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エンパワーメントする音楽——櫻坂46 5th Single 『桜月』ミニライブ考察

3rd TOUR 2023まであと1週間。初披露の3曲と三期生曲について考察。

饒舌なる無言の世界——『もしかしたら真実』

「SAKURAZAKA46 Live AEON CARD with YOU!Vol.2」のラストは『無言の宇宙』。リリース当初からフォーメーションが変わりすぎて、オリジナルメンバーは誰と誰だっけ的な状態になってしまったが、センターは守屋に。渡邉理佐もクールに見えてかなり表情豊かなセンターだったと思うが、守屋はそれに輪をかけて饒舌な「無言」だったと思う。本曲より現メンバーで『無言の宇宙』を再録してくれてもよかった。
T特に強いパンチラインも感じられず、曲の弱さをダンスで無理やり上書きしているような強引さがあるというか。とはいえ、5thシングルの各楽曲・パフォーマンスには、そうしたネガティブ要素を上書きアップデートし、エンパワーメントする力が漲っている。

楽曲を上書きアップデートする——『無念』

『無念』は、いわば『最終の地下鉄に乗って』と同様にネガティブな歌詞を一回捻ってポジティブ変換する曲だ。とはいえ、『地下鉄』ではまだ刺さる感じがあったのに、『無念』の歌詞は、正直微妙だ。前回のバックス曲『I'm im』は、ストレートな歌詞がストレートに表現されており、2nd TOURではライブの転換点として最高に映える楽曲となった。それでもなお、彼女たちのパフォーマンスとは裏腹に“バックス根性”的なものは残ってしまうのが難だった(最初のバックス曲『ソニア』は、ソニア選抜がたまたまバックスメンバーだった、みたいな特別感があったし、フロントが4人もエイト入りしている)。
『無念』も“バックス根性”的な歌なのか? このままでは、バックス曲の存在意義を問われることになる。それこそ「無念」だ。でも、センターの松田をはじめとするメンバーのパフォーマンスを見て、そういうモヤモヤしたものは、上書きアップデートされている、と思う。楽曲の解釈と振り付けにおいて、戦う場所はエイト/バックスとかでなくて、もう少し先の未来の大きなものにある。たぶん彼女たちも目指すところはまだ曖昧模糊としてると思うが、3rd TOURを通してそれが見えてくるのではないだろうか。そして、握った拳は『魂のLiar』につながっていく。

語るなら未来を——『魂のLiar』

最初の全員曲『櫻坂の詩』は櫻ポーズで終わるが、『魂のLiar』は、天に掲げた櫻ポーズを固く握りしめて終わる。
前者では、櫻のアイデンティティとかメンバーシップ、Buddiesとのつながりを確認するものであったのに対し、後者では、彼女たちは「俺」という一人称を使う新しい自己が立ち現れ、拳を高く突き上げる。櫻坂ではない個、グループとして、戦いに挑む、ということだろうか。『無念』と引き合わせて考えれば、彼女たちは何かしらの戦いに完敗したが、そこで「わかる人にだけわかればいい」とロマン主義に逃げるのでなく、真っ向から立ち向かうことを表明した、といえる。でも、今、彼女たちの障壁となっているものはなんだろう? 伸ばした拳を振る所作は、『Cool』でも、さらに欅坂『語るなら未来を…』にも出てくる。

手に入れたのは脆い現実と
飾られた嘘のレッテル
破片を拾い集めるな 語るなら未来を

語るなら未来を…

「飾られた嘘のレッテル」が、いつしか魂に嘘をつかせているのか? 「未来」を語るなら、櫻坂からも離れた地平で、自分自身に対して正直にならなければならない。彼女たちは何に対して戦っているのか? 彼女たちの「未来」は拳を振り上げ勝ち取らなければならないものなのか。

楽曲とともに成長する——『夏の近道』

歌い出しはまだ若干固い表情が残る彼女たちだが、1サビあたりから徐々に表情がほくれてきて、2サビと続く間奏で感情が最高潮に達し、ラストは最高の笑顔で最敬礼と櫻+三期ポーズで終わる。楽曲を通して彼女たちがどんどん変化していく様に毎回惹きつけられる。MVの世界観を再現した振り付けは、パフォーマンスする度に新たな発見と成長を与えてくれるようだ。
かつて、このグループには“魔曲”と呼ばれる楽曲が存在しメンバーたちの心身を削りまくったが、『夏の近道』は彼女たちを、私たちをエンパワーメントする。

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