡もいいやん、それはどこのやつ?」
「これもダイソー」
「え! ほんまに!? 見えへん見えへん!」

ちなみに、腕時計もダイソーで、300円のタイプのやつらしい。ほんっとうに見えへんかった、G-SHOCKかと思った。ダイソーを高見えさせる父、すごいな。

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「これは仕事用やけど、昔はロレックス付けてたんやで」
「めっちゃ高いやつや」
「俺が買ったときは30万。今はプレミア付いてな、100万ぐらいする」
「すご。そのロレックス、どうなったの?」
「家にあるよ。あげよか? 5年後に。あと5年くらいしたら死ぬから」
「またそんなんゆうて……」


なんか、父の日っぽい会話をしようかな、と思って聞いてみた。

「私の名前って、母さんと父さん、どっちが付けたん?」
「俺が決めた」
「ふーん。なんで『彩』なん?」
「俺が一文字やろ? だから同じ一文字で、美しい文字を探してて。あと俺、写真もやってたし、色に関係するのんがええなあと思って。あざやかに、いろどる、だから『彩』にした」

そう言いながら父は、ちょっと疲れた顔になって、目をこすった。

「え、ほんまに元気? 眠れてる?」
「全然寝てへん。っていうか寝られへんねん」
「昨日は何時間寝たの?」
「3時間」
「短い!」
「しかもな、1時間、1時間って。1時間ごとに目が覚めるねん。こないだなんて、30分ごとに目、覚めてたわ。全然寝付かれへんねん」
「生まれたての赤ちゃんみたいな寝方してるなあ」
「ほんまやで」

眠れない原因を一緒に探る中で、ふと提案してみた。

「そろそろ引っ越す? で、ゆくゆくは一緒に住むのってどう思う?」
「無理無理。俺、市内じゃないと無理やで、仕事あるし。それに彩ちゃんは奈良やろ?」
「うん、まあ、だから一緒に住むのは、今すぐじゃないかもしれへんけど……たとえば週2とか週3で、一緒に生活する時間を作るとか」
「一緒に住んでも、俺と彩ちゃんは、生活が交わらんで」
「交わらんでいいやん。私が寝る時、あなたがおはようでもいいやん。コーヒーだけ一緒に飲むとかさ。良いと思うねんけどなあ〜」
「それはめっちゃええな」
「ええよ、とってもええよ。あと5年なんやろ? たくさん会おうよ」
「2LDKがええな!」
「わかった!笑 ぼちぼち探しとく」

父が、「じゃあ、そろそろ帰って休もかなあ」と言った。じゃあ、私もそろそろ、カメラをプレゼントしようかな。

「あの〜、もう一個プレゼントあるんですけど」
「カメラやろ?」
「え、なんで分かったん?」
「エッセイに書いてたやん」
「そうか。笑」
「いらんで」
「え!!!!!!!!!」

また、めちゃめちゃ大きな声が出た。

「なんでよー! せっかくやのに! 確かに中古やけどさ……もらうだけもらってくれへんかなあ?」
「いらんいらん。彩ちゃんが使ってくれ」

頑なに受け取らない父。まあ確かに、ずーっと写真を仕事にしてきた人やし、何か大切なこだわりがあるんやろうなあ……

「えー、じゃあ、私が持っとく。でも、このカメラ使って、たまに撮影を依頼するっていうのはどうですか」
「それはええよ! もちろん、よろこんで!」

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父は、あげる予定だったカメラを触りながら、「考える時間が、できるだけないほうがええねん」とつぶやいた。

「最近は、今の仕事も減ってきてな。もうな、時間ができると、いろんなこと考えてまうんよ。それがもうしんどいねんなあ」
「……やっぱりちょっと、一緒に住んでみる説、考えといてよ」
「せやな。2LDKやで」
「市内で2LDKね。サイン、書くようになるぐらいまで頑張るわ」

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父の日、生まれてはじめて、花を贈ってみた。
それから、花と一緒に、カメラをプレゼントしてみた。

どっちも「いらん!」と受け取ってもらえなかった。でも、ビールジョッキに生けた、花びらのない花だけ、もらってくれた。

持って帰ってきたほうのブーケは、ドライにでもしようかな、と思う。一緒に住む(かもしれない)日が来たときに、明るい窓際に飾れたらいいかなあ、と思っている。

そんな感じで、父の日 翌日の、60点日記でした。
父さんまたねー。


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