知られるくらいならのコピー

居場所を求めた娘の話

 
全ての始まりは、僕が5つの時。
 
ちょっとした子供のじゃれ合いに押されて、僕は転んでブランコに頭をぶつけた。
すぐに病院に運ばれて、何の問題もなく回復。
なんの後遺症もないと言われて両親も安心して過ごしてた。
でも、僕はだんだんと疲れやすく、転びやすくなった。
誰も、微塵も病気だと思わないほどゆっくりなペースで、僕の身体は弱っていった。
 
そして、それから3年が経った頃、僕は突然大量に血を吐いた。
病院に運ばれて、出された診断結果は【病名不明・治療不可】。
僕の身体は3年を掛けて、あらゆる所が破損していた。
骨、筋肉、細胞、内臓。
目だってもうじき見えなくなる、生きられてもあと2年もないと聞かされて、両親が絶望した。
僕は正直なにを言われているのか理解していなかった。
でも、ただ、それが【最悪】だって事だけは理解した。
 
僕は暫くの間その病院で治療を受けた。
病院側は【最善を尽くします】とは言ったけど、気休めをするだけだった。
両親がその病院から僕を連れ出して他の病院へと、いくつもいくつも回った。
だけど結果は【病名不明・治療不可】。
どの病院でも、僕の病気は治らない。
完全に【不治の病】だった。
そんな生活を半年以上続いた。
 
家で静養している、ある深夜。
僕は話し声で目が覚めた。
 
 
「ねぇ、このままあの子を病院通いさせるの?私たちの本当の子供でもないのに」
 
「病院はタダじゃ診てくれないからな…」
 
「ええ。それに、もうそろそろ……」
 
「そうだな。これ以上は無駄だな。」
 
 
【あの子はもう死ぬんだから。】
 
それを聞いて、僕は夜のうちに家を出た。
いらないならどうして僕を病院に連れて行ったの。
どうして生かそうとしたの。
やめて、気持ち悪い。
僕の目から涙は出なかった。
悲しみよりも悔しさよりも、虚無に襲われた。
何も考えたくなかった。
ただあの2人から逃げたかった。
僕は使い捨ての人形なんかじゃないのに。
 
暫く真っ暗で道なんて分からない場所を歩いてた。
歩き疲れて苦しくて、血を吐いた。
咳きが止まると辺りは静かで、僕は眠くなって、力尽きた。
 
 
…目が覚めると、白い部屋に居た。
辺りを見回すとそこが病院だって事がよく分かる。
でも、僕が今まで見た、飽きる程に見た締め切った病室じゃない。
それに、不思議と身体が軽かった。
今まであんなに動くのが辛くて堪らなかったのに。
僕は死んだのかな…死んで、最後の夢でも見ているのかな?
そう、思考を巡らせていると、足音が聞こえてきて、カーテンが空いた。
現れたのは背の高い女の人。
彼女は僕が起きていた事に目を丸くしたけど、少し笑ってパイプ椅子に腰掛けてた。
看護婦…ではなさそう。
 
 
「目が覚めてよかったなぁ!オマエさん、手前が見付けてなかったら今頃死んでたとこだ!」
 
 
あぁ、やっぱりそうなんだ。
それで、僕はまだ生きるんだ…?
 
