マンガ『ハイキュー!!』の効果音が面白い!#1
2020年に完結した古舘春一著『ハイキュー!!』(集英社)は効果音の使い方が秀逸で面白い。
※ネタバレに一切配慮していないのでご了承ください。
たとえば影山と菅原がスイッチする「キュ」は、図1のように、「キ」の横棒の2本がそれぞれ左右を向いた矢印となっており、2人の移動する様子がわかりやすい。
(図1:ツーセッターのスイッチシーン。15巻)
このような面白い効果音を集めてみた。
大きく3つのグループに分けてみる。
①動きを表現するもの。例:図1
②コマ割りを兼ねるもの。例:図2
③立体感を表現するもの。例:図3
②コマ割りを兼ねる効果音はもっぱら「ド」である。「ド」の縦棒と横棒を使ってコマを区切っている。
(図2:及川のサーブシーン。16巻)
③立体感を表現する効果音は、図3でいえば西谷の動きが水平移動からジャンプするのに合わせて、「キュッ」は床に平行に、「バッ」は垂直に見えるように書かれている。
(図3:西谷のトスシーン。10巻)
本稿#1では①動きを表現するグループを取り上げる
図1が有名な矢印つきの効果音だが、初出は10巻の合宿・梟谷戦(図4)である。
(図4:シンクロ攻撃のミスシーン。10巻)
未完成のシンクロ攻撃が噛み合わずボールがすっ飛んで行くのを、残像表現に加えて矢印での方向表現を付けている。
次に出てくるのは15巻の春高・伊達工戦(図5・図6)であり、続く青城戦・白鳥沢戦と頻出する。
(図5:伊達高のバンチブロックシーン。15巻)
(図6:伊達高のバンチブロックシーン。15巻)
「鉄壁」という動きを表しにくい物体が動くさまを表現するために矢印が用いられたのではないだろうか。
だがこのあと、矢印は足音である「キュ」にもっぱらつけ加えられるようになる。たとえば続く青城戦での日向(図7)や京谷(図8)である。
(図7:日向がブロードをしかけるシーン。15巻)
(図8:京谷がアタックに飛び出すシーン。15巻)
どちらも「キ」だけでなく「ュ」にも矢印がついて移動方向を強調している。
さらに白鳥沢戦においては日向に加えて、月島や天童にもよく用いられる。たとえば図9や図10である。
(図9:月島がブロックに動くシーン。18巻)
(図10:天童がブロックに動くシーン。18巻)
リード・ブロックとゲス・ブロックという種類の違うブロックにおける、動きの開始時点が異なるという点がわかりやすいシーンでもある。しかしどちらにせよ、トスがあがる場所へと横移動するミドルブロッカー同士の対決であるから、矢印表現も同様に用いられるのであろう。
天童のトリッキーな動きを表現するための図11のようなパターンも見られる。
(図11:天童のブロックフェイントのシーン。18巻)
一旦ライト側に動いたのを折り返してレフトへと迫る天童。「キ」の矢印も単純に左側から左を差すのではなく、右側からくるりと曲がって左を差している。また、動きに合わせて「キュッ」も「ッュキ」と書かれている。
だがさらに、ブロックだけでなくアタックにおいても、月島と天童に用いられているシーンがある。一人時間差である。
(図12:天童の一人時間差のシーン。18巻)
(図13。月島の一人時間差のシーン。19巻)
一人時間差で沈み込む際の動きが、「グ」に下向きの矢印で表現されている。
一人時間差に限らず、沈み込む動きに矢印が着くこともある。音駒対梟谷戦における赤葦(図14)や、稲荷崎戦における宮侑(図15)である。
(図14:赤葦がツーアタックのフェイクをしかけるシーン。22巻)
(図15:宮侑がツーアタックのフェイクをしかけるシーン。32巻)
「キュ」の矢印の付き方にもパターンがいくつかある。図1のような、入れ替わる動きはツーセッターのスイッチのほか、いくつか見られる。
(図16:ツーセッターでスイッチするシーン。17巻)
(図17:ツーセッターでスイッチするシーン。35巻)
(図18:セッターを含めたシンクロ攻撃オールをしかけるシーン。20巻)
(図19:日向狙いのサーブを西谷が拾うシーン。35巻)
(図20:セットに入る影山と助走に下がる日向のシーン。40巻)
日向と影山二人の動きをひとつの「キュ」で表している。そのために「キ」の横棒二本は大きく離れて日向と影山それぞれに寄り添うかたちとなっている。
(図21:セットに入る影山と助走に下がる日向のシーン。41巻番外編)
また、単に一方向に動くだけでもいくつかのヴァリエーションが見られる。図22と図23を対比してみよう。
(図22:セットに入る孤爪のシーン。30巻)
(図23:助走のために下がる烏野のシーン。32巻)
図22では「キ」の矢印が上下に広がっているが、図23では二本とも上半分のみとなっている。図23のパターンはほかにも見られる。スペースが狭い場合の工夫であろうか。
ほか、「キュ」のヴァリエーションとして、「ュ」にのみ矢印がつく場合がある。それは春高・音駒戦(図24・図25)に見られる。
(図24:旭のブロックアウトに対応する音駒のシーン。34巻)
(図25:日向狙いのサーブをレシーブする澤村と下がる日向のシーン。36巻)
どちらも一歩程度の小さな動きであり、それを表すために矢印も小さくなっていると考えられる。
「キュ」以外の矢印つきがなくなったわけではない。数は少ないが紹介しておこう。
(図26:菅原がレフトにトスをあげるシーン。20巻)
白鳥沢戦にて、天童にトスを読まれる菅原のシーンだが、「キュ」と「フワッ」ともに矢印がついて、天童とボールの方向が同じであることが強調されている。
(図27:菅原が返球するシーン。20巻)
同じく白鳥沢戦にて、菅原が相手セッターである白布を狙って返球するシーン。本来「ピ」にはない位置に矢印がわざわざつけられているのは、菅原の企図をわかりやすくするためではなかろうか。
(図28:田中のアタックがブロックされるシーン。稲荷崎戦。29巻)
(図29:相手のセットを読む月島のシーン。35巻)
音駒戦にて、アンダーでセットする孤爪のモーションからレフトと瞬時に判断するシーンである。
最後に、もっともユニークな「キュ」のヴァリエーションを示しておこう。
(図30:日向がブロードからDクイックに切り替えるシーン。41巻)
鴎台戦にて、ブロードに切り込むと見せた日向が急激なカーブでネットに向かう動きが立体感のある「キュキュ」によって非常に効果的に描写されている。
まとめ
○矢印つきの効果音が数多く用いられている。
○使用されているのは「キュ」が最多。
○「キュ」にも多くのヴァリエーションがある。
○「キュ」以外にも様々な効果音に矢印が付けられている。
#2へ続く 。
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