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『夜中の散歩と一夜城』

「一夜城を作りたいんす。」

いつものように唐突に彼は言う。突然現れた城に、驚く人もいれば、面白がってその城の下に街をつくり住む人もいると思うのだと。

「やれば?」
「え?」
「やればいいじゃん。それ、誰かの許可が要るもんなの?」
 ほんの少し、意表を突かれたような沈黙のあと、彼は笑い出した。
「要らないっすね……。」
「どんな城がいいの?」

「夜中の散歩」

それから私は笑って、Twitterに以下のような投稿をした。

#青い傘 Twitterリレー小説
テーマ『夜中の散歩』
《ルール》
140文字で1ターン→続きはリプライに繋げる→誰が書いてもOK

文芸オンラインサロン「青い傘」@aoikasa_salon

続けて、140文字いっぱいを使って、ひとりの男を作り出した。

「Twitter見て。」

建てようぜ。一夜城。
投稿のボタンを押しながら、彼を促すと、彼はその投稿を見て、ゲラゲラと笑う。

「めっちゃいい。なんか、すごくワクワクしてきた。」

「これなら、いくらでも広がるし、きっと誰でも楽しめるでしょう?」

遊ぶ、だけじゃなくて、前の人の作品を読む。
どんな人物が出てきているのか?その人はどんな一人称を使っているか?どういう行動を辿ってここまできたのか。それだけでも、文章を受け取る力、全体を通して読んだ時の伏線を張り回収する力をつけるのに役立つ。

いざ書いてみると、140文字は長くて短い。リレーだから前の人達の設定もある。制限の中で、物語を展開して、文章を完結させる。(物語ではなく、文章を終わらせる。)
短い文字数の中でいかに自分の世界を展開するか?文字数がオーバーしそうな言い回しがあれば、他に言い換えることは出来ないか?推敲して、その世界を140文字に納める。

ある程度は完結している方が、引き継ぐ時に展開しやすい。理想をいえば、どこで終わっても、どこから始まっても自然である事。

Twitterのリプライだから、途中からいくらでも分岐ができる。勿論、別の場所から別の誰かを歩かせてもいい。街はどんどん入り組んで、広がっていく。
たくさんの可能性が、そこに存在する。
夜中の散歩は、何が起こっても不思議じゃないし、何処へだって行けるのだ。

「あ…」
煙草を一本咥え、旅館のロゴ入りのマッチ箱に手を伸ばす。取り上げた箱の存在の軽さに、それが既に空になっていることに気づいた。
「しゃーないな。」
伸びをして、机に散らばった原稿を束ねる。
コートを肩に引っ掛けて羽織り、部屋を抜け出す。
月光が溢れる廊下は、静まり返っていた。

かのこ@a_shikanoko
玄関に並んでいる下駄を突っ掛けて無人のフロントを通り過ぎる。外へ出ると、途端に冷風が容赦なく体を包み込んだ。
静かだ。
シンと張り詰めた空気の中に、歯がぶつかり合うガチガチという音が響く。俺は口寂しさを誤魔化すように白い息を吐き出しながら、まばらに灯る灯りを目指して坂を下り始めた。

みり@cw_miri
俺はこの街の事をよく知らない
原稿が思うように進まず気分転換にと偶然たまたま予約して入った知らない街の知らない旅館
「あー思うように進まねぇ」
煙草一つ思うように吸えない。
何処に近くのコンビニがあるかも分からない。
「あ」
ポケットに手を入れた瞬間スマホを旅館に忘れた事に気がつく。

清水涼介@ENGEKI_qp_mayo


こうして、彼は、夜の街を歩き出した。
願わくば、これを見たあなたの言葉で、彼が何処か遠くへと行けたら。

読んでいただきありがとうございます! サポートは創作の糧にさせていただきます。 是非、よろしくお願いします。