 
「手前はリィーリ。オマエさんを手術した担当医、ってとこだ。」
 
「手術…?ぼくを…?」
 
「そうだ。全くとんでもないモン抱えてるなぁ、オマエさん。難手術だったぞ。」
 
「………治し、たの…?」
 
「いや、まだ気休めにしか過ぎない。残念だが、完治は難しい。」
 
 
……やっぱり無理なんだ。
でも、気休めといいながら僕がこんなに回復してる…
この人は…………すごい。
 
 
「でもまあ、心配するな!また症状が出るようでも、手前が必ずオマエさんを治してやる!前例がない病気がなんだ?そんなもんこの手前に任せておけ!」
 
 
そう言って、笑った。
……リィーリは、不思議な人だった。
僕の病気は不治の病。
絶対に治る事なんてない。
最初から、期待なんかしてなかったの。
でも、リィーリは、真っ直ぐ。
僕が見てきた誰よりも真っ直ぐ。
足のリハビリに、リィーリの家まで連れて行ってくれて…
まるで、今までずっと居たみたいな感覚になるくらい、自然に住ませてくれた。
検査はリィーリが毎日欠かさず来てくれる。
他の患者の事もあるのに、忙しいのに。
リィーリは素直にすごい、かっこいいと思う。
リィーリは本当に僕の為に何でもしてくれた。
モビとレビだって、作ってくれたのは、リィーリ。
 
 
「ほたちこ!今日はいいものがあるぞ!何だと思う!」
 
「リィーリ、分からない。なに?」
 
 
僕は早く知りたくてそう言う。
リィーリはもうちょっと予想してみてくれと笑う。
でもリィーリはすぐに後ろに隠してた物を見せてくれた。
 
 
「ほら!モビとレビだ!かわいいだろう?」
 
「モビと…レビ?」
 
「手前が構ってやれない時暇だろう!こいつらが相手になってくれるぞ!」
 
「………どうやって…?」
 
 
聞いたらリィーリは得意げにモビとレビの機能を見せてくれた。
大きくなったり小さくなたり、人の感情を読んで気にしてくれたり、構って貰えないと拗ねたり…
おもしろい。
 
 
「リィーリ。リィーリ、お医者さんなのにどうしてナソードを作れるの?」
 
「ん?そりゃ、手前が天才だからだろう?」
 
 
って笑った。
僕がバカみたい、と言うとリィーリはまた笑う。
それに合わせて、モビとレビも上下に跳ねた。
 
楽しい。
 
ねぇリィーリ、楽しい。
 
 
「リィーリ、」
 
「なんだ?」
 
「ありがと。」
 
「どーいたしまして!」
 
 
ニッと笑って少し荒く撫でてくれるリィーリがすき。
 
 
初めて来た時に病的に細かった僕の身体は、この2年間の間に普通の子と同じくらいに回復した。
発作はどうしてもあるけど、僕が今生きてるのはリィーリのお陰。
僕は、リィーリを信じてた。
 
僕が11歳になって、暫くしたある日。
いつも通りにリィーリが検査に来るのを待ってた。
そうだ、たまには入り口で待ってようと思って、ベッドから下りて数歩。
僕の足は、崩れた。
同時に意識もプツリと飛んだ。
まるで電池が切れたおもちゃのように。
それからすぐに来たリィーリが、僕の名前を呼んだのだけは聞こえた。
リィーリ、リィーリ。
リィーリ、助けてリィーリ。
死にたくないよリィーリ。
 
リィーリ…………………
 
 
 
…………僕は、死んだのかな?
目が開かなくて真っ暗な中で記憶を辿った。
最後に聞いたのはリィーリの声。
そうだ、リィーリ、リィーリはどこ?
僕はゆっくり目を開けた。
…ちゃんと見える。
ここは、病院じゃない…
きっとリィーリの家。
ぼうっとしていると、リィーリが僕を呼んだ。
いつもより優しく僕を撫でて【生きてるよ】って言ってくれた。
…生きてる……僕は、生きてる。
リィーリが生かしてくれた。
嬉しく思ったけど、リィーリの説明を聞いて僕は耳を疑った。
 
 
「…ぼくを、ナソードにしたの………?」
 
 
リィーリは少しだけだと言ったけど、何故か、僕は急に怖くて堪らなくなった。
 
 
「何てことするの…何で助けたの、なんでぼくにかまうのぼくを助けたの僕は死にたかったのに!!!」
 
 
違うの。
僕は確かに生きたかった。
でも、僕の中でよく分からない恐怖心がひどい言葉を次々と吐く。
違うの、違うのリィーリ。
怖い、こわい。
僕は叫んでリィーリから逃げた。
 
