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働き手にとってのコミュニティホスピタル|#03 梅沢 義貴 医師の声

こんにちは、CCH協会の村上です。
今回のインタビューは、藤田医科大学総合診療プログラムの専攻医(記事の時点で医師5年目)として、2022年4月から研修施設である東京都台東区の同善病院で勤務している梅沢義貴医師です。もともと同善病院は外来と回復期リハビリテーション病棟だけでしたが、コミュニティホスピタル化するために在宅医療センターを立ち上げ、さらに病棟・外来を変革中です。その9ヶ月間の取り組みについてお話をうかがいました。


梅沢 義貴 医師

同善病院 病棟部門長

初期研修医時代の経験がターニングポイント

初期研修医のとき、入院中に仲の良くなった心不全やALSの患者さんが何人かいて、入院中のことはよくわかるのですが、退院された後どうなったのかは分かりませんでした。その頃は訪問診療の知識など皆無でうまく訪問診療のクリニックにつなげることもできなかったので、今になって振り返ると後悔のような気持ちもあります。

僕は人と話すのが好きなので、大学病院のときも患者さんとはよく話をしていました。患者さんと話はするものの入院中の生活しか見たことがありませんし、大きな病院で勤めているときは患者さんの退院後の生活を考える機会も余裕もあまりありませんでした。
その当時、病院にいるときは退院させるのがゴールとして考えていました。でも今になって患者さんの立場に立って考えると、退院はむしろ患者さんにとってのスタートじゃないですか。
救急外来とかで、急性アルコール中毒で繰り返し運ばれてくる人を対応するときに、なぜ飲んでしまうのだろう、なぜまた繰り返してしまうんだろう、と考えないで治療を繰り返すことに意義を感じなかったんです。それで自然と人の生活に興味を持つようになっていきました。

その後、初期研修2年目のときに千葉県にある150床くらいの病院の外来と病棟を任されたことがありました。その病院では少し訪問診療もやっていたので同行させてもらうことがありました。外来をやりながら病棟もみて、訪問診療にもついていく、3部門全てに関わるということをその時に初めて経験したんですが、病院の中と外で働くことが自分の中でしっくりきて、全部通して診ることに働きがいを感じたんです。その時に自分の進路は、大学病院に残ることではなく総合診療医となって地域医療に関わることだと思ったのを鮮明に覚えています。このときの地域研修の経験が一つのターニングポイントになりました。

総合診療研修として外来・病棟・在宅医療の3部門を学べる良い環境がないか探しているときに、研修病院の上司だった 坂本壮先生から藤田医科大学の総合診療プログラムを勧められまして、医師3年目から同プログラムに加入しました。藤田総診のプログラムに入った後も、外来や病棟、在宅を満遍なく経験してやっぱりおもしろかったです。
自分が初診外来でみた患者さんが悪性腫瘍だったことがありました。確定診断は病棟担当だった私の同期がつけたのですが、退院してからの1年間の訪問診療は自分が担当して、お看取りとその後のご家族のグリーフケアまでさせてもらうという経験をしました。もしもっと大きな病院で働いていたら、退院後にお会いすることもなかったのだと思います。

同善病院、コミュニティホスピタル立ち上げへの参画

昨年、総合診療専攻医2年目(医師4年目)のときに、「東京で新しいコミュニティホスピタルを作る」という話がなんとなく聞こえてきて、自分のやりたいことはきっと病院の中だけで働くことではなくて、地域に出ることだろうと思って引き受けました。

実際にゼロからの立ち上げを経験しましたが、毎日学ぶことが多すぎて頭がパンクしないかと心配でした。
春に同善病院に来て在宅医療センターを立ち上げた当初、採血セットの容器を100均で揃えて、往診バッグをネットで選んで…と全て自分の好きなようにできるのが楽しかったです。

ただ、始めたばかりの4月から7月くらいまでは患者さんがなかなか増えなかったので、「今月も全然増えなかった、来月も苦戦するかも」と、正直なところかなり不安が付きまとっていた時期がありました。でも、在宅医療はこれまで愛知県でちゃんとした教育を受けてきたのである程度自信は持っていましたから、「時間が経ったら評判や患者さんの数はついてくるはず」と、祈りながら9ヶ月やってきました。その結果、ありがたいことに今は紹介がどんどん増えてバタバタと充実した日々を送っています。

ここ(同善病院)に来た当初は在宅医療センターを立ち上げることに興味を持っていたのですが、実際に来てみると外来や病棟などカバー範囲も増えていきました。半年経った9月、病棟部門長に任命されたのですが、在宅医療に関わる時間が減ってしまうのが残念でかなり寂しかったです。けれど、コミュニティホスピタルのコンセプトをよくよく考えると在宅医療だけでできることには限界があって、病棟機能と外来機能をしっかりと充実させて地域にコミットしていく必要性があることを思い出しました。今はこの機会に病棟を改めて学び直して、しっかり地域に繋げていかないといけないなと思っています。

