ロシア非常事態省の中央司令センターで罵られた話

もう10年以上前だが、僕はロシア非常事態省の中央司令センターで大声で罵られたことがある。
一緒に出張に行った日本人のおっさんが傲慢な上にちょっと病気があって、どうも時々変になるのだが、それがいきなり非常事態省の中央司令センターで爆発したのだ。
巨大なモニターとコンソールが並ぶ、ロシアの防災機関の心臓部みたいな場所だ。
そこに視察に来た日本人のおっさんがまだ20代の日本人をいきなり大声で怒鳴り始めたから、非常事態省の職員たちも「え?何?」みたいな感じに当然なった。
僕自身もあまりのことにどうしていいか分からなかったし(何しろ20代だったから)、なんだこのやろうという気持ちと、父親くらいの歳の男にいきなり腹の底からの声で怒鳴られて怖いのと、しかし屈辱感みたいなものもあって、固まってしまった。
そのときになあ、司令センターの司令官がいつの間にか俺の横に来て、「君に面白いもの見せてやろう」といきなり言い出したんだよな。
少し離れた場所に連れてって、「これはシベリアの衛星画像だ。ここで雪が溶けかかってる。これが完全に溶けると大洪水だから、こうして監視してるんだよ」といった話をしてくれた。
あれが、僕をあのおっさんから引き離すための心遣いだと思い至ったのは帰りの車の中だった(そのくらい動転していた)。
あの司令官を思い出すたびに、今でもロシア人の優しさを想う。
それと同時に、あの国が無辜の人々の頭の上に爆弾を降らせているという事実がまた立ち上がる。
この戦争で僕はロシア界隈で随分嫌われたのだが、主観的には古い友人の蛮行を友人として諌めているようなつもりがある。
まあそれはなかなか通じないのだし、友人が友人でなくなってしまうということも世の中珍しくないのだが。
しかし友であった事実までは消えてはなくならないだろう。

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