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メイクはすごい

 まゆ毛をのばし、まつ毛を上げる。頬の色を変え、鼻をシュッとさせる。目の大きさは変幻自在で、色は千変万化である。メイクは人を変える。女性を可愛く、美しくする。元が美人なら、より美人になる。中高生は大人びて見えるし、中年は若々しくなるし、老婦人は明るくなる。彼女らは、自身の顔面をキャンバスとするだけあって、クオリティには妥協しない。描き出される筆致は、芸術家も顔負けである。貴重なる朝の時間のほとんどを差し出すだけの価値は、充分にあるといえよう。


 彼女らは、物心ついた時から「変身」に関心を抱いている。母親の目を盗んでは、唇に色を付けるスティックを塗りたくり、四角の薄いスポンジを頬にたたきつけている。こうして身につけた素養と、母親の変身の過程から得た知見によって、自らの変身技術を向上させていくのだろう。


 ところが、中にはあまりにも高すぎるその技術で、詐欺を行う者がいる。わたしは女性の外見的特徴にこだわらないし、人間の中身を見ている。しいていえば、「女性はみな歌舞伎の隈取をしている」と思い込むように日々努力している。だから、詐欺に遭うことは絶対にない。(詐欺被害にあった人は、「自分が被害に遭うとは思っていなかった」と口をそろえるようだが、「詐欺に遭わないぞ!」とも思っていなかったはずだ)。


 世の哀れな男性が、女性の術中に嵌まったことに気付いた時には、大抵が手遅れになっている。それでも、哀しいかな。男にはみなプライドがある。そのプライドの保守のために、パートナーに加担を始める。そして、今度は社会を相手に、詐欺をしでかそうとするのだ。「己の欲せざる所は人に施す勿れ」、孔子の権威も失墜したものである。


 メイクはすごい。

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