「或る阿呆のどん底からの物語」     「誘拐された話」①(ノンフィクション) 

(キャッチャー冠野「或る阿呆のどん底からの物語」を一緒に楽しむ
オンラインサロン2021年の記事の一部 )

 
「誘拐された話」①

 

あれは忘れもしない僕が小学校3年生の夏休み前。

  

僕は誘拐された。 

 

 

おいおい、嘘をつくな!大袈裟やなぁ。不謹慎な!

 

うーん、でも本当に誘拐されてんだから仕方がない。

 

時は遡ること。1980~1990年代。 

当時、小学生の間で流行ってたのは

ロッテから発売されたお菓子「ビックリマン」。 

 

1つ30円の価格で毎月の販売数は1300万個にのぼり

出荷金額は1000億円を超えてたんだ。  

今も「AKB」とか「鬼滅の刃」とか、コラボをたくさんしているので、
コンビニなどで見たことある人は多いと思うよ。 

 

「ビックリマン」はお菓子のおまけにシールが1つ入っていて 

このシールが爆発的に流行った。  

シールの種類は「天使と悪魔とお守り」の3枚1組で 

各12種類づつあってね。  

2ヶ月事にバージョンチェンジ(1弾、2弾と更新されていく) がされるんだ。 

 

悪魔は地味な色、お守りは透明、天使は光っている。 

天使は悪魔の4分の1の割合しか入っていない。 

 

さらにレア度の高い、1箱(40個入り)に1、2枚しか入っていない貴重なヘッドというレアシールが存在した。 

  

ビックリマンの人気が出過ぎて、お菓子におまけでシールが付くのが当たり前になってブームになったよ。

 

お菓子が美味しい「ハリマ王の伝説」や「ドキドキ学園」。 

さらにアイスのおまけにシールを入れた「秘伝忍法帳」 

(ひでんにんぽうちょう)なども「エスキモー」から発売されていたよ。

  

「ビックリマン」に話を戻るね。 

 

全国の小学生のほとんどは、学校から帰ってきたら 

駄菓子屋やスーパーにこぞってビックリマンを買い 

に行ったんだ。 

ビックリマンは人気がありすぎて

発売してもすぐに売り切れる。  

みんなは仕方なく「ドキドキ学園」や「ハリマ王の伝説」を買う感じだったよ。 

 

 

箱買いする人もこの頃から出てきたんじゃないかな。

(定かではないけどね)

 

僕はお小遣いをもらっていなかったから 

お手伝いの買い物のお釣りや、ノートを買ったお釣り 

お年玉などをコツコツ貯めて「ビックリマン」を買っていたよ。

 

いつものように、学校が終わって家の近くの駄菓子屋 

「あさみや」にその日は6人ぐらい自然に集まっていた。 

 

高田くん、たけちゃん、岩城くん、ヒデキ、僕。 

みんな地元のソフトボールのチームメンバーさ。 

それに転校生の小山くん。

 

その中でも僕はヒデキとめちゃくちゃ仲が良かった。

お互い極度の人見知りで人と喋る時、言葉が詰まって 

俯いて黙ってしまう。  

 

だから、ソフトボールメンバーのリーダー池山くんに2人とも 

よくいじめられていたよ。 

ヒデキとはそれがきっかけで仲良くなったんだ。 

いじめられ友達。 

「事実は小説より奇なり」だよ。  

 

この日は、空が青々として透き通るような初夏の日だった。 

変わらない田舎の日常。 

 

みんな駄菓子屋の前で、ビックリマンの話や 

ドラゴンボールの話をしていたんだ。 

 

すると遠くの方から

「チリンチリンチリンチリン」 

自転車のベルの音が何回も聞こえた。

 

みんな一斉に見た。

 