コミュニティホスピタルの病棟での学び

(2022年12月時点)いま病棟部門長を拝命してから3ヶ月が経ちましたが、これまでは急性期の病棟しか経験してこなかったので回復期リハビリテーションの病棟について必死に学んでいます。専攻医ではありますが、院長や看護部長と一緒に病床稼働率や加算などの経営的な面も学ばせてもらっています。一方で医学を疎かにしてはいけないのでそちらも日夜勉強しています。やることが多すぎて、1日24時間では全然足りません…笑

病棟で働くようになって思うこととして、急性期病棟で働いているときは病気を治すのに夢中になっていて、リハビリを専門職に丸投げしていました。ここは回復期リハビリテーション病棟なので、病気を診ることはもちろんですが、リハビリを自分の目で見ることの重要性を強く感じていて、イチから学び直している感じです。
病気を診ながら退院に向けてリハビリを考えることはこれまでやってきたことと同じですが、患者さんのリハビリをしている姿を見てその方の課題を考えることはしてきませんでした。今はリハビリ室に行って自分の目で診て、セラピストたちと一緒に「何が足りないか、何ができれば家に帰れるのか」を話し合ったり、ソーシャルワーカーたちと家の環境のことを相談したり、管理栄養士と家での食事についての話をしたりしています。退院してからは、地域のケアマネジャーや訪問看護師との多職種連携もありますし。

多職種連携が大事というのはよく言われますし、どの本にも書いてあることですが、自分の身をもって多職種連携がこれほど大事かということを体験したことはなかったです。病院に入院しているときから、医師が退院後の生活を見据えて今後の方針をみんなで考える。それがあるべき姿なんだと実感しながら働けています。
例えば、夫婦二人暮らしの方で、奥さんが圧迫骨折で介護ができない方とか、奥さんは施設に行ってほしいと思っているけれど患者さん自身は家に帰りたいと思っている方とか、人間関係を含めると十人十色どころではありません。それは疾患ごとの薬の使い方とか疾患のフローチャートには落とし込めない部分ですから、その人ごとに最適なやり方を考えて、みんなが満足できる形を作っていくというのは総合診療や家庭医療の醍醐味だと思います。学ぶことは無限で、やりがいも無限大ですね。

病院が変わっていくこと、これからの目標

2022年4月に私たちが来て、同善病院に在宅医療という機能ができて、入院患者を在宅で診るということが始まったからこそ、院内の職員も少しずつ「家に帰るんだ」という意識が強くなってきているんだと思います。
今はコロナもあるのでできていませんが、これから病棟の職員が一緒に訪問診療に同行して、自分たちがやっていた看護やリハビリなどが退院後にどんな風に活きているかを見ることができれば、もっと自分たちのやっている看護やリハビリの意義を感じて、もっと患者さんの生活に興味を持ったり、さらにそれが働きがいにつながって訪問看護や訪問リハビリにもっと興味を持ってもらえるのではないかと思っています。

今はまだ赴任して1年が経とうとしているところですが、立ち上げた在宅医療センターをしっかり安定させることと、病棟の質がまだ十分ではないので病棟部門長として自分が入ることによってしっかりと質を担保していきたいです。
これまで限られた医師数でなんとか病院を回していたところに、私たちのような機動力のある若手医師が数人来て、今のところは前向きに捉えてくれていると感じています。
同善病院は若い看護師が多いですが、僕たち医師が教えられることはしっかり教えて、看護師さん同士でも教えあって、みんなで成長していかないといけないですね。逆にリハビリについては、まだ自分自身も未熟なので勉強したりセラピストたちにも教えてもらったりしながらやってきたいです。そして同善会として働いている職員全員にコミュニティホスピタルとしての視点を持ってもらい、看護師はじめコメディカル含め全員で良い病院にしていかないといけないと思います。土台作りは数ヶ月ではできないと思うので、1年くらいしっかり時間をかけてやっていきます。
大変かもしれないですが、めちゃくちゃ楽しみです。

専攻医の仲間に向けてのメッセージ

僕は病院に泊まり込んでICUに張り付くような急性期が大好きでしたが、それ以上に地域医療に魅せられてこの道を歩みはじめました。
未曾有の超高齢社会を進む日本において地域医療が必要なのはみなさんご存じかと思います。殊更、総合診療に興味のある医師であれば目線は臓器別専門医よりも地域寄りだと思うので、コミュニティホスピタルの存在意義を肌で理解していただけるかと思います。
僕は平時の診療に加えて職員教育やチームビルディング、経営、また最近ではSNSによるリクルート戦略など様々なことに手を伸ばしています。超超超ハードですが、専攻医の同期にも「めちゃくちゃ大変そうだけどすごいイキイキしてるね」とよく言われるくらい、それ以上にやりがいに満ち溢れています。
しかし、今後の日本にとって必要不可欠な存在となるこのコミュニティホスピタルですがまだまだ認知度は低いです。僕だけの力ではどうにもならず、皆さんの力が必要です。ぜひ皆さんでコミュニティホスピタルから日本を盛り上げていきましょう!

梅沢先生が発信している同善病院の取り組みInstagramはこちらです。
ぜひご覧ください。
https://www.instagram.com/dozen.community_hospital/


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