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働き手にとってのコミュニティホスピタル|#01 小笠原 雅彦 医師の声

こんにちは、CCH協会の村上です。
私達は「もっとも患者さん想いで、働きがいのある病院と地域コミュニティを全国に作り、それを通じて幸せに過ごせる地域社会を実現すること」を目指し、全国に100以上のコミュニティホスピタルを創ること」を目標としています。
コミュニティホスピタルとは、総合診療を軸に超急性期以外のすべての医療、リハビリ、栄養管理、介護などのケアをワンストップで提供する病院。病気だけを診る医療ではなく、患者さんの人生を診て、「治し、支える医療」を提供していきます。
この記事では、コミュニティホスピタルで実際に働く仲間の声をご紹介します。



小笠原 雅彦 医師

同善病院 在宅医療センター センター長

総合診療医を目指し、同善病院で働くきっかけ

医師9年目、最初は豊橋市民病院で初期研修と内科の研修を4年間受けました。5年目からは名古屋大学医学部附属病院総合診療専門養成プログラムに入り、7年目からはその地域研修先でコミュニティホスピタルである豊田地域医療センターで働きました。

コミュニティホスピタルという場で2年間働いたことで、とても貴重な経験と学びを得て、今度はその経験をもって、2022年の4月から東京都台東区の同善病院で仲間の医師とともに、新たにコミュニティホスピタルをつくるという挑戦を始めたところです。

ここには患者さんの生活がとても身近にある

大病院で働いている時より、患者さんの生活を自分の肌感覚として感じやすい。在宅医療では特にですが、外来においても大病院に比べて、地域密着型で「かかりつけ」として関わる患者さんがたくさんいて、その方の病気やそれ以外の色々な部分をみている、その患者さんたちの生活を感じることがすごく多いです。

例えば看取りのシーン。病院では、患者さんがこのままいけば亡くなるという時に、医学的に何ができるか、どうやったら死期を遅らせるか、と言った一般的に医師が考えるようなフレームワークでしか考えてきませんでしたが。コミュニティホスピタルでの在宅医療を通じて患者さんの生活を知ると、「残された時間でどんなことをすることができて、何を成し遂げないといけないのだろう」とか、「この人はどこで生きていきたいのだろうか」といった事を考えます。それをサポートするために、どんな緩和医療が必要で、通院回数はどの程度がよくて、状態によって自宅療養と入院はどう使い分けていくのがいいのかと想いを巡らせるようになりました。これは患者さんの生活を知っているからこそできることだと思います。

コミュニティホスピタルで働くようになり、患者さんと話す内容も変わりました。もちろん医学的に必要なことは話しますが、それだけではない。
病室に行って何を喋ればいいかわからない、会話が持たないというのは、総合診療に係わる医師だけでなく、若い医師全般からよく聞かれる言葉です。挨拶して、「お変わりありませんか?」と同じセリフを口にして、診察しておしまい、当然話に花が咲くこともない。自分自身もそうでした。

でも在宅の現場に出ると、家に飾ってある写真が気になる、会社からもらった賞状が気になる、そして自然とそれについて患者さんと話をしていました。その時、自分が病室に行って何も喋れなかったのは、その人に対する興味を持っていないからなのだとわかりました。
もちろん医療の対象としては興味を持っているけれど、人としては興味を持っていなかった。でも自分達が本当に診なくてはいけないのは患者さんという一人の人間で、たとえ同じ病気を持っていたとしても、一人ひとり考え方や人生における病気の意味合いは違う、そんな当たり前のこと分かった上で患者さんの病気だけではなく、人として診ていくことの大事さ、患者さんが病院の外でどういった生活をしているか、そこに興味を持つことの大切さをここで理解しました。

コミュニティホスピタルには患者さんの生活がとても身近にあります。だからこそ「医療と生活が分断をされてはいけない」ということを強く感じられて、「生活を支えるために医療があるんだ」と自分自身が心の中に留めておくことができるし、自分の医師としてのプラクティスもそれによって大きく変わっていると思います。

患者さんの生活を診ていなかった、知らなかったときに比べて、きっと、患者さんやご家族さん、あるいはその患者さんをケアしている介護職のみなさんにとってプラスの影響を与えていると思っています。そういった本当の意味で「患者さんたちが求める医療を提供できている」と感じられます。

医師だけでない、多職種で働く魅力

患者さんの生活を感じるということ以外に、看護師やセラピスト、相談員など、より生活目線で患者さんをみている職種が一緒に働いているということが大きいです。

大病院と違って規模が小さいことで職種間の機能分業がされておらず、その結果、ここまで医師として担ってこなかった仕事や考え方にたくさん触れる機会がありました。そしてそこに触れることで医師としての自分自身の考え方が変わっていくという経験をすることができました。

例えば、これまで治療方針は医師の中だけで答えを出すことが当たり前でした。病棟のカンファレンスで多職種と話はする機会はあるものの、どちらかというと医師で決めた治療方針を共有する、というニュアンスが強く、ほとんどが報告でした。

しかしコミュニティホスピタルにおいては、患者さんのことで悩んだ時に、顔を上げてみれば、リハさんや看護師さん、時には事務さんという多様な関わり手がいる。これまでとは違った環境の中で「こういう患者さんで困っているんだ」とつぶやくと、今まで絶対に得られなかったような目線の答えがその場で返ってきました。

