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まど みちおさんのこと

 まど みちおさん、とても優しい詩を書く人だ。「一年生になったら」「やぎさん ゆうびん」「ふしぎなポケット」などが好きで、子どもたちにもよく歌わせた。まどさんは、今月の16日に100歳を迎えたそうだ。「ぞうさん」も良く歌われる歌だ。「ぞうさん」は1951年に詩が作られ、音感教育家酒田富治さんが曲を付けた。しかしこの曲では「ぞうさんがおもちゃのようになってしまっていた。最愛のお母さんと同じ鼻が、ブラーンブラーンとしているリアリティがないようなものでありました」とまどさんは言っていたそうだ。そして翌年、團伊玖磨さんが曲をつけたのだそうだ。「お鼻がながいのね」という詞に「鼻が長くて変だ」という意地悪い気持ちも含まれていると解釈する説もあるそうだが、まどさんに直接会って聞いたところ、「詩は、読む人が受け取りたいように読んでくれればうれしいです」と言われたそうだ。子象はからかわれても落ち込んだり腹を立てたりせず、「大好きなお母さんと一緒の長い鼻が大好き」と誇りをもって返答しているという理解でいいということだ。解釈は、人それぞれ。どう読もうがどう考えようが仕方がないが、私はこの詩から意地の悪い気持ちとかからかう気持ちを感じたことは一度もない。象は野生の動物の中でもかなり長い間母子が一緒に生活し、群れで子象の世話をする。母像と同じ長い鼻を動かしている子象には、母像と同じ自分の鼻に誇りを持ち、同じであることに喜びを感じている、としか考えたことがなかった。
 まどさんは、父親について家族で台湾に渡ったが、ある朝目を覚ますと、父母も兄も妹もいなくなっており、一人取り残された。山口県周南市の祖父母のもとに引き取られたが、半年後には祖母も亡くなり、祖父と二人の生活が続いた。まどさんの書く詩の底にあるものは、『小さきもの』の視点からとらえた世界だという。「なにかにつけて小さなものをとことんながめなくてはおれないのです」と言っておられるそうだ。父母に置き去りにされ、祖父との生活をよぎなくされた『しあわせ』とは距離のある日々の中で、『小さきもの』への想いが芽生え、成長していったのだろう。優しいまどさんの目を、多くの人に感じてほしいと思う。
                     (H21.11.18)


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