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未だ見ぬBuddiesへの手紙——櫻坂46『ドローン旋回中』

台風接近を告げるニュース映像、暴風雨の音に被さるクラッシュ音。倒れた自転車と上から覗き込む猫。どうやら彼女たちは死んでるか、瀕死の状態(幽体離脱)のようだ。しかも、あんまりポジティブな人生、いい死に方じゃない(悲惨な事故、自殺、いじめ、ネグレクト、摂食障害、ひきこもりetc)。

遺影にも見えるモニタは、冒頭で台風のニュースを映したり、小池が包帯を巻いたりしているので、現実の世界や過去の世界を映すものだろうか。でも、中盤でほにょほにょしている田村を映すモニタを映すモニタが出てくるので、いくつもの並行世界が存在していることも示唆している。MV設定の設定では彼女たちはそれぞれ特殊な「能力」をもっているということらしいので、死後の世界というより、それぞれ並行世界で生きる彼女たちということかもしれない。

YouTubeのサムネイルにもなっている3分21秒あたりで、田村がゆっくり目を閉じながら倒れ込んでいった後、自転車と彼女が現れるシーンがあるので、田村の能力は並行世界を行き来できる力、ということになるのかな。ほにょほにょすると別世界と交信できるとか。

はらはらと舞う桜の花びら

冒頭、倒れた自転車の下に花びらが散っている。終盤近くで、走り去った小池や森田・土生・幸阪がいたところにも、花びらが舞う。この演出から桜の捉え方が変化していることに気づく。これまでの桜は自分たちのシンボルとしてそこに集う対象としてあったのが、本楽曲では彼女たち一人ひとりが桜の木になっているということだ。はらはらと舞う桜の花びら一枚一枚が彼女たちでの化身であり、ドローンとなって君を見守る。(あんまり対比するのもよくないけど)『ドローン旋回中』の歌詞の主人公は日向坂の曲に出てくるようなタイプで、ストレートに表現するとストーカーの歌みたいになってしまうんだけど、主人公が死んでいるなど物理的に君に会えない、桜=ドローンとなって見守るというストーリーを組み込むことで、ラブソングとしてうまく成立させていると思う。

『Buddies』に替わるアンセムソング

『Buddies』は、もちろん櫻坂46のファンの名称であり、その由来となった楽曲だが、メンバーたちが円形に並んで向かい合う振り付けが象徴するように、まず自分自身が他のメンバーたち(Buddies)を見つけ、視線を交わしながら絆を深めていく。ライブでは山﨑が会場のBuddiesへ感謝のメッセージを届けるくだりがお約束になっているが、その「絆」を中心にして、Buddiesの円環を拡げていく構造になっていると思う。

『ドローン旋回中』も確実にライブの定番曲になると思うけど、彼女たちの想いはさらに拡大していく。

Woh oh 交差点
Woh oh 渡る姿
Woh oh Woh oh oh  ほら 見つけたぞ(ヨロシク!)

『ドローン旋回中』

突然出てくる、田村の「ヨロシク!」は、最初聴いたとき「どういうこと?」だったけど、声をかける対象が、歌詞の中の想いを寄せる監視対象の相手ではなく、ライブ会場に集まったBuddiesだと考えるとしっくりくる。
さらに、彼女たち自身が桜と考えるならライブ会場に限定する必要はない。彼女たちの想いは、花びら=ドローンとなって世界中を旋回しながら、まだ櫻坂のことを知らない人、ライブに来たことがない人、未だ見ぬBuddiesへの手紙となる。
『Buddies』は求心力による絆を強さを表現する曲だとすれば、『ドローン旋回中』はその絆を世界中にリンクさせる拡散力を表現した曲だといえる。

ちょっと恥ずかしいぐらいのポップでピュアな櫻坂随一の「アイドル」曲だ。

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