リハさんが「その痛みはこの動作の癖から来ているので使っている道具を工夫したらよくなると思いますよ」と医師目線には無い視点でのアドバイスをくれたり、非医療者である事務さんが「医療者から見た時のことは分からないですが、自分の家族だとしたらその家族の方と同じように感じちゃうかもしれませんね」とより患者や家族の目線に近い見方を教えてくれてハッとさせられたりとか。医師同士だけで集まっていても絶対に得られないような意見や解決法が、日々の診療の中で得られることがあります。

医師だけの世界から外に飛び出して、多職種で協力して組織を作って運営していくということが文字通りできるのはコミュニティホスピタルのもう一つの魅力です。

地域の診療所にない、コミュニティホスピタルの魅力

診療所も地域に密着し、患者さんの生活を感じられる場ではありますが、コミュニティホスピタルは診療所とは違って、病棟を持っているために、より医学的な管理に適した環境であると言えます。

例えば、薬、医療材料、医療機器、病床。医学的な課題がたくさんある患者さんは、診療所に比べて対応しやすいです。小児のお子さんも含めて、色々な医療機器が付いていてお家に帰ることができない方、入退院を繰り返しているので外来-病棟-在宅をシームレスに繋いで診ていないと対応が難しい方などですね。

また、人手を割けるところも診療所にはない強みです。例えば、患者さんの病状が変化して、生活を直接見に行った方が良い場面。あるいは、様々な職種でディスカッションして良い答えを導いていくための時間。これは医師一人、看護師一人、事務一人のような診療所では対応が難しい。チームプレイで必要なところに人手を割けるというのは大きいですね。

これまでの中小病院とコミュニティホスピタル

医療で求められている最低限の水準、それ自体をきちんとこなしていくのも大変ではあります。これまでの中小病院もこの水準は満たしてきていると思います。でも日本において広く医療が普及していく中で、そのような医療は徐々に患者さんやご家族にとって当たり前のものになっていきました。

つまり医療を受けること自体に満足するのではなく、+αの部分が充実している医療に満足するようになっているのです。コミュニティホスピタルを語る上で重要なのは、その当たり前の医療に付加価値を創造していけるところだと思います。

例えば、患者さんの生活情報まで丁寧に情報収集して、その情報を元に最善の医療の形を考え、多職種で全力で生活をサポートしたとしても、日本の診療報酬という制度上、多くのケースでは報酬が上がるわけではありません。だからこれまでの中小病院はそこに本気で取り組んでこれなかった。でも、そんな風に患者さんたちのことをしっかり考えて診ることができるという環境になっていくことが、実は働く人の働きがいにつながっていく。

自分たちが何のために医療や介護に携わっているのかということを忘れずに働ける、そうした働きがいはより患者さんのためにという新しいモチベーションにつながり、その反応はすぐに働き手のもとに帰ってくる。
こうしたいい循環が生まれやすいという点で、コミュニティホスピタルは、その働きがいにすごく訴えかけるものが強いと思います。

これが「私たちの手で、ここに集まる患者さんたちを健康に、そして幸せにしている」という実感につながり、生き生きとした、地域を本気で支える病院になっていくのです。

理念を病院全体に浸透させる

コミュニティホスピタルの理念自体が絶対に正しいかどうかは、職員によって捉え方は違うかもしれません。そう思えない、そう動けないという人もこれまでに見てきました。

私が思うのは、「患者さんを救う」という思いは、どんな医療職でも持っていると思いますし、医療職において志が高い方はとても多いです。でも、その表現方法を知らない人が多い。どうすると、患者さんを幸せにできるかということが解らずにくすぶっている。

そこにコミュニティホスピタルの理念を体現している現場を見せたり、うまく行く方法を示したりするだけで花開く人も沢山います。こうして、コミュニティホスピタルの理念に共感してくれる人たちを徐々に増やし、組織の中でマジョリティになれば、病院全体に浸透していくと思います。

同善病院の目指す姿、そのために必要なこと

ここで働く職員全員が同善病院で働いているということを誇りに思えるようにしていきたいです。

例えば、同善病院の名札をつけてまちなかを誇らしげに歩ける、地域の皆さんから同善病院で働いているのすごいねと言われる。自分たちも同善病院で働いていることを伝えたくなる。全職員が、自分たちが働いている病院にプライドを持つようになっていきたいです。

そのためには、総合診療・コミュニティホスピタルという概念そのものを職員全員に伝えていって、患者さんの人生を診て、治して、支えるということを、具体的にどうすれば実現できるか、ということを知識として知り、体験してもらうのが一番大切です。

また、病院を運営する側の意識としては、職員一人ひとりのことを大切にし、仕事の面でもプライベートの面でも、その人のやりたいこと、望んでいることを理解して、幅広く一人ひとりを支えていく必要があると思っています。

ここが働きやすい、働きがいがあると思ってもらえる環境を作ることです。職員一人ひとりが、大事にされていると感じられて、安心して自分の力を最大限発揮できるからこそ、患者さんによい医療が届けられるのだと思います。


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