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企画参加#「夜行バスに乗って」

フォローしている方が参加している企画があったので、私も書いてみることにしました。

後に人がいると落ち着かない私は、いつも夜行バスで一番後ろの席を選ぶ。
10A、『自由へ』と聞こえるいい響きの席。10B、『ˈdʒuːvi』と聞こえる、Juvieは 「juvenile detention center」の略名。未成年向けの刑務所。知らない人が両隣にいるのも嫌なので、この席は避ける。10C、『ˈdʒuːsi』と聞こえる、Juicy。果汁たっぷりのジューシーさと、興味と好奇心をそそる面白いジューシーさ入り。これもいい響きの席。

どちらにしようか迷う時間が長すぎた。狙っていたバスが満席になったから、次の時刻21:00発で予約した。一番後ろの席は不人気なのか、全て空席だった。自由になりたいから『10A』に決めた。

『帳面駅バス停』には出発15分前に到着した。どんな人達が同じバスに乗るのか見ることにした。バス停の向かい側に座って、列に人が増えていくのを眺めた。日本人は几帳面だから、通行人に邪魔にならないようにする。周りを意識して等間隔で並ぶ。荷物が邪魔にならないように遠慮気味に立つ。さり気ない気遣いと日本人の良さが心に染みる。そういえば日本はこんな国だった。これが当たり前で疑問に思わない人が大多数で住み心地の良い国。

People Watchingは面白い。バスに乗る客層はかなり偏っていて、若い女性が多い。アイドルのコンサートに友達同士で行くのだろう。アイドルの話で盛り上がっている可愛らしいグループがいる。控えな声の大きさで推しの話をする短いスカートの子達。

叔母さま方のグループはきっと同窓会か何かのクラブの集会。前回との比較の話で盛り上がっている。バスの中でも飲むつもりなのか、お酒の入った袋を皆ぶら下げている。他の人たちは連れがいない。スマホを見たり電話をしたりして、バスが到着するのを待っている。バスが到着するタイミングで、列の最後に並ぶことにした。

一番前の窓側の席 『1A』には知り合いに似た人が座っていた。一瞬声をかけようかと迷ったくらい似ていた。ずっと窓の外を眺めているから、きっと知り合いではない。もし彼が私を見かけたら、こんなに冷静でいるわけがない。私の隣の人に席を譲ってほしいと頼み込んだだろう。夜行バスで偶然会えるなんて運命だ、とプロポーズでもしそう。そんな友人を思い出して笑顔になった。誰にも気付かれない程度の一瞬の笑顔。

席に着くと、靴を履き替えた。ブーツを仕舞って、歩きやすいスニーカーに変えた。鞄から取り出したいものを考えた。コンビニで買った飲み物と、新発売のスイーツ、そして雑誌と本。バスローブのような厚手の長いセーター。寒いかもしれないから、ひざ掛けも欲しい。

『帳面町からバスタ新宿まで』は9時間かかる。本と雑誌の感想は携帯にメモして、パソコンで勉強会用のプレゼンを作る。9時間もあればプレゼン用の資料は纏められそう。

『10B』に誰かが座った気配がするけれど、窓の外を眺めるふりをした。
窓に映った姿は…人ではない形の何かだった。見てしまった事に気付かれないように、本に視線を落とした。

『10C』に座った人は、怖いものがないのか『10B』に話しかけている。視えない事ほど幸せな事はないのかもしれない。2人で話し続けてくれればよい。2人の方を見るなんて勇気は私にはない。プレゼンを作ることに集中したいから、丁度良かった。隣の人が怖すぎて、これでは眠気に襲われることはない。

ノイズキャンセルのヘッドフォンを着けて、読書に集中した。



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