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雨の音と静かなエンジン音

小さな子供を抱える友人は、夜泣きをする子供の寝かしつけの為にドライブをするらしい。
たびたび耳にする話でもあって、夜泣き対策の定番なのだろうと思っていた。
車に乗せると泣き止むし寝てくれるんだよ、と、その友人はいう。

私は、この数日、ロクに睡眠が取れていなかった。
ずっと眠いのだが、上手く眠れず、昼夜無関係に数分〜数十分の浅い眠りというか気絶に近い寝落ちを繰り返している。
肩も背中もこわばって、睡眠不足特有の頭痛と吐き気に悩まされている。
見兼ねた旦那さんが、「クッションを持って車においで。」と、ドライブに連れ出してくれた。
私はいつも助手席で寝落ちすることが多いから。
「好きなだけ眠っていいからね」と、足元を広く足を伸ばして楽に出来るようにして、リクライニングをゆったりとしたポジションにしてくれる。
タンブラーには甘く温かなハーブティーが用意されていた。

旦那さんは、いつものドライブコースをぐるりと回ると、私がまだ眠っているのを確認して、家の前を通り過ぎ、別のコースへと走り続ける。
(とはいえ、眠っていたので本当のところは知らないが、時々、目を覚ました瞬間に見えた信号や看板から、多分、いつも巡るコースを走っていたのだと思う。)
私が熟睡し起きるまでの数時間、ボリュームを絞ったラジオやクラシック音楽を流し、車を停めることなく走りつづけて、彼は何を考えていたのだろう。

嫁を寝かしつける為に夜な夜なドライブをする旦那さんに、手の掛かる嫁でごめんねと告げると、彼は「今更」と、笑った。

「それで眠れるなら、いくらでもドライブしますよ。運転楽しいし。眠れない方が問題です。」
「いや、そうですけど。」
「少しでもいいから、ちゃんと寝てくれないと。日常に支障をきたすでしょ。」
「はい。」
多分、それは優しさや心配ではなく、「嫁が体調を崩すと大変面倒なことになる」と、彼が知っているからだ。(実際にそう言われることが度々ある。)
照れ隠しではなく、心底面倒だと思っているのを私も知っているので、私も遠慮なくお言葉に甘えて眠ることにしている。

私は旦那さんの殆どブレーキを踏まないように走るその運転を圧倒的に信頼しているし、私達の車も、彼の運転を信頼しているように思う。
ゆりかごに丸くなるような気持ちで、目を閉じる。
見慣れた街を通り抜け、真夜中のエンジン音は静かに身体を包み込む。

眠りに落ちて、私は……

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