リィーリは当然僕を追ってきた。
きっと僕にちゃんと説明をしたかったんだと思う。
でも、でもリィーリ………
なんで、なんで話してくれなかったの。
ナソードを使うこと、なんでリィーリは黙ってたの。
僕が嫌だというと思ったから?
それとも未完成だから?
なんで、なんで………
僕は、ひどく混乱してた。
とても酷い事を言った。
リィーリはそんな人じゃないのに。
リィーリの手を振り払って、僕はずっと、ずっと逃げた。
 
遠くから、リィーリの声が聞こえた。
 
 
【死ぬな、生きろ】
 
 
リィーリ、リィーリ。
ごめんなさいリィーリ。
僕は恩知らずだ。
ねぇ、リィーリ、ここはどこ?
リィーリ、迎えに来てよ。
リィーリ。
怖いよ。
ねぇリィーリ、ごめんなさい、ごめんなさい。
 
 
帰るところ、どこにもないよリィーリ。
 
 
「……リィーリぃ…………」
 
 
 
 
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それから、また2年が経った。
リィーリは、来てくれなかった。
だけど、モビとレビが来てくれた。
…でもきっと、リィーリが手を加えてよこしてくれたんだと思う。
モビとレビは僕に必要なものを見付けては教えてくれる。
僕は依頼をしながら、モビとレビと、生きてた。
そんなある日。
 
 
「あ、あなた…もしかして、」
 
「…なに?」
 
「もしかして、ほたちこ…って名前じゃない…?!」
 
 
緑色の髪をした、エルフの女性。
どうして僕の名前を知っているの?
彼女はどこか嬉しそうに、でも焦って僕に話しかける。
 
 
「と、突然ごめんなさい…!本当に、本当にほたちこなのね…!」
 
「…だから、なに?」
 
「あ、あのね…!突然で信じられないとは思うけど、私達姉妹なのよ!ほたちこ、一目見てもしかしたらって思ったの…!!ねえ、一緒に暮らしましょ…!!」
 
 
この人は何を言っているの?
姉妹?僕は、僕にはモビとレビ以外誰も居ない…
 
 
「僕、君には興味ないよ。バイバイ。」
 
「、っほたちこ…!」
 
 
僕を呼ぶ彼女の声を無視して、僕は依頼に出掛けた。
…だって、僕はもう人間じゃないんだ。
姉妹だったとしても、僕にその資格はない。
………ないと、思ってた。
 
 
「ほたちこお姉ちゃん?」
 
 
いくらか経った日に、またあのエルフの女性が僕の目の前に現れた。
…今度は、黒い髪の槍使いの女性と、大きな大砲を持った、かわいい、男の子と一緒に。
僕は、その男の子を直感で守りたいと、思った。
この子と居たい………
 
 
「ほたちこ、前は、名前言いそびれちゃったわね?私はくくにゃ。長女よ。それから、」
 
「始めまして、ほたちこちゃん。次女のももこよたです。」
 
「ほたちこお姉ちゃん!僕シルクだよ!よろしくn ふえっ」
 
「シルク…!」
 
 
名前を聞いた直後に抱き締めた。
シルク。
かわいい。
この子がきっと末っ子。
僕が三女。
…僕は、僕は機械だけど………
機械でも、僕は、この子のお姉さんになりたい…
シルクと一緒に過ごしたい………!
 
くくにゃも、ももこよたと言う人も、驚いていたけど嬉しそうだった。
【一緒に住んでくれる?】この言葉に対して、僕の返事は【YES】しかない。
 
 
リィーリ、リィーリ。
聞いて。
僕、お姉さんになれました。
お姉ちゃんができました。
家族になりました。
リィーリ、生かしてくれてありがとうリィーリ。
ねぇリィーリ。


 会いたいです。

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