そこには、30歳ぐらいの小太りでスポーツ刈り。 

何度も洗濯によって清潔感が失われた

白色のダルダルのタンクトップを上に着ていて 

ズボンはベージュの半パンを履いている。

靴は右がうっすい水色、左はキティーちゃんっぽいピンクのママさんサンダルだ。

 

見た目は 

ドラマの芦屋雁之助さんが演じた「山下清」や 

ミュージシャンの「たま」のドラムの人に似ている。

(以下男をドラムと呼ぶ) 

 

ドラムとはみんな知りあいじゃないらしく 

再びたわいもない話を始めた。

 

「チリンチリンチリンチリン〜!」 

音がどんどん大きくなって近づいてくる。 

 

何かこっちをめがけて来ているように感じた。 

みんなが道を開けてドラムの自転車を通れるように 

通り過ぎるのを待った。

 

「キキー!!」

 ブレーキパットが擦り切れたおしている音が鳴り響く。  

ドラムが僕たちの前に止まったんだ!! 

 

ドラム

「自分ら小学生??」

 

急に知らない人が話しかけてきた! 

僕らは、みんな下を向いて黙ってしまった。 

 

ドラムは口調を強くして

「なぁ!?訊いてるやん!むしこー??(無視するんかい)」

  

僕らは下を向いたまま

「そ、そうです。」  

  

ドラム 

「おー!やんな?そうやと思った!!」 

 

ちょっとこの人はやばい! 

僕の住んでいる所は、田舎なので周りに大人の人は居ない。 

 

僕とヒデキとたけちゃんは異様な空気を察知して 

店の中に逃げ込んだ。

 

あれ? 

後ろを見ると、高田くんと小山くんと岩城くんがいない。 

 

外でドラムと楽しそうに喋っている。 

高田くんと小山くんと岩城くんは 

わんぱくで人見知りしないタイプの子供だ。 

 

お店に入った3人はドラムが帰るのをひたすら待っていた。

 

すると、高田くんが僕たちに手招きをしている。 

高田くん 

「なあ、この人、ロッテの副社長の息子やねんて! 

ビックリマンシールどんなやつもただでくれんねんて!!」 

 

え!? 

店に入った僕たちは、まさか…でも…と、 

ドラムの所に行くか迷っていた。 

 

すると、ドラムが高田くんたちにビックリマンシール 

のヘッドを数十枚見せている。 

高田くんと小山くんと岩城くんがドラムからヘッドを 

1枚づつもらっている。!!

 

 

(ヘッド本当にもらえるの??) 

 

僕たちはお店を出てドラムのところに行った。 

 

ドラム

「あげられるのはさっきの3枚だけやわ。 

シール欲しい?今日は近くの人口島(工場地帯)の工場で 

親父が来てんねん。 

一緒に来る奴は何枚でも貰えるように親父に言ったるわ!」 

 

今考えたらめちゃくちゃ怪しい。 

けどね、当時、ドラムが実際に持っている数十枚のヘッドは、小学生を納得させるには十分な効果があったんだ。

 

高田くん

「みんなで行こう!」 

と言い始めた。 

 

僕たちも、警戒しながらも、物欲に負けてついて行くことにした。(まだヘッドもらってないしね) 

 

駄菓子屋から人口島まで大体1キロ。 

人口島に行くには100メートルぐらいの橋を渡らなくてはいけない。 

 

「さあ、行こう!」

みんなが行った時、岩城くんが一言。

 

「俺、用事あんねん。家帰るわ。」

 

岩城くんはませている小学生だった。 

口先がうまくて、大人にも女子にも上手く立ち回る処世術を身につけている。 

強いものに付く、直接手を下さないスネ夫みたいな性格だ。 

ちゃっかりヘッド1枚をゲットして帰ってしまった。 

 

岩城くんの一言でたけちゃんも

「僕、家に帰る。そろばんがあんねん。」 

 

6人中2人帰った。

 

残りは高田くん、小山くん、僕、ヒデキの4人になった。 

 

 

次回に続く(来週月曜